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第一章 再誕者の産声
第17話 覚醒の前触れ
しおりを挟む「鎧圧」が突破されるだと?
俺の、俺の最高の盾が!?
「やばいッ! 離せぇッ! このクソッ!」
「ヴェアアア!」
転んでも痛くなかった。
タングじいさんもすごいと褒めてくれた。
師匠からも丈夫な「鎧圧」だと褒められた。
このクマの強烈なボディブローにだってノーダメージで耐えきった。
俺がこの異世界に来て持っていた唯一の特別が、特別じゃないものへ変わろうとしている。
「ヤベェ! ヤベ! やヘェェ! ヤベェェェッて!」
「ヴェアアアッ!」
テゴラックスに押し倒され完全に拘束される。
ーーバギャギィィィ
テゴラックスは顎の力をまるで緩めようとしない。
状況は悪化するばかり。
なんとか押しつぶされないように耐えていたのに、ここに来てテゴラックスに力負けだ。
著しく動揺したせいで「剣圧」を維持できなかったのだ。
これはまずい、凄くまずいッ!
「ぁぁあああっ! やめろォォッ! よせェェッ!」
肩口から鮮血がしたたりシャツを真っ赤に染め上げる。
遂に、牙の先が鎧圧を突破して肩に食い込んできたのだ。
信じてた防御を突破された事実。
久しぶりに味わう痛み。
全く動けない体勢。
捕食される恐怖。
なんでだよ、なんでこんな目に合わなきゃならない!
嫌だ!
こんなはずじゃなかった!
楽勝に魔物をぶっ殺して良い気分になれると思ってたのに!
ふざけるな!
ふざんじゃねぞ、このクマ野郎ッ!
「ぁぁぁぁぁぁああああああッ!」
師匠、師匠、師匠、師匠、師匠、師匠、師匠、師匠、師匠、師匠、師匠、師匠、師匠、
師匠、師匠、師匠、師匠、師匠、師匠師匠師匠師匠師匠ししょぉぉぉおお!
助けてくださいィィ! 助けてぇぇー!
なんでまだ助けてくれないんですか!
はやく! はやく! もうこれやばいですよ!
ギリギリ限界です! てかもう詰んでます!
ーーガギギギィィイイッ
「あぁぁああ、あぁ、ああぁぁぁ、ああッ!」
あれ……これ……もしかしたら……助けてもらえないのではないか?
「ヒッ……ッ!」
「ヴェァァア!」
自身の死が身近なものに感じた瞬間、心が軋み悲鳴をあげて壊れそうになるのがわかった。
全てこれから始まるはずだったのに。
転生しても何も与えられなかった俺は、自分の力で特別になろうと努力していたのに。
それなのに世界はこんな残酷な結末を俺に与えるのか。
まだ何も始まっていないのにーー。
「ぁ……やだ……助けて……」
「ーーーー」
もう外の音は聞こえない。
聞こえるのは内側からの声のみ。
囁かれる優しさに耳を傾ける。
どこからか聞こえてくるそれは黄泉の世界からの迎えのようにも思えた。
だが、死に損なった頭が彼の言葉を理解する時、同時に俺の体から何かが溢れ出し始めた。
「”大丈夫だよ。君は絶対に死なない。いや、死なせないさ。オレたちの本気を見せてやろうぜアーカムーー”」
「ベェィアァァ、ヴェ、ヴェァッ!?」
「ヴゥルォォォァアァア! このクマ公ぉお!」
轟音を腹の底を激しく振動させて搾り出す。
「ヴェ、ヴェ、ヴェァ!?」
「ヴウゥルゥァァァァアアアアアゥァァァア!」
突然訳の分からない力が体の奥底から吹き出すかのように溢れ出てくる。
熱い、熱い! 体が熱い!
全身の血管にニトロをぶち込まれたのか!?
穴という穴からマグマが噴出してきそうな途方もないエネルギーだ!
毛細血管の隅々まで熱湯がほとばしっている!
なんだってできる全能感のようなものも感じる。
凄く気分がいい。
俺は、神にでもなったのか?
「ヴゥルァァァァァ!」
テゴラックスに抑えられた腕。
俺はわずかな力を上腕に動員し熊の太腕を振りほどく。
「ヴェァ!?」
クマの首根っこを右手で掴み、噛み付いていた顎を左手で強制的にオープンさせる。
ーーボギィィィイッ
顎をオープンさせる際、何やら粉砕音がした気がするがそんなことは気にしない。
「べギ、ャアァ、ァア、アッ!?」
「ははっ!」
「ヴァアァァ……ァ、ァッ!」
シロクマの首根っこを掴んだ手を無造作に左右に揺らしてみる。
旗を振るような要領で……放り投げられそうだ。
「ヴェッーーーー」
マウントを取っていたテゴラックスがバカみたいな速度で森の中を飛んでいく。
体重1トンの肉弾砲として樹々を半ばでへし折りながら、遥か向こうへ消えていった。
テゴラックスを投げた事で発生した風圧でもう1頭のテゴラックスも吹き飛ばされ巨木に体を打ち付けている。
押しのけられた空気によってあたりの巨木もきしみ、折れているものもある。
もう何が何だかわからない。
「ヴェァッ」
「ぇ……夢?.」
正直、現実味がないが、意外にも冷静な自分がいることに、自分で驚く。
この溢れる力をそれなりにコントロールできている事にも驚きだ。
なぜ俺はいまこれほどに冷静に力を操れているのだろうか。
「べ、べ、べァッ……」
「ぁ」
掠れた熊の鳴き声。
もう一体のテゴラックスに向き直る。
巨木に体を打ち付けた熊が生きていたらしい。
距離は10メートル以上あるが……今ならいける気がする。
テゴラックスとの間合いを詰めるたまに「縮地」を使ーー、
「べァーーーー」
「ッ!?」
爆発音を後方に置き去りにし景色が切り替わった。
一瞬視覚を疑うことが起きたのだ。
近づこうとしたらそのままテゴラックスに正面衝突してしまった……脚力が強すぎた?
いいや問題はそこじゃない。俺の体は衝突と同時に、テゴラックスの胴体を貫通してしまったのだ。
感触はなかった。
水のカーテンのなかを通り過ぎたくらいはあった、か……?
刹那の後、森の深部の遥か離れた巨木に突っ込んでようやく止まれた。
景色が切り替わったのは文字通り俺の位置が一瞬で切り替わったせいだ。
あまりにも想定外。
「縮地」の距離を測り間違えたとかのレベルではない。
一瞬で森の景色が変わるほど移動してしまった。
「ぅ、えぇ……」
遥か後方遠くに見える絶命したシロクマは、見るも無惨な内臓が辺りに爆散させられている。
俺がやったことが未だに信じられない。
「な、なん、こ、れはどうなってん、って臭ッ! え、なに! なんだこれ!」
体に着いたテゴラックスの内容物のひどい臭いに正気に戻された。
「そっか、俺倒したのか……」
とりあえず、倒した。そこだけをまずは確認だ。
「まずは落ち着かなければ、よし」
自分に言い聞かせて、とにかく冷静になろうと努力する。
いつだってクールにクレバーにいこうぜ。
自分の手のひらを眺めるながら「これ覚醒イベントか?」とか「はい、こっから俺の物語が始まる!」とか「俺凄すぎじゃね」とかいろいろ考えたいことはある。
が、一旦思考停止しようか。
また距離間違えてどっか飛ばないように慎重に歩かなきゃな……。
ー
「ぉ」
少し歩いたところで足音が一つ近づいてくるのがわかった。
「おやおや、凄まじい姿だねぇ」
予測通りの師匠。テゴラックスの内容物に汚された俺を見て師匠は苦笑いを浮かべている。
ただ、
「師匠」
「ん?」
この男には言いたいことがある。
「師匠っ! 助けてくれるって言ったじゃないですか! どうして助けてくれなかったんですか!?」
そう、援護遅すぎる問題だ。
これはもう責任問題に発展してもおかしくない。
「あぁ、なんだ……そっちかい。いやぁ、すまんねぇ。まだイケると思ってたよ」
「どう見たって無理だったでしょう!? あんたは鬼かっ!?」
「ほっほっほっ、君がテゴラックスを投げる直前には、流石にまずいと思って飛び込もうとしてたんだよ? ギリギリ限界はあの瞬間だった」
「でも、鎧圧にダメージ入ってましたし、もうちょっと早くたって……ッ!」
「ふむ……勘違いをしているねぇ」
「え、勘違い……?」
師匠の低くなった声に背筋が凍る感覚を覚えた。
調子に乗って怒らせてしまったか……?
俺は出来るだけ体を小さくして師匠の言葉を全く。
「ほっほっ。鎧圧が破られそうになった瞬間から君は負けを認めていた。そこだよ、アーカムが勘違いしているのは」
「いや、そんなことは……」
「本当の闘争では鎧圧が破られることが負けじゃない。鎧圧が破られても、血を流しても、体に穴があけられても、腕をなくしても、
生きている限りは足掻いて、足掻いて、心だけでも負けないようにするものだ。一矢報いてやる……頑強な意志を持たなくてはいけないんだよ」
言われると師匠の言ってることが全くその通りな気がしてしまうのだからずるい。
この世界のじいさんはみんな力のこもった言葉を使えるのか。
「ん? 違うかい? アーカム」
覗き込むように片眉あげる師匠。
「はぁ……おっしゃる通りです……」
俺は素直に肯定してうなだれた。
「ほっほっほっ」
自分が情けない気持ちになってくる。
「……匠の言いたいことはわかりました。ありがとうございます」
「おや、随分殊勝な態度になったねぇ」
殊勝にもなるものだろう。
師匠はなんで助けてくれないんだと、あの瞬間、信頼していた者に裏切られたと俺は感じていた。
助けてくれない師匠を呪った。
しかし実際は、師匠は俺の持つ未熟な部分をわかった上で選択したのだ。
テゴラックスと戦わせ続けることを。
ま、それでも、助けては欲しかったけど。
「まぁいいか」
また1つ勉強になったと考えようじゃないか。
俺はクールでクレバーでポジティブな男だ。
過ぎたことは気にしないのさ。
「師匠、今回は自分の未熟さに気づくことが出来まーー」
とりあえずお礼をしよう。
俺は幼い子供ではないのだ。
感謝の言葉を述べられるのは大人の特権なのさ。
「おっとと、アーカム、動いてはいけないよぉ?」
「て、ヒィッ!?」
しかし、最後まで師匠が喋らせてくれることはなかった。
止められたからだーー凶器的に。
「……ぇ……ぅそ……?」
「ほっほっほ!」
師匠ははニヤニヤと邪悪な笑みを浮かべてこちらを瞳見据えてくる。
いつの間にか抜き放った銀黒色の剣を俺の喉元に突きつけながらーー。
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