25 / 31
第三章 蒼い青年
ジークタリアス:喧嘩勃発
しおりを挟む早朝に起きた謎の火災に話題が持ちきりになったジークタリアスのアッパー街。
その晩、マリーは夜のお祈りをおえて、神殿騎士たちが駐在する兵舎の裏庭で、剣の修練に励んでいた。
「はっ!」
息を短く吐き捨て、相手の攻撃を受け流しあとの素早い斬り返しが見舞われる。
対戦相手のオーウェンは、身をひねって回避し、前髪をわずかに木の刃に落とされるだけで凌いだ。
2人は距離をあけ、再び睨みあいへ突入する。
ソフレト共和神聖国には由緒正しい、三つの代表的剣術の流派がある。
それぞれ『剣聖流』『血鬼流』『銀狼流』だ。
各剣術には、明確に分かれる色がある。
剣聖流は、攻守において隙のない汎用型。
血鬼流は、攻め手に重きを置いた攻撃型。
銀狼流は、守り手に重きを置いた防御型。
国内の使い手は、圧倒的に剣聖流がおおく、次に血鬼流、最も珍しいのは銀狼流となっている。
銀狼流の剣士は本当に少ない。理由は単純だ。
剣を持つものが、防御型の戦いを好むはずがなかったのだ。
それゆえに、使い手はとても稀少である。
だが、ここジークタリアスには確かに、幻とうたわれる銀狼流剣術を高次元で修める手練れがいる。
「ふぅ、ここら辺にしておこう。マリーのカウンターは鋭すぎる。そろそろ一本取られそうだ」
オーウェンは木剣を下げて、額の汗をぬぐって言った。
「今日も付き合ってくれてありがとね、オーウェン」
「構わない。銀狼流の剣術を、存分に体験できるのは滅多にない機会だ。俺もいい勉強になった」
柔らかいタオルをぎゅーっと顔に押し当てて、マリーは顔を拭き、汗を吸い込んで重たくなったタオルから目だけだしてオーウェンの方をチラリと見る。
蒼い瞳と目があい、しばらくの沈黙が流れた。
「どうしたの、オーウェン?」
「いや……何でもない。ただ、本当に強くなったと思っただけだ」
「なにそれ、嫌味? 同じ村の出身なのにわたしやマックスを置いて、ひとりで勝手に知らない剣術極めて帰ってきて強くなった【求道者】様の皮肉かなんかですかー?」
(まったく、全然褒められてる気がしないよね、『剣豪』の二つ名をもつオーウェンに言われると)
「そういう訳じゃない。マリーは本当に強くなった。……それはとても良い事だと俺は心から思っているんだ」
「あっそ、いいですよーだ。すぐにオーウェンからも一本取って見せるから」
すねてしまったマリーへ、オーウェンは薄く微笑み、木剣をラックにかけ帰り支度をしはじめる。
「そういえば、オーウェン、今度『聖歌隊』がジークタリアスに来て崖下でのマックス捜索を手伝ってくれるんだけど、その時一緒に来てくれない?」
「マックスの捜索なら構わない……だが『聖歌隊』がわざわざマックスの捜索に動くとは思えない」
「高位神官のお婆ちゃんが、なんとかしてくれるって言ってたから多分、来てくれるんだと思うんだ。それに、ほら、わたしこれでも【施しの聖女】だしね」
「そうか、流石は女神に使える尊き姫だな」
オーウェンは肩をすくめて、今度こそ皮肉気味にそう言った。
マリーは半眼になりながら、オーウェンの後を追いかける。
「マリー、アインはああ言っていたが、俺はマックスが生きていると確信してる」
神殿騎士の兵舎の敷地からでたあたりで、オーウェンは藪から棒にそう言った。
マリーは目を丸くして、パーっと顔を明るくすると「うんうん、わたしもそう思うわ!」と破顔して微笑んだ。
「はやくマックスに会いたいな~。んーでも、生きているのに、どうしてマックスはジークタリアスに帰ってこないんだと思う?」
「物事とは見る側からしたら、よくわからない事情が複雑に絡みあっているものだ。きっと、何か理由があるんだろう。マックスに会えたら、存分に問い詰めてやればいい。あいつもマリーに問い殺されるなら、苦に思わないはずだしな」
涼しげに笑い、オーウェンはマリーへ軽く手を振って、神殿騎士兵舎の前から帰路へとつく。
マリーもまたオーウェンを見送り、神殿へと帰っていった。
⌛︎⌛︎⌛︎
夜の通りを歩くひとりの青年がいる。
ただいま、銀狼流を存分に体験して自分の剣術にほころびを見つけ消沈している『剣豪』『業』『英雄』などの二つ名をもつ【求道者】オーウェンだ。
ほとばしるオーラとともに輝く蒼瞳。
明かりのついた大通りをいく者たちは、酔っ払いだろうが、犯罪者然とした悪党だろうが、彼のいく手ならば黙って道を開けゆずる。
(マックス……マックス……マックス……)
虚な眼差しで考え事をするオーウェン。
彼は昨年末に自身がまいた種が、確かな成長をとげてその足跡を残していることに、大変な喜びを感じていた。
「そうか、お前は″咲いた″んだな……本当に、本当によかった」
ふと、立ち止まりオーウェンは、夜空を見上げた。
星々が爛々と輝く暗い海。
無限の開放が、鈍くのしかかっていた罪の石材の重さをスーッと軽くしていきーーそれと同時にオーウェンは、目の端に涙の粒を浮かべていた。
「フハハハっ、そこのお嬢さん、僕の子供産まないかな?」
感極まっていた青年の耳に、品性のかけらも感じられないナンパ文句が聞こえてくる。
目をやれば、通りの角で蒼い貴族礼服をきた青年が、まだ幼い白いローブを着た少女を口説いているではないか。
オーウェンは特に表情をくずさず、近くを通りかかった見覚えのある顔の男をつかまえて、蒼い貴族礼服の男について尋ねる。
「お、オーウェンさん! え? あいつですか? なんだか、今朝からずっとここら辺で若い女に声かけてるっていう二枚目男ですよ。悔しいですけど、人間離れしたカッコよさなんです。ただ、すっげーひどい口説き文句なんて、誰も相手にしてないんですよ」
(迷惑な男だな)
オーウェンは捕まえた男へ、情報提供の礼として金貨を握らせ、蒼い貴族礼服の男へとちかづいた。
「フハハハっ、ドラゴンの子を産める光栄なる機会だぞ、さあ、交尾しようじゃないか、人間のメスよ。何、心配することはない、お前を妻に迎える気はないから、ちょっとやったら終わるって」
「うぅ! 変態です~! ライト、ボルディ助けてよ。ナンパされちゃったって浮かれてたら、とんでもない変態だったんだよ~!」
「そこら辺にしておけ」
壁際に追い詰められ、恐怖に泣きじゃくる少女の肩に伸びる、蒼い青年のいやらしい手を、オーウェンはすんでんの所で掴み止めた。
「マリーと親しくしていたルーキーだな。もう仲間のもとへ帰れ。変態に捕まるんじゃないぞ」
「あ、ありがとうございます! やったー、変態から解放されたー!」
ペコペコ頭をさげる白いローブの少女を逃して、オーウェンはホッと息をついた。
「離せ!」
蒼い青年に手を振りほどかれ、オーウェンは眉をひそめる。
(なんだ、今の腕力は……?)
「その蒼い瞳、ちょっと対抗してくるパワー。なにより、今、マリーって言ったのか? 僕のマリー・テイルワットを知っていると言うことは、お前がオーウェンってやつかっ!」
「まずひとつ、マリーのことは誰でも知ってる。そして、ふたつマリーは少なくともお前のものじゃない。ふさわしい男が他にいる」
オーウェンが2つ指を立てると、蒼い青年は激昂してオーウェンへと掴みかかった。
スウェイで素早く身を引き、足を引っかけて、オーウェンは青年を転ばせる。
そのまま、彼の腕を背中にまわさせ、衛士に突きだすため拘束しにかかる……が、青年がジタバタと暴れると石畳みが割れはじめ、オーウェンは胸ぐらを片手でつかまれ、簡単に投げ飛ばされてしまった。
くるりと一回して華麗に着地。
されど、オーウェンは目を見張り顔を曇らせた。
「フハハハっ! びっくりしたようだな! なにせ僕はドラゴンなんだ! すごいパワーだろう! ふははっ! 僕が人間に負けるはずがないんだよっ! 許して欲しければ命乞いをしろっ!」
「なるほど、自分のことをドラゴンだと思い込んでいる変態か」
「ッ、変態って言うなァアー!」
叫び声が夜の通りに染みていき、野次馬たちの煽り根性に火をつけた。
「オーウェン様、やっちゃってください!」
「頑張ってー!」
「交尾催促残念イケメン男に鉄槌をくだしてー!」
「そのよそ者ぶっ倒しちまえー!」
まわりではギルドが休みで暇な冒険者たち、蒼い青年のナンパ被害にあった者、露天で果物をうる筋肉隆々なオヤジまでもが喧嘩を応援する。
どこからか飛んでくる果物をキャッチして、ひと口かじるオーウェン。
「やれやれ、仕方ない。おい、自称ドラゴン男、軽く当てにいくぞ。悪く思うな」
「フハハハっ、聖女のまえに最強の魔剣士を倒して箔をつけるのも悪くないなっ! かかってこいっ!」
蒼い青年とオーウェンは、互いに浅く腰を落とし、ゆっくりと拳を握りしめた。
0
あなたにおすすめの小説
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~
柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」
テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。
この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。
誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。
しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。
その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。
だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。
「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」
「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」
これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語
2月28日HOTランキング9位!
3月1日HOTランキング6位!
本当にありがとうございます!
『王都の神童』と呼ばれた俺、職業選定でまさかの【遊び人】三連発で追放される。……が、実は「全職業のスキル」を合算して重ねがけできる唯一のバグ
よっしぃ
ファンタジー
王都で「神童」の名をほしいままにしていた少年、ディラン・アークライト(17歳)。
剣を握れば騎士団長を唸らせ、魔法を学べば賢者を凌駕する。誰もが彼を「次代の勇者」と信じて疑わなかった。
しかし、運命の職業選定で彼が得たのは――【遊び人】。
それも、三つの職業スロットすべてが【遊び人】で埋まるという、前代未聞の怪現象だった。
「期待外れだ」
「国の恥晒しめ」
掌を返した周囲によって、ディランは着の身着のままで街を追放される。 だが、かつて神童と呼ばれた彼の「分析力」は死んでいなかった。
『……Lv1なのに、ステータスが異常に高い? それに経験値が分散せず、すべて加算されている……?』
彼だけが気づいた真実。
それは【遊び人】という名に偽装された、この世界の管理者権限(Free-Hander)であり、全職業のスキルを制限なく使用・強化できるバグ技(デバッグモード)への入り口だったのだ。
これは、理不尽に捨てられた元・神童が、その頭脳とバグ能力で世界を「攻略」し、同じく不遇な扱いを受けていた美少女騎士(中身は脳筋)と共に、誰よりも自由に成り上がる物語。
【著者プロフィール】アルファポリスより『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』を出版、オリコンライトノベル部門18位を記録。本作は2月に2巻刊行予定。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
器用貧乏な赤魔道士は、パーティーでの役割を果たしてないと言って追い出されるが…彼の真価を見誤ったメンバーは後にお約束の展開を迎える事になる。
アノマロカリス
ファンタジー
【赤魔道士】
それは…なりたい者が限られる不人気No. 1ジョブである。
剣を持って戦えるが、勇者に比べれば役に立たず…
盾を持ってタンクの役割も出来るが、騎士には敵わず…
攻撃魔法を使えるが、黒魔道士には敵わず…
回復魔法を使えるが、白魔道士には敵わず…
弱体魔法や強化魔法に特化していて、魔法発動が他の魔道士に比べて速いが認知されず…
そして何より、他のジョブに比べて成長が遅いという…
これは一般的な【赤魔道士】の特徴だが、冒険者テクトにはそれが当て嵌まらなかった。
剣で攻撃をすれば勇者より強く…
盾を持てばタンクより役に立ち…
攻撃魔法や回復魔法は確かに本職の者に比べれば若干威力は落ちるが…
それを補えるだけの強化魔法や弱体魔法の効果は絶大で、テクトには無詠唱が使用出来ていた。
Aランクパーティーの勇者達は、テクトの恩恵を受けていた筈なのに…
魔物を楽に倒せるのは、自分達の実力だと勘違いをし…
補助魔法を使われて強化されているのにもかかわらず、無詠唱で発動されている為に…
怪我が少ないのも自分達が強いからと勘違いをしていた。
そしてそんな自信過剰な勇者達は、テクトを役立たずと言って追い出すのだが…
テクトは他のパーティーでも、同じ様に追い出された経験があるので…
追放に対しては食い下がる様な真似はしなかった。
そしてテクトが抜けた勇者パーティーは、敗走を余儀無くされて落ち目を見る事になるのだが…
果たして、勇者パーティーはテクトが大きな存在だったという事に気付くのはいつなのだろうか?
9月21日 HOTランキング2位になりました。
皆様、応援有り難う御座います!
同日、夜21時49分…
HOTランキングで1位になりました!
感無量です、皆様有り難う御座います♪
【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!
貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる