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647・巨人の元へ(ファリスside)
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なんやかんやと完全復活を遂げたファリスは、翌日から徐々に鈍った身体を慣らして例の巨大なゴーレムを討伐する為に出発する完璧に仕上げていた。
――
リシュファス邸の庭園で響く剣戟。試合をしているのはワーゼルとファリスだった。
お互いに木剣と小盾を装備して打ち合いをしている。振り下ろされた剣を受け止め、そのまま流して相手の隙を生み、刺突による最速の一撃を繰り出す。迫り来る刃にタイミングを合わせるように盾を振り弾く。
「なっ……ちっ」
真っ直ぐ相手を射貫くはずだった突きは横からの衝撃に容易く軌道を変え、ファリスは一歩、二歩と後ろに下がった。これを好機と見たワーゼルは力強く走り距離を詰め、地面を抉るように斬撃を放つ。のけぞって剣先を視線に捉えるように避ける。一度通り過ぎた刃が今度はその軌道をなぞるように進んでくる。
方向以外先程とあまり変わらない斬撃。より一歩強く踏み込んでるからこそ大きくのけぞっても避けられる事はない。
――捉えた。
ワーゼルは笑みを綻ばせ、確信を持って振り抜く。僅かな油断の波長。それを見逃すほど目の前の少女は甘くないはずなのに。
体勢を整えていたファリスは向かってくる刃に剣を合わせ、滑るように軌道を地面へと修正させ、突き刺さったと同時に踏みつけて一閃。完全に振り切る前に首筋で止め、静寂が訪れる。
「……そこまで!」
それまでじっと見守っていたオルドが声を上げて試合終了を宣言する。張り詰めていた緊張の糸が緩み、首筋から木剣が離れたのを確認したワーゼルはどっと疲れた顔をした。
「参ったな……これでも負けちまうなんて」
「まだまだ修行不足って事ね」
疲れ果てたワーゼルはファリスを見上げて睨む。
「それでもこれだけ加減された状態のファリス様に負けるなんて悔しいですよ」
ワーゼルがぶすっとした顔で不満を零すが、それも無理からぬ話だ。ファリスは彼と戦う前に魔導によって身体能力を低下させていた。動きにくい状態で訓練すれば普段の状態でもより力を発揮させることが出来ると思ったからこそだ。
「これだけ……って身体の動きが遅くなるくらいだけど」
何か問題ある? とでも言いたげな様子だが、ワーゼルにとっては問題だらけだ。魔導で負けるのならばまだわかる。彼の専門は近接戦闘であり、ククオルのように魔導を扱うのはあまり得意ではないからだ。
「そうは言ってもねぇ……」
「ファリス様、遠慮なさらず言葉にした方がよろしいですぞ。動きが単調なのだとな」
すっかり回復したファリスの事が余程嬉しいのか、最近のオルドは上機嫌だ。そんな彼が少々厳しい顔をしているのはそれだけワーゼルの戦い方が致命的だったという訳だ。
「単調?」
「空振り、再度切り返すこと自体は問題ない。ただそれが最初と全く同じ軌道なのが問題なのだ。普通の兵士であればそれで問題ない。しかしファリス様のような戦闘に慣れている者相手ではわかりやすすぎるのだ。お前もまるで予測されたかのように思っただろう」
「ぐっ……」
自分が感じた事をずばりと言い当てられたワーゼルは言葉に詰まってしまった。動きが読まれて動揺したからこそ、その後の対応も後手に回った。彼もあの場の行動が問題だったことを自覚していたのだ。
「それと最後の方、『やった!』って思ったでしょう。練習だったから良かったけど、本番だったら死んでたわよ?」
「うぅ……き、気を付けます」
どんどん駄目だしされてすっかりへこんでしまったワーゼルだったが、これでめげるような彼ではない。必ず今の失敗を糧にして成長すると二人とも信じていたからこそ言いたい放題言ったのだ。
「さて、訓練もほどほどにしましょう。そろそろ時間です」
しょげているワーゼルを放っておくことにしたオルドは、ユミストルを討伐する為に編成した軍の出発時間が迫っている事をファリスに告げた。
「もうそんな時間?」
「ククオルやワーゼルと戦っていましたからね。忘れるのは仕方のない事でしょう」
ファリスにとってはそんなに長く戦っていない感覚だったのだが、二連戦という事でかなり時間が過ぎているようだった。
「ククオルは?」
「彼女はゆっくり休んでからユヒトと共に先に向かわせました。私達も行きましょう」
「あの……俺は……」
「お前は少し疲れても平気だろう」
ちょっと休ませて欲しいというワーゼルの申し出は聞き入れられる事はなかった。
(可哀想だけど……作戦時間に間に合わなくなったら困るから仕方ないか)
「後で魔導で治療してもらうからちょっと我慢してちょうだい」
「はぁ……わかりました。ファリス様が仰るなら仕方ありませんね」
後ろ頭を掻いて渋々納得したワーゼルは疲れた身体に鞭を打って立ち上がる。なんだかんだでファリスの事を敬愛している一人に違いない者の行動だった。
訓練をしていたせいか少し遅れて合流したファリス達は点呼を受けたのちに行動を開始する。最古の巨人ゴーレムであるユミストルを討伐する為に。エールティアがいない不安を抱えながら、最終決戦の火が切って落とされる。
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リシュファス邸の庭園で響く剣戟。試合をしているのはワーゼルとファリスだった。
お互いに木剣と小盾を装備して打ち合いをしている。振り下ろされた剣を受け止め、そのまま流して相手の隙を生み、刺突による最速の一撃を繰り出す。迫り来る刃にタイミングを合わせるように盾を振り弾く。
「なっ……ちっ」
真っ直ぐ相手を射貫くはずだった突きは横からの衝撃に容易く軌道を変え、ファリスは一歩、二歩と後ろに下がった。これを好機と見たワーゼルは力強く走り距離を詰め、地面を抉るように斬撃を放つ。のけぞって剣先を視線に捉えるように避ける。一度通り過ぎた刃が今度はその軌道をなぞるように進んでくる。
方向以外先程とあまり変わらない斬撃。より一歩強く踏み込んでるからこそ大きくのけぞっても避けられる事はない。
――捉えた。
ワーゼルは笑みを綻ばせ、確信を持って振り抜く。僅かな油断の波長。それを見逃すほど目の前の少女は甘くないはずなのに。
体勢を整えていたファリスは向かってくる刃に剣を合わせ、滑るように軌道を地面へと修正させ、突き刺さったと同時に踏みつけて一閃。完全に振り切る前に首筋で止め、静寂が訪れる。
「……そこまで!」
それまでじっと見守っていたオルドが声を上げて試合終了を宣言する。張り詰めていた緊張の糸が緩み、首筋から木剣が離れたのを確認したワーゼルはどっと疲れた顔をした。
「参ったな……これでも負けちまうなんて」
「まだまだ修行不足って事ね」
疲れ果てたワーゼルはファリスを見上げて睨む。
「それでもこれだけ加減された状態のファリス様に負けるなんて悔しいですよ」
ワーゼルがぶすっとした顔で不満を零すが、それも無理からぬ話だ。ファリスは彼と戦う前に魔導によって身体能力を低下させていた。動きにくい状態で訓練すれば普段の状態でもより力を発揮させることが出来ると思ったからこそだ。
「これだけ……って身体の動きが遅くなるくらいだけど」
何か問題ある? とでも言いたげな様子だが、ワーゼルにとっては問題だらけだ。魔導で負けるのならばまだわかる。彼の専門は近接戦闘であり、ククオルのように魔導を扱うのはあまり得意ではないからだ。
「そうは言ってもねぇ……」
「ファリス様、遠慮なさらず言葉にした方がよろしいですぞ。動きが単調なのだとな」
すっかり回復したファリスの事が余程嬉しいのか、最近のオルドは上機嫌だ。そんな彼が少々厳しい顔をしているのはそれだけワーゼルの戦い方が致命的だったという訳だ。
「単調?」
「空振り、再度切り返すこと自体は問題ない。ただそれが最初と全く同じ軌道なのが問題なのだ。普通の兵士であればそれで問題ない。しかしファリス様のような戦闘に慣れている者相手ではわかりやすすぎるのだ。お前もまるで予測されたかのように思っただろう」
「ぐっ……」
自分が感じた事をずばりと言い当てられたワーゼルは言葉に詰まってしまった。動きが読まれて動揺したからこそ、その後の対応も後手に回った。彼もあの場の行動が問題だったことを自覚していたのだ。
「それと最後の方、『やった!』って思ったでしょう。練習だったから良かったけど、本番だったら死んでたわよ?」
「うぅ……き、気を付けます」
どんどん駄目だしされてすっかりへこんでしまったワーゼルだったが、これでめげるような彼ではない。必ず今の失敗を糧にして成長すると二人とも信じていたからこそ言いたい放題言ったのだ。
「さて、訓練もほどほどにしましょう。そろそろ時間です」
しょげているワーゼルを放っておくことにしたオルドは、ユミストルを討伐する為に編成した軍の出発時間が迫っている事をファリスに告げた。
「もうそんな時間?」
「ククオルやワーゼルと戦っていましたからね。忘れるのは仕方のない事でしょう」
ファリスにとってはそんなに長く戦っていない感覚だったのだが、二連戦という事でかなり時間が過ぎているようだった。
「ククオルは?」
「彼女はゆっくり休んでからユヒトと共に先に向かわせました。私達も行きましょう」
「あの……俺は……」
「お前は少し疲れても平気だろう」
ちょっと休ませて欲しいというワーゼルの申し出は聞き入れられる事はなかった。
(可哀想だけど……作戦時間に間に合わなくなったら困るから仕方ないか)
「後で魔導で治療してもらうからちょっと我慢してちょうだい」
「はぁ……わかりました。ファリス様が仰るなら仕方ありませんね」
後ろ頭を掻いて渋々納得したワーゼルは疲れた身体に鞭を打って立ち上がる。なんだかんだでファリスの事を敬愛している一人に違いない者の行動だった。
訓練をしていたせいか少し遅れて合流したファリス達は点呼を受けたのちに行動を開始する。最古の巨人ゴーレムであるユミストルを討伐する為に。エールティアがいない不安を抱えながら、最終決戦の火が切って落とされる。
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