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第二章 現界の超能力者
第25話 路地裏のゲンゼディーフ
しおりを挟む筋肉どころ「タングストレングス」ーー。
ここは非常に危険な場所なので入れるメンバーはアディと俺の男連中だけだ。
エヴァ、エラ、アレックス、そしてシヴァは今頃ボンレス広場を駆け回って遊んでいるだろう。
「やぁ、カイワくん。また来たぜ」
「あ、アディさん、こんちには! 今日はアーカムくんも一緒なんですね」
「こんにちは、カイワさん、今日は長剣です。3本ほど買おうと思ってまして」
師匠から予備の剣を揃えておけ言われているのだ。
いい機会なので公園でピックニックする前に買っていこうと思う。
「なるほど、長剣ですか。でしたらあちらの方の棚からお選びください!」
カイワは100センチ前後の直剣がずらり並んでいる武器棚の場所を教えてくれた。
なかなかいい感じの剣が並んでいるのがわかる。
流石はタングじいさんのところの剣たちだ。
近づいて剣の目利きを始める。
「うーん」
師匠は剣を買っておけと言っただけなので、特にどんな剣かは指定してこなかった。
今までは短めのブロードソードばっか使ってきたので、今度は長いのものを振りたいな。
「あぁこの剣はタングが鍛えたな」
「ふーん、そんなことわかります?」
隣でアディも剣を眺めながら楽しそうな顔。
うちの親父アディは無類の剣好きだ。
本人の性質も相まって丈夫で長持ちするのが好みなんだそう。
「さて……」
目を細めて、刃の先を吟味。
異世界では……というかこの店で売っている剣は見たところほとんどがソリの無い直剣ばかりのようだ。
日本男子としては片刃のソリのある日本刀チックな剣が使いたかったのが……無いのなら仕方ない。
カルイ刀はソリがあり片刃だったので他にもあるのかと期待していたのだが、どうにもカルイ刀だけが特別なだけで、タングじいさんの鍛冶場では刀は作ってないと見える。
「ともしたら直剣を買うしかないですかね」
「一応言っておくがそっちの高いのはやめておけよ」
アディは武器棚の左側を指差して言った。
ふむ、なるほど「魔力武器」か。
剣気圧を正規の手段で修得するまでは「なんか光ってるなぁ~」程度にしか見えなかった武器だったが、今では武器に宿っている魔力がちゃんと見える。
この付与された魔力の層が同じ魔力由来の鎧圧に効果的に働くのだと、今では理解することも可能だ。
「うわぁ! これは確かに高いですね」
値札を見て目が飛び出すかと思った。
恐ろしい金額が平気で書かれている。
「だろ? お前は良い剣圧使えるんだし、こんなの買う必要ないからな」
「いや、でも光っててカッコいいなぁ」
「馬鹿野郎。そんなノリで買える値段じゃねーだろ」
「うーむ、仕方ないですね。じゃコレとコレ、あとそっちのにします」
「一気に適当になったな! ちゃんと見て買えよ?」
「もう見ましたよ。師匠に良い剣と悪い剣の見分け方とか教えてもらってるんで、すぐわかるんです」
「ふーん、そういうことか。ソレとソレとコレでいいんだな?」
アディは3本の長剣をそれぞれ手に取って、注意深く剣身を眺めていく。
そして納得がいった様に、うんうん、と頷きこちらに向き直ってきた。
「確かに悪くない剣だな。いやはや慧眼でございますなぁアーク殿」
「いえいえ、それ程でもあるかと」
アディは3本の長剣をカイワのいるカウンターへ持って行った。
ー
右腰にはお守りとしてガーゴイルの杖。
左腰には、最近返還されたカルイ刀とただいま買った長剣の二刀スタイル。
とてもボンレスなんていうのどかな広場で、ピクニックを楽しむ装いではない。
「広場で剣振り回しても怒られないですかね?」
「あぁ別に怒られはしないだろ。みんなのボンレス広場だからな」
「だからこそですよ……お?」
広場への道中、俺の「剣知覚」に何かが引っかかった。
暇を持て余して、なんとなく知覚範囲を最大にしていたら、突如魔法が使われた気配がしたのだ。
「あ、なんか……」
「どうしたアーク?」
アディは気づいていないようだな。
元から「剣気圧」が使えない上に、そもそも常に感覚を研ぎ澄ましている奴はいない。
「うーん……よし」
大した距離でもないしちょっと見てみることにしよう。
「父さん先行っててください。今知り合いを見た気がしました」
「え、あぁッて! お前友達なんていたのかよ。どんな子だ? 俺に紹介してくれないか?」
「ぇ、いや、ちょっと、そんな絡んできます……?」
アディが思ったより面倒くさいぞ。
俺に友達がいる事がそんな不思議だろうか?
「嫌ですよ、あの子は父さんみたいなタイプの人間が苦手なんです」
「おい、アーク、あの子ってもしかして女の子か!? 尚更会わせてくれよん!」
なんでこんな絡んでくるねん!
「付いてきたら、父さんを誘拐犯にしたて上げて親子の縁を切ります」
「おま、ちょ、そんな俺に会って欲しくないッ!?」
アディとの会話を切り上げて隣の通りへ走り出す。
俺の「剣知覚」が教えてくれる場所は暗く湿っぽい路地裏の入り口あたりだった。
「ぉ?」
声が聞こえる。何人かいるな。
曲がり角の向こう側を覗き見る。
「なるほどね」
複数の人影を見つけた。
正確には5人。
うち4の少年が同じ年くらいの少年を囲んでいた。
囲まれた少年は地に伏して、頭を抱えて周りの少年達の暴行に必死に耐えている。
集団リンチか。
この構図は間違いない……イジメってやつだ。
「これは酷いな、イジメかい」
アディはそう言って眉をしかめた。
ん、待てよ……アディ?
「え! アディ!?」
「こらこら! 静かにしろ! てかまた呼び捨てしたな!」
なぜかアディが俺の後ろから一緒にイジメ現場を覗いていた。
「何してるんですか? 付いてきたんですか?」
「当たり前だろ。ってか何してるだ、はこっちのセリフだぞ、アーク、俺はお前を見損なったぞ」
「……え、何がですか?」
アディは真面目な顔で続ける。
全く心当たりのない名誉毀損に俺は首を傾げた。
「友達がイジメられてるのに、お前はコソコソこんな所で隠れてるなんてな」
「…………あー、そういう事になりますか」
なるほどそういう結論を出したのか、親父。
これは完全に勘違いというやつだ。
俺はあのいじめられっ子の友達じゃない。
「父さん、別にあそこの子は俺の友達ではなくてですねーー」
「言い訳無用! ほら自分の友達くらい自分で守ってやれ! 理不尽な暴力から人を守るためにお前は修行してきたんだろ!」
「そういうわけじゃ……おわッ!?」
問答無用のヤクザキック。
アディは話を聞かずいきなり尻を蹴っ飛ばしてきた。
「ぁ……」
するとどうでしょう?
曲がり角の先へ躍り出たではありませんか。
少年たちからは俺の姿が丸見えだ。
「ほら、いけ、アーク、いけ!」
コソコソアディはエールを送ってくる。
絶対これ気付かれた。
アディめ、やってくれるじゃないか。
恐る恐る少年達の方へ向き直る。
「……おや?」
少年達は倒れ伏す少年に夢中で俺に気づいた素振りはない。
案外、気付かれないものである。
ホッと安心してチラッと後ろを振り返ってみる。
アディが声にもならない声で口をパクパクさせているのが見えた。
きっと「ほら! 行けよ!? 血を見せろ!? あいつらぶっ殺せッ!」とか言ってるに違いない。
アディの過激な要望には応えられないが、こんないじめ現場の眼前いまさら引き返すのもアレだ。
ちょっと助けてやろう。
俺は日頃からハードな修行をしてきている。
同年代だったら俺の方がずっと強いはずだ。
昔、ガキどもを倒したことだってあるのだ。
そうさ、大丈夫、俺の方がずっと強い。
うーん、それにしてもなんて声を掛けるか。
こんなテンプレないじめ現場なのだ。
俺もテンプレートに沿って、それっぽい言葉を使ってみたいところだな。
よし、決めた。
すこしお洒落にいこう。
靴底と路地裏の石畳で高らかにタップ踏み、振り向けばヒーローの登場……シビれるだろう?
ーータンッタッタタッタタンッ
「さぁさぁ、お立ち会い! こっちだ、そこの悪党ども!」
いじめっ子どもの注意が一斉にこちらに向く。
「な、なんだ!? おま! お前誰だよ!」
「こいつ助ける気かよ!?」
「お前こいつの友達か!?」
「カッコつけんなよ!」
「俺か? ふん……俺はお前たちを倒す者だ。それとその子の友達ではないと初めに断りを入れさせてもらおう」
チラッと、彼らの足元に伏す少年を見やる。
希望に満ちたキラキラした目してやがる。
そんな目で見るんじゃぁない。
助けるしかなくなっちゃうじゃないか。
「おい、イジメっ子A、B、C、D、一応忠告しとくけど、俺、強えんだ。怪我したくなかったら、今のうちに逃げることをオススメしとくけど……どうする?」
一旦いじめっ子どもに「逃げる」という選択肢を提示してみる。
「なめんなぁ!」
「このカス!」
「死ねぇぇ!」
「カッコつけんなよゴミ!」
「う~ん……なかなか辛辣」
まっ、こんなんで逃げてくれたら苦労ないぜ。
「かかってこい!」
『オラァぁ!』
左腕をだらりと下げた臨戦態勢に入る。
最近開発中のちょっと格闘スタイルなのだが、彼らはいい実験台になってくれるだろうか。
「すぅ……」
高速のジャブで意識を刈り取ってやろうと考え左腕をしならせようとしーー俺はふと気がついた。
今、剣あるなーーと。
俺はなんとなく腰の剣に視線を落とす。
そうすると、俺の動きが一瞬止まった理由に相手も気づいたらしい。
いじめっ子どもは目に見えて動揺し始めた。
「お、お前! 剣持ってるとか卑怯だぞ!」
「い、いやいや、ただの喧嘩に剣とか!」
「さ、さ、さ流石にそれはねぇ!」
「へへ! け、剣とかマジになんなよ!」
「……ふむ」
めちゃくちゃビビっているじゃないか。
こんな子供でもやはり剣を持った相手の恐ろしさはしっかりわかっているようだな。
何気なく帯剣していたが、これは存外に相手を威嚇する手段として効果的みたいだ。
「なるほど、なるほど」
そうとわかれば、あとはこっちのもんだ。
俺は独自ヒッティングスタイルを解き、剣の柄をカチカチッと音を立てながらいじりはじめる事にした。
実力行使してもいいのだが……まぁ、せっかくだし少し遊んでみようじゃないか。
「へいへい! ボーイたちぃ? こいつはすげぇ剣なんだぜぇい? 今まで数多のドラゴンの血を吸ってきた伝説のつるぎドラゴンキラーってのは、あぁぁー!この剣のことよぉお! テメェらもこの剣の鯖になりたくなかったらさっさとお家に帰って、ママのおっぱいでも吸うことだなぁあ!」
剣を鞘から引き抜き、刃を舐め回す。
さながら世紀末の悪漢のマネをしながら、ペラペラと脅していく。
途中に「アッヒャヒャー!」という卑劣な笑いを混ぜ込むのを忘れない。
「ひ、ひぃぃ!」
「うわぁぁぁ!」
「こいつやべぇって!」
「完全にイカれてるぅ!」
「アヒャヒャッー! ハッハー!」
いじめっ子達は各々の心象を口にしていき、そのまま路地裏の出口へと我先に走り出した。
「お、覚えてろよ!」
「うわあぁぁぁ!」
「こ、このイカレ野郎!!」
「モヒカン似合いそうなキャラしやがって!」
いじめっ子どもは、しっかりと小物のセリフと核心を突いたコメントを残しながら去っていく。
彼らが居なくなって陰湿な路地裏にはただ静寂が残るばかりだ。
大通りと比べて、なんとも静かなものである。
「さてと」
この手のイベントはいじめっ子達を撃退して終わりではない。
必ず助けた人間を介抱してやるまでがテンプレだ。
俺もちゃんと最後までやり遂げようと思う。
「あ、あの……」
探しても姿の見えないアディの見事な気配遮断に賞賛を贈っていると、足元から声が聞こえた。
「あ、ありがとうございますッ! 僕、僕もうダメだって思って、杖も、折られ、て、ぅぅうぅうぅ……」
「よしよし、もう大丈夫だよ」
少年は俺にお礼を言いながらも、堪え切れなくなったようで泣き出してしまった。
「よしよし、もう大丈夫だからね」
小さい子の相手をするように、頭をナデナデして泣き止ませるよう試みる。
「うぇ、うぅぅぅ、うぇぅぅう」
こういう場合はどうすれば良いんだろうか?
何か気を紛らわせたり、あるいは話を振ってみるべきなのか?
対子ども経験の少な過ぎる俺は少々困っていた。
とりあえず名前を聞いてみよう。
「大丈夫だよ、よしよし。ところで、君、名前はなんて言うの?」
「うぅ、うぅぅ、う、僕、ゲンゼ、ゲンゼディーフぅぅ……」
「ゲンゼディーフかぁ! 良い名前だね!」
ゲンゼディーフ。
カッコいい名前だ。
なんていうか……凄い強そうな名前だな。
「ゲンゼディーフ、さっき杖が折れたって言ってたけど、これのことかい?」
ゲンゼディーフの傍の真っ二つに半ばから折られた短杖を指差して言う。
「そ、う、僕の杖を、うぅ、ガイル達が、折ったんだ。誕生日に、もらった、うぅ、ずびぃ、僕の杖なのにぃぃぃいい、ぅうぅうぅ!」
ゲンゼディーフは再び、わんわんと泣き出してしまった。
誕生日に貰った杖。
その言葉を聞いて、無意識のうちに腰に差してある杖に触れてしまう。
きっと大事なものだったんだろう。
杖は高価な物だ。
剣と比べ、平均的な相場は杖の方がずっと高い。
この折られてしまったゲンゼディーフの比較的安い短杖でさえ、鋼の剣が何本も買えてしまう。
それを平気で折るとは信じられないガキどもだ。
どうせなら折るんじゃなくて、奪えよ!
これだから、物の価値がわからないガキは!
「ほら、泣かない泣かない」
「うぅぅぅぁあ!」
ゲンゼディーフは多数に一気に襲われたんだろう。
魔法が使われたのは彼が抵抗したからだ。
だが、魔法の発動は1回だけ。
杖を奪われ、折られてしまっては魔法は使えない。
魔術師にとって杖がないのは致命的だ。
「辛かったね」
「ぅん、ぅぅぁぁああ!」
ゲンゼディーフの悔しい気持ちが、無念が、染みるようにわかってしまう。
こんな幼いのに既に魔法を実戦レベルで扱えるなんてゲンゼディーフは、きっとたくさん努力したんだ。
そうしてゲンゼディーフの努力した結晶である魔法が人数、暴力という理不尽な力に淘汰された。
殴る蹴るなんて、どんな馬鹿にだって出来る。
だが、魔法は違う。
ゲンゼディーフの魔法を練習した時間が無駄だったわけではない。
魔法が理不尽な暴力に劣っていたのではない。
人が真に努力して手に入れたモノが意味の無かったモノである事などありえないのさ。
今回はタイミングが悪かっただけだなんだ。
俺は腰に差してある杖をホルダーごと取り外した。
自分自身、魔術師を志した経験があるからこそ、俺はゲンゼディーフに挫けて欲しくなかったのかもしれない。
俺がたどり着けなかった、魔術師になった少年。
それを見て、ある意味では自分の夢を託したくなったのかもしれない。
未だ、泣き続ける少年の手を握る。
ゲンゼディーフがこちらに顔を向けてきた。
手の平の上に杖を置き握り込ませる。
「ぅ、うぅぅうぅ……うぅ?」
ゲンゼディーフは一瞬それがなんなのか分からなかったらしく、頭の上に「?」を浮かべながらジッと見つめていた。
しかし、数瞬の後それが何か分かると目を見開いて口を大きく開けた。
「ぅうぅぇ、え! つ、杖だ! くれるの!?」
「あぁ、いいよ。その杖あげるよ。もう俺には必要のない物だしね」
魔術師になれなかった自分。
魔術師になったゲンゼディーフ。
負けて欲しくない、ここで終わって欲しくない。
そんな事実が……気持ちが俺に杖を託させた。
「え! でも高いのに! えー! やったぁ! ありがとう! 本当にいいのー!?」
「あぁいいとも。だからもう泣いてはいけないよ?」
これだけ純粋に喜ばれてしまうと、杖をプレゼントした甲斐があったというものだ。
ゲンゼディーフも元気なった事だし、これにてイジメ現場遭遇イベントは完了だな。
それじゃボンレス広場行って素振りでもするか。
「ッ!」
「……ん?」
と、そこへ視界の端にチラッと何かが入って来る。
「ゲンゼ! 伏せなさい! ≪風打≫!」
「あっ! サテーー」
ーーブウゥゥゥゥンッ
「うがぁぁぁぁ!」
誰かが高い声音で何か言ったと思った瞬間、凄まじい衝撃が全身に襲いかかってきた。
何かが高速で近づいて来る事だけはわかった。
だがそこまでだ。
気がついたときには体が浮いていた。
圧倒的なパワーに押し飛ばされて後方の石壁に、思いっきり叩きつけられる。
「あがッ! はうッ!?」
訳がわからない。
意識が遠のいていく。
鎧圧を全開で攻撃に備えたはずなのに。
何故だ?
俺の圧の層が薄すぎたのか?
可能性はある。
剣気圧のコントロールが出来る様になってから、常日頃から今までのような分厚い鎧圧を纏うことはなくなった。
その方が疲れないからだ。
そのせいで鎧圧の展開が遅れた……?
「ぁ、あ、ぅ」
いよ、いよ、視界が、効かなく、なってきた。
あぁ、師匠、俺は、ここで、死ぬんで、しょうか。
す、みま、約束、守、れそ、にありま、せーー。
ー
「ぅ……う、ん?」
頭が痛い。
バットで思いっきり殴られたみたいに奥深くに響いているような感じだ。
はて、何があったか思い出せない。
記憶が曖昧だ。
「ぁ、あ、れここは……」
身体中に硬い感覚が伝わってくる。
「あ! 起きた! 起きたよ!」
ん? なんだこの子供は。
どっかで見たことあるような、無いような。
目の前の男の子が何やら焦ったように声を上げている。
茶色の瞳に、明るい茶髪に、なかなかのイケメンフェイス。
異世界に美男美女が多い法則は、この世界でも適用されているので、ある意味標準フェイスと言ってもいい。
「おはよう! 大丈夫? どこかケガしてない?」
「ぇ、ぁあ、大丈夫、みたい」
あ、わかった。
こいつゲンゼディーフじゃん。
そうだそうだ、路地裏でいじめっ子達から助けてあげて、それで……よし、思い出して来たぞ。
「よかったぁ! すごい丈夫なんだね! さっきサテリィ本気だったから、死んじゃったかと思ったよ!」
「さっき、の……アレか……」
完全に思い出したぞ。
吹き飛ばされて、壁に叩きつけられ……。
「さっきは本当にごめんね。助けてもらったのにあんな……サテリィも悪気があってやったわけじゃないんだよ?」
「あ、あぁ、別に良くないけど、ちょっと待ってね」
状況の整理がついてないので思考時間を貰おう。
「そういやどれくらい寝てた?」
「うーんと、20分くらいじゃないかな」
あまり時間は経ってないな。
「……うぅ」
体を起き上がらせる。
怪我していない事を確認。
すごい衝撃だったが、体に異常は無いようだ。
石に寝かされた事が原因の頭の痛み以外は特になにも無い。
「あ、あの……」
ゲンゼディーフのすぐ隣にいた焦げ茶色の髪の毛と瞳をした少女が口を開いた。
お前がサテリィだな、と一瞬で悟る。
目の前の女の子を見て色々と納得がいったのだ。
サテリィと思われる女の子は気まずそうに、こちらを見ていた。
とりあえず、どんな謝罪の言葉が飛び出すのか待ってやろう。
さて、人様をいきなりぶっ飛ばすなんてどんな理由があるんだ? あ? 事と次第によっちゃ体で色々払ってもらおうかな……ぐへへ。
「じぃーっ」
「あ、その、えっとね」
真顔で特に痛くない左肩を抑えて無言で抗議の視線を送り続ける。
「じぃーっ」
「ッ、さっきは本当にごめんなさい!」
沈黙に耐えられなくなったのかサテリィはブワッと音がしそうなほど勢いよく頭を下げて音速の謝罪をお見舞いしてきた。
「うぅぅ」
大きい瞳に快活な雰囲気を持つ可愛い子。
だが今は申し訳なさそうな顔をし、小動物のように小さくなってしまっている。
反省が全身から伝わってくる。
「その……またゲンゼがイジメられてると思って……いつもは私が助けてあげないと、だったから……だから、その、その……ほ、本当にごめんなさい!」
再び、女の子は勢いよく頭を下げて来た。
まぁ反省してるようだし許してやらんこともない。
「ゲンゼディーフを助けようとして、やったのか」
「ッ、そう! そうなの! ゲンゼは弱いから、いつもイジメられてて!」
事情はわかった。
だけど、勘違いであんな魔法を食らったのかい?
俺じゃなかったら死んでないかい、あの魔法。
特に子どもになんか絶対撃っちゃダメだよね?
「……あぁ、別に気にしてないよ……全く、うん」
「ありがと! あなたとっても優しいのね!」
俺が被害者としてでなくいろいろ懸念を巡らせていると、女の子はそう言って愛らしい笑顔を浮かべた。
泣いたせいか目元と頬が赤く高揚していて可愛い。
「サテリィ、今度から気をつけてね! あんな魔法使ったら人が死んじゃうんだから!」
「ふふ! 大丈夫! もう間違えないもん!」
「……はぁ」
お気楽な子供達とは打って変わって、俺は1つの現実を思い知っていた。
話には聞いていたが。
まさかこれほど顕著だとはな。
これは本当に本当に深刻な問題だ。
結論が出てしまったのだから。
鎧圧は魔法攻撃に対して、マジで役に立たない、という説はかなり信憑性が高くなってしまった。
話だけなら「鎧圧」は魔法に弱いと師匠にも言われていたけど、こんな弱いなんて思いもよらなかった。
俺の得意の鎧圧が、なぁ。
これはちょっと師匠に相談してみたほうがいいかもしれないな……対策考えないと本当にワンパン案件だよ、これ。
顔を上げて天を仰ぐ。
気絶する前より、若干太陽が高く登っている。
あれ、そういえば俺……。
「そうだ……エヴァ達待たせてるんだった!」
「あっ! あれどこ行くの? 僕の家に来てよ! 何かお礼を! 杖も貰っちゃったし!」
ゲンゼディーフが腕を引っ張って引き止めてくる。
「杖のことは気にしないでいいよ。あげたいと思ってあげたんだから。あっ、だけど今度はあいつらに負けんなよ! それじゃもう行くわ!」
「あ、ちょっと待ちなさいよ! 名前だけでも教えて行きなさいって!」
サテリィも元気よく腕を引っ張ってくる。
なんだ、さっきのしゅんとしてのは演技か!?
マジで離してくれ、行かなきゃ行けないんだ!
「私はサテライン! サテライン・エルトレットね!で、この子がゲンゼディーフ!」
聞いてもないのに強引に自己紹介。
相手に名乗らせといて無視するというのも礼節にかけるな……。
「俺……僕、いやいいか、俺はアーカムだよ、また会うことがあったらよろしくな」
「アーカム……ね」
「それじゃ、人を待たせてるからもう行くよ」
「それじゃ、ね! また会いましょ! 私たち、ロールベルズ二番地に住んでるから、絶対来てよね! エルトレットだからね! 絶対よ!」
「絶対来てね! ママがお菓子を焼いてくれると思うし……その、絶対だよ! 絶対来て!」
最後のほうを半ば聞き流しながらボンレス広場へ。
後ろを振り返ってゲンゼディーフとサテラインに大きく手を振って彼らに別れを告げた。
ー
ーーゲンゼディーフ視点ーー
ー
男の子の背中がどんどん小さくなっていく。
僕のピンチに風のように現れたヒーロー。
颯爽《さっそう》と現れ1人でガイル達を追い払って、僕のことを助けてくれた彼の名はアーカム。
ガイル達はアーカムの剣を見て怖がってたみたいだったけど、多分アーカムは戦ったとしてもすっごく強い戦士なんだと思う。
なんたって、サテリィの魔法を受けてもピンピンしてるんだ! 普段から体を鍛えてるに違いない!
アーカムはすごくカッコよかった。
サテリィ以外で、僕と同い年代のこんなすごい人がこの町に住んでるなんて知らなかった。
「ねぇゲンゼ……あんた今日初めて会ったの?」
「えっと、アーカムのこと? そりゃもちろん今日が初めでしょ?」
なんでサテリィはこんなこと聞いてくるんだろう?
あんなすごい人に会っていたら、忘れるはずないじゃないか。
「そう。ふふ! やっぱりヒーローだったのね!」
「サテリィ?」
「ん! ゲンゼには関係ないこと!」
「いてっ!」
サテリィに杖で小突かれてしまった。
ちょっと嬉しいな、じゃなくて痛いや。
「それよりゲンゼ、アーカムに貰った杖見せてよ!」
「そうだよ、アーカムから杖を貰ったんだった!」
危ない、危ない! 忘れるところだった!
大事な事なのにいけないいけない!
「あれ? そういえば、アーカムは剣を持ってたけどどういう事かしら? 杖も持ってたんでしょ?」
「うん……なんでだろうね?」
サテリィは不思議そうな顔でしばらく考え込んでいたが、やがて気にならなくなったらしくアーカムから貰った杖を勝手にホルダーから引き抜いてしまった。
「あぁ! これエングレーブ入ってるわ! すっごぐカッコいいわー!」
「本当だぁ! カッコいいね!」
こんな立派な彫刻が入った杖を持っているなんて!
立派な彫り物は一流魔術師の証なのだ!
サテリィの杖ですら彫られていないのに!
「さ、サテリィ……アーカムってやっぱり凄い人なんだね」
装備からして、剣も魔法も扱える凄い人だとは思っていたけど、まさか持ってる杖にエングレーブまで付いているとは。
きっとアーカムは僕なんかが関わり合いになれないくらいすごい人に違いない!
「アーカムって何者なんだろう……」
「わからないわよ。でも正義のヒーローなのは間違いないわ!」
サテリィはきらきらした瞳でアーカムの去っていった方向を見つめている。
「あーあ、魔術師だって知ってたら決闘してみたかったなぁ」
「はは、確かに、アーカムならサテリィを負かしてくれたかもね!」
サテリィはすごい魔術の才能を持っているんだ。
ギルドの人や魔術協会の大人たちだって、みんなサテリィの事を褒めるんだ。
そんなサテリィと決闘して勝てる魔術師なんて、こんな田舎町には誰もいないんだ!
だからだろう、サテリィは手応えのある相手をいつも探しているのだ……僕じゃ相手にならないから。
「ねぇねぇサテリィ……また会えるかな?」
なんだが彼のことを知れば知るほど、遠い場所にいる存在のよう気がしてきた。
本当は先程の邂逅が奇跡のような確率の上に成り立っていたのではないか?
もうあんな奇跡は起こらないのではないか?
不安ばかり募っていき、いつしか僕は瞳に涙を浮かべていた。
いけない、アーカムにもう泣かないって約束したのに。
「大丈夫よ! だって彼もクルクマに住んでるんでしょ? すぐ会えるわよ!」
サテリィはいつも元気をくれる。
そうだ、アーカムはこの町に住んでいるんだ。
あれ? でもなんでサテリィはそんなことがわかるんだろうか?
「アーカムって名前だったのね……ふふ!」
うーん、よくわからないがサテリィの笑顔を見ていたらどうでもよくなってしまった。
サテリィが会えるっていうならきっと大丈夫だ。
サテリィに任せておけば大丈夫なんだ!
だからきっとアーカムにもすぐに会えるはずだ!
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「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
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この作品は小説家になろう様にも掲載しています。
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