指パッチンから始まる世界最強〜パーティを追放された男、スキル『収納』の発動条件を指パッチンに″限定″したら最強に〜

ファンタスティック小説家

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第一章 究極の修行

黒いドレスの少女

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 森をさまよい歩き、食べ物をさがす。
 なんだか美味しそうな実を見つけるが、食べられるかわからないので、取れるだけ採って、〔収納しゅうのう〕して保存しておくことにする。

 頭を働かせるのも億劫おっくうだが、こんなところで、毒を食らってしまって、ぽっくり死んだらそれこそ目も当てられない。

 まだ、すこし我慢できるはず。
 知ってる食べ物、安全な物が見つかるまで、この実はとっておこう。

「はぁ……にしても、こんな事なら、川で生きようと足掻あがくんじゃなかったな……」

 実は、ポケットから積荷用のロープを取りだして助かろうとした結果、ポケット内のアイテムをすべて流されただけに終わるという失態をおかしている、俺である。

 川に流される前ならば、いつでもクエストに出発できるだけの備えをしていたというのに。

 まあ、何もないと割り切れていたからこそ、『限定法げんていほう』を習得できたようなものだが。

「ん、煙の臭い……」

 ほんのり良い香りが漂ってきて、鼻腔びこうをくすぐる。
 
 力の入らない足を動かし、サッと駆けだして匂いのほうへ。

 美味そうな香りがする先で、雪のなか焚き火をする人影を見つけた。

 気配を殺して、剣を手にとり、飢えた狼のようにこっそり這い寄る。

 火を囲む野蛮な男の話し声が聞こえてきた。

「このガキめ、小さいくせに色っぽいぜ。控えめな胸がたまらねぇな。はやく住処に戻って楽しみたいぜ、ぐへへ」

 髭もじゃの男が、木の根に横たえられた、黒いドレスを着た少女の膨らみかけた双丘を、毛の生えた太い指でつついている。

 少女は赤い瞳に大粒の涙をうかべて、必死にもがいているが、拘束こうそくする縄は外れそうにない。

 ジークタリアスの崖下の川近くには、あんな野蛮族が暮らしていたのか。
 
 俺やマリーが活躍していた都市ジークタリアスは、崖の上の、アッパー街と、崖の下のボトム街に別れていて、おおきく生活様式も生活レベル違う特殊な街だ。

 アッパー街が表なら、ボトム街は裏の世界だと聞く。俺も何度も降りた記憶はない。

 悪徳と犯罪の温床となっているらしく、反吐のでる外道・悪党が多数潜んでいるといわれ、まともな奴ならば絶対に近づかない。

 にしても、いくらボトム街の治安が悪いとはいえ、あれほど文明的じゃない存在がいるとなると、崖下の世界が不安になる。これは、すこし驚きだ。

「むぅー! んーん! んーんぅん! ……んっ!?」
「ぁ」

 黒いドレスの少女と目があった。
 鬼気迫る形相で、なにかを言っている。

 あの少女もかわいそうだ。
 わかった、わかったら、すこし大人しくしてるんだ。こっちもバレるだろう。

 絶対、助けてあげるからなーー腹ごしらえした後で。

 ーーパチン
 
 指を鳴らし、射程ギリギリの位置にある肉をポケットに吸いこむ。『限定法』を取得する前なら、可能だなんて思いもよらない距離だ。

「ぐへへ、これだからちっぱいは、たまらねぇな。さて、そろそろ焼けた頃合いだな……ア゛!? 俺の肉がねぇえ!?」

 草むらのなかで、息を潜めてパクリパクリと、焼きたてのいいお肉にムシャぶりつく。

 たまらない、こんなの犯罪的に美味すぎる。
 
 かぶりつくだけで溢れ出る肉汁が、口いっぱいに広がって、鼻の穴を旨味の香りがぬけていく。

「んぅ~生きかえる……」

 体の細胞ひとつひとつに、素早く旨味が染み渡っていき、低燃費になっていた体の内側で命の鼓動が加速していく。生の実感、活力がみなぎってきた。

 ふと、背後で草むらをかき分ける音がする。

 毛むくじゃらの野蛮人と目があうなり、「ぶっ殺すッッ!」と彼は腰の剣をぬいて叩きつけてきた。

「いや、ごめん、お腹空いてて」
「このヒョロっちいガリガリめぇえ! てめぇを食ってやるゥウ!」

 肉の破片がついた骨つき肉を握ったまま、片手で剣をふって受けながす。

「ぐぐぅ! この泥棒野郎がぁあ! 死人みてぇな顔しやがってるのに、結構やるようじゃねぇか! うらぁあ!」

 錆びて、ボロボロに刃こぼれした剣を乱暴にふるって、術理なき棒振りを繰りかえす野蛮人。

 俺は隙をついて肉を食べ終えて、骨を野蛮人の顔面に投げつける。

「ふぎゅ!?」

 目潰しをくらい、こたえる野蛮人。
 致命的な隙、俺は剣をもつ腕を斬り飛ばした。

「う゛ぁあ゛ぁ、ァアア……ぁ、、あ……!」

 男は喉をひきつらせて、背中から倒れた。

 白目をむき、膨大な出血。

 死んだな。

「こっちも命がけだ。悪いな」

 これでも俺は12レベルにして、剣の腕前なら神殿お抱えの騎士『神殿騎士』になれるくらいは鍛錬してる。マリーのために頑張って鍛えたんだ。

 アインやオーウェンのせいで影が薄くなってるし、聖女様にもかかわらず82レベルで、反復横跳びで残像をだせるマリーのせいで霞んでるが、俺の腕前はそこそこ悪くない。……と自負してる。

「んー! んんぅー!」
「今助ける。はい、これでほどけたかな」

 黒いドレスの少女は、拘束が解けるなり、素早く立ち上がる。

「アンタね、アタシよりお肉優先したでしょ!? あんなゲスな野蛮人に襲われる美女のアタシを見捨てて、食欲をとったでしょー!?」

 わかってたけど、カンカンのご様子。

「仕方ないだろ、お腹空いてたんだ」
「アタシだってね、もう昨日も一昨日もなにも食べてないのよ! うう、あのお肉美味しそうだった。アンタよくもあれほど美味しそうに食べてくれたわね!」
「20日と数時間ぶりの飯だったからな。美味しかったぞ。ご馳走様でした」

 手を合わせて、骨にお礼を言う。

「に、20日も……? なによ、ソレじゃ、アタシが我慢できないワガママ女みたいじゃない……」
「いや、2日食事抜きも辛かったろうな。これ、その辺に生えてた木の実だけど、よかったら食べるか?」

 ーーパチン

 一度の指パッチンでポケットから取りだせた、木の実2つを少女に渡してみる。

「っ! これすっごく美味しいやつじゃない! なによ、アンタ、手品師だったなら言いなさいよ! どっから出したのか全然見えなかったけど、アタシを喜ばせよって魂胆だったのね!」

 全然、そういうワケじゃなかったけど、そういう事にしとこう。

 ーーパチン

 ポケットから果実を、もう2つ取り出して、食べてみる。

 なるほど、これは美味い。
 水々しい透き通った甘さに、柑橘類かんきつるいの酸っぱい果汁が波となって舌の上を駆け抜けていく。

 素晴らしい爽快感だ。
 たくさん獲っておいて正解だった。

 幸せそうに果実を食べる少女を見やる。

 よほど、お腹が空いていたんだな。
 空腹の辛さは俺もよく理解してるところ。

 よかった、よかった。

「っ、な、なによ、その好好爺こうこうじいみたいな、孫を見守る年長者の優しい笑顔は! 言っとくけど、100パーセント、アタシのほうが歳上なんだからね。格も絶対にアタシのほうが高いから敬いなさいよ、ホント!」

 格? ほう、貴族なのか。
 この地方の領主の家だったりするのかな

「あ、もしかしてジークアンドレア公爵の令嬢だったり? だとしたら、軽薄な行動をお詫びしますが」
「公爵? へへん、馬鹿にしないでくれる、アタシはそんなのより遥かに偉く、尊いわ。まっ、その正体は明かさないんだけどね~! 謎のミステリィアスな美女ってこと」

 公爵より偉い、ね。
 だとしたら、神殿関係者の上位神官か神官長……いや、まじめに受け取るのはやめようか。

「それで、アナタ名前は? アタシを助けるなんて、なかなか見込みのあるヤツだから、特別に聞いてあげるわね」
「マクスウェル・ダークエコーです。みんなはマックスって呼びますけどね。″公爵より偉いさん″の名前は?」
「果てしなくバカにしてない……? まあ、いいわよ、アタシは寛容な女神……じゃなくて、寛容な、何かよ。その名は、シュミー。夜に咲く謎のミステリィアスな美女よ」

 ミステリィアスって言葉、気にいってるんだな。

 少女は口元をおさえて、不敵に微笑みをうかべる。
 
 ふむ、まあ、たしかに美少女だ。
 ただ、マリーと比べると、なんか意地悪そうだ。
 絶対にマリーのほうが性格がいい。可愛いし。

「みんながマックスって呼ぶのね? なら、アタシはマクスウェルって呼ぶわね」
「お好きにどうぞ。ところで、そろそろ聞いていいですか。ここってジークタリアスから結構離れてますやね? なんてこんなところで捕まってたんですか?」
「聞いてしまうの、ね。いいわよ、答えてあげるわ! 実はアダムがね、アタシごとーー」

 シュミーが得意げに口を開こうとした瞬間。

 ーージリィ!

「ッ」

 俺と彼女の顔の間に、一筋の光が走った。

 雪の積もった地面は、赤く火照り、今しがた猛烈な温度で焼き尽くされたことを、視覚でありありとわからせてくる。

「あっぶねぇ~。よかったわい、両方とも生きとるの。どっちかひとり、死んでるかと思ったが、意外になんとかなるもんなんじゃな、人間って」

 聞き覚えのある老成ろうせいの声。

「あんたは……」
「よ、久しぶりじゃの」

 擦り切れたボロボロのローブをきた、あの占い師が、俺たちの目のまえに姿をあらわした。
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