奴隷身分ゆえ騎士団に殺された俺は、自分だけが発見した【炎氷魔法】で無双する 〜自分が受けた痛みは倍返しする〜

ファンタスティック小説家

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師匠の想い 後編

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 ──転生から1年3ヶ月が経過した

 季節は春。
 緑が生茂り、小鳥たちが歌う。
 温かな風が心地よい。

 俺の魔術は急速に上達していた。
 ハイパーチャームの装備以降、師匠に手放しで喜ばれるほどに、数多の火属性式魔術の再現に成功していたのだ。

 それは、わずか3ヶ月で炎の魔術分野において第二式魔術の8割を習得するくらい──つまり『炎の大魔術師』を名乗れるほどだ。

 魔術が苦手だった俺が、ここまで魔術を身につけられたのには理由がある。

 ひとつ目は、ハイパーチャーム。

 これにより《ホット》でうみだした熱の操作が格段にやりやすくなった。
 
 ふたつ目は、ホットの火力向上。

 元々の魔術である《ホット》を使って瞬時に水を熱湯にかえたり、木一本炭化させられるほどに、俺の火力はあがっている。

 みっつ目は、師匠の助言と実演だ。
 
 これが一番おおきい理由だろう。
 実際にそれがどんな魔術なのか、どう魔力を操作したら現象にたどり着くのか、知っているのと知らないのとでは全く違う。

 俺の実力はすべて師匠のおかげだ。
 この力があれば奴らを倒せる……たぶん。
 俺の復讐が現実味を帯びてきたぞ。

「炎さえ起こせれば、それをほぼ自由に操れるというわけですか」

 師匠は「デタラメな能力に進化しましたね」とやや呆れながら褒めてくれる。

 が、実際のところそんな万能じゃない。

 十分な火炎さえ起こせばあとは魔力操作で、熱を移動させて、多くの炎魔術は再現できる。

 しかし、無理なものも多い。

 特に《ファイアボール》のように熱の塊をぶつける単純な火力技ではなく、炎の形状を細かく指定する技量系は特に苦手だ。

「《フレアウィップ》」

 師匠は枯れ枝のような杖から伸びる炎のムチで、置き石をまっぷたつに焼ききった。

「″ヘンリー″、これは出来そうですか?」
「難しいですね。発熱だけで炎のムチを構成するのはさすがに……」

 俺はいい淀み──ふと、とあるアイディアを思いつく。

「でも、″結果だけ″なら真似できるかもしれません」

 師匠は「ほう」と嬉しそうにつぶやいて「見せてください」と場所ををどいた。

 俺は斜めに焼き切られた置き石をみた。

 新品の杖を構えた。
 カリーナが買ってくれた物だ。

 杖があるのと無いのとでは、魔術の精度、魔術の威力などに大きな差がでてくる。

「不死鳥の魂よ、
  炎熱の力を与えたまへ──《ホット》」

 熱を斜めの″線状″に集中させる。
 はばわずか1mm以下、縦長に伸ばす。
 置き石に赤く輝く紅光の線が現れた。

「すぅ、はぁー」

 高い集中力を必要とする作業だ。
 俺はひたいに汗を滲ませて、そのままいっきに狙った場所への魔力を増大させる。

 置き石のうえの部分が″ジュルっと″ずれて落ちた。切断面は溶岩化して火照っていた。

 よし、石の溶解に成功した。
 でもこれは《フレアウィップ》と言うにはやや無理があるだろうな。

「火を使わずに、なんて威力の熱切断……」
「焼き切ることはできましたけど、これじゃ《フレアウィップ》とは呼べないですね」

 俺は杖を腰のホルダーにしまい、深いため息をついた。

 炎のムチは失敗だ。

「これは流石に《フレアウィップ》ではないです……ただこの焼き跡は──」
 
 師匠は言いづまり置き石の切断面を見る。

「遠隔のものを自由に焼き斬れる魔術……およそ《フレアウィップ》より凄まじい現象ではないですか……? ヘンリーのオリジナルスペルが魔術世界に普及したら魔術戦の歴史が変わりそうです」
「そうですか? オリジナルスペルを使っているつもりは無いんですけどね」
「誰がなんと言おうとヘンリーの魔術はすべてがオリジナルスペルです。たぶん、ヘンリーは世界で一番オリジナルスペルをもっている魔術師までありますよ」

 うーん、それってどうなの。
 魔術の再現を《ホット》だけでしようとしているのに全然認められていないってことなのではないか。

「流石はわたしの弟子です。オリジナルスペルしか使えない魔術師なんて個性的すぎてアルカマジに行ったらヒーローになれますよ」

 師匠は疲れたように肩をすくめた。
 どうやら褒めてくれていたらしい。
 憧れの人に言われて素直に嬉しかった。

「えへへ、ありがとうございます」
「……ふん、あまり調子に乗らないように」
「ぁ、すみません」

 師匠はツンとしてぷいっと顔を背ける。

 もう3ヶ月の付き合いになるのに、すこし冷たいような気がするが……。
 
 もっと仲良くなりたかったのにな。
 でも、仕方ないかな。
 彼女は炎の賢者、俺は炎の大魔術師。
 あまりにも立場が違いすぎるんだ。
 
「お兄ちゃーん、お昼の時間だよー!」

 お知らせ係セレーナが、元気よく庭へやってくる。読み書きの稽古が終わったのかな。

「もうそんな時間か」
「うん、いこいこー、お兄ちゃん!」

 セレーナが手を引いて連れて行こうとする。

「ちょっと、待ちなさい、セレーナちゃん」

 そこへ声をかけるのは師匠。
 彼女はスタスタ寄ってくると、セレーナからひったくるように俺の手を奪いとった。

 おや。
 なんだこの感じ。
 なぜだか不思議と嬉しいぞ。

「″ヘンリー″はわたしの弟子です」
「っ! お兄ちゃんはレナのお兄ちゃんだもーん!」
「それが揺るがぬ事実である事は認めます。ですが、まだ授業中です。勝手に連れていかれてはこまります」

 フォッコはムッとした顔で、俺の手をひいてズンズンと庭の奥へ連れ戻していく。

「″リクにぃ″はレナのお兄ちゃんだってばー!」
「さあ、行きますよ、ヘンリー」
「リクにぃー!」
「授業に部外者の侵入は許しません。おとなしく諦めてください、セレーナちゃん」
「むむむぅ! フォッコちゃんのばかー!」
「フォッコちゃんじゃないです、わたしはあなたよりずーっと歳上なんです。背だって高いんですよ、セレーナちゃん」
「むきー! リクにぃに、フォッコちゃんがいじめる! なんか言ってあげてよ!」
「え? ああ、うーんと……」

 師匠の顔を見る。

 彼女のじーっと見つめてくる黄金の瞳に、弱り果て「ごめん、レナ、何も言えない」と、俺は情けなく、あっさりと降参した。

「もうリクにぃに知らなーい! フォッコちゃんとお似合いしてればいいんだー!」
「レナ! ち、違うんだ、俺はレナのことも大好きな──」
「授業に戻りますよ、ヘンリー」

 勝ち誇った顔の師匠は、ご機嫌なようすで授業を再開しはじめた。

「……師匠、なんだからしくないですね」

 授業時間分はぴったり働く、それが師匠だ。たしかに時間に厳しい人、でも、今まであんな風にレナを追い払うことはなかった。

「師匠はすこし変わったような気がします」
「そう見えますか、ヘンリー」

 俺から少し距離をあけて、師匠はぴょこんっとふりかえりこちらへ振り返ってくる。

 少しだけ背が高くなった俺。
 師匠よりかはまだ低い。
 でも、目線はほとんど同じくらいだ。

「時が経つのはあっという間ですね」

 師匠は瞳を揺らしながら、ちいさな、それはちいさな声でこぼした。

「師匠? それってどういう……」
「さあ、ヘンリー、授業のつづきですよ」

 師匠は俺の言葉をさえぎり、瞑目すると、黄金の瞳をカッとひらいた。

 その言葉の意味は最後まで聞けなかった。
















 


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