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再会
しおりを挟む老婆について行き、スラムへと足を踏みいれる。
近づくと一層ビル群は高く見えた。
サムスは自分が畏怖畏敬の念を抱いてしまっていることが気に食わなかった。
「ふん…建物がデカいからって、強いとは限らない」
「ひとりで何言ってんだい。さっさと付いておき」
高層ビルに威嚇するサムスをおいで、老婆は先へ行ってしまう。
「ああ、立派な馬だぜ、ありゃ」
「馬なんて久しぶりだな」
「馬かわいいー!」
「犬も乗っかってんな」
スラムの住民たちは、サムスの馬に興味津々であった。
(スラム住民なんて信用ならない。気をつけよう)
サムスは手綱をしっかり握り、ルゥが持ってかれないようにそっと手を添えて押さえた。
「わふゥ」
スラム街はサビの匂いが充満している。
足元に生える緑たちは、いつからそこにあるのかわからない赤茶けた鉄の塊につぶされていた。
住民たちは、壊れた車──自動馬車とも呼ばれる──を改造して家にしたり、廃棄された木材と鉄板でこしらえた家に身を押し込んでいる。
ちゃんとした建物も見受けられるが、どれも少なからず損壊していた。
遥か天空に築かれた未来都市のお膝元とは思えない格差が、ここにはあるのだと、来たばかりのサムスにすら感じとれた。
「はあ、やっと着いた。もう日が暮れちまってるねえ」
老婆はビルの間から差しこむ夕日を見て言った。
「散歩はここまでだ。さあ、婆さん。報酬を払ってもらおうか」
「はあ~たく、金にうるさい男はモテないよ」
「プロフェッショナルは誇りを捨てたらおしまいだ」
「ふん、そうかい。で、いくらだい」
「金貨3枚」
「馬鹿なこと言ってんじゃないよっ、たく」
老婆はサムスへ、片手いっぱいに握ったコインを渡した。
見覚えのないコインに、サムスは怪訝な顔になる。
「アルカディア・ドル。別世界領域の通貨さ。大陸全土でつかえる金貨、銀貨、銅貨、古銅貨とかは、ここじゃ貴金属として換金しないと使えないから気をつけるんだね」
「そうか。それで、これは何Aドルあるんだ?」
「ざっと600Aドルさね」
「その価値は?」
「んぅ~金貨5枚」
「…………」
サムスは絶対に騙されていると思いながら、とりあえず600Aドルで手を打つことにした。
「かっかっか、そうさね。スラムで生きて行くなら、それくらい柔軟なほうがいいさ」
「あとで差額分の裏を取って徴収しに来る」
「うぉ~こわや、こわや~」
サムスの不機嫌な顔に老婆はおどけて見せた。
「それで、人を探してるって言ってたねぇ、若いの」
「チタン村の生き残りを探してる。どこか情報を掴めそうな場所を知らないか?」
サムスのすがるような質問に、老婆は微笑む。
「そうさねぇ……ここにいるのは、別世界の下流階級か、異世界の流れ者。みんな過去を詮索せず、必死に生きてるんだ」
「……」
「けど、実はあたしゃだけ、チタン村にルーツを持つ少女を知ってるんさ」
「…さっきは知らないって」
「あれは方便さ。あんたがどういう人間が、見たかった。ガーディアンだなんて嘯くオオホラ吹きか、まあ信用してやらないこともない若造か、ね」
サムスはため息をつき、力なく首を振った。
「もういい」
サムスは老婆に背を向けて歩きだす。
ガーディアンであると言ってるのに、それを信じてもらえない事は、サムスにとって最大の屈辱であった。
「まあ、ガーディアンかどうかはまだ判断はつかないが……お前さんは信用してよさそうだとあたしゃ思ったわけだ」
「『ありがとう、ガーディアン』あの言葉の裏側で、あんたは1ミリも信用してなかったんだろう」
「そんな事ないさ。スラムに招いた時点でなんとなーくは決めていたさ」
もう老婆の言葉は聞かず、サムスは自分の足で探すことに決めていた。
そんな彼の背中を見送る老婆は「やれやれ、若いねぇ…」と疲れたように首をふる。
「若いの『アルカウィル』へ行ってみな。そこに、あんたの探してる子がいるかもしれない」
サムスは振り返り、老婆の顔をいちべつする。
彼は何も言わずにまた歩きだした。
──しばらく後
スラム街を歩きまわったサムスは、日が暮れた夜の街をさまよっていた。
人々の話を遠巻きに聞いていて、スラム街についてはある程度詳しくなっていた。
だが、道を人に聞かないせいで、一向に目的地にはたどり着けない。
(アルカウィル……)
「ブルルゥん」
「わふゥ」
「…疲れたか。そうか」
サムスは馬とルゥの抗議の目線をうけて、少し休憩することにした。
「あの馬の兄ちゃん、ずっとうろうろしてねえか?」
「しっ、見ない方がいいって。睨まれるぞ」
「何がしたいんだろーね……」
過ぎ去っていくスラム住人たちからは、もう完全に変質者扱いをされていた。
サムスは聞こえてくる声の主たちを睨み付ける。
「ヒッ…」
「すみません……!」
スラム住民たちは逃げるように散っていった。
サムスは思う。
もう遅いな。
ひと眠りしてまた明日探そう。
今夜は野宿になるし、空腹が辛いがそれも仕方ない。
「ブルルゥん」
「わふゥ!」
「戦場じゃ文句は言えない」
仲間たちの抗議を受けつけず、サムスはスラム街の通りの隅で眠りについた。
──しばらく後
「あの……大丈夫ですか?」
「…?」
サムスの耳に柔らかい声が聞こえた。
どれだけ眠っていたかはかわからない。
サムスはまぶたを持ちあげ、声の主を見つける。
彼の目の前に少女がたっていた。
彼女は壁に背を預けて眠るサムスをのぞき込んでいる。
短い黒髪、紅い瞳。
わずかに幼さの残る麗しい少女だった。
その顔を、見た瞬間。
あの鋭い頭痛がサムスの脳裏をおそった。
「うぐっ…ぅ…」
サムスの脳をかけめぐるのは、記憶の扉をこじ開ける無数のイメージだった。
サムスのこの少女に会ったことがある。
否、会ったというより、幾度となく顔を見たことがある。
その声も知っている。
去り際に香る匂いも知っている。
目元のホクロだって何故か印象的だ。
「ぁ、ぁ……」
掠れる声で、その名前を思い出そうとする。
「ぁ、あるう…」
「? えっと……」
少女は困惑した顔で、眉根を寄せた。
サムスは繰り返す。
「アルウ…アルウ」
「うーん、わたしはアルウですけど…あなたは一体……ん、あれれ?」
紅瞳がなにかに気づき、見開かれる。
向こうも気がついたようだ。
「サムス……?」
軽やかな声は確かめるように尋ねた。
サムスは目的の人物に会えたらしい。
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