転生姫様の最強学園ライフ! 〜異世界魔王のやりなおし〜

灰色キャット

文字の大きさ
560 / 676

560・興味から外れし者(ファリスside)

しおりを挟む
「……参ったわね。降参よ」

 疲れ切った表情を浮かべていたファリスはぽつりと呟いた。その瞬間にじわじわと広がってくる敗北感。体調は万全だった。神造ヴァニタス・崩剣イミテーションは使用しなかったから全てをさらけけ出したとは言い難いものの、彼女の持つ全力をぶつけたつもりだ。その結果の敗北。彼女が悔しさに拳を震わせ、表情を硬直させるのには十分だった。エールティアと二人っきりになれるような場所があれば、恐らく泣きついていただろう。

「素晴らしい戦いだった。僅かな攻防ではあったが、その強さには確かに光るものがあった。しかし……何故力を隠して戦った? お前ならば人造命具の召喚ぐらい容易く行えたであろう」

 当然使ってくると思っていた武器を終ぞ使わぬままでいた事にクロイズは疑問を抱いた。あれさえ使えばまだ勝機を見出せたかも知れないのに……と。
 そんな態度がかんに障ったのか、ファリスは強気に鼻で笑って返す。

「はっ、あなたが使ってないのにわたしに使えって? 冗談言わないで。そんな事をするくらいなら、最初から使って戦うから」

 認められない傷を付けられて逆上した彼女だが、絶対強者だと信じているからこそ、戦ったこともない相手にいきなり人造命具を抜き放つ事は出来ない。それはある意味彼女の傲慢でありプライドの問題だった。

「――なるほど。ならばこれ以上は問うまい。我が価値観を押し付けても仕方がないからな」

 クロイズはその返答に納得したのか、きびすを返してファリス達から立ち去ろうとする。

「待ちなさい」

 まだ聞きたいことがあると言わんばかりに引き留めたが、くるりと向き直った顔には『もうお前に興味はない』と言いたげだった。急な変化に苛立つ感情を抑えて冷静を保つファリス。

「何でわたしと戦いたかったか聞いていい?」
「戦うのに何か理由はいるか?」
「いるに決まっているでしょう。特にあなたは何かを確かめるように戦っていたじゃない」

 不満を抱くファリスは少し声を荒げた。どこか余裕を浮かべて観察していたクロイズの戦い方にも言いたい事があったが、それに対してはひとまず置いておく事にしたようだ。
 誤魔化しきれないと判断したクロイズは親指と人差し指で顎をさすり、じっくりと値踏みしている。

「現在のクロの一族がどの程度の実力か試してみたかったというのが主な理由だ。……尤も、当ては外れたようだが」
「……どう言う意味?」

 クロイズの話す『クロの一族』というのは『聖黒族』を指している事は理解できるが、当てが外れたという事はいまいちよくわからなかった。ティリアースに行けば王族ではあるが聖黒族に出会う事はできる。戦いだって出来ないにしても観察する事は出来ただろう。

「真に『クロの一族』として力に目覚めているものは存在しない。確かに今の世の中では十分強者足りうるだろうが……これでは浮かばれぬ」
「浮かばれぬ?」

 おうむ返しのように繰り返したファリスはクロイズが言いたい事がいまいちよく分からなかった。

(真に目覚めているものは存在しない……って、女王様やティアちゃんは十分強いはずだけど……)

「……だったらこんなところにいないでティリアースに行けばいいじゃない。あそこは聖黒族の総本山なんだから気になるならそこにいけばいいじゃない」
「ふむ」

 相変わらず考えこむような仕草をしているクロイズの考えを読むことは難しい。少なくとも彼以外は誰にも分らないだろう。

「そうだな。まずは外堀を……と思っていたのだが、やはり直接乗り込んだ方が良いか」

 ぶつぶつと独り言を呟くクロイズは一人で納得したように頷いた。

「感謝しよう。おかげで次の行き先が決まった」
「……そ、そう。それは良かった」
「ああ。他に質問はあるか?」

 クロイズは問いかけ、ファリスは悩む素振りを見せる。……もっとも、その答えは既に決まっていたのだが。

「もういいわ。ありがとう」
「いや、こちらこそ礼を言う立場だ。また会おう」

 これ以上会話を続ける気がなかったクロイズはそのまま踵を返して緩やかな足取りで歩きだした。もはや振り返る事はないだろう。

「……ファリス様、よろしかったのですか?」

 クロイズの背中を見送りながらいつの間にか隣までやってきたオルドが彼に視線を合わせて呟いた。そこには様々な思いが込められていたが、ファリスはゆっくりと首を横に振った。

「多分、聞いても意味がないと思う。答えないだろうし」

 ファリスは気付いていたのだ。興味があった最初の頃と違って今のファリスに何も期待していないクロイズからは望んだ答えが得られる可能性は低いという事を。ある意味自分も同類なのだから。
 せっかくの情報源を……と思うオルド達の気持ちも理解できるが、のらりくらいとはぐらかされるのがオチな以上、見切りをつけるのも当然だった。

「さ、早く行きましょう。まだ先は長いんだから」

 クロイズの事はひとまず置いて、気持ちを切り替えるようにさっさと乗り込む様に促した。とんだ道草を食ってしまったが、彼らの目的地はまだ遠い。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

処理中です...