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山田だけがループしている世界
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午前6時27分。
山田は、いつものように目を覚ました。
天井のヒビ割れを見つめ、時計に目をやる。あと3分で目覚まし時計が鳴る。
その前に目が覚めるのは、ここ数日間、ずっとだった。
トーストを焼き、コーヒーを淹れ、テレビをつける。
「おはようございます。5月9日、木曜日の朝です。」
アナウンサーの声が、今日も変わらず明るい。
“木曜日”。
山田は、一瞬だけ眉をひそめた。
昨日も、たしか木曜日だった気がする。
出勤する道中、工場の前にある掲示板をふと見る。
「安全第一 事故ゼロ記録更新中」
その横に、白地に黒文字の紙が貼られていた。
《違和感を覚えた方は、管理者に申し出てください》
昨日は、こんな張紙なかった気がする。
でも、もしかすると前からあったのかもしれない。山田は首を振って歩き出した。
工場では、三号機の調子が悪かった。
佐藤が「昨日もこんな感じだったっす」と言う。
「……昨日も?」
「え、はい。覚えてません? 同じこと言ってましたよ」
山田は、黙ったまま三号機のモニターを確認した。表示されている温度と圧力は昨日とほぼ同じ。
「まるで録画でも見てるみたいだな」
思わずこぼれたその言葉に、佐藤が笑った。
「録画、って……冗談っすよね?」
午後、休憩室でコーヒーを飲んでいると、ベテランの滝沢が新聞を読んでいた。
新聞の日付は「5月9日 木曜日」。
山田は意を決して、声をかける。
「滝沢さん、昨日って何曜日でした?」
「昨日? ……さあな、もう曜日とか考えないで動いてるからなあ」
「じゃあ、一昨日は?」
「山田くん、疲れてんのか?」
滝沢は笑ったが、その顔にはうっすらと影が差しているように見えた。
夜、山田は日記を開く。
このループを疑い出してから、毎日つけるようになった。
「5月9日。木曜日。三号機がまた不調。佐藤が同じことを言った。滝沢は記憶があやふや。掲示板の紙が気になる」
昨日も、同じ内容を書いた気がする。
翌朝、6時27分に目が覚める。
目覚ましの鳴る三分前。
天井のヒビ割れ、コーヒー、アナウンサーの声——「5月9日、木曜日の朝です。」
今日も同じ1日がまた繰り返される。
その日の午後、山田は決意して掲示板の紙を破いた。
するとその裏から、もう一枚同じ紙が出てくる。
《違和感を覚えた方は、管理者に申し出てください》
「……どうなってんだよ」
山田は工場を飛び出し、管理棟へ向かう。
鍵のかかったドアを叩くと、奥から誰かが出てきた。
だがその顔を見た瞬間、山田の息が止まった。
それは、昨日の自分自身だった。
同じ作業着。同じ表情。
鏡ではない。ガラス越しに、もう一人の“山田”が、こちらをじっと見ていた。
『ループしてるんじゃない。
君が、毎日“選ばれてる”だけだ』
その声は、耳ではなく頭の中に響いた。
山田はその場で崩れ落ち、気を失った。
——そして翌朝、6時27分。
目が覚めた山田は、静かに天井を見上げた。
ヒビ割れの角度が、わずかに違っている気がした。
しかしテレビは、変わらずこう告げていた。
「おはようございます。5月9日、木曜日の朝です」
この物語は、現実と似て非なる「もしも」の世界を描いたフィクションです。登場する人物や出来事は、すべて想像に基づくものです。
山田は、いつものように目を覚ました。
天井のヒビ割れを見つめ、時計に目をやる。あと3分で目覚まし時計が鳴る。
その前に目が覚めるのは、ここ数日間、ずっとだった。
トーストを焼き、コーヒーを淹れ、テレビをつける。
「おはようございます。5月9日、木曜日の朝です。」
アナウンサーの声が、今日も変わらず明るい。
“木曜日”。
山田は、一瞬だけ眉をひそめた。
昨日も、たしか木曜日だった気がする。
出勤する道中、工場の前にある掲示板をふと見る。
「安全第一 事故ゼロ記録更新中」
その横に、白地に黒文字の紙が貼られていた。
《違和感を覚えた方は、管理者に申し出てください》
昨日は、こんな張紙なかった気がする。
でも、もしかすると前からあったのかもしれない。山田は首を振って歩き出した。
工場では、三号機の調子が悪かった。
佐藤が「昨日もこんな感じだったっす」と言う。
「……昨日も?」
「え、はい。覚えてません? 同じこと言ってましたよ」
山田は、黙ったまま三号機のモニターを確認した。表示されている温度と圧力は昨日とほぼ同じ。
「まるで録画でも見てるみたいだな」
思わずこぼれたその言葉に、佐藤が笑った。
「録画、って……冗談っすよね?」
午後、休憩室でコーヒーを飲んでいると、ベテランの滝沢が新聞を読んでいた。
新聞の日付は「5月9日 木曜日」。
山田は意を決して、声をかける。
「滝沢さん、昨日って何曜日でした?」
「昨日? ……さあな、もう曜日とか考えないで動いてるからなあ」
「じゃあ、一昨日は?」
「山田くん、疲れてんのか?」
滝沢は笑ったが、その顔にはうっすらと影が差しているように見えた。
夜、山田は日記を開く。
このループを疑い出してから、毎日つけるようになった。
「5月9日。木曜日。三号機がまた不調。佐藤が同じことを言った。滝沢は記憶があやふや。掲示板の紙が気になる」
昨日も、同じ内容を書いた気がする。
翌朝、6時27分に目が覚める。
目覚ましの鳴る三分前。
天井のヒビ割れ、コーヒー、アナウンサーの声——「5月9日、木曜日の朝です。」
今日も同じ1日がまた繰り返される。
その日の午後、山田は決意して掲示板の紙を破いた。
するとその裏から、もう一枚同じ紙が出てくる。
《違和感を覚えた方は、管理者に申し出てください》
「……どうなってんだよ」
山田は工場を飛び出し、管理棟へ向かう。
鍵のかかったドアを叩くと、奥から誰かが出てきた。
だがその顔を見た瞬間、山田の息が止まった。
それは、昨日の自分自身だった。
同じ作業着。同じ表情。
鏡ではない。ガラス越しに、もう一人の“山田”が、こちらをじっと見ていた。
『ループしてるんじゃない。
君が、毎日“選ばれてる”だけだ』
その声は、耳ではなく頭の中に響いた。
山田はその場で崩れ落ち、気を失った。
——そして翌朝、6時27分。
目が覚めた山田は、静かに天井を見上げた。
ヒビ割れの角度が、わずかに違っている気がした。
しかしテレビは、変わらずこう告げていた。
「おはようございます。5月9日、木曜日の朝です」
この物語は、現実と似て非なる「もしも」の世界を描いたフィクションです。登場する人物や出来事は、すべて想像に基づくものです。
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