奴隷身分ゆえ騎士団に殺された俺は、自分だけが発見した【炎氷魔法】で無双する 〜自分が受けた痛みは倍返しする〜

ファンタスティック小説家

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別離

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 ──転生から1年6ヶ月が経過した

 師匠が契約延長をして3ヶ月。
 浮雲家にやってきては半年だ。

 季節は秋。
 よどんだ灰色の雲に、空は覆われている。

 俺は玄関をでて庭園へむかう。
 師匠は立ち尽くして空を見上げていた。

「師匠、行きましょう」

 その背中に声をかけると、彼女はゆっくりと振りかえり「はい」と、うなずいた。

 浮雲家の門をでて、ふたりで歩き農村を越えて、村外の草原のほうまでむかう。

「すこし肌寒くなってきましたね、師匠」
「そうですね。これから冬が来て、雪がふれば、うかつに外は歩けない季節です。温かくしてくださいね、ヘンリー。あなたは雪がふっていても構わずに剣でも魔術でも特訓してしまいそうですから」
「はは、そうですね、気をつけます。でも、雪があれば師匠なら水属性の魔術が使い放題ですよね」
「あなたにも水の魔術を教えてあげられたらよかったですけど」
「いいですよ。僕には炎があるんです」

 他愛のない話をしながら、和やかな雰囲気で、俺たちは閑散とした畑道をすすむ。

 どこか味気ない秋の景色をながめて、これまでの時間を振りかえっていた。

 たくさんの事があった。
 ほんとうに色々なことをした。

 脳裏をかけめぐる記憶。

 師匠の尻尾をもふってしかられたり。
 風呂場をのぞいて怒られたり。
 油揚げを階段うえからたらして師匠釣りをして、死ぬほど怒られたり。

 彼女との日々はすべてが印象的だ。

「そろそろ農村を抜けますね」

 その声に俺はまえをむく。
 色あせた草原に枯れた木がたっていた。
 
 ここが師匠と過ごす時間の終着点。

 今日に至るまでの6ヶ月で、50を越える炎魔術を《ホット》で再現してきた。

 肩書きとしては『炎の戦略魔術師』だ。

 ひとつの属性だけでも戦略魔術師級の実力があれば、国家の防衛任務や、魔術学校での高位の職が得られるほどの価値がある。

 俺は大成した魔術師になれた。
 すべて師匠のおかげで。

 だが、まだなんだ。
 師匠と同じステージへいかなくては。

 弟子の使命は、すべてを受け継ぐこと。
 師の役目は、すべてを伝えること。

 俺の仕事──報復──は失敗できない。
 さらなるチカラが必要だ。
 
「やりましょうか、ヘンリー」

 師匠の声に、うなずき、腰のホルダーから魔法の杖を手にとる。

 師匠も杖をぬいた。
 使い古された年代物の杖だ。

「第四式魔術──《ライジングサン》を伝授します。ヘンリー、準備はいいですか?」
「……はい!」

 師匠は「いい返事です」と薄く微笑み、使い古された杖を空へとむけた。

 清廉な声が、神秘の詠唱をつむぐ。

「火炎の使者、始まりの熱、
    天翔ける大鷲、我ら汝を崇め、
  蒼穹を見上げん、天空の精霊よ、
        我らの祈りが聞こえぬか、
 母なる太陽よ、奇跡を与えたまへ、
          豊穣を与えたまへ
  我ら、いまここに日輪を現出させん
        ──《ライジングサン》」

 厳かな声調でいいおえた。
 
「……っと、まあ、こんな感じに詠唱をすれば魔術は発動し、天気を晴れに変えることができます」
「晴れの日に使ったらどうなるんですか?」
「え? ……たぶん、日差しが強くなると思います。……ごめんなさい、嘘です、わたしもわからないです」

 正直な師匠。
 頬を染めて、すこし恥ずかしそうだ。

 彼女はわざとらしい咳払いで仕切り直す。

「こほんこほん。とにかく。ヘンリー、事前に詠唱は覚えて来てますね」
「はい。でも師匠、やっぱり……」
「聞きません。どうせ無詠唱のほうがやりやすいとか言い出すんでしょ? あーあー、絶対にそんなこと言わせませんからー!」

 すねられてしまった。
 耳をおさえ、断固とした態度を取られ、俺はよわってしまう。
 師匠はそんな俺を見て笑っていた。

「優秀な弟子を困らせるほど、楽しい娯楽はありませんね」
「いじわるですよ」
「いいんですよ。どうせこれが最後なんですから、いじわるくらい許しなさい」

 師匠に鼻頭を指で押された。

「さあ、どうぞ、ヘンリー。師匠の顔を立てるとおもって詠唱を。カタチだけでもライジングサンしとかないと、これから先、苦労する場面が出て来ますよ」

 オリジナルスペルとして発動すれば、詠唱など誰も気にしないだろうけどな。

 まあいい、
 プライドの高い師匠の顔を立てるか。

 俺は大きくため息をつき詠唱を開始する。

「火炎の使者、始まりの熱、
    天翔ける大鷲、我ら汝を崇め、
  蒼穹を見上げん、天空の精霊よ──」

 さて、どうしたら雲をどかせるか考えた。
 数日考えた結論は温度をさげることだ。

 『無から有は生まれない』
 魔術の基本法則にのっとって考えれば、いかに最強魔術のホット様といえど、温かさをどこかから持ってきているはずなんだ。

 この理論をつかって、俺は雲のしたあたりの空気を急速に《ホット》で温める。
 持ってくるのは熱エレメントは雲を供給源とセッティングする。
 雲から熱をうばえば、水蒸気の塊であるあの灰色雲は水となって地上にふりそそぐはずだ。

「我らの祈りが聞こえぬか、
   母なる太陽よ、
     奇跡を与えたまへ、
         豊穣を与えたまへ
   我ら、いまここに日輪を現出させん
     ──《ライジングサン》

 最後の詠唱を終えた。

 同時に脳内で《ホット》をつかい、先の手順で空気をあたため、雲を冷やしていく。
 雲が敷き詰められた空に、ぽっかりと青空の穴があいた。

 その向こうからは、太陽の日差しがさんさんと降り注いできてくる。
 と、同様にドバーッと信じられない量の雨が降ってきた。もはや滝だろうか。
 幻想的でとても美しい光景だ。

「うわあああ!?」

 師匠は雨にびっくりして、もふっと耳と尻尾をだしてキツネ娘になった。
 局所的集中豪雨がおさまったあと、俺も師匠もびしょびしょになってしまっていた。

「へ、ヘンリー、わざとやってますか…?」
「ごめんなさい、これしか思いつかなくて」

 師匠はプルプル身体をふって水をとばす。
 水を飛ばす仕草までも可愛い。
 
「やれやら、仕方ないですね。むむ、あれは空に穴が空いたみたい……すごい威力です、さすがはわたしの弟子ですね。これほど完璧な《ライジングサン》を初等魔術で再現してしまうなんて驚愕するほかありませんよ」

 吹き抜ける風に、魔女ぼうしを飛ばされないように押さえ、師匠は楽しげに笑った。

 だが、俺は喜ぶ気分にはなれなかった。
 魔術が成功したことを恨んですらいた。

 もしここで失敗すれば、あとすこし師匠といられる時間は長くなっただろうに。

「ヘンリー、えらいえらい。ちゃんと手を抜きませんでしたね」

 師匠は小さな腕を俺の背にまわしてくる。
 優しくつつみこみ、頭を撫でてくれた。

「ぅ、ぅぅ、師匠……」

 嗚咽混じりの声がもれてしまう。

 彼女はまぶしい笑顔をうかべていた。
 狐色の髪が、金の陽光によく映える。

「おめでとう、ヘンリー。あなたは無事にわたしの火炎の奥義を覚えました。今日からは『炎の賢者』を名乗ることを許します」

 皆伝は、今、なされた。

「……ありがとう、ございました、師匠」

 なんとか言葉をつむぐ。
 けれど、堪えきれなかった。
 俺は情けなくも涙を流してしまう。
 
「ヘンリー、あなたは最高の弟子でしたよ」
「ぅぅ、ぅぁああ、ぅう……!」

 初めて知った。
 人との別れがこんなにも辛いと。

 バタバタと死人がでる奴隷暮らしや、騎士団での劣悪な環境では知るよしもなかったモノ。
 
 他人を大切に思える心を俺は知った。


 ───────────
         ───────────


 ──フォッコの視点

 翌日。

 フォッコは浮雲家にやってきたトランクに、荷物をつめていた。

 机のうえに置かれた写真を見る。
 それは、契約延長を決めた日に浮雲家の皆でパーティをやったときに撮ったものだ。

 彼女は写真にうつる、隣りあうヘンドリックと自分をそっと指先で撫でた。

 愛しい弟子。

「やれやれ、ですね。他人に肩入れするなんてわたしらしくありませんね」

 フォッコは懐かしい思い出をふりかえり、薄く微笑み、写真をトランクにしまった。

 忘れ物がないかチェックをし、最後にこれからの旅で必要になる資金の革袋が、ちゃんとしまってあるかもチェックする。

 と、そこへ、

「ふくふく~」
「ん、あなたはヘンリーのペットのラテナちゃんでしたか」
 
 窓の外からやってきた、ラテナの頭をフォッコは撫でてあげた。

「ふくふく」
「ん?」

 ラテナは何を考えているのか、自身のカラフルな羽を一枚くちばしでむしると、それをフォッコへわたす。

「くれるのですか?」
「ふくふく」
「あなたも存外、不思議な動物ですね。主人が天才だから、ペットも頭が良いんでしょうか?」

 フォッコは「いただきますね」と言って、ほんのり太陽の香りがする虹色の羽をトランクにしまった。


 ──しばらく後


 浮雲家一同は、門のまえで旅立つフォッコを見送っていた。

「本当にありがとうございました」

 ウィリアムが代表して言う。

「まさか、第四段階の実力に到達してしまうなんて……アライアンスの剣術段位に置き換えれば、団長たち以上の実力ですよ。いやはや、フォッコさまに家庭教師を頼んでよかったです!」
「いえ、わたしは大したことはしてませんよ。にしても、困ったものですね」
「? 何がですか?」
「だって、あまりに息子が優秀だと、ウィリアムさんもすぐに教える側の仕事がなくなってしまうでしょう」
「ああ……ほんとうまったくですよ、はは」

 ウィリアムは冷や汗をかきながら、快活に笑った。

「カリーナさんも、いつも美味しいご飯ありがとうございました。えっと……油揚げはほんとうに美味しかったです」

 頬を染め、恥ずかしげに言う。

「やっぱり気に入ってくれてたのね。それじゃ、これをどうぞ!」

 カリーナは革袋を渡した。
 中身を見て、フォッコが目を輝かせたことを知れば、その中が何かは言うまでもない。

「なんと! ありがたくいただきます!」

 フォッコはそそくさと革袋をふところに隠した。誰もとったりしないのに。

「これあげるね、フォッコちゃん!」
「セレーナちゃん、これは……チャーム?」
「そう、仕方ないからリクにぃにとのカップリングを認めてあげるの! だから、頑張っておんなじのつくったんだよ!」

 フォッコはセレーナから受け取ったハイパーチャームを見て苦笑い。
 流石にこれをつけて無事なのは、ヘンドリックくらいだろう、と彼女は思うのだった。

 ハイパーチャームをポケットにしまい、フォッコは最後にヘンドリックへ向き直る。

「……」
「ヘンリー、なにか言葉をかけてくれないのですか?」

 優しげな催促。
 人との別れ方を知らないヘンドリックは、なにを言おうか迷っていた。
 結局、この1週間考えても、何をいうのかは決まらないままでいた。

 何か言わなくては、と言葉を絞りだす。

「師匠は…なんで、いっちゃうんですか」
「わたしがまだ未熟だということに気付かされたからですよ。どこかの誰かさんに」
「……」

 次の言葉はつむげなかった。
 自分のせいで師匠は遠くへいってしまう、そんな馬鹿な考えすらうかんでしまう。

 ヘンドリックは俺にはやる事があるのに、という使命感と、まだいっしょにいたい、という気持ちに板挟みになっていたのだ。

「普段は口が達者なのに……もう、仕方ないですね」

 フォッコは微笑み、腰のホルダーから魔法の杖をぬいた。

 使い古された枯れ枝のような杖だ。

 フォッコはその杖を迷いなく、持ち手を逆さにしてヘンドリックへ差しだした。

「ヘンリー、受け取ってくれますか?」

 ヘンドリックは目を白黒させながらも、恐る恐る杖に手を伸ばす。

「師匠の杖…」
「蒼ポルタの爪を芯につかった高級品です。結構、良い杖なんですよ」
「……そんな杖、もらって良いんですか?」
「ええ、もちろん。毎日のようにわたしを驚かせてくれたご褒美です」

 ヘンドリックはパーッと明るい顔になる。
 
 他人を警戒し、ずっとひとりで生きてきたフォッコのこの珍しい行動は、自分の初めての弟子とのあいだに何か繋がりが欲しい──そんなささいな心理からの行動だった。

「師匠、それじゃ俺の杖、もらってくれますか?」
「あら、いいんですか、ヘンリー」
「もちろんですよ。師匠を杖なしで旅させるなんてこと、弟子として見過ごせませんし」
「はは、それもそうですね。少し不安に思ってたところでした。それじゃ交換ということでいきますか」

 フォッコはヘンドリックの真新しい杖を受け取り、それを自身の杖ホルダーにしまう。

 これで別れの挨拶もおわりだ。

 しばらく、沈黙が流れる。

「「それじゃ──」」

 ともに沈黙を破ろうとし、重なった。

 それを受けて、浮雲家もフォッコもクスクスとたのしげに笑う。

 ひとしきり笑ったあと、フォッコは晴れやかな顔になった。

「それじゃ、わたしはもう行きます」
「また会えますか?」
「そうですね、ヘンリーは間違いなく魔術世界で名を馳せますから、どこかでは会うことになりますよ、きっとね」

 フォッコは、うんうんと、うなずいて手をだした。
 ヘンドリックは迷いを断ち切るように、彼女のちいさな手を握りしめた。

「ほんとうにお世話になりました」
「こちらこそ。またどこかで会いましょうね、ヘンリー」
「はい、必ず!」

 フォッコは魔女ぼうしの位置をかるくなおして、トランクをよいしょっと持ちあげる。
 そうして、浮雲邸に背を向けて、旅の魔女は次の目的地へと旅立つのであった。
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