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676・エピローグ(???side)
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様々な花びらが舞い散り、穏やかな日の光に包まれた場所。そこに一つの邸宅があった。多少劣化してはいるものの綺麗に片付けられており、決して古さを感じさせない……そんな館。
少女は一人そこで微睡む。長く艶やかな黒い髪の煌めきは夜空に瞬く星を表したかのよう。
木製のロッキングチェアで僅かに身体を揺らしながら陽気を楽しんでいた少女は静かに目を開ける。そこには先ほどまで誰もいなかったはずなのに、いつの間にか美しい水色のメイドが控えていた。
「……どうだった?」
まだ眠たいのだろう。僅かに欠伸をしながらちらりと視線をメイドに向ける少女。その目には優しさを湛えていた。
「はい。無事に……とは言えませんが、大方片付いたようです。戦後処理などで大変なのはこれからでしょう」
「そう」
用意されていたティーカップを手に取り、緩やかな仕草で深い赤色の液体を口に含む。冷め始めたそれは苦味の中に仄かな甘味を与えてくれて、少女がはっきりと目を覚ますきっかけを作ってくれた。
「今までご苦労様。貴女にも迷惑を掛けたわね」
「ありがとうございます。ですが、私も楽しませてもらいました。今代の契約スライムの頼りなさはあまり頂けませんが……」
「ふふふ、それもまた一興。貴女も昔は色々と悩んでいたでしょう。あの子も同じ。ただちょっと他とズレていて成長が遅いだけ」
その誰かを擁護する言葉にメイドは少し不満そうにしていた。少女はそれをくすくすと笑って受け止める。
「妬けた?」
「まさか。ただ、あの不甲斐なさに随分寛容でいらっしゃると思っただけです」
「ふふ、素直じゃないのね。寛容……という言葉は間違っているかな」
すっと遠くを見る瞳。それは遥か彼方の遠くを見据えていた。場所――というよりもずっと続く未来を眺めるように。
「色々と想うところはあるけれど、一度任せると決めたのだもの。なら、どんなに成長が遅くても暖かい目で見守ってあげる――そういうこと」
「ですがあの聖黒族――エールティアでしたね。彼女に随分手を貸していたではありませんか」
世俗に干渉しない。そう言っている割にはメイド達にあれこれと手引きさせていた。その事が彼女には疑問だった。今までの歴史の中でただ見守っていたはずの主人が今回動いた事。それにどれほどの意味があるのかわからなかったからだ。
「くすくす。その理由はね――」
話そうとしたその時、一陣の風が吹いた。花畑から花びらが更に散って、その中心には一人の青年。黒い髪に燃えるような赤い瞳。ちらりと覗く八重歯が彼の茶目っ気を表しているようだ。
「母様、只今戻りました」
飛びつきたいのを堪えるように身体をうずうずさせている青年だったが、早足で近寄ってきたところから察した少女に暖かい目で見られることになった。
「おかえりなさい。もう少し落ち着きをもって帰ってきなさい。ね」
「は、はい……」
途端にしょんぼりとした青年の様子はころころと表情が変わる少年とあまり変わらなかった。メイドも少し呆れた視線を向けたが、それは決して悪い意味ではない。彼だから仕方がない。そんな雰囲気があった。
「そんなにしょんぼりしないの。ほら、貴方が見聞きした事。私に話してちょうだい? どんな事に出会って、何を考えたのか」
「はい! まずは――」
「ちょっと待ってください!」
青年が嬉しそうに話そうとするとメイドが怒って制止する。腰に両手を当てて如何にもな様子だ。
「な、なに?」
「しばらく帰ってこなかったのですからまずは身体を清めてきてください。それからでも遅くないはずですよ」
穏やかながらもその表情からは『はい』以外の選択肢を許さない圧力を感じた青年は、静かに頷いた。
「わ、わかった。母様、また後でね」
「……ええ」
惜しむ様に館の中に入っていった青年を満足気にメイドが見送る。その様子すら微笑ましい。
「ね、お茶のおかわり、いただける?」
「わかりました! 時間が掛かりますから少々お待ちください!」
カップとポットを下げたメイドは嬉しそうに館の中に戻っていった。中庭に残ったのは少女ただ一人。ロッキングチェアを揺らして嬉しそうに空を見上げる。
(私が手を貸した理由。それはたった一つ。彼女がこの世界に生まれ落ちたから。それだけだ。きっとあの子にはわからないでしょうけど)
今頃彼女は何をしているのか……。そんな物思いに耽っている少女は遠い瞳で彼方を見つめる。
「……頑張ってねセンデリア。私にはこれくらいしか出来ないけれど……貴女の幸せを誰よりも祈ってるいるわ」
呟いた独り言は空へと吸い込まれて消えていった。本当に伝えたい相手にはそれが届くことはないだろう。しかし少女はそれでいいとそう思っていた。
少女はこの世界に産まれ、心の安寧を手に入れた。長く欲しかったものをその手に掴み、今も大切に育んでいる。寿命が尽き、消え果てるまでそれは続いて行くだろう。だからこそほんの僅かな間しか心を通わせることが出来なかった相手の幸福を願った。同じような痛みを抱えた者だからこその切なる願い。
――どうか彼女にも心穏やかになれる場所が出来ますように。帰る家が見つかりますように。
……確かな愛に包まれて、幸福が訪れますように。
少女は一人そこで微睡む。長く艶やかな黒い髪の煌めきは夜空に瞬く星を表したかのよう。
木製のロッキングチェアで僅かに身体を揺らしながら陽気を楽しんでいた少女は静かに目を開ける。そこには先ほどまで誰もいなかったはずなのに、いつの間にか美しい水色のメイドが控えていた。
「……どうだった?」
まだ眠たいのだろう。僅かに欠伸をしながらちらりと視線をメイドに向ける少女。その目には優しさを湛えていた。
「はい。無事に……とは言えませんが、大方片付いたようです。戦後処理などで大変なのはこれからでしょう」
「そう」
用意されていたティーカップを手に取り、緩やかな仕草で深い赤色の液体を口に含む。冷め始めたそれは苦味の中に仄かな甘味を与えてくれて、少女がはっきりと目を覚ますきっかけを作ってくれた。
「今までご苦労様。貴女にも迷惑を掛けたわね」
「ありがとうございます。ですが、私も楽しませてもらいました。今代の契約スライムの頼りなさはあまり頂けませんが……」
「ふふふ、それもまた一興。貴女も昔は色々と悩んでいたでしょう。あの子も同じ。ただちょっと他とズレていて成長が遅いだけ」
その誰かを擁護する言葉にメイドは少し不満そうにしていた。少女はそれをくすくすと笑って受け止める。
「妬けた?」
「まさか。ただ、あの不甲斐なさに随分寛容でいらっしゃると思っただけです」
「ふふ、素直じゃないのね。寛容……という言葉は間違っているかな」
すっと遠くを見る瞳。それは遥か彼方の遠くを見据えていた。場所――というよりもずっと続く未来を眺めるように。
「色々と想うところはあるけれど、一度任せると決めたのだもの。なら、どんなに成長が遅くても暖かい目で見守ってあげる――そういうこと」
「ですがあの聖黒族――エールティアでしたね。彼女に随分手を貸していたではありませんか」
世俗に干渉しない。そう言っている割にはメイド達にあれこれと手引きさせていた。その事が彼女には疑問だった。今までの歴史の中でただ見守っていたはずの主人が今回動いた事。それにどれほどの意味があるのかわからなかったからだ。
「くすくす。その理由はね――」
話そうとしたその時、一陣の風が吹いた。花畑から花びらが更に散って、その中心には一人の青年。黒い髪に燃えるような赤い瞳。ちらりと覗く八重歯が彼の茶目っ気を表しているようだ。
「母様、只今戻りました」
飛びつきたいのを堪えるように身体をうずうずさせている青年だったが、早足で近寄ってきたところから察した少女に暖かい目で見られることになった。
「おかえりなさい。もう少し落ち着きをもって帰ってきなさい。ね」
「は、はい……」
途端にしょんぼりとした青年の様子はころころと表情が変わる少年とあまり変わらなかった。メイドも少し呆れた視線を向けたが、それは決して悪い意味ではない。彼だから仕方がない。そんな雰囲気があった。
「そんなにしょんぼりしないの。ほら、貴方が見聞きした事。私に話してちょうだい? どんな事に出会って、何を考えたのか」
「はい! まずは――」
「ちょっと待ってください!」
青年が嬉しそうに話そうとするとメイドが怒って制止する。腰に両手を当てて如何にもな様子だ。
「な、なに?」
「しばらく帰ってこなかったのですからまずは身体を清めてきてください。それからでも遅くないはずですよ」
穏やかながらもその表情からは『はい』以外の選択肢を許さない圧力を感じた青年は、静かに頷いた。
「わ、わかった。母様、また後でね」
「……ええ」
惜しむ様に館の中に入っていった青年を満足気にメイドが見送る。その様子すら微笑ましい。
「ね、お茶のおかわり、いただける?」
「わかりました! 時間が掛かりますから少々お待ちください!」
カップとポットを下げたメイドは嬉しそうに館の中に戻っていった。中庭に残ったのは少女ただ一人。ロッキングチェアを揺らして嬉しそうに空を見上げる。
(私が手を貸した理由。それはたった一つ。彼女がこの世界に生まれ落ちたから。それだけだ。きっとあの子にはわからないでしょうけど)
今頃彼女は何をしているのか……。そんな物思いに耽っている少女は遠い瞳で彼方を見つめる。
「……頑張ってねセンデリア。私にはこれくらいしか出来ないけれど……貴女の幸せを誰よりも祈ってるいるわ」
呟いた独り言は空へと吸い込まれて消えていった。本当に伝えたい相手にはそれが届くことはないだろう。しかし少女はそれでいいとそう思っていた。
少女はこの世界に産まれ、心の安寧を手に入れた。長く欲しかったものをその手に掴み、今も大切に育んでいる。寿命が尽き、消え果てるまでそれは続いて行くだろう。だからこそほんの僅かな間しか心を通わせることが出来なかった相手の幸福を願った。同じような痛みを抱えた者だからこその切なる願い。
――どうか彼女にも心穏やかになれる場所が出来ますように。帰る家が見つかりますように。
……確かな愛に包まれて、幸福が訪れますように。
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送魂祭の説明箇所で、
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