上 下
520 / 676

520・悩ましい決断(ファリスside)

しおりを挟む
 一日で戻ってきたアイシカとガルファのおかげで再度作戦用の大きなテントに集った首脳陣。しかし、その空気はお世辞でも良いとは言えず、ピリピリとしていた。我関せずのアイシカとガルファ。一触即発のファリスはそれに反対する陣営。そして自分のペースが一切ぶれないファリス。多種多様の感情や思いがないまぜになった状態で会議は始まった。
 まずは潜入した結果とその内部構造。これについて反応したのはファリスだった。

「地下への道は誰が見てもすぐにわかるようになっていたの?」
「はいですみゃ。全く隠していないですから入った直後にわかりましたみゃ」

(今までの拠点では必ず隠していたのに……なんでここだけ?)

 今までエールティアと一緒に拠点を攻略し、更に生まれた場所は今まで行き来した彼らがどんな思考で建物や内部構造を決めているか大体わかっていたファリスであっても、今回のような事例は初めてだった。

「貴女がそこまで驚くとは……今までこう言う事はなかったのですか?」
「少なくともわたしは知らないかな」

(……どうやら本当に知らないみたいですし、よほど珍しい場所という事になるでしょう)

 知っていればまずこんな反応は取らない。そこのところは信用しているルォーグは、改めてこの拠点が他とは違う事を知った。

「それで、地下にはダークエルフ族の住民がいるようでしたみゃ。そこまで降りる前に帰ってきましたから詳しくは知りませんが……少なくともいつも戦っている人達じゃなくて非戦闘員みたいな感じでしたみゃ」
「……つまり、あそこで暮らしているという訳ですか」

 悩ましい表情を浮かべているルォーグだが、それは派閥問わず、様々な思いを沸かせた。

「ならばここで奴らを殲滅し、後々の禍根を断ち切っておくのがよろしいかと」
「しかしそれでは彼らと同じなのでは……」

 今まで数々の仲間が殺された。中には女子供、戦えない老人もいたし、親友もいた。彼らにとってダークエルフ族への恨みは計り知れないだろう。一方でその気持ちもわかってはいるものの、戦えない者達に手を出すべきではない。そう訴える者達もいた。派閥としてまとまっていただけに、この事実は混乱を引き起こした。

(随分面倒な事になってきた。わたしとしてはどっちでもいいんだけど、それを納得してもらえるか……)

 ファリスからしてみれダークエルフ族が生きようが死のうがあまり関係ない。手癖が悪く、こちらを滅ぼそうとしてくる輩をなんとか出来れば他はどうでもいいのだから。
 しかし、これが国家単位の思想になれば話が変わる。大多数がダークエルフ族を許しはしないだろう。しかし、種を殲滅させる程苛烈かと言えばそうではない。だからこそ今のような微妙な状態になっているのだ。

「当然全員殺すべきだろう。彼らも同じようになんの仙浪能力もない民にまで平気で手を出してきた。犠牲になった者達の事を考えれば――」
「ならばなおの事、復讐を望んでいない者もいるのではないでしょうか? 戦争でもなんでも、全てを滅ぼして終わらせてしまえば残されるのは荒野だけです」
「ならば見逃せと? ここまで事態を大きくしたダークエルフ族には責任がある。それが例え戦いに直接関係していなくてもだ」
「ですが――!」

「……ファリス様はどう考えておられるのですか?」

 このままでは埒が明かないと判断したルォーグはファリスに判断を仰ぐことにした。ここは感情論であれこれ議論して解決しないままでいるよりも、ファリスの冷静な判断ですっぱり解決した方がスムーズに進むと思い至った結論だった。
 ファリスの方も自分に投げられることをなんとなく予感していたのか、少々うんざりするような視線を全員に向けた後、少しため息を漏らす。

「とりあえずエールティア様に報告して、それまでは放置しておくか監視下に置いておくのがいいかもね」
「……何故そこでティリアースの姫が出てくるんにゃ? これはシルケットの――」
「一番被害を受けているのがティリアースだからよ。ダークエルフ族は全世界に戦争を仕掛けたんだから、シルケットだけで物事を決めるべきじゃないでしょう。他国の反応とかも考えるなら、今は感情のままにするのは避けた方が良いかもね」

 ここでどの国にも相談せずに行うと、確実に批判が出てくる。独断で決めるなと強気の国なら余計にそうなるだろう。もちろん、言いがかりに等しい事に違いはないのだが、国というのは清濁併せ吞むものだ。後々付け入る隙を与えないようにするならひとまず捕えておくべき。ファリスはそう判断した。
 ただ単に助けに来ただけなら彼女もここまで深く考えはしなかっただろう。しかしこれは他でもないエールティアに頼まれたものだ。決してしくじる事は出来ないし、彼女達のせいでシルケットが窮地に陥るような事はあってはいけないのだ。例えどのような形で介入したとしても。

 だからこその提案。そしてそれは不満は残るも、周囲の国々の感情。更に援軍を寄越されている現状。それら全てを加味した結果――ひとまずはファリスの言う通りにしよう。そんな結論が下されたのだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

天涯孤独な僕が、異世界転生しちゃいました!?

BL / 連載中 24h.ポイント:1,399pt お気に入り:68

異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:512pt お気に入り:152

「ひみつの巣作り」

BL / 連載中 24h.ポイント:9,435pt お気に入り:3,216

COLLAR(s)

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:10

処理中です...