外れスキル【観察記録】のせいで幼馴染に婚約破棄されたけど、最強能力と判明したので成りあがる

ファンタスティック小説家

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ジャヴォーダン城の死闘3

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 場内を駆け、アルバートの追手を巻きながら、アイリスは思考する。

 学会の人造人間。
 騎士団ひとつの戦力に匹敵するほどの恐ろしい戦闘力を持ったキメラ。

 パワーはもう味わった。
 図体のわりに、動きも機敏だ。
 では、耐久力は?
 
 アイリスは足を止めた。

「アルバートの気配が離れた……あの人造人間だけで十分ってこと」

 アイリスは「舐められたものね」と、ふりかえりダ・マンを正面にとらえて腰を落とした。

 突っ込んでくるダ・マンは2体。

 どちらも黒いトレンチコートをピチピチに張らせて肉体が変形している。

「最新のキメラの力、確かめさせてもらうわ」

 巨大な拳が、血のような深紅の瞳へとせまる。

 ──────────────────

 ──アルバートの視点

 歩きながら、アイリスの後を追いかける。

 焦る必要はない。

 すでにジャヴォーダン城全体に、『禁域の魔術』は展開済みである。
 空間の断絶は完了しているのだ。そのため、もしアイリスが転移魔術を使えたとしても、この城からは出られない。

 物理的な走破も不可能だ。
 もう対抗策は講じられている。

 加えて、城内を動きまわるアイリスの位置は、完全に把握できている。
 ダ・マンの視点を借り、影害獣の視点を借り、置物に見せかけたゴーレムたちの視点を借り、すべて見えているからだ。

「ほう」

 ダ・マンが無力化された地点へやってきた。
 アルバートは感心したように声を漏らす。

 廊下には二つの十字架が建てられている。
 高さ4mほどの、黒い十字架だ。

 アイリスを追跡させていたダ・マン2体は、十字架に磔にされて、動けなくなっていた。

 あたりを見渡せば、壁や天井、床はボコボコになっている。壮絶な戦いがあったのは、誰の目にも明らかだ。

 もちろん、戦いはリアルタイムで視認していたので、何があったかは知っている。

 アルバートは現場を確認しに来たのだ。

「これは……この世界の物質ではないのか」

 黒い十字架を手で撫でて、いくつか確信を得る。

 ひとつ、アイリスが悪魔化していること。
 ふたつ、通常戦力では歯が立たないこと。
 
 ダ・マンの視点を通して、アイリスとの戦いは見ていた。だが、アイリスはどれだけダ・マンの暴力的な攻撃を受けようとも、決してダメージを負わなかった。

 肉体が一度は砕けたように見えても、それはあくまでこの世界の人間からすれば、そう見えてしまう、というだけの幻に過ぎない。

 本質的なダメージは届いていない。

「まさか悪魔になるとはな。それはレギュレーション違反だろう……はあ、これで準備した戦力の多くが賑やかしに堕ちた」

 悪魔はルールの外側の存在だ。
 彼らに、通常の物理法則を守らせる為には、特別な手段が必要となる。そして、その特別な手段のノウハウを、学会はもっていない。

「だが、幸いにも武器はある。ならば、聖火杖で直接叩くしかないか」

 思案する。
 
 アイリスの新しい手札はいくつかある。

 ①指を鳴らして衝撃波を起こす。

 かなり強力だ。回避も不可能だ。
 しかし、連発はしてこない。
 何らかの制約があると見える。

 ②黒い杭
 
 無尽蔵にドラゴンに投げまくっていた。
 聖火杖と似て、魔力を編み込んで作っていると思われる。材質は黒い十字架と似ている。

 ③黒い雷

 前兆なしに降ってくる。
 黒い杭による誘導が必要。
 屋内でも油断できない。
 生身で食らえば賢者の石を使わされる。

 ④黒い十字架

 黒い杭とセットで使う封印術と推測。
 黒い十字架の形、サイズ的に、人型にしか対応していない可能性がある。

 そして、あの塔から突き落としたのに、いつのまにか戻って来ていたり、壁に垂直に立ったりする、おかしな挙動の数々……。

 無効な攻撃で、こちらが殺したと錯覚すると、近場でリスポーンをするのかもしれない。

 世界は悪魔を一度殺したと認識するが、実際は死んでいないために、再処理がなされるのだろう。

「憶測の域をでないな。もっと悪魔の勉強をしておくんだった。──とはいえ、もう、どうと言う話でもないか」

 アルバートは「よし」と得意げな笑みをうかべ、水属性式魔術を発動する。床に空いた穴に水が満たされた。

 彼は、数秒中空を見つめてボーッとした。

 あと10m、5m、2m──今だ。

 タイミングを見計ったように飛び込む。
 すると、視界が切り替わった。

 『出口』は第三城壁内に指定してあった。

 そこは、追われる者と、追いかける者の激しい衝突によって、崩壊し、ジャヴォーダン城を包みこむ大雨によって浸水したエリアだ。
 
 すなわち──逃げ回るアイリスのすぐ側だった。

「っ、アルバート!?」

 水面から飛び出したアルバートに、アイリスは目を見開く。

 今まで、アルバート自身が追ってくる気配が無く、黒い影のキメラたちを、千切って、投げてを繰り返していたのに、いきなり本命が現れた。

 それも、完璧な不意打ちのタイミングでだ。

 アイリスは避けようと重力を無視した動きで、天井へと落下しようとする。

 しかし、暗殺術も修めているアルバートの鋭い間隙を縫った一撃は避けられなかった。

 命中。

 杖が悪魔の横腹を叩くと、白雷が爆発した。
 口から血を吐いて、アイリスは大きく吹っ飛ばされ、床を転がっていく。

「いったぃ……っ!」
「まだ、血は赤いのか。ああ、我が神よ、あの哀れな悪魔に永遠の安らぎを与えたまへ」

 悪魔祓いの伝統的な文言にしたがい、アルバートは演技臭く言った。

 もはや俗説レベルの知識だが、悪魔は心臓に聖なる杭を突き立てると滅ぼす事ができるらしい。

 お腹を押さえながら起き上がるアイリスの、すこし膨らんだ胸部へ、尖った聖火杖で狙いをつける。
 
 そして、飛び込む。

 アイリスは黒い杭で使って、懸命にアルバートの卓越した杖術をさばいていく。

 否、さばけていなかった。

 初撃のダメージゆえか、はたまた実力差がありすぎるのか……アイリスはアルバートの良いように聖火杖で何度も叩かれしまっていた。

 アイリスは想像を遥かに上回るアルバートの実力に、目を見開いて、驚愕を隠さないでいた。

 悪魔の脚力にものを合わせて、アイリスは廊下を踏み抜く。衝撃で爆発が起きて、廊下の一部が崩壊し、壁が破損、海のなかと錯覚するほどの大雨の外の景色が見える。

 アルバートは済ました顔で、傷ついた聖火杖を捨てて、新しい一本を取り出した。

 アイリスは呼吸を荒く、黒い杭を両手に召喚し直す。
 
「強いわね……あの時とは、まるで別物だわ」
「アイリスとは積み上げて来た時間と執念が違う」
「ええ、そうみたい……」
「……。君は俺に勝てない」
「ふふ、もう勝った気でいるの? やってみないとわからないわよ。勝負なんだから」
「違う、これはもう勝負じゃない。一方的な理詰めの制裁だ。リンゴが木から落ちるように、絶対的事実として、君は俺を倒せない」

 アイリスはムっとして、黒杭を2本投擲すると、間髪入れずにアルバートの懐に飛び込んだ。

 アルバートは黒杭を聖火杖で叩き落とすと、水平に振り抜かれる、黒い杭の横薙ぎ払いをしゃがんで避けた。

 足を払い、アイリスを転ばせる。

 追撃に、彼女の頭の位置が低くなった瞬間に、顔面を蹴り上げる。

「うっ……この脚力……っ」

 アイリスは目をつむりながら、常軌を逸したアルバートのパワーに舌を巻いた。

 ナチュラルな人間がここまでの膂力を手に入れる事は可能なの?

 一瞬、浮かんだ疑問は隙となる。息もつかせぬ追撃で、アルバートは聖火杖を突き出した。

 アイリスは空中で姿勢を立て直し、かろうじて躱した。

 だが、それがわかっていたかのように、アルバートは遠ざかるアイリスの足首を掴んで引き寄せると、床に叩きつけ、聖火杖で脇腹を刺してしまった。

 全身に雷が駆け巡る。
 杖は正面から身体を貫通していた。

「痛いって言ってるでしょ……ッ!」

 アイリスは歯を食いしばり、ムキになって聖火杖を掴むと、握力で杖身をへし折る。

 アルバートは「はは、悪魔的だな」と感心したように驚いた。

 蹴り上げてくるつま先をアルバートは、首を振るだけで避けると、逆に足首を掴んで壁に叩きつけた。

 そして、また聖火杖で胸の真ん中を突き刺して、壁に磔にしてしまった。

「だから言ったろ。これは勝負じゃない。一方的な制裁だ」
「な、んで……身体能力はあの時よりも上なのに……! 
「たしかに強い。鬼席か、それ以上だ。だが、それだけじゃ、ただ強いだけだろう」

 聖火杖を振り、アイリスを床に打ち捨てる。

「最初は焦った。なんせ、アイリスの記録が君には通用しないんだからな。悪魔になった君は、怪書からすれば別の個体という認識らしい」
「記録……まさか、観察と記録を?」

 アルバートは肩をすくめて肯定する。

「15分前なら負けていた。だが、もう俺の方が強い。ダ・マンや影害獣と追いかけっこしてもらってる間に、もう一度観察記録をし直した。──ちょうど今、90%完了だ」

 アルバートは怪書に視線を落としながら、冷たく言い放った。

「対象の観察記録は60%過ぎたあたりで、真っ当に戦えば負けない。80%あれば鬼席が相手でも渡り合える」
「はは……どうりで勝てないわけね」
 
 アイリスは薄く微笑み、壁を頼りに、フラフラと立ちあがる。壁に血の跡が描かれていく。

「さてさて、それでは、遺言でも聞こうか」

 肩で息をする血の姫は、眉根をひそめる。 

 彼が勝ち誇り、楽しそうだったから。
 嬉々とした表情を浮かべていたから。

 まさか、負ける?
 
 生まれて初めてだった。
 敗北とは、こうも腹が立つものなのか。
 
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