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519・帰ってきた隠密(ファリスside)
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アイシカとガルファを送り出した次の日。ファリス達の陣営は相変わらずピリピリとした空気に包まれていた。互いに意見を譲り合わずに迎えた朝だけに、一触即発の雰囲気を変える事が出来ずにいた。ここで堂々としている人物と言えば――ファリスぐらいしかいないだろう。彼女はこれよりも酷い地獄にいた事があるのだから、ある意味慣れていると言えた。
会議の開かれていたテントに再び入ると、そこにはルォーグが雑務をこなしている最中だった。
「おはよう」
「……どうも」
いつもと変わらない調子で返事をしてくるファリスに若干憤りを感じるルォーグだったが、ここで怒りに呑まれては彼女の思い通りになってしまうと拳を握り締めて堪える事にした。
(一体何を考えて普通に話しかけてくるのですかね。……いや、彼女の事だからきっと何も考えていないのでしょう)
ファリスにとっては昨日の出来事ですら些事でしかないと理解したルォーグは宥めている腹の底から湧き上がる怒りを感じていた。
(私達にとっては信用されてなくて、相手にすらされていないと思い知らされた一件も、彼女にとっては当たり前の出来事なのですね。……悔しいですが、そう言えるだけの実力が彼女にはある。それもまた事実なのですね)
シルケットで駆け抜けてきた数々の戦場がファリスの力を証明していた。ルォーグ達がいくら抗議してもファリスは揺るぎはしないだろう。異論があるのなら、実力で示してみろ。そう言われるのが目に見えているからだ。もちろん、ここで言う『実力』が単純な戦闘能力ならルォーグ達は不満のはけ口すら出来ない状態だっただろう。
しかし、ファリスはルォーグ達が出来ることで力を見せてみろと言ったのだ。彼らのやり方で戦場で奮闘している兵士達が納得出来る結果を出してみろ、と。
簡単に言うが、これは中々難しい。ファリスが先頭に立てばダークエルフ族はその威圧に押し潰され、機械の獣達は魔導が効きにくい敵を真っ先に潰し、残った敵戦力を軍で魔導の扱いに慣れている者達に投げている。
猫人族と他種族の連携で撃破できる敵だけを残して厄介な相手だけを効率よく始末するやり方を超える戦いは中々出来ない。ファリスに負担が集中していても、対する本人が涼しげな顔で着々とこなしているのだから、生半可な戦い方では通用しないだろう。
味方であればこれほど頼りになる存在はいない一方、対立している彼らにとっては悪魔かもっと他の強大な敵に見えてもおかしくはない。
「ファリス様!」
空想しても仕方のない事をつい「ああしたほうが……」「こうすれば……」と考え込んでいたルォーグを横目に兵士の一人が慌てた様子でテントの中に入ってきた。
「どうしたの?」
「はいっ、拠点に忍び込ませていた隠密が帰ってきたのでご報告を」
「そう。二人の様子は?」
「怪我や傷などはないようです。多少疲れは見えますが……」
頭を下げて報告をする兵士の言葉に僅かに考えるファリス。彼女に――いや、彼女達にとって情報というものは重要だ。特にあの強固な拠点のであれば尚更。しかし、強く疲労を感じている者からすぐに話を聞こうとしても要領を得なかったり、上手く頭が回らないかもしれない。知る事は大切だが、不明瞭では意味がない。それらを天秤にかけている間に更に入ってくる者達が現れた。
「ちょ、ちょっと待ってください! 今掛け合って――」
「やっと帰ってきたのにいつまでも待ちぼうけなんて嫌だみゃ。こっちはまだ調べなきゃいけない事がいっぱいあるのみゃ!」
「お前には悪いけど、こっちも急いでるのにゃ」
止めようとしている兵士を振り切るように入ってきたのは元の姿に戻ったアイシカとガルファだった。
元気が有り余っているところを見て、思い込み過ぎだと判断したファリスは、とりあえず落ち着くのを待ってから声を掛ける事にした。
「二人ともお疲れ様。その様子だとどうやら簡単な仕事だったみたいね」
「当然ですみゃ。私達なら潜入する程度、どうという事はないですみゃ!」
力強く胸を張るアイシカ。先日の大人しい態度が嘘のような反応だった。
「僕達の得た情報を一刻も早くファリス様にお伝えしようと思いましたが……少し焦りすぎたようですにゃ」
「ううん。それだけ重要な情報を手に入れたって事でしょう。ルォーグ」
「……なんですか?」
「昨日のメンバーをもう一度集めて。なるべく早く」
「わかりました。急ですので少し時間をいただきますが、それで問題ありませんか?」
「わかった。なら悪いけど二人とも待ってくれる?」
ルォーグの意見にあっさりと承諾したファリスは、今度はアイシカ達に尋ねる。それに対して頷き返した二人に満足そうな表情を浮かべ、ひとまず帰ってきたばかりの二人を座らせてお茶を飲ませることにした。
帰ってきたばかりの妙なテンションだった二人は多少落ち着きを取り戻し、その間にルォーグが昨日集まった兵士や参謀を呼び戻し、テントの中を大人数が入れるように確保していく。やや興奮気味のお茶を飲んでいるアイシカ達を見ながら、更に面倒事が湧いで出てきそうな――そんな気持ちが湧いて上がってくるのを感じていたファリスであった。
会議の開かれていたテントに再び入ると、そこにはルォーグが雑務をこなしている最中だった。
「おはよう」
「……どうも」
いつもと変わらない調子で返事をしてくるファリスに若干憤りを感じるルォーグだったが、ここで怒りに呑まれては彼女の思い通りになってしまうと拳を握り締めて堪える事にした。
(一体何を考えて普通に話しかけてくるのですかね。……いや、彼女の事だからきっと何も考えていないのでしょう)
ファリスにとっては昨日の出来事ですら些事でしかないと理解したルォーグは宥めている腹の底から湧き上がる怒りを感じていた。
(私達にとっては信用されてなくて、相手にすらされていないと思い知らされた一件も、彼女にとっては当たり前の出来事なのですね。……悔しいですが、そう言えるだけの実力が彼女にはある。それもまた事実なのですね)
シルケットで駆け抜けてきた数々の戦場がファリスの力を証明していた。ルォーグ達がいくら抗議してもファリスは揺るぎはしないだろう。異論があるのなら、実力で示してみろ。そう言われるのが目に見えているからだ。もちろん、ここで言う『実力』が単純な戦闘能力ならルォーグ達は不満のはけ口すら出来ない状態だっただろう。
しかし、ファリスはルォーグ達が出来ることで力を見せてみろと言ったのだ。彼らのやり方で戦場で奮闘している兵士達が納得出来る結果を出してみろ、と。
簡単に言うが、これは中々難しい。ファリスが先頭に立てばダークエルフ族はその威圧に押し潰され、機械の獣達は魔導が効きにくい敵を真っ先に潰し、残った敵戦力を軍で魔導の扱いに慣れている者達に投げている。
猫人族と他種族の連携で撃破できる敵だけを残して厄介な相手だけを効率よく始末するやり方を超える戦いは中々出来ない。ファリスに負担が集中していても、対する本人が涼しげな顔で着々とこなしているのだから、生半可な戦い方では通用しないだろう。
味方であればこれほど頼りになる存在はいない一方、対立している彼らにとっては悪魔かもっと他の強大な敵に見えてもおかしくはない。
「ファリス様!」
空想しても仕方のない事をつい「ああしたほうが……」「こうすれば……」と考え込んでいたルォーグを横目に兵士の一人が慌てた様子でテントの中に入ってきた。
「どうしたの?」
「はいっ、拠点に忍び込ませていた隠密が帰ってきたのでご報告を」
「そう。二人の様子は?」
「怪我や傷などはないようです。多少疲れは見えますが……」
頭を下げて報告をする兵士の言葉に僅かに考えるファリス。彼女に――いや、彼女達にとって情報というものは重要だ。特にあの強固な拠点のであれば尚更。しかし、強く疲労を感じている者からすぐに話を聞こうとしても要領を得なかったり、上手く頭が回らないかもしれない。知る事は大切だが、不明瞭では意味がない。それらを天秤にかけている間に更に入ってくる者達が現れた。
「ちょ、ちょっと待ってください! 今掛け合って――」
「やっと帰ってきたのにいつまでも待ちぼうけなんて嫌だみゃ。こっちはまだ調べなきゃいけない事がいっぱいあるのみゃ!」
「お前には悪いけど、こっちも急いでるのにゃ」
止めようとしている兵士を振り切るように入ってきたのは元の姿に戻ったアイシカとガルファだった。
元気が有り余っているところを見て、思い込み過ぎだと判断したファリスは、とりあえず落ち着くのを待ってから声を掛ける事にした。
「二人ともお疲れ様。その様子だとどうやら簡単な仕事だったみたいね」
「当然ですみゃ。私達なら潜入する程度、どうという事はないですみゃ!」
力強く胸を張るアイシカ。先日の大人しい態度が嘘のような反応だった。
「僕達の得た情報を一刻も早くファリス様にお伝えしようと思いましたが……少し焦りすぎたようですにゃ」
「ううん。それだけ重要な情報を手に入れたって事でしょう。ルォーグ」
「……なんですか?」
「昨日のメンバーをもう一度集めて。なるべく早く」
「わかりました。急ですので少し時間をいただきますが、それで問題ありませんか?」
「わかった。なら悪いけど二人とも待ってくれる?」
ルォーグの意見にあっさりと承諾したファリスは、今度はアイシカ達に尋ねる。それに対して頷き返した二人に満足そうな表情を浮かべ、ひとまず帰ってきたばかりの二人を座らせてお茶を飲ませることにした。
帰ってきたばかりの妙なテンションだった二人は多少落ち着きを取り戻し、その間にルォーグが昨日集まった兵士や参謀を呼び戻し、テントの中を大人数が入れるように確保していく。やや興奮気味のお茶を飲んでいるアイシカ達を見ながら、更に面倒事が湧いで出てきそうな――そんな気持ちが湧いて上がってくるのを感じていたファリスであった。
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