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544・救出に向かう者(ファリスside)
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オルドがダークエルフ族の大半を引き付けている最中。ファリスはその間に施設の入り口を守っていた兵士を二人ともうち倒し、中へと侵入した。扉を開けた瞬間にまず最初に届いたのは充満している死の臭い。汚物に錆びた鉄や新鮮な血の臭い。数々の腐臭が立ち込めており、慌てて『シックスセンシズ』の発動を解除した。
あらゆる感覚が鋭敏になる。魔力の密度を変える事で多少緩和する事も出来るのだが、基本的に発動中は通常時よりも鋭くなっている。それは視覚や聴覚以外――『嗅覚』も該当する。
いくらそちらに当てる魔力を抑えても扉が開いた瞬間に溢れる程の悪臭に耐え切れなかったのだ。
今まで手に入れてきた情報が一気に遮断されてしまったのだが、このような臭いの中で『シックスセンシズ』を使った戦闘などをしてしまえば、逆にそれが足かせとなってしまうだろう。
幾分かマシになったとはいえ、嗅ぐには辛すぎる。外はまだ陽が射しているのだが、施設の中は嘘のように暗い。辛うじて魔導具によって明かりが保たれているが、保有されている魔力量が少ないのかゆらゆらか細く危うい炎のような揺らめきのものばかりだった。
(この中から件のリュネー姫を探すのか……。これはちょっときついかも)
くらくらとくる悪臭にぎりぎり道が見える程度の暗闇。いつどこで敵が飛び出してくるかわからないし、通路もあまり特徴が少なく迷いやすい。これでは流石にげんなりしてしまうというものだ。ファリスにとってリュネーがいかに軽い存在であるか。それだけでも十分に伝わってくるだろう。
中に足を踏み入れる事すら躊躇われたが、ここにこれ以上いても仕方がない。とっととリュネーを回収して作戦に参加した者達と合流して脱出を図ろう。そう決意して恐る恐る足を踏み入れる。
きつい臭いを鼻を抑えて我慢しながら慎重に周囲を警戒する。今まで魔導を使っていたからこそ、必要以上に敵の様子を探っていたのだ。
可能な限り速やかに足を進めた方がいいのはわかってはいるが、いくらファリスでも視野が狭く見つかる訳にはいかない以上、歩みを遅めにするしかなかった。
通路を曲がり、気配を感じて姿を隠し、通りかかった瞬間襲い掛かって口封じをしたのち再び先に進む――。
二度ほど階段を上り下りをして辿り着いたのは厳重に鍵が掛けられた鉄の扉だった。如何にもここに何かありますと言いたげなそれは、ファリスの力では開けられない程度だった。
ここで少しの間思案する。目立つわけにもいかないが、魔導でこじ開けるには扉の向こうがどうなっているか気になった。最悪、壊したと同時にリュネーを巻き込む可能性だってあるのだ。
「……【シックスセンシズ】」
結局、鼻をつまんで極力臭いをかがないようにして再び魔導を発動させることにした。明確にイメージ出来ていればここまでする必要はないが、ファリスがイメージしているのはあくまで自らの感覚が研ぎ澄まされる――そんな風な明確ではないイメージだからこそ、上手く一か所をオフにすることは出来ないのだ。
再び襲い掛かる猛烈な悪臭にこらえながらなんとか扉越しの何かに集中する。聞こえてくるのは辛うじて呼吸をしているらしい女の子の声。後ろの方でかつかつと歩いている音や談笑している声が聞こえ、それが兵士であることがわかる。他の敵がいないか必死に確認し……耳に入ってくる呼吸音を確認してなんとか一人監視がついている事を把握したと同時に限界が来て魔導を解除した。
「……っ、はぁ……はぁ……。ああもう、最悪」
大分和らいだ悪臭がまだ鼻の中に残っているような気がして、ぐしぐしと腕で拭うように擦り付ける。知りたい情報は手に入れた。大体リュネーと監視の距離も。そこから思考を組み立てていき……出した結論は多少強引でもなんとか出来るだろう、だった。
思いついたら即決行。早速魔力を絞り、扉を吹き飛ばせるだけの威力を……と少しずつ範囲を絞ってイメージを行い、それを解き放つ。
「【エクスウィンド】」
吹き飛ばす……という事で風をイメージして解き放ったそれは圧縮された風の球体が貫くほどの鋭い速度で飛んでいき、扉に当たったと同時に弾け飛ぶ。いくら頑丈な扉であっても魔導に対して何の対策も取っていなかったそれではファリスの【エクスウィンド】に堪え切れる事もなく、遠くの方に吹き飛んでしまった。大きな音を立てたと同時に乗り込んで戦闘態勢を取っていたのだが……ファリスが見たのは鉄の扉に下敷きになって気絶している監視役の兵士が倒れていた。
「……」
意気込んで構えたせいで微妙な空気になったと感じていた。格好つけたのはいいが、事が既に終わってしまっていた……そんな感じだ。
照れ隠しに頬を軽く掻いて、どうせ誰も見ていないのだと割り切って先に進むことにしたファリスは、とうとう彼女の姿を目にした。
ボロ布のような服を身に纏って、見た目は浮浪者が捕まっているようにしか見えないし、ファリスには本当に彼女がそれで合っているのかわからなかった。こんなところにたった一人で閉じ込められている人物など他に思い浮かばず――
「えっと……リュネー、姫?」
魔人族の容姿に猫人族の耳と尻尾を生やした少女は、頷くことも出来ずただうめき声に近い返事をするだけだった。
あらゆる感覚が鋭敏になる。魔力の密度を変える事で多少緩和する事も出来るのだが、基本的に発動中は通常時よりも鋭くなっている。それは視覚や聴覚以外――『嗅覚』も該当する。
いくらそちらに当てる魔力を抑えても扉が開いた瞬間に溢れる程の悪臭に耐え切れなかったのだ。
今まで手に入れてきた情報が一気に遮断されてしまったのだが、このような臭いの中で『シックスセンシズ』を使った戦闘などをしてしまえば、逆にそれが足かせとなってしまうだろう。
幾分かマシになったとはいえ、嗅ぐには辛すぎる。外はまだ陽が射しているのだが、施設の中は嘘のように暗い。辛うじて魔導具によって明かりが保たれているが、保有されている魔力量が少ないのかゆらゆらか細く危うい炎のような揺らめきのものばかりだった。
(この中から件のリュネー姫を探すのか……。これはちょっときついかも)
くらくらとくる悪臭にぎりぎり道が見える程度の暗闇。いつどこで敵が飛び出してくるかわからないし、通路もあまり特徴が少なく迷いやすい。これでは流石にげんなりしてしまうというものだ。ファリスにとってリュネーがいかに軽い存在であるか。それだけでも十分に伝わってくるだろう。
中に足を踏み入れる事すら躊躇われたが、ここにこれ以上いても仕方がない。とっととリュネーを回収して作戦に参加した者達と合流して脱出を図ろう。そう決意して恐る恐る足を踏み入れる。
きつい臭いを鼻を抑えて我慢しながら慎重に周囲を警戒する。今まで魔導を使っていたからこそ、必要以上に敵の様子を探っていたのだ。
可能な限り速やかに足を進めた方がいいのはわかってはいるが、いくらファリスでも視野が狭く見つかる訳にはいかない以上、歩みを遅めにするしかなかった。
通路を曲がり、気配を感じて姿を隠し、通りかかった瞬間襲い掛かって口封じをしたのち再び先に進む――。
二度ほど階段を上り下りをして辿り着いたのは厳重に鍵が掛けられた鉄の扉だった。如何にもここに何かありますと言いたげなそれは、ファリスの力では開けられない程度だった。
ここで少しの間思案する。目立つわけにもいかないが、魔導でこじ開けるには扉の向こうがどうなっているか気になった。最悪、壊したと同時にリュネーを巻き込む可能性だってあるのだ。
「……【シックスセンシズ】」
結局、鼻をつまんで極力臭いをかがないようにして再び魔導を発動させることにした。明確にイメージ出来ていればここまでする必要はないが、ファリスがイメージしているのはあくまで自らの感覚が研ぎ澄まされる――そんな風な明確ではないイメージだからこそ、上手く一か所をオフにすることは出来ないのだ。
再び襲い掛かる猛烈な悪臭にこらえながらなんとか扉越しの何かに集中する。聞こえてくるのは辛うじて呼吸をしているらしい女の子の声。後ろの方でかつかつと歩いている音や談笑している声が聞こえ、それが兵士であることがわかる。他の敵がいないか必死に確認し……耳に入ってくる呼吸音を確認してなんとか一人監視がついている事を把握したと同時に限界が来て魔導を解除した。
「……っ、はぁ……はぁ……。ああもう、最悪」
大分和らいだ悪臭がまだ鼻の中に残っているような気がして、ぐしぐしと腕で拭うように擦り付ける。知りたい情報は手に入れた。大体リュネーと監視の距離も。そこから思考を組み立てていき……出した結論は多少強引でもなんとか出来るだろう、だった。
思いついたら即決行。早速魔力を絞り、扉を吹き飛ばせるだけの威力を……と少しずつ範囲を絞ってイメージを行い、それを解き放つ。
「【エクスウィンド】」
吹き飛ばす……という事で風をイメージして解き放ったそれは圧縮された風の球体が貫くほどの鋭い速度で飛んでいき、扉に当たったと同時に弾け飛ぶ。いくら頑丈な扉であっても魔導に対して何の対策も取っていなかったそれではファリスの【エクスウィンド】に堪え切れる事もなく、遠くの方に吹き飛んでしまった。大きな音を立てたと同時に乗り込んで戦闘態勢を取っていたのだが……ファリスが見たのは鉄の扉に下敷きになって気絶している監視役の兵士が倒れていた。
「……」
意気込んで構えたせいで微妙な空気になったと感じていた。格好つけたのはいいが、事が既に終わってしまっていた……そんな感じだ。
照れ隠しに頬を軽く掻いて、どうせ誰も見ていないのだと割り切って先に進むことにしたファリスは、とうとう彼女の姿を目にした。
ボロ布のような服を身に纏って、見た目は浮浪者が捕まっているようにしか見えないし、ファリスには本当に彼女がそれで合っているのかわからなかった。こんなところにたった一人で閉じ込められている人物など他に思い浮かばず――
「えっと……リュネー、姫?」
魔人族の容姿に猫人族の耳と尻尾を生やした少女は、頷くことも出来ずただうめき声に近い返事をするだけだった。
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