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第一章 再誕者の産声
第12話 剣の道
しおりを挟むアディに剣士の道を提案され3日が経った。
俺たち家族が明日に身を揃えて森道を歩いている目的は、俺に剣を教えてくれるという先生に会いにいくためだ。
元冒険者である「炎剣」のアディが剣を教えればいいのに……と思うかもしれない。
だが、それは出来ないらしい。
アディはたしかに剣士だが、不思議なことに剣を振るための「技術」は身に着けていないらしい。
イマイチ俺もよくわかっていないのだが……おそらく我流だから、他人にちゃんと教えられるような技術体系にない……って事なんだと思う。
二つ名は「炎剣」だがアディは剣が下手くそ、というだけだ。
ほら物事の裏事情的なのでよくありそうな話じゃないか?
剣の苦手な剣士……耳が聞こえない作曲家……銃を撃ったことがない軍人……肉食のベジタリアン……パンケーキでインスタ映え……Tik T〇kで黒歴史.……あれ? だんだん変な方向に行ってしまったな。
「アーク、別に無理して剣を習わなくたっていいのよ?」
エヴァは心配そうな顔で言った。
「いえ、これは僕が選んだことですから。それに才能があるなら使ってあげないともったいないじゃないですか」
「んぅ」
エヴァが「んーんー」と唸りだす。可愛い。
彼女がこんな心配するのは、彼女が剣について否定的だからだ。
彼女の剣を語るときの態度は、どこか剣というもの自体を軽視・軽蔑している感じがする。
魔法学校や魔術大学を出た魔術師は剣を甘く見るものだとアディから噂を聞いたわけだが、どうやら噂は本当ぽい。
魔術師にかかれば剣士達は皆ワンパンなんだそうからそれも当然なのだが……ただ、このワンパンの情報源がエヴァなのであまり信用はできない。
ワンパンは流石に言い過ぎだとは思うしね。
「んー剣ねぇ、剣かぁ」
「剣ですよ」
「わふわふ」
人間は魔法によってこの大陸での地位を作り上げたのだから、魔法が至高のものであるという考え方もわからなくはない……が偏見はよくないのだ。
剣だってかっこいいじゃないか。
斬撃飛ばせるんだよ?
ロマンだよ?
「わふわふ」
「よーしよしよし」
剣士勢を若干フォローしつつ俺は広い視野で物事を見ていこうと決意する。
「大丈夫だよエヴァ。自然と圧を纏ってるなんて、アークはあまりに常識はずれだ。
俺にも出来ない事を3歳という年齢で無意識にやってんだ。お母さんの知ってる剣士よりずっと凄くなるに決まってるさ」
「うーん、でも剣士ってだいたい1発で終わっちゃうから、強いイメージって無いのよね。アークがあんな風になるって考えると……ちょっとね」
おや、エヴァは剣士と戦ったことがあるのか。
実感のこもった感想という雰囲気がする。
嘘でしょ……もしや本当にワンパンなのか?
「はぁ」
悲しいかな、頑張って練習してもワンパンされる運命だなんてよ。
エヴァの言葉にやる気を削がれつつ、シヴァの首に抱きつく。
「わふわふぅ」
「大丈夫だ、アーク。本当に本当にめちゃくちゃ凄い先生にお願いしてあるから、あの人に任せておけば絶対に大丈夫。きっとすごい剣士になれる」
「そうですかね……」
アディの期待もトラウマを刺激してくる。
前回の魔法の失敗で過度な期待はかけないように振舞ってくれるようになったが、
それでも言葉の端々で、俺に期待を抱いているということはわかってしまう。
頼むから俺なんかに何も期待しないでほしい。
期待されなければ、失望されることもないのだから。
本当、頼むからさ。
ー
結構な距離歩いた、もう着いてもいいはすだ。
ほどよい疲労感が足腰にきてる。
「はぁ、はぁ」
目的の人物はアルドレア邸とは町を挟んで逆側に住んでいるらしい。
こっちの方まで来るのは初めてだ。
町の反対側にはアルドレア邸のある森とは打って変わって、緩やかな起伏のある草原がどこまでも視界いっぱいに広がっていた。
もう少し暖かくなると、たくさんの羊達が解き放たれこの草原で大放牧が行われるのだそう。
「ここだ、アーク着いたぞ」
「はぁ、はぁ……これが先生の家ですか」
俺は肩で息をしながらアディの指し示めして建物へ視線を向けた。
見た目は木でできた大き目の掘っ立て小屋。
視界に入ってきたのはその程度の評価が妥当の簡素な家だった。
ここに俺の師匠となる人物がいるのか。
「そうだぞ。これからお世話になるテニールさんの家だ」
「テニール……ん、テニール……?」
ーーカチャ
家の方から玄関扉を解錠する音が聞こえる。
中から出てきたのは予想通りの人物だ。
「おやおや、これはよく来たねぇ」
灰色の髪と瞳、ピンと張った背筋、全体的に小綺麗な老紳士の印象を放つ気品溢れる姿。
少し前に橋であったじいさんだ。
品を感じさせるザ・オールドマン。
「はい、今回はお願いを聞いてくださりありがとうございます」
「いいや、いいんだよ。どの道こうなると思っていたからねぇ」
アディは恭しくテニールじいさんに挨拶をしている。
タングじいさんには馴れ馴れしい親しげな態度だったのに、同じ老人相手でも随分と違った反応だ。
「お久しぶりです。レザージャックさん、これからアークをよろいくお願いします}
「おやおや、エヴァリーン……久しぶりだねぇ。そんなかしこまらなくてもいいんだよ。私もその子に剣を教えたいと思っていたんだからねぇ。
さぁいつまでもそんなところに突っ立っていないで、中へお入り」
挨拶もそこそこにテニールじいさんは俺たちを中へ招いた。
「ほほう」
外から見ると掘っ立て小屋のイメージが強かったが、意外にも中はしっかりした造りになっている。
むき出しの丸太の力強い支柱が6本が壁際に並び、崩れ落ちそうな屋根をしっかりと支えていた。
ちょっと不安を抱いてしまう外観だったので、中の様子はしっかりしているようで安心だ。
大きな掘っ立て小屋の中は、石レンガ製のミスマッチな暖炉のおかげで部屋の中は温められていた。
「ゆっくりして行きなさい」
テニールじいさん手際よく準備したお茶をだしてくれた。
一方でシヴァは暖炉前を制圧完了したらしい。
もう既にくつろぎ始めている。
すさまじい仕事の早さだ。
「わふぅ」
お茶を一口のみアディは緊張した面持ちで口を開いた。
「テニールさん。その、先日お話しした件でですね、未熟で矮小な私ごときではその剣気圧なる物を見ることが出来なくて、息子が本当に圧を纏っているか確かめられないんです。
いえ、友人からの確認はもちろん、もらっているんですよ?
ただやっぱり今でも、ちょっと疑ってるっていうか、そのですね、やっぱりアークはーー」
「纏っておるよ……剣気圧。なかなか頑丈そうだねぇ」
テニールじいさんは紅茶を一口含み薄く微笑んで答えた。
「長く生きてきたけど、こんな事は初めてだねぇ。3歳の子供が……本当に信じられないことだ」
あ、信じられないことなんだ。
この達人っぽいじいさんでも初めて見る存在の俺。
これはキタな。はい、確定しました、異世界最強です。
「うーん、アーカム、君はいったい何者なんだね?」
「えへへ、何者って、ん、何者って……?」
テニールじいさんは、低く腹の置くから声を響かせるように言った。
言葉の意味はいく通りにも解釈できる。だが、俺にとってそらはは直感的に致命的な何かを問われているという危機感へと変わってしまっていた。
俺はとっさに質問の意味を問い返す。
「ぇ、それってどういう意味ーー」
途端ーー空気は凍りついた。
老人から送られてくるのは見返すのには鋭すぎる劔のような視線だ。
「ぁ、ぁ、ぅ……ッ!?」
喋ることができない。
心臓が鼓動を打つことを諦めようとしているのか?
とんでもない覇気、威圧感、わからない!
なんなんだこれは!
「は、はぅ……ぁ……ぁ」
もし仮に視線で人を殺せる人間がいたのなら、このテニールという男はそういう類の人間だ。
わけがわからない。
なんでそんな恐い目を俺に向けるんだよ。
「ふむ。少々恐がらせてしまったかねぇ」
テニールじいさんはやわらかい声でそう言うと、視線を親しみのこもったものへと変えた。
さっきまでの気迫が嘘のように霧散していく。
「ごめんよ、アーカム。悪気はないんだ。これはちょっとした実験なんだよ。
世の中には、人間にまぎれて悪さをしようとする者たちがいるからね。その悪い奴らは今みたいにするとすぐにわかるのさ」
「わ、悪い……奴ら?」
テニールじいさんは真っ直ぐにこちらを見据えながら言って来た。まるで俺が彼の言う悪い奴らだとでも言わんばかりの言い草だ。
「幸い、君は普通の人間のようだ。恐ろしい思いをさせてごめんねぇ」
「い、いえ、どうってことないです。えぇ……大丈夫です。余裕、です。はい」
額の汗をぬぐい、内心ビビリ散らしながらも平静を装う。
暖炉で丸くなっていたシヴァが近づいてきた。
鼻を俺の手の平にこすり付けてくる。
シヴァは「大丈夫?」と心配してくれてるんだろうか?
「くぅーん」
なんてやさしい愛犬なんだろうか。
巨犬の首の毛並みをわしゃわしゃと撫で乱してやる。
「そ、それでは、剣気圧を纏ってるって確証も、も、も、も済みましたし、明日から剣を教えてくれるってことで、よ、よろしいでしょうか?」
アディもなんか振るえてるような気がする。
テニールじいさんの覇気が恐かったんだろうか。
いじってやりたい衝動にかられるが、ここは父親の名誉のためやめておこう。俺も恐かったし。
「おやおや、そんなに恐がらなくていいんだよアディフランツ」
「えへへ、嫌だな~、ま、まさか恐がってなんか、いませんとも、テニールさん」
あんたがそれ言っちゃうんかい。
「この子は私が先生として責任を持って育てよう。次の時代を任せることになるかも知れないしねぇ」
「は、はい、わかりました。ではこれからアークをよろしくお願いします、テニールさん」
2人のギクシャクした会話が終わった。
アディにとってテニールじいさんは信頼できる人間であると同時に、恐怖の対象でもあるようだ。
この2人には過去に何かあったのかもしれない。
ー
翌朝。
アルドレア邸の食堂で家族そろって取る食事。
今日のメニューは、小麦で作られた白いパンとスクランブルエッグだ。
パンをちぎって口に放り込み元気よく租借していく。
ペッパーのかかったスクランブルエッグは一気に口にかきいれるのが乙だ。
「もっちゅもっちゅ」
うん、今日も美味い。
規則正しい生活をしているせいか、朝食がよく喉を通る。
朝ごはんを食べると1日の始まりを、元気で迎えられるからとても良い気分だ。
これも異世界に来て変わった生活習慣の1つである。
「アーク、テニールさんのところ行くんだろ? 途中までお父さんと一緒に行こう」
口をもぐもぐさせながらアディが話しかけてきた。
「父さんもシヴァ乗ります?」
「シヴァか。そうだな、俺も乗ろうか」
シヴァは大型のバンみたなデカさなので、大人のアディと相乗りすることも容易い。
「ねぇ、やっぱり、レザージャックさんのところいくの?」
寂しそうな声。エヴァが心配そうな目を向けて来ているのことに気がつく。
女神の薄水瞳が真摯な憂いの感情を宿しているのは一目瞭然だ。
エヴァはテニールじいさんのことを気に入ってはいない。どう言うわけかアディとは違いかなりかの老人の事を嫌悪している節さえある。
ただ、俺にはもうこれしかないのだ。
異世界で魔法の才能を得られなかった俺にはもう剣しかない。
力を付けてドラゴンと戦ったり、仲間と一緒に旅とかがしてみたいのだ。
果物屋とか武器屋でアルバイトをしてフリーターになるなんて……そんな、あまりにも夢が無さ過ぎる生き方は俺にはとても耐えられない。
冒険がしたい。
魔物とかっこよく戦って英雄なんて呼ばれたりしてみたい。美少女に囲まれてスケベな事もしてみたい。
俺はこの世界を楽しみつくしたいのだ。
その願望が日に日に俺の中で大きくなっている。
将来的にラノベ主人公を謳歌するために今は……今は頑張らなければいけない下積み時期なのだ。
だからーー。
「僕は行きます」
きっぱりと言い切る。
「そ、う」
悲しそうな顔するエヴァ。
お願いだからそんな顔しないで欲しい。
心に、決意に、薄っぺらい俺の覚悟が揺らいでしまうんだ。
「お母さんはテニールさんのことを誤解してるよ。大丈夫だから。ね?」
アディがエヴァを宥めるように言い聞かせる。
なんで、エヴァがここまで嫌うんだろ。
理由がわからない。
テニール・レザージャック。
あんたこそ一体何者なんだ?
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