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543・進撃するオーク(オルドside)
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しばらくのんびりと肉を齧りたった一人の宴を楽しんでいると、倉庫の扉が開く音がした。談笑をしているダークエルフ族の男達。
(こうしてみると、何も変わらないのだな)
親しい者と軽口を叩き合う。それは例えどんな種族であっても変わらない。よくある光景。もしかしたら他の種族ともこうして笑い合えたのではないか? それはとても馬鹿らしく、愚かしい妄想。結局そんな事はあり得ないのだ。
「!? 誰だ!」
「オーク族? なんで豚がここに……!」
オルドを見て真っ先に飛び出たのはオーク族を侮蔑する時に使う『豚』という単語。普段であれば激昂して暴れまわる程に嫌うその言葉はかつて初代魔王の国を襲撃した愚かなオーク族の王に送られた言葉であり、オーク族にとっては絶対に言われたくない屈辱的な単語だった。しかしオルドはそれに対しなんの反応も見せなかった。虫が足元にいてもあまり気にも留めない。ダークエルフ族などつまりその程度の認識でしかない。一瞬でも夢想した空想を踏み砕くようにゆっくりと立ち上がる。
ダークエルフ族の兵士達は背負っていた槍を抜き放ち、構える。槍と拳。リーチ差を考えれば絶望的だ。剣ですら槍と対等に渡り合うには三倍の技術が必要だというのに、今のオルドは攻撃する武器はおろか身を守る盾すらなかった。必然的に相手を嘲笑う。当然だ。丸腰の相手に怯える者などいない。大柄で筋肉質な体系。魔導を扱うなら既に使っているのだから。もちろん食糧庫の内部に入り込んでいる事は十分に怪しい。しかし敵の実力を把握する能力が低かった二人はすぐに頭の外へと吹き飛んでしまった。
「随分と自信満々だが、ただの酔っぱらいか?」
「おい! 豚がこんなところで何やっている!」
穂先を威嚇するように突き付ける兵士達。ゆっくりとオルドの身体を切っ先でなぞるが、彼は全くの無反応だった。立ち上がっただけでまるで聞いていない。
豚と揶揄している者が種族的にも上位である自分達が無視される。その事実はと到底彼らに我慢できる者ではなかった。
「なに無視してやがる!」
苛立った兵士の一人が穂先を引き、改めて構えて突きを繰り出す。完全に侮った単調的な突き。まっすぐ向かってくるそれが迫る前に槍の柄を掴んで引っ張る。力強いそれにいとも簡単に体勢を崩した兵士はオルドの前にのこのことやってくる。そこに飛んでくるのは彼の鉄拳だった。
無防備な顔のど真ん中に拳がめり込み、みしみしといった骨が軋む音が響き、殴りきったオルドは再びどっしりと仁王立ちをする。殴られた兵士は軽く吹っ飛び、無様に地面に倒れ伏した。既に式はなく、鼻と口の端から血を流していた。呆気なく意識を絶たれた相方を見て驚きと怒りに満ちたもう一人は勢いよく槍による攻撃を繰り出し――全く同じように叩き伏せられてしまった。
「ふん。ロクに戦う事も出来ない者に後れを取るものか」
先程のやられ方を見て学習しない者には当然の末路。呆気なく打ちのめされた兵士達だったが、その騒がしさに更に人を呼ぶことになった。
「何の騒ぎ――っっ!?」
突入してきたダークエルフ族ローブを着込んでどう見てもは魔導を扱う者に普通に武器を携えた二人。倒れている同胞を見て怒りを露わにすると同時に一人が駆け出し、抜剣する。
「よくもフェルダを!!」
振り下ろされる斬撃を鬱陶しいとでも言うかのように手で振り払う。剣の腹に当たったと同時に身体はよろけ、顔を上げると同時に拳で顎を撃ち抜かれる。がごん、と音が響き、軽く身体が浮いたその男は顔を血に塗れさせながら受け身も取れずに地面に衝突し、意識を断ち切られる。
「な、な……!?」
驚きで言葉が出ない。当然だ。今まで信頼していた仲間の攻撃は適当にあしらわれ、そちらに意識を向けた一瞬に身体を沈み込ませ、抉るようなアッパーを繰り出したのだ。ほんの僅かな間。気付けば仲間は倒れていて、気にする様子もなくオーク族特有の巨体を見せつけるように微動だにしないオルド。
辺りには沈黙が支配し、互いに睨み合う。オルドが一歩動くと対峙する二人が二歩下がる。既に三人が犠牲になっているのだ。策を弄さずに行けば彼らの二の舞になる事はわかっている。だからこそ突撃する事はできない。最終的にローブの男は懐から小さな笛を取り出し、思いっきり息を吸ってぶつけるように吐き出す。
――ピュイイイイイイイ!!
どこからでも聞こえるであろう大きな笛の音。それを聞いた他の者が更に笛を鳴らし、この町全体に『ここに敵がいる』という事を広める。オルドにとっては願ってもない事だった。
救援を呼んだ事で心に余裕を取り戻したのか、勝ち誇るような顔をしているダークエルフ族だが、彼らは気づかない。なぜオルドがあまり動かないのかを。
動いて潰すより、留まり、敵をまとめて引き受ける。その方が性にあってい
笛の音に引き寄せられるかのように続々と集まってくる敵兵を見て、オルドの顔は自然と笑みを浮かべていた。溢れる高揚感。これから始まるであろう無数の戦闘に心躍らせ、最初の一歩を踏み出すのだった。
(こうしてみると、何も変わらないのだな)
親しい者と軽口を叩き合う。それは例えどんな種族であっても変わらない。よくある光景。もしかしたら他の種族ともこうして笑い合えたのではないか? それはとても馬鹿らしく、愚かしい妄想。結局そんな事はあり得ないのだ。
「!? 誰だ!」
「オーク族? なんで豚がここに……!」
オルドを見て真っ先に飛び出たのはオーク族を侮蔑する時に使う『豚』という単語。普段であれば激昂して暴れまわる程に嫌うその言葉はかつて初代魔王の国を襲撃した愚かなオーク族の王に送られた言葉であり、オーク族にとっては絶対に言われたくない屈辱的な単語だった。しかしオルドはそれに対しなんの反応も見せなかった。虫が足元にいてもあまり気にも留めない。ダークエルフ族などつまりその程度の認識でしかない。一瞬でも夢想した空想を踏み砕くようにゆっくりと立ち上がる。
ダークエルフ族の兵士達は背負っていた槍を抜き放ち、構える。槍と拳。リーチ差を考えれば絶望的だ。剣ですら槍と対等に渡り合うには三倍の技術が必要だというのに、今のオルドは攻撃する武器はおろか身を守る盾すらなかった。必然的に相手を嘲笑う。当然だ。丸腰の相手に怯える者などいない。大柄で筋肉質な体系。魔導を扱うなら既に使っているのだから。もちろん食糧庫の内部に入り込んでいる事は十分に怪しい。しかし敵の実力を把握する能力が低かった二人はすぐに頭の外へと吹き飛んでしまった。
「随分と自信満々だが、ただの酔っぱらいか?」
「おい! 豚がこんなところで何やっている!」
穂先を威嚇するように突き付ける兵士達。ゆっくりとオルドの身体を切っ先でなぞるが、彼は全くの無反応だった。立ち上がっただけでまるで聞いていない。
豚と揶揄している者が種族的にも上位である自分達が無視される。その事実はと到底彼らに我慢できる者ではなかった。
「なに無視してやがる!」
苛立った兵士の一人が穂先を引き、改めて構えて突きを繰り出す。完全に侮った単調的な突き。まっすぐ向かってくるそれが迫る前に槍の柄を掴んで引っ張る。力強いそれにいとも簡単に体勢を崩した兵士はオルドの前にのこのことやってくる。そこに飛んでくるのは彼の鉄拳だった。
無防備な顔のど真ん中に拳がめり込み、みしみしといった骨が軋む音が響き、殴りきったオルドは再びどっしりと仁王立ちをする。殴られた兵士は軽く吹っ飛び、無様に地面に倒れ伏した。既に式はなく、鼻と口の端から血を流していた。呆気なく意識を絶たれた相方を見て驚きと怒りに満ちたもう一人は勢いよく槍による攻撃を繰り出し――全く同じように叩き伏せられてしまった。
「ふん。ロクに戦う事も出来ない者に後れを取るものか」
先程のやられ方を見て学習しない者には当然の末路。呆気なく打ちのめされた兵士達だったが、その騒がしさに更に人を呼ぶことになった。
「何の騒ぎ――っっ!?」
突入してきたダークエルフ族ローブを着込んでどう見てもは魔導を扱う者に普通に武器を携えた二人。倒れている同胞を見て怒りを露わにすると同時に一人が駆け出し、抜剣する。
「よくもフェルダを!!」
振り下ろされる斬撃を鬱陶しいとでも言うかのように手で振り払う。剣の腹に当たったと同時に身体はよろけ、顔を上げると同時に拳で顎を撃ち抜かれる。がごん、と音が響き、軽く身体が浮いたその男は顔を血に塗れさせながら受け身も取れずに地面に衝突し、意識を断ち切られる。
「な、な……!?」
驚きで言葉が出ない。当然だ。今まで信頼していた仲間の攻撃は適当にあしらわれ、そちらに意識を向けた一瞬に身体を沈み込ませ、抉るようなアッパーを繰り出したのだ。ほんの僅かな間。気付けば仲間は倒れていて、気にする様子もなくオーク族特有の巨体を見せつけるように微動だにしないオルド。
辺りには沈黙が支配し、互いに睨み合う。オルドが一歩動くと対峙する二人が二歩下がる。既に三人が犠牲になっているのだ。策を弄さずに行けば彼らの二の舞になる事はわかっている。だからこそ突撃する事はできない。最終的にローブの男は懐から小さな笛を取り出し、思いっきり息を吸ってぶつけるように吐き出す。
――ピュイイイイイイイ!!
どこからでも聞こえるであろう大きな笛の音。それを聞いた他の者が更に笛を鳴らし、この町全体に『ここに敵がいる』という事を広める。オルドにとっては願ってもない事だった。
救援を呼んだ事で心に余裕を取り戻したのか、勝ち誇るような顔をしているダークエルフ族だが、彼らは気づかない。なぜオルドがあまり動かないのかを。
動いて潰すより、留まり、敵をまとめて引き受ける。その方が性にあってい
笛の音に引き寄せられるかのように続々と集まってくる敵兵を見て、オルドの顔は自然と笑みを浮かべていた。溢れる高揚感。これから始まるであろう無数の戦闘に心躍らせ、最初の一歩を踏み出すのだった。
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