奴隷身分ゆえ騎士団に殺された俺は、自分だけが発見した【炎氷魔法】で無双する 〜自分が受けた痛みは倍返しする〜

ファンタスティック小説家

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 家庭教師着任から3ヶ月経った今日。
 師匠の契約は満了する。

「フォッコさん、本当にありがとうございました」
「炎の賢者さまのおかげで、息子のヘンドリックはひとまわり、ふたまわりじゃ効かないくらい成長できました」

 カリーナとウィリアムは、うやうやしく頭をさげた。

 隣で立ちあう俺と、居合わせたペット設定のラテナも頭をさげる。

 師匠は「わたしはなにも」と過度に謙遜することもなく、静かな声でいった。

 俺は師匠に未練がある。

 炎の賢者として、行使できる最大の奥義である火属性の第四式魔術を教わることが出来なかったこと……そして、想いを伝えることも出来なかったことだ。

 3ヶ月という時間はあまりにも短い。
 むずかしい人間関係が得意じゃない俺がなにかを成すのには時間は全然足りなかった。

「その、えーと、これで最初の契約は満了ということになるのですが」

 ウィリアムは一度、言葉を切り、カリーナと俺に意思を確認するように目線を配ってからつづけた。

「もしよろしければ、契約の延長を、していただけませんでしょうか?」
「……っ」

 師匠のどことなく暗い雰囲気だった顔が明るくなった。

「契約の延長ですか」
「は、はいっ、そのとおりです。旅の道半ばであることは承知なのですが、フォッコ先生に家庭教師をしてもらうことが、ヘンドリックの大きな成長につながるとわかったいま、もう少しだけそばにいてやって欲しいんです」

 ウィリアムは言葉を選びながらお願いする。

 師匠は目線をこちらへ移した。

「師匠はすべてを教えてくれるって言ってましたよね」
「……あはは、そうですね。たしかに言いましたね、ヘンリー」

 師匠の乾いた笑み。
 なんだかホッとしてるようだった。

「まったく、ほんとうに仕方のない弟子ですね。もうすこしあなたの成長の行方を見守るとしましょうか、ヘンリー」
 

────────────
       ─────────────


 ─一転生から1年4ヶ月が経過した

 師匠が契約延長して1ヶ月だ。

「ヘンリー、入りますよ」

 夜。
 部屋に師匠がやってくる。

 俺は緊張からラテナの頭をそっと撫でて、机横の止まり木においてあげた。

「ふくふく」

 今夜から俺は、就寝前の1時間も授業を受けることになっていた。
 
 これには理由がある。

「最近、授業に集中できていないようですね、ヘンリー」
「そうですか? 真面目にやってますよ?」
「本当にそうでしょうか」

 師匠はベッドに腰掛け、止まり木のラテナを指でなでる。

 俺は彼女から目をそむけた。
 正直なことをいえなかった後ろめたさが、俺のなかに雲となって沈殿していく。

「ヘンリーは嘘をつくとき、相手の顔を見られません」
 
 彼女は薄く微笑みをうかべる。
 俺は悔しくて不機嫌に眉根をよせた。
 この人は俺のことをよく見てくれている。

「ヘンリー、ありがとうございます」
「……」
「わたしは嬉しいですよ、弟子が師匠とのわかれを惜しんでくれて」
「っ、なら…」
「でも、許しませんからね、わたしの授業で手を抜くなんて」

 師匠の黄金の瞳を、まっすぐ見れない。
 チラチラと視線をそむけた。
 ダメだ、これでは逃げている。

「ヘンリーが真面目に勉強しなければ、わたしに残された少しばかりの役目は、すぐに果たされることはないでしょう。でも、わたしはそんな事望んでいません」

 俺はすでに常人の限界と呼ばれる第三式魔術の実現可能範囲での再現をコンプリートさせつつある。
 『炎の戦略魔術師』の称号を得る日も遠くないだろう。

 俺の魔術の完成。
 その現状の最大値は師匠の実力だ。
 彼女の最大値とはすなわち第四式魔術。
 第四式魔術の習得が″俺たちの終わり″だ。

 それが、果たされれば家庭教師である彼女の使命はなくなる。
 旅の魔女は新しい土地へ行くだろう。

 俺は教わった魔術を練りあげて、仮想的として上級騎士ウィリアムを倒せるようになれば、いよいよ″報復のためのチカラ″を完成させたことになる。

 けれど、今は報復よりも……。

「ヘンリー、別れはいつかくるものです」

 俺の手にちいさい白い手を重ねられる。

「わたしの弟子がどこまで行けるか、わたしに、あなたの師匠に見せてください」

 語りかける声。
 俺はとうてい納得できない。

 どうして人生には別れがあるのか。

 その時が必ず来るとわかっているのに、どうして腹をくくって、痛みを受けいれる以外の選択肢が用意されていないのか。

 魔術を諦めるしかなかった自分を、ここまで立派にさせてくれた。

 なぜ別れなくてはいけないんだ。
 俺はどうしても納得できない。

 師匠に嫌われてもいい。
 だから選択肢がほしかった。

 見えない何かを探すように視線を泳がす。
 すると、俺は数ヶ月前に調べたあることを思いついた。

 師匠の秘密の尻尾と耳についてだ。

「師匠、俺、しってますよ」

 俺は震える声できりだす。
 目の端に怖さで涙をうかべながら。

「師匠にもふもふの尻尾と耳があることしってるんです」
「っ……」

 尻尾と耳。
 ふわふわ、もふもふ。
 それは獣人の証である。

 かつて現人類が大陸中央部の『獣』とよばれるモンスターたちと、激しい戦争を繰り広げたことは、アライアンスを含めた周辺国では常識だ。

 獣人とは、そんな太古の戦いの遺物であり、獣と人のあいだにうまれた混血の仔だ。

 俺は知っている。
 奴隷の半分は彼ら獣人だということを。
 世界には獣人を人ではなく、動物としてあつかう国や政府が存在していることを。

 師匠が隠す意味も全部しっているんだ。

「ヘンリー……いつから、それを……」

 目を点にして、震える声でたずねてきた。
 
 知られてはいけない真実。
 喉元を押さえられ、恐怖に震えていた。

 俺はそんな彼女の表情を見て、自分が大きな過ちをおかしたのだと知った。

 なんていうことを……俺は……俺は……。

「ちがっ、あの、師匠、そうじゃなくて!」

 最悪だ。
 俺は、最低の男だ。
 師匠がどれほどそのことを気にして、必死に隠して生きてきたのか正しく認識していながら、脅迫につかうなんて卑劣以外の何者でもないではないか。

「それ以上、近づかないで、ヘンリー」

 強い拒絶の言葉だった。

 俺は「違うんです、ほんとうに……」とかすれた声でいい逃がれすることしか出来ない。

 罪の意識に胸が張り裂けそうになった。

 師匠へゆっくりと手を伸ばす。
 彼女はがむしゃらに俺の手をふりはらい、目の端に涙をうかべて、部屋を飛び出した。
 

────────────────────────────────────────


 夜の事件から3日が経った。

 ただいま俺は銀狼流二段の取得にむけて、ウィリアムと特訓中である。
 決して失敗できない報復なので魔術以外にも、戦うためのチカラ練り上げているのだ。

 しかし、なんだか最近は調子が悪い。

「はあ……」
「どうしたヘンリー、やたら元気がないが」

 稽古の休憩中。
 俺はため息がでてとまらなかった。
 
 もちろん、師匠のことであった。

 あれから3日も授業はお休み。
 朝も昼も夜も、食べに来てくれない。
 完全に終わったよな、これ。

 絶望だよ。
 失恋というやつだよ。

「ヘンリー、ヘンリー?」
「はあ……この世の終わりだ」
「ヘンリーくん、聞こえてますかー?」
「師匠…お願いします……すこしだけ話をするチャンスをください……」
「ヘンドリック!」
「ぁ、ぇ?」

 名前を呼ばれてようやく気がつく。
 ウィリアムが険しい顔で俺を見ていた。

「あとでキッチンにこい」
「……ぇ、どうしてキッチンに?」
「いいから、な?」

 ウィリアムは硬い顔をとたんに、にやーっとあやしげで邪悪な笑顔にかえた。


 ──しばらく後


 俺は″金色の油揚げ″を持って、師匠の部屋の前に来ていた。
 一枚で金貨一枚もする、伝説の油揚げらしいが……なぜ最近は我が家は油揚げにこだわり出したのかはわからない。

「でも、やるしかないよな。師匠と仲直りするためには」

 持たせられたアイテムに困惑しながら、自分よりモテそうな父親の助言にしたがう。

 なんて声をかけようかな。
 ラテナには「正直が一番ですよ」と言われて、健闘を祈る祝福をもらったけど……。

 ──ガチャ

 扉の前でまごついていると、開かずの扉がひとりでにゆっくりとひらいた。

「あっ」
「あ」

 師匠が出てくる。
 すこし痩せているようにみえた。

 彼女は気まずそうにして、そっと扉を閉じようとする。

「まま、待ってください、師匠!」
「待ちません、入らないでくださいっ!」

 開けようとする者と、閉めようとする者。

 俺は油揚げの乗っかった皿を片手にもち、もう片手の腕力だけで勝負する。

 そして、なんとか押し勝った。

 だが、勢いあまって、そのままなかへ飛び込んでしまった。

「ふにゃ!」
「いてて……油揚げは無事か……って、はう?!」

 手のなかに感じる柔らかな感触。

 うーん、掴み心地が最高だ。
 いったいなんなのだ、これは。
 いままでに感じた事がない。

「あわわわ……っ!」
「ん? …………どはぉあ?!」

 俺が師匠のちいさな胸を鷲掴みしているこたに気がついて、確実に寿命が縮んだ。

 おっぱいってこんな感触なんだ、とか、
 でも、このサイズは胸にカウントされないのでは、とか
 もっと触っておくんだった、とか、

 いろいろ邪悪な思考が頭をよぎりながらも、師匠のつつましい胸から手をどけた。

「ヘンリーィィッ?!」
「すみません! わざとじゃないんです!」

 顔を真っ赤にする師匠。
 ちいさな腕でちいさな双丘を隠す。
 歯を食いしばって、杖をふろうとする手は、理性でなんとか抑えている状況だ。

 まずい。殺される。

「違うんです、本当にごめんなさい……!」
「ぐぬぬぬ……っ、くっ! まあ、いいですよ! もう、ヘンリーと言えど、男の子ですから、多少は多目にみます……っ!」
「ぁ、ぁ、ありがとうございます、ホッ……」
「本当にまったくですよ、まったくもう……! こんなエッチなことわたしは教えてないのに、もう!」

 師匠はご立腹だった。
 が、すぐに鼻をヒクヒクさせて「この匂いは、いったい?」と俺の持つ皿をみた。

「これですか? これは父さんが師匠に持っていけって渡してくれたんです」

 油揚げに興味津々の師匠。
 俺が「食べますか?」というと、師匠はひとつ返事で油揚げに飛びついた。

「こんなもの…こんなもので餌付けしようだなんて浅はかな、パクパク、その魂胆が卑しいですよ、ヘンリー! モグモグ、わたしは食べ物なんかには絶対負けませ、ムシャムシャ」

 威厳を守ろうとしながらも、腹ぺこ師匠は幸せそうにパクパク油揚げをたいらげた。

 美味しく食べているうちに彼女の頭には、もふっと狐色の耳が現れて、腰のあたりの魔術師ローブはもこもこっと柔らかそうに膨らんだ。

 絶対に尻尾だ。

「はあ~おいしかった~!」

 油揚げを食べおえてご満悦の師匠。

「っ、しまっ!」

 彼女は変身が解除されていたことに気がつき、あわてて尻尾と耳を押さえた。
 
 明らかに手遅れだ。
 というか、油揚げに負けた時点で、もういろいろと手遅れ感はあった。
 さてはポンコツだな、うちの師匠。

「師匠、僕は謝りたくてここへ来ました」
「はぅ、油揚げで釣るなんて、なんてひきょうな、わたしはそんなこと教えてませんよ、ヘンリー」
「す、すみません。これは、父さんの作戦でですね」
「まさか……ウィリアムさんが?」

 彼女は何かに気がついた表情になる。

 よくわからないが、謝るチャンスだ。

 俺は誠心誠意、脅しのように師匠の身体的特徴をあつかったことを謝罪した。

 師匠はボーッと不思議そうな表情で、こちらを見てくる。

「……くすっ」

 そして、しばらくして、クスクスと愛らしい笑い声をあげた。

「浮雲家、ここはとても温かいんですね」
「師匠?」
「わたし、たくさん良い物見つけました。今まで自分を守るのに必死だった……けれど、受け入れてくれるこの温かさを見つけられた」

 師匠は温かい涙をながしていた。
 彼女の言葉はどれもが重く、これまでのつらい迫害の日々へむけた別れの言葉だった。

 そうか……親父は気がついていたんだ。
 油揚げにこりはじめたのも、ちょうど師匠が我が家に来てからのことだった。
 カリーナは彼女に出会ったときから、師匠が自分を守るのに精一杯で、他人に優しくする余裕のない孤独なキツネだと見抜いていたのだろう。

 浅慮なのは俺だけだったか。

「ヘンリー、顔をあげてください。もう怒ってませんから、さあ」
「本当に、本当におこってません…?」
「怒ってないですよ、ヘンリーが優しい子なのはよくわかっていますから、あの言葉の意味だって本当はとっくにわかってたんです」

 師匠は手をひいて俺を立たせる。

「さあ、今日から授業再開ですよ、遅れた分、ここから最後までいっきに駆け抜けます、準備はいいですか、ヘンリー」

 俺がこのペースで魔術を習得したら、きっと師匠との別れはすぐに訪れる。
 けど、師匠は言ったじゃないか『弟子がどこまでいけるか、師匠に見せてください』て。

 師匠は旅を続けるために。
 俺は報復を成し遂げるために。

 それぞれ、違った道をいく、
 彼女との出会いは、気まぐれな運命の交差──ただ一時の邂逅に過ぎなかっただけさ。

「…わかりました、全力で頑張ります」

 俺は大きく息を吸い″覚悟″を決めた。
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