559 / 676
559・互角ではない戦い(ファリスside)
しおりを挟む
鋭い突きを繰り出すファリスの拳打をクロイズは同じく拳で叩き落し、続け様に放たれる側頭部を狙ったフックを彼女は髪を掠める程度で済ませる。そのまま腰を落とした状態で放たれた胴体を狙った蹴りはがっちりと腕でブロックされ、逆に掴まれ軽々と投げ飛ばされる。
「【フラムブランシュ】!」
空中から無理な体勢で放たれる白い熱線は推進剤のようにファリスの身体を飛ばし、整える時間を与えてくれる。
一方クロイズはファリスに向かって走りながら【フラムブランシュ】をかわす。宙に浮く彼女の身体の落下地点を目測で判断し、その付近に到着したと同時に上体を傾けて爪を立てて地面を抉るように切り裂くようにそれを振り上げる。
(相手はかなりの強者。ならあの爪にも何かあるはず……。【プロテマジク】じゃ受け止めきれないなら――)
「【シールドラウンズ】!!」
避けられない現状を正確に認識したファリスは身体全体を覆う防御よりも狭く強固な盾を構築する事を選択した。とても盾と爪がぶつかるような音ではない激しく何かが削れる金属音が鳴り響き、再びファリスの身体は宙を舞う。右腕に展開していた【シールドラウンズ】は無惨にも抉れていた。
視界に映ったそれにファリスは冷や汗が流れるのを感じた。たかだか引っ掻くだけの攻撃がこれほど凶悪に見えた事はないだろう。
(もしこれが生身に当たったら――)
腕や足なら間違いなく切り落とされる。ほぼ機能しなくなった盾がその現実を教えてくれた。もう少し甘い者ならまだ付けいる隙があるのだが、クロイズは既に自身の胸当たりに両手で魔力を練り合わせた塊を作り出していた。それが弾けると同時に彼の背後から円状に氷柱が姿を現した。
(魔導名も唱えずに? 冗談じゃない!)
次々と放たれる氷柱は例え一つでも当たればファリスの命を容易く貫くだろう。違いがあるとすれば、その結果に至る本数くらいのものか。
(【フレスシューティ】は――いや、ダメ。あれじゃ火力が足りない。ならやっぱり……)
「っ、【フラムブランシュ】!」
視野が狭くなり必然的に選択肢が絞られていく。結果、ファリスはいつも使い慣れている魔導を発動した。放たれた複数の氷柱を飲み込んでいく熱線。しかし物量の多さが違いすぎる。次々と飲み込まれていく氷柱の勢いは止まらず、ファリスの【フラムブランシュ】は次第に押し込まれていく。
「くっ……ぅぅぅ……」
(だ、ダメ。これじゃあ押し負けちゃう。なら――)
「【斬桜血華】!!」
魔導名を唱えたファリスの周囲から徐々に桜の花びらが舞い散り広がっていく。許容できるだけの魔力を内包した花びらは次々と氷柱に傷をつけていき、【フラムブランシュ】で対処できるように少しずつ数を減らしていく。
「ほう……なるほど。鬼人族の国にある『雪桜』のようでもある。実に雅なものだな。惜しむらくは邪魔な光がある事くらいか」
およそ戦っているとは思えない程の呑気さがあった。
(こっちは必死なのに随分余裕だこと……!!)
内心毒づきながら次の行動に思考を巡らせる。いつまでも氷柱を出し続ける訳もなく――
「次はこれだ」
再びクロイズの口元に魔力が集まり、一つの大きな塊を作って行く。先程【フラムブランシュ】を迎撃したブレス攻撃の類を再び放つ準備を始めた。徐々に大きくなっていくそれは少し前のそれとは比べ物にならない程の魔力の圧縮にようやく一息ついたファリスはそれへの対抗に追われる。完全に後手に回っており、今すぐに対処する事も出来ない。魔導の発動を止める事が不可能ならば、クロイズの攻撃を完全に防いで攻勢に移るしかない。
「【エンヴェル・スタルシス】!!」
それはファリスの持ちうる最大の威力を持つ魔導。そして全身全霊の魔力を込める。先手を打ったのは魔力の塊を練っていたクロイズの方だった。彼の身体を覆いつくように膨れ上がった黒々とした魔力の塊が解き放たれる。黒の中に赤や緑などの様々な色を内包した咆哮のようなブレス攻撃。それが迫ったと同時に発動したファリスの魔導は空から黒い涙を零し、ひび割れ、黒い波動が広がっていく。互いの魔導がぶつかり合い、激しいせめぎ合いを繰り広げていく。押し負けたかと思うと徐々に競り勝ち――最終的にはお互いの威力に耐え切れなくなった二つは破裂するように爆発し、行き場を失った魔力は周囲に拡散する。
「くっ……」
大きな破裂音と共に爆風がファリスに襲い掛かる。耐え切れなくなった身体が棒切れのように吹き飛び転がってしまう。体勢を整えようとしても強烈な魔力の拡散に地面にしがみつくのがやっとだった彼女は、そこからしばらくして爆発が収まるまではじっと耐えるしかなかった。やがてそれも収まり状況把握の為に周囲を見回すが――
「これで終わりか。呆気ない」
背中に翼を生やしたクロイズがファリスの頭に爪を立てていた。冷ややかな視線に晒されながら、ファリスは屈辱的な敗北を喫したのだった……。
「【フラムブランシュ】!」
空中から無理な体勢で放たれる白い熱線は推進剤のようにファリスの身体を飛ばし、整える時間を与えてくれる。
一方クロイズはファリスに向かって走りながら【フラムブランシュ】をかわす。宙に浮く彼女の身体の落下地点を目測で判断し、その付近に到着したと同時に上体を傾けて爪を立てて地面を抉るように切り裂くようにそれを振り上げる。
(相手はかなりの強者。ならあの爪にも何かあるはず……。【プロテマジク】じゃ受け止めきれないなら――)
「【シールドラウンズ】!!」
避けられない現状を正確に認識したファリスは身体全体を覆う防御よりも狭く強固な盾を構築する事を選択した。とても盾と爪がぶつかるような音ではない激しく何かが削れる金属音が鳴り響き、再びファリスの身体は宙を舞う。右腕に展開していた【シールドラウンズ】は無惨にも抉れていた。
視界に映ったそれにファリスは冷や汗が流れるのを感じた。たかだか引っ掻くだけの攻撃がこれほど凶悪に見えた事はないだろう。
(もしこれが生身に当たったら――)
腕や足なら間違いなく切り落とされる。ほぼ機能しなくなった盾がその現実を教えてくれた。もう少し甘い者ならまだ付けいる隙があるのだが、クロイズは既に自身の胸当たりに両手で魔力を練り合わせた塊を作り出していた。それが弾けると同時に彼の背後から円状に氷柱が姿を現した。
(魔導名も唱えずに? 冗談じゃない!)
次々と放たれる氷柱は例え一つでも当たればファリスの命を容易く貫くだろう。違いがあるとすれば、その結果に至る本数くらいのものか。
(【フレスシューティ】は――いや、ダメ。あれじゃ火力が足りない。ならやっぱり……)
「っ、【フラムブランシュ】!」
視野が狭くなり必然的に選択肢が絞られていく。結果、ファリスはいつも使い慣れている魔導を発動した。放たれた複数の氷柱を飲み込んでいく熱線。しかし物量の多さが違いすぎる。次々と飲み込まれていく氷柱の勢いは止まらず、ファリスの【フラムブランシュ】は次第に押し込まれていく。
「くっ……ぅぅぅ……」
(だ、ダメ。これじゃあ押し負けちゃう。なら――)
「【斬桜血華】!!」
魔導名を唱えたファリスの周囲から徐々に桜の花びらが舞い散り広がっていく。許容できるだけの魔力を内包した花びらは次々と氷柱に傷をつけていき、【フラムブランシュ】で対処できるように少しずつ数を減らしていく。
「ほう……なるほど。鬼人族の国にある『雪桜』のようでもある。実に雅なものだな。惜しむらくは邪魔な光がある事くらいか」
およそ戦っているとは思えない程の呑気さがあった。
(こっちは必死なのに随分余裕だこと……!!)
内心毒づきながら次の行動に思考を巡らせる。いつまでも氷柱を出し続ける訳もなく――
「次はこれだ」
再びクロイズの口元に魔力が集まり、一つの大きな塊を作って行く。先程【フラムブランシュ】を迎撃したブレス攻撃の類を再び放つ準備を始めた。徐々に大きくなっていくそれは少し前のそれとは比べ物にならない程の魔力の圧縮にようやく一息ついたファリスはそれへの対抗に追われる。完全に後手に回っており、今すぐに対処する事も出来ない。魔導の発動を止める事が不可能ならば、クロイズの攻撃を完全に防いで攻勢に移るしかない。
「【エンヴェル・スタルシス】!!」
それはファリスの持ちうる最大の威力を持つ魔導。そして全身全霊の魔力を込める。先手を打ったのは魔力の塊を練っていたクロイズの方だった。彼の身体を覆いつくように膨れ上がった黒々とした魔力の塊が解き放たれる。黒の中に赤や緑などの様々な色を内包した咆哮のようなブレス攻撃。それが迫ったと同時に発動したファリスの魔導は空から黒い涙を零し、ひび割れ、黒い波動が広がっていく。互いの魔導がぶつかり合い、激しいせめぎ合いを繰り広げていく。押し負けたかと思うと徐々に競り勝ち――最終的にはお互いの威力に耐え切れなくなった二つは破裂するように爆発し、行き場を失った魔力は周囲に拡散する。
「くっ……」
大きな破裂音と共に爆風がファリスに襲い掛かる。耐え切れなくなった身体が棒切れのように吹き飛び転がってしまう。体勢を整えようとしても強烈な魔力の拡散に地面にしがみつくのがやっとだった彼女は、そこからしばらくして爆発が収まるまではじっと耐えるしかなかった。やがてそれも収まり状況把握の為に周囲を見回すが――
「これで終わりか。呆気ない」
背中に翼を生やしたクロイズがファリスの頭に爪を立てていた。冷ややかな視線に晒されながら、ファリスは屈辱的な敗北を喫したのだった……。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
149
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる