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第一章 究極の修行
崖下、かなり魔境
しおりを挟む焚き火にあたりながら、もうろうと揺れる空気を見つめ、俺は思案する。
まだ強くなる必要がある。
魔剣を振るう英雄たちは、俺なんかよりもずっと高い位置にいるはずだからだ。
強くなるための手段はいくつか思いついている。
ひとつ目は『限定法』の強化。
指パッチンに限定した、俺の〔収納〕だが、まだまだ足りない。もっと出来るはずだ。
より素早い指パッチン、つまり誰にでも出来る指パッチンならざる、高次元の指パッチンならば、さらにスキルの可能性を引き出すことができるだろう。
それは、スキル発動のさらなる″限定″に他ならないからな。
ふたつ目は、スキルの開発。
俺の〔収納〕を創意工夫とアイディアで持って、見直し、そこに新しい用法を見つけること。
みっつ目は、レベルアップ。
魔物を倒せるようになったことで、きっと俺にも魔物の討伐によるレベルアップが可能になったはずだ。
俺とアインやオーウェンにあれだけのレベル差が付いていたのは、俺に魔物を倒すことが出来なかったことがおおきな原因である。
魔物を倒すと経験値がとても美味しくいただけるので、高いレベルを目指すには、剣の素振りだけじゃなく、魔物を倒すことが不可欠になってくる。
通常、人間は15レベルを超えたあたりから、魔物を倒せるようになる。
逆を言えば、魔物を倒せない人類と、倒せる人類には、戦いにおいて致命的な差が生まれるということだ。
以上が、俺が強くなるための手段。
中でも、もっとも手っ取り早いと思われるのは、レベルアップだ。
わかりやすくチカラが付き、スキルも進化していく。
うちの『英雄クラン』のリーダー・アインのもつ″魔剣アイン″は、レベルアップするごとに、どんどん形状が変わっていったので、スキルを伸ばしたいのなら、レベルアップは着実な選択肢となるはわかっている。
ただ、問題がある。
俺の落ちて、流された死ぬほど冷たい川。
その川下のほとりには、どういうわけか魔物は寄り付かない。
魔物がいなければ、効率の良いレベルアップは望めない。
魔物でなくても、戦える存在がいれば、それなりに経験値はもらえるはずだが、どうもこの辺りは不気味なほどに、静かだ。
焚き火が消えた頃、俺は捜索にでてみた。
なんの出会いもなく、しばらく歩いていると、不思議な飾りのついた祭具を発見。
しんしんと雪が降りつもるなかで、赤い布が目立ち、ついつい目を引かれる。
近づいてみると、それは地面に打ち込まれたトーテムだと判明した。
「ジークタリアスの崖下は、いまだに人の領域じゃないと聞くが……先住民族がいるのか?」
何か魔術的な効果が込められていたら厄介だ。
トーテムには、触れないよう注意して、先へ進む。
煙が昇ってるのを見つける。
誰かが火を起こしてるらしい。
興味を持って、片手に剣をしっかり握りしめて、煙のもとへ向かってみる。
近づくとそこには、白い生物がいた。
白い生物と表現したのは、それらが既存のどの生物とも似ていなかったからだ。
身長は人と同じくらい、背中はひどく曲がっていて、二本の足と四本の腕で這っているモノもいれば、直立してる個体もいる。
全体的に、骨と皮だけ、というイメージをうけるくらい細いが、白い鱗のようなものが滑らかに肌表面のおおっている。
特筆すべきは、彼らが火を起こし、そして下半身に街でも見られるようなズボンを履いていることだ。
上着を着ている個体や、革鎧を着ている個体もいて、服装に統一感は感じられない。
魔物ではなく、文明的な生物なのだろうか。
言葉を話せるなら、食べ物を分けてもらったり、いろいろ交渉ができるな。
いろいろ思案していると、ふと、嫌な匂いがあたりに漂っていることに気づいた。
目を凝らして見てみると、木々の奥から、焚き火の近くへ、白い生物の仲間が、なにかを引きずりながらやってくるのが確認することができた。
「ッ……」
その引きずられるモノを見て、俺はこの生物たちとの交渉を諦める。
なぜねら、彼らが引きずっていたのは、人間だったから。
腕がなく、上体が大きな爪に引き裂かれていて、原形をとどめていない。
雪を真っ赤に染めた軌跡に、臓物を引きずらせているのに、思わず目を背ける。
あの格好、判別は難しいが、冒険者だ。
ボトム街の近隣から連れてきたのか?
ーージークタリアスの冒険者ギルドは、崖下へ向かうクエストを著しく規制している。
依頼が完全に信頼できる、あるいは行くしかないような緊急クエストでもない限り、ボトム街を通じて冒険者を送りこむことを、ギルドが嫌がるからだ。
ただし、責任を冒険者自身が負う場合はその限りではなく、クエストボードには出さないような依頼も、受付嬢にお願いすれば出してもらえたりする。
駆けだし冒険者や、新天地の開拓者、ボトム街なぞ恐くない、という勇猛果敢な冒険者たちは崖下へと降りていくが、パーティが1人も欠けずに戻った試しがない。
ゆえに、ベテランほどボトム街を忌避する。
いや、ボトム街というか、崖下の世界を避ける。
ただ、噂には、数年後にソフレト共和神聖国が主導のもとで、ギルドの大規模開拓事業が始まるらしい。
どうにも複数の都市から、数百人規模の冒険者を募るとかなんとか……。
崖下の世界にたいする暗黙の了解は、開拓が始まるそれまでは、下手に手を出すべきではないという、無用なリスクを負わないための処置ということだろう。
ふむ、しかし、予想どおりというか。
なんというか、崖下の世界は魔境だな。
こんな生物たちが跋扈しているなんて、おぞましいじゃないか。
「グロゥ……」
白い鱗を真っ赤に染めて、謎な生物たちは、死亡した冒険者の身ぐるみを剥ぎはじめる。
なるほど、服は人間から奪った物か。
半ば知能が高いぶん、ほんとうに厄介だが、ここで見逃すのは気分的にも嫌だし、ギルドの仲間を殺されて俺の気持ちもおさまらない。
この生物、いや、魔物たち、生かしておく理由がまったく見当たらない。
ーーパチン
指を鳴らし、ポケットを解放。
たくさん収穫しておいた巨木が、爆風をともなって、頭から白い生物へ撃ちだされる。
名付けるなら『巨木葬』と言ったところか。
「グギィイ!?」
「グギャッ、ーー」
巨木に貫かれ、木っ端微塵に吹き飛ぶ生物たち。
ともなう風の爆発に吹き飛ばされ、白い生物たちが散っていく。
「一撃で足りたか。あと50本くらい残ってるから、もっと撃ってみたかったが」
蹴散らされた白い生物たちの肉片を避けて、冒険者の死体のもとへ。
外された彼の短剣と、血に塗れたスカーフを拾い、短剣の鞘に巻いてやり、スカーフの隙間に、彼が熊級冒険者である証の『熊のコイン』を挟みんでおく。
スカーフを巻きつけた短剣を、そっと遺体のうえに置いて、指を鳴らし、″彼″ごと収納する。
俺のポケットは、生物を収納することだけは出来ないが、もう生きていないのなら問題なく収納できる。
「……」
いつか、ジークタリアスへ帰ったら、ギルドに返還しよう。
彼の仲間が、帰りを待ってるかもしれない。
⌛︎⌛︎⌛︎
白い生物たちが逃げていったほうを追いかけていくと、焚き火を囲む白い生物たちの一団と、何度も出くわす機会に恵まれた。
ーーパチン
ポケットを開いた際に、〔収納〕空間内の乱気流を直接叩きつけて、白い生物を無力化。
木に体を打ちつけ、落ちてきた雪に埋もれて痙攣する生物へ、剣でとどめを刺す。
俺の住む武器屋の裏手、そこの鍛治師に鍛えてもらった名剣は、鱗の隙間に深々とささり、生物をたやすく絶命させた。
「グギャァア!」
背後から飛びかかってくる白い生物。
ーーパチン
指を鳴らし、衝撃波で吹き飛ばして対応。
「これで全部、か。一応、金になるかもしれないしな。これからはこの倒し方で、死体ごと素材は回収していくことにしよう」
ポケットの内側が、以前とは比較にならないくらい大きくなったので、相当な数でも、雑に放りこんで収納していっても問題がない。
収納空間も、現状だけで縦横3メートルの個室が、すべてで250個ほど確保してある。
これらの個室は、言わば、だだっ広い荒野にぽんっと置かれてる状態なので、これ以上物が入らない、などという訳ではない。
個室はいくらでも増やせるし、収納量は計り知れない。
「よし、これで全部かな。ん、レベル上がったか? さっきより気持ち足が軽くなったような」
肉体の微妙な変化に満足しつつ、俺はまた、わざと逃した白い生物のあとを追って、雪の森を進みはじめた。
存外に効率的な修行を、見つけてしまったかもしれない。
「あの生物たちには、これから存分に犠牲になってもらうおうか……はは」
白く深い冬の森。
ただそこにある潔白と野生の世界で、俺は暗い笑いをこぼし、剣の血糊を斬り払って、さきを急いだ。
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