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509・きまずい食事会(ファリスside)
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最初のやりとりから不安を胸に抱いた状態で始まった食事会。それはベルンの予想通り気まずいものだった。
(……ま、不味いにゃー。いや料理は美味しいんだけど……この空気の中の食事じゃよく味もわかんなくなりそうだにゃ)
シルケットの料理の基本的なメインである魚料理を口にしているベルンは、深いため息に包まれていた。高温で皮をカリッと焼き上げられ、彼個人としてはかなり好みな仕上がりになっているのだが……肝心の相手が問題だった。
自ら一言も発することなく、目の前に出された食事に口を付ける。そこには正の感情は浮かんでおらず、かといってマイナスといった訳でもない。いつも通り。その言葉が正に相応しい顔のままで淡々と食事を続けていた。そこに少しでも感情が浮かべばそこから話を広げる事も可能なのだが、それすらもファリスは許していない。ただ黙々と食事を続けるその姿にどう声を掛けるべきか悩み――もういっそのこと食事に専念しようかなと思い始めたころ。それまで食べ続けていた手を止め、ファリスが口を開く。
「……それで、話って?」
「え? あ、にゃ、にゃはは。……こほん」
気を取り直すように一度軽い咳をしたベルン。食べ物を飲み込み、想像していた食事会と少し――いやかなり違ったな、と思いながらも本題に進むことにした。
「まず、援軍要請に応えてくれた事に感謝の意を表したいのにゃー。被害は大きかったけど、おかげで壊滅することはなかったし、ボクもこうして生きているのにゃー」
「わたしはただ、ティアちゃんに言われてきただけだから」
「それでも、ですにゃー。こういう時は国の代表としてもらっておいて欲しいにゃー」
「……わかった」
こくりと素直に頷く辺りは良いんだけどなぁ……と心の中で思っているベルンを他所にファリスは再び魚に口を付けていた。普段美味しい物どころかまともに食事をする機会が少なかった彼女の舌にはかなり鮮烈な味わいを感じさせていたのだが、顔に表す事がなかったためにベルンには全く気付かれていなかっただけだったのだ。食事を続けたい一心で即答をするファリスだったが、ベルンはそれをわからずに質問を続ける。
「まず、シャニルと何があったのか聞かせて欲しいのにゃ」
「別に何も。ただ、この町から出るなって言われただけ」
彼女にとってはただベルン達を助けに行くのを妨害された――それだけにしか思えなかった為、起こった事に対してどう感じたかありのままを伝える。副官(名前を覚えていなかったからとりあえずそうしようと判断されたルォーグ)に再三救援に向かいたいと要請しても通る事はなく、むしろ門前払いを喰らったことすらある事等……話せる限りの事を教える。最初は軽い談笑的に聞いていたベルンだったが、その顔は真剣みを帯び、どこか曇ってしまった。
(あの人が何の意味もなく無闇にそんな事をするなんて思えないのにゃー。何か裏がある。それは間違いないんだけど、肝心の事が全く分からないんじゃ、どうしようもないのにゃー)
ベルンはシャニルの事を多くは知らないが、この数日彼に相対していたファリスよりは理解しているつもりだった。シルケットの玄関とも言われているルドールの長に座している彼の気苦労は並大抵ではない事を。純血派が暗躍しているこの国では、それ以外の派閥に籍を置いているだけで疎まれたり、嫌がらせを受けたりが日常茶飯事だ。
純血派の勢力がそれだけ強い事の証明なのだが、そんな彼らでもおいそれと手を出すことが出来ない人物もいる。それが中立派の中心人物であるシャニルだった。彼は賢猫の半数を味方につけており、都市の中でも人望厚い。力を振るう事をあまり良しとしないが、彼自身も相当な実力者。生半可な戦いを挑めば痛い目を遭うのは相手側である事は火を見るより明らかだった。
だからこそベルンはシャニルがこんな純血派がしそうなことをやるとは思えなかったのだ。事実、純血派は入念な準備をしていたからこそ、今回のような事を行えたのだが、それは現時点のベルンが知る事のない出来事だった。検問を上手く潜り抜けた純血派の者達で掌握されつつあるこの都市の実情を正確に把握しいない彼が出来る事と言えば、シャニルが何故こんな事をしたのか想像するしかなかった。
「……せっかく来ていただいたのにこのような扱いをしてしまって本当に済まなかったにゃー。ボクがここにいる以上、今までのように待機させるなんて事はさせないにゃー」
「わかった。次から気を付けてくれるならそれでいい」
ファリスからすればベルンが戻ってきて今の状況がなんとかなれば、これ以上何か咎めるつもりはなかった。国同士の問題なんて後から他の人が解決すればいい。ファリスからしてみれば邪魔にさえならなければ何かを言うつもりは全くなかったのだった。
「ありがとうございますにゃー。お詫びと言ってはなんだけど、今日の食事はゆっくり楽しんで欲しいのにゃー」
あまり感情が読めないファリスに冷や汗を流しているベルンとは対照的に、デザートまでじっくり楽しむファリスなのであった。
(……ま、不味いにゃー。いや料理は美味しいんだけど……この空気の中の食事じゃよく味もわかんなくなりそうだにゃ)
シルケットの料理の基本的なメインである魚料理を口にしているベルンは、深いため息に包まれていた。高温で皮をカリッと焼き上げられ、彼個人としてはかなり好みな仕上がりになっているのだが……肝心の相手が問題だった。
自ら一言も発することなく、目の前に出された食事に口を付ける。そこには正の感情は浮かんでおらず、かといってマイナスといった訳でもない。いつも通り。その言葉が正に相応しい顔のままで淡々と食事を続けていた。そこに少しでも感情が浮かべばそこから話を広げる事も可能なのだが、それすらもファリスは許していない。ただ黙々と食事を続けるその姿にどう声を掛けるべきか悩み――もういっそのこと食事に専念しようかなと思い始めたころ。それまで食べ続けていた手を止め、ファリスが口を開く。
「……それで、話って?」
「え? あ、にゃ、にゃはは。……こほん」
気を取り直すように一度軽い咳をしたベルン。食べ物を飲み込み、想像していた食事会と少し――いやかなり違ったな、と思いながらも本題に進むことにした。
「まず、援軍要請に応えてくれた事に感謝の意を表したいのにゃー。被害は大きかったけど、おかげで壊滅することはなかったし、ボクもこうして生きているのにゃー」
「わたしはただ、ティアちゃんに言われてきただけだから」
「それでも、ですにゃー。こういう時は国の代表としてもらっておいて欲しいにゃー」
「……わかった」
こくりと素直に頷く辺りは良いんだけどなぁ……と心の中で思っているベルンを他所にファリスは再び魚に口を付けていた。普段美味しい物どころかまともに食事をする機会が少なかった彼女の舌にはかなり鮮烈な味わいを感じさせていたのだが、顔に表す事がなかったためにベルンには全く気付かれていなかっただけだったのだ。食事を続けたい一心で即答をするファリスだったが、ベルンはそれをわからずに質問を続ける。
「まず、シャニルと何があったのか聞かせて欲しいのにゃ」
「別に何も。ただ、この町から出るなって言われただけ」
彼女にとってはただベルン達を助けに行くのを妨害された――それだけにしか思えなかった為、起こった事に対してどう感じたかありのままを伝える。副官(名前を覚えていなかったからとりあえずそうしようと判断されたルォーグ)に再三救援に向かいたいと要請しても通る事はなく、むしろ門前払いを喰らったことすらある事等……話せる限りの事を教える。最初は軽い談笑的に聞いていたベルンだったが、その顔は真剣みを帯び、どこか曇ってしまった。
(あの人が何の意味もなく無闇にそんな事をするなんて思えないのにゃー。何か裏がある。それは間違いないんだけど、肝心の事が全く分からないんじゃ、どうしようもないのにゃー)
ベルンはシャニルの事を多くは知らないが、この数日彼に相対していたファリスよりは理解しているつもりだった。シルケットの玄関とも言われているルドールの長に座している彼の気苦労は並大抵ではない事を。純血派が暗躍しているこの国では、それ以外の派閥に籍を置いているだけで疎まれたり、嫌がらせを受けたりが日常茶飯事だ。
純血派の勢力がそれだけ強い事の証明なのだが、そんな彼らでもおいそれと手を出すことが出来ない人物もいる。それが中立派の中心人物であるシャニルだった。彼は賢猫の半数を味方につけており、都市の中でも人望厚い。力を振るう事をあまり良しとしないが、彼自身も相当な実力者。生半可な戦いを挑めば痛い目を遭うのは相手側である事は火を見るより明らかだった。
だからこそベルンはシャニルがこんな純血派がしそうなことをやるとは思えなかったのだ。事実、純血派は入念な準備をしていたからこそ、今回のような事を行えたのだが、それは現時点のベルンが知る事のない出来事だった。検問を上手く潜り抜けた純血派の者達で掌握されつつあるこの都市の実情を正確に把握しいない彼が出来る事と言えば、シャニルが何故こんな事をしたのか想像するしかなかった。
「……せっかく来ていただいたのにこのような扱いをしてしまって本当に済まなかったにゃー。ボクがここにいる以上、今までのように待機させるなんて事はさせないにゃー」
「わかった。次から気を付けてくれるならそれでいい」
ファリスからすればベルンが戻ってきて今の状況がなんとかなれば、これ以上何か咎めるつもりはなかった。国同士の問題なんて後から他の人が解決すればいい。ファリスからしてみれば邪魔にさえならなければ何かを言うつもりは全くなかったのだった。
「ありがとうございますにゃー。お詫びと言ってはなんだけど、今日の食事はゆっくり楽しんで欲しいのにゃー」
あまり感情が読めないファリスに冷や汗を流しているベルンとは対照的に、デザートまでじっくり楽しむファリスなのであった。
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