509 / 676
509・きまずい食事会(ファリスside)
しおりを挟む
最初のやりとりから不安を胸に抱いた状態で始まった食事会。それはベルンの予想通り気まずいものだった。
(……ま、不味いにゃー。いや料理は美味しいんだけど……この空気の中の食事じゃよく味もわかんなくなりそうだにゃ)
シルケットの料理の基本的なメインである魚料理を口にしているベルンは、深いため息に包まれていた。高温で皮をカリッと焼き上げられ、彼個人としてはかなり好みな仕上がりになっているのだが……肝心の相手が問題だった。
自ら一言も発することなく、目の前に出された食事に口を付ける。そこには正の感情は浮かんでおらず、かといってマイナスといった訳でもない。いつも通り。その言葉が正に相応しい顔のままで淡々と食事を続けていた。そこに少しでも感情が浮かべばそこから話を広げる事も可能なのだが、それすらもファリスは許していない。ただ黙々と食事を続けるその姿にどう声を掛けるべきか悩み――もういっそのこと食事に専念しようかなと思い始めたころ。それまで食べ続けていた手を止め、ファリスが口を開く。
「……それで、話って?」
「え? あ、にゃ、にゃはは。……こほん」
気を取り直すように一度軽い咳をしたベルン。食べ物を飲み込み、想像していた食事会と少し――いやかなり違ったな、と思いながらも本題に進むことにした。
「まず、援軍要請に応えてくれた事に感謝の意を表したいのにゃー。被害は大きかったけど、おかげで壊滅することはなかったし、ボクもこうして生きているのにゃー」
「わたしはただ、ティアちゃんに言われてきただけだから」
「それでも、ですにゃー。こういう時は国の代表としてもらっておいて欲しいにゃー」
「……わかった」
こくりと素直に頷く辺りは良いんだけどなぁ……と心の中で思っているベルンを他所にファリスは再び魚に口を付けていた。普段美味しい物どころかまともに食事をする機会が少なかった彼女の舌にはかなり鮮烈な味わいを感じさせていたのだが、顔に表す事がなかったためにベルンには全く気付かれていなかっただけだったのだ。食事を続けたい一心で即答をするファリスだったが、ベルンはそれをわからずに質問を続ける。
「まず、シャニルと何があったのか聞かせて欲しいのにゃ」
「別に何も。ただ、この町から出るなって言われただけ」
彼女にとってはただベルン達を助けに行くのを妨害された――それだけにしか思えなかった為、起こった事に対してどう感じたかありのままを伝える。副官(名前を覚えていなかったからとりあえずそうしようと判断されたルォーグ)に再三救援に向かいたいと要請しても通る事はなく、むしろ門前払いを喰らったことすらある事等……話せる限りの事を教える。最初は軽い談笑的に聞いていたベルンだったが、その顔は真剣みを帯び、どこか曇ってしまった。
(あの人が何の意味もなく無闇にそんな事をするなんて思えないのにゃー。何か裏がある。それは間違いないんだけど、肝心の事が全く分からないんじゃ、どうしようもないのにゃー)
ベルンはシャニルの事を多くは知らないが、この数日彼に相対していたファリスよりは理解しているつもりだった。シルケットの玄関とも言われているルドールの長に座している彼の気苦労は並大抵ではない事を。純血派が暗躍しているこの国では、それ以外の派閥に籍を置いているだけで疎まれたり、嫌がらせを受けたりが日常茶飯事だ。
純血派の勢力がそれだけ強い事の証明なのだが、そんな彼らでもおいそれと手を出すことが出来ない人物もいる。それが中立派の中心人物であるシャニルだった。彼は賢猫の半数を味方につけており、都市の中でも人望厚い。力を振るう事をあまり良しとしないが、彼自身も相当な実力者。生半可な戦いを挑めば痛い目を遭うのは相手側である事は火を見るより明らかだった。
だからこそベルンはシャニルがこんな純血派がしそうなことをやるとは思えなかったのだ。事実、純血派は入念な準備をしていたからこそ、今回のような事を行えたのだが、それは現時点のベルンが知る事のない出来事だった。検問を上手く潜り抜けた純血派の者達で掌握されつつあるこの都市の実情を正確に把握しいない彼が出来る事と言えば、シャニルが何故こんな事をしたのか想像するしかなかった。
「……せっかく来ていただいたのにこのような扱いをしてしまって本当に済まなかったにゃー。ボクがここにいる以上、今までのように待機させるなんて事はさせないにゃー」
「わかった。次から気を付けてくれるならそれでいい」
ファリスからすればベルンが戻ってきて今の状況がなんとかなれば、これ以上何か咎めるつもりはなかった。国同士の問題なんて後から他の人が解決すればいい。ファリスからしてみれば邪魔にさえならなければ何かを言うつもりは全くなかったのだった。
「ありがとうございますにゃー。お詫びと言ってはなんだけど、今日の食事はゆっくり楽しんで欲しいのにゃー」
あまり感情が読めないファリスに冷や汗を流しているベルンとは対照的に、デザートまでじっくり楽しむファリスなのであった。
(……ま、不味いにゃー。いや料理は美味しいんだけど……この空気の中の食事じゃよく味もわかんなくなりそうだにゃ)
シルケットの料理の基本的なメインである魚料理を口にしているベルンは、深いため息に包まれていた。高温で皮をカリッと焼き上げられ、彼個人としてはかなり好みな仕上がりになっているのだが……肝心の相手が問題だった。
自ら一言も発することなく、目の前に出された食事に口を付ける。そこには正の感情は浮かんでおらず、かといってマイナスといった訳でもない。いつも通り。その言葉が正に相応しい顔のままで淡々と食事を続けていた。そこに少しでも感情が浮かべばそこから話を広げる事も可能なのだが、それすらもファリスは許していない。ただ黙々と食事を続けるその姿にどう声を掛けるべきか悩み――もういっそのこと食事に専念しようかなと思い始めたころ。それまで食べ続けていた手を止め、ファリスが口を開く。
「……それで、話って?」
「え? あ、にゃ、にゃはは。……こほん」
気を取り直すように一度軽い咳をしたベルン。食べ物を飲み込み、想像していた食事会と少し――いやかなり違ったな、と思いながらも本題に進むことにした。
「まず、援軍要請に応えてくれた事に感謝の意を表したいのにゃー。被害は大きかったけど、おかげで壊滅することはなかったし、ボクもこうして生きているのにゃー」
「わたしはただ、ティアちゃんに言われてきただけだから」
「それでも、ですにゃー。こういう時は国の代表としてもらっておいて欲しいにゃー」
「……わかった」
こくりと素直に頷く辺りは良いんだけどなぁ……と心の中で思っているベルンを他所にファリスは再び魚に口を付けていた。普段美味しい物どころかまともに食事をする機会が少なかった彼女の舌にはかなり鮮烈な味わいを感じさせていたのだが、顔に表す事がなかったためにベルンには全く気付かれていなかっただけだったのだ。食事を続けたい一心で即答をするファリスだったが、ベルンはそれをわからずに質問を続ける。
「まず、シャニルと何があったのか聞かせて欲しいのにゃ」
「別に何も。ただ、この町から出るなって言われただけ」
彼女にとってはただベルン達を助けに行くのを妨害された――それだけにしか思えなかった為、起こった事に対してどう感じたかありのままを伝える。副官(名前を覚えていなかったからとりあえずそうしようと判断されたルォーグ)に再三救援に向かいたいと要請しても通る事はなく、むしろ門前払いを喰らったことすらある事等……話せる限りの事を教える。最初は軽い談笑的に聞いていたベルンだったが、その顔は真剣みを帯び、どこか曇ってしまった。
(あの人が何の意味もなく無闇にそんな事をするなんて思えないのにゃー。何か裏がある。それは間違いないんだけど、肝心の事が全く分からないんじゃ、どうしようもないのにゃー)
ベルンはシャニルの事を多くは知らないが、この数日彼に相対していたファリスよりは理解しているつもりだった。シルケットの玄関とも言われているルドールの長に座している彼の気苦労は並大抵ではない事を。純血派が暗躍しているこの国では、それ以外の派閥に籍を置いているだけで疎まれたり、嫌がらせを受けたりが日常茶飯事だ。
純血派の勢力がそれだけ強い事の証明なのだが、そんな彼らでもおいそれと手を出すことが出来ない人物もいる。それが中立派の中心人物であるシャニルだった。彼は賢猫の半数を味方につけており、都市の中でも人望厚い。力を振るう事をあまり良しとしないが、彼自身も相当な実力者。生半可な戦いを挑めば痛い目を遭うのは相手側である事は火を見るより明らかだった。
だからこそベルンはシャニルがこんな純血派がしそうなことをやるとは思えなかったのだ。事実、純血派は入念な準備をしていたからこそ、今回のような事を行えたのだが、それは現時点のベルンが知る事のない出来事だった。検問を上手く潜り抜けた純血派の者達で掌握されつつあるこの都市の実情を正確に把握しいない彼が出来る事と言えば、シャニルが何故こんな事をしたのか想像するしかなかった。
「……せっかく来ていただいたのにこのような扱いをしてしまって本当に済まなかったにゃー。ボクがここにいる以上、今までのように待機させるなんて事はさせないにゃー」
「わかった。次から気を付けてくれるならそれでいい」
ファリスからすればベルンが戻ってきて今の状況がなんとかなれば、これ以上何か咎めるつもりはなかった。国同士の問題なんて後から他の人が解決すればいい。ファリスからしてみれば邪魔にさえならなければ何かを言うつもりは全くなかったのだった。
「ありがとうございますにゃー。お詫びと言ってはなんだけど、今日の食事はゆっくり楽しんで欲しいのにゃー」
あまり感情が読めないファリスに冷や汗を流しているベルンとは対照的に、デザートまでじっくり楽しむファリスなのであった。
0
あなたにおすすめの小説
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流@3/19書籍発売!
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる