超転生者:最強魔術師目指して勉強はじめたけど……どこかで予定が狂った件について

ファンタスティック小説家

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第二章 現界の超能力者

第39話 ひよっこ魔術師と天才魔術師

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 いよいよ本格的に寒くなってきた今日この頃。
 純白なる雪の上、幼い少女相手にみっともなく正座させられる26歳なんてはずがない。

「どうすれば! そうやって人との約束を何回も忘れられるのよ! そんな頭空っぽだから魔術師になれないのよ!」
「結構言うね……ふふ、しかしだなサティ、もう俺は以前の俺とはーー」
「もう私たちいなくなっちゃうんだから! 時間を大事にしなさいよね!」

 まったく話を聞かなぇやつだ。
 少し喋らせてく欲しいのだがね。

「あーそのサティ、実はそのことなんだけどーー」
「そっちがそういう気なら! もうアークのことなんか知らないから!」
「ちょ、ちょま!」

 本当に話を聞かないやつだッ!

「ちょっと待ってサティ! ごめんって!」
「知らない! バカァ!」
「えぇ……」

 サティは正座する俺に雪を引っ掛けると、ものすごい勢いで踵返した。まっすくに走って行ってどんどん遠ざかり……数十メートル進むと自分の家へ入って行ってしまった。

「そういや家近かったな」
「わふわふっ」

 てっきりそのままどこかへ消えて行く流れかと思ったのでちょっとコメディな感じが拭えない。
 いや、だがこんなところでふざけてても余計に彼女の怒りを買うだけなのは明白なので、次こそは真面目に行こうと思う。というか最初から真面目だったが。

 ー

「ママ! 開けちゃダメ! 私は怒ってるの!」
「何いってんのよ。ママには喜んでるようにしか見えないけど?」
「ッ!? 喜んでない! 私すごく怒ってるから!」

 家の中から会話がダダ漏れで聞こえてくる。
 片方は間違いなくサティで、もう一方は会話から察するにサティのお母さんだろうか?

 サティもママ呼びだったなんてちょっと意外だ。
 ゲンゼよりしっかりしてるから勝手に、お母様とか母上あたりの呼び方を想像してしまっていたのだが。

 天才魔術師サテライン・エルトレットといえども、所詮はまだ10歳のお子様ということか。

 ちょっと勝った気分だぜ。

 ーーガチャッ

 優越感に浸っているとおもむろに玄関とびらが開かれる。

「待たせちゃってごめんなさいね! どうぞ上がってアーカムくん!」
「あーもう! 開けちゃったー! 知らなーい!」
「わふわふっ!」

 玄関先に立っていた人物、それは一言で言えば大きいサティだ。
 彼女よりずっと背が高くグラマラスな体型をしているが、焦げ茶色のロングヘアやまん丸の瞳などかなり似ているーーゲンゼ家と同じでわかりやすい。

 サティはお母さん譲りの美人さんだったようだな。

 ー

 サティママーーミネルガ・エルトレットことミネルガさんと軽い自己紹介を済ませて居間へと通された。

 サティは隠れてしまったのか姿が見えない。

 シヴァはいつも通り何の遠慮もなく暖炉の前を支配している。

「ふふ、シヴァちゃんは相変わらずね」
「シヴァ? もしかしてうちの両親と知り合いだったりします?」
「あ、わかる? 流石! 天才少年ね!」
「別に天才じゃなくても、そのくらいはわかりますよ」
「私ね普段は魔術協会で働いてるのよ。アーカムくんのお父さんアディとは同僚で、エヴァとも元同僚。今は仲の良いお友達よ」
「魔術協会ですか」

 なるほど。
 魔術協会つながりで両親とは親しい仲のようだ。
 きっとどこかでシヴァの図太さも見たことがあったのだろう。

「ふふ、さっきアーカムくんが来たときびっくりしちゃったわよ。エヴァの息子とサテラが友達になってたなんてね」
「サティから僕のことは聞きませんでした?」
「えぇサテラからは何も言ってくれなかったわ、ふふふ」

 サティは俺のことをミネルガさんに話してくれてなかったのか。
 うちの両親たちと知り合いでも自分の子供のつながりまでは把握できていなかったのかようだ。

「ねね、アーカムくん! ちょっとこっちきて!」
「ん?」

 ミネルガさんが手招きしてくる。
 言われるがままに耳を近づけてみよう。

「あの子たぶんアーカムくんに惚れてるわよ!」
「は、はぁ……」

 なにを言い出すかと思ったら、そういうのですか。

「ふふ! さっきサテラね、アーカムが来てくれてすごく嬉しそうだったわ。私にはわかるのよ。あの子は恋をしてるわ!」

 ミネルガさんはそう言うと自分の頬に手を当ててひとりで体をくねらせ始めた。
 あまり見ないようにしよう。

 やれやれ、まったく。
 隣の家のカローラさんといいミネルガさんといい、この世界の母親は子供の恋愛が大好物らしいな。

 たしかに自分の息子や娘のうぶな恋愛模様を見るのは楽しそうだが、当の本人たちはいい迷惑だろう。

「うーん」

 自分母親のことを考える。
 母親の共通項を持つエヴァもこういうの好きそうだと容易に想像がつく。

 あの人にはサティのことは伝えないようにした方がよさそうだ。
 女の子の友達ができたとか伝えたらアディも面倒そうだし。

「そ・れ・で!」

 ひとしきり1人で騒ぎ終わってミネルガさんがこちらの世界に戻ってきたらしい。

「うちのサテラは私に似てスーパー可愛いし、魔法の才能は100万年にひとりのレベル! 本当ね、もう、親としてこっち恥ずかしくなっちゃうくらい魔法に関してはすごいわ! 魔術大学の入学だって決まってる!」

 やっぱりサティてやばい天才らしい。
 ちょっと盛りすぎだし自信過剰だけど、多分才能のレベルという意味じゃ俺とは比較にならない。

「……あれ? どうしたんですかミネルガさん。そんな、急に静かになって……

 ミネルガさんが意気揚々と娘の自慢をしてきたかと思えば真顔で喉を鳴らしている。
 いったい何がしたいのだろうか。

「それで……どうなのよアーカムくんの気持ちは?」
「ぁ、その話ですか」

 まだ続けるんかい。
 てか、さりげなく娘の恋愛を発展させようとするんじゃない。

「いやー僕はその……ちっちゃい子に興味ないっていうか……僕なんかじゃ釣り合わないっていうか……」

 サティはたしかに可愛いし頭もよくて魔法の大天才かもしれない。

 それはわかるわかるよ。
 ちょっとだけ付き合えたらいいなぁとかも考えた。

 でも、俺さロリコンになりたくないんだよね。
 それにゲンゼに顔向けできねぇし。

 こんないきなり現れた奴に幼馴染を奪われるなんて、王道展開ではあってはならないことなんだ。
 俺も下郎ポジションになりたかねぇよ。

「そんなことないわよ! アーカムくんは3歳の頃から剣気圧が扱えて、最近になって魔法も覚えたらしいじゃないの! それにもうオリジナルスペルを使えるって聞いたわよ!」
「え……情報はやッ!?」

 剣気圧はまぁいいとして、魔法使えるようになったって情報は出回るの早すぎるだろ。
 どこだ、どこからもれたんだ。

「エヴァが言ってたんだからね」

 結局あんたエヴァか!
 これがママ友ネットワークの力だとでも言わんばかりの早さだな。
 恐ろしい情報の流通スピード。
 この場所に来た目的を先に言われてしまうなんてね。

 ん? 待てよ、ということはもしやも既にミネルガさんに知られてるんじゃないか?

「それでアーカムくんレトレシア入学するんだってね?」
「知ってたあァァッ!」

 やはり知られてしまっていた。
 俺が来年からレトレシア魔術大学に入学することを。まさかここまでの早さとは。

「えッ!? 本当に!?」
「あら、降りてきてたの。本当よ。よかったわねサテラ!」
「ぁ」

 サティおるやんけ。
 いつの間いたんだ?

 居間の入り口で驚愕とも歓喜ともとれる、笑顔になっているサティはお盆に載ったカップを叩きつけるように机に置いてきた。

「あちゃぁ……」

 まさかサティを驚かせる手札をこんな形で無効化されるとは。
 遊戯王で自信満々に強制脱出装置セットしたらエンドフェイズにサイクロンで破壊された気分だよ。

 もう数日でお別れだって感じのしんみりした状態を作ってから、実は俺もレトレシア魔術大学に行きます、ていうサプライズだったのに……。

「ねぇ! ほんとにアークも行くの? 大学に?」
「うん……まぁ行くけど、レトレシア」
「やったぁー!」

 詰め寄ってくる煌めく瞳のサティに俺は力なく答えた。

 ー

 数ヶ月後、俺は王都へ引っ越す。
 主な目的はもちろん「ローレシア魔法王国立レトレシア魔術大学」へ通うためだ。

 この入学の電撃のような決定は、俺が魔術大学への入学を強く希望したのもあるが、何よりエヴァの推薦がマジで半端なかったというのもある。

 やはりというか予想通りというか、魔術師である自分息子には魔術の道を歩んで欲しかったんだろう。

 俺は今までエヴァの気持ちを知らず毎日毎日剣を振ったり拳を練り上げてきたりしたので、きっとエヴァはもやもやした気持ちを抱えてきたんだと思う。

 そんな中、いきなり才能に悩む息子が魔法を使えるようになったのだ。
 しかも、オリジナルスペルだのなんだの言ってまたしても無駄に評価の高い天才扱いされている。

 そんなだから今、エヴァが急ぎで入学の手続きをしてくれているのも無理はない事なのだ。

「でも、アークって魔法使えないんじゃないの?」
「おや?」

 サティがお茶をすすりながら首をかしげる。
 これはもしや俺が魔法使えるようになったって部分は聞こえていなかったやつではないかい?

「ふはは! わからないのか? まぁ10歳のちみっこちっぱい少女には理解できなーー」
「もったいぶってないで教えなさいよっ!」

 少女の拳が飛んでくる。

「ぐふぅ!」

 ちょっと調子に乗っただけなのに。
 完全に俺の水月を捕らえてやがる。
 怪我させないよう鎧圧がいあつを使わなかったので普通に痛い。

「う、わ、わかったからちょっと、ゲホッ!」
「教えなさいよ!」
「痛っ! 痛い!」

 サティは杖の応酬、連続で小突いてくる。
 杖先がなかなかとがっていてこれもまた普通に痛い。
 なんだよ、俺に恋してるって情報はどこ行ったんだよ。

「わかった! 痛っ! ちょっと出かけよう! ほ、ほらあの洞窟で教えるから! 痛い!」

 俺はかつて軍人からならった絶対防御体勢アルマジロを使って丸くなって体を守りつつも「秘密の場所」へ行こうと提案する。
 少し試したいことがあるからだ。

「うーん、仕方なし! ちょっと待ってて!」

 サティはやや訝しげな顔をしたが最後には了承して2階へと走って消えて行った。
 ミネルガさんはそれを隙とばかりにすかさず口を開く。

「きっとサテラは決闘を挑んでくるから、ビギナー魔術師のアーカムくんにアドバイスをしてあげるわ」
「ほほう、アドバイスですか」
「えぇそう、アドバイスよ。サテラは魔術師としてとても優れた才能を持っているわ」
「ふむ、そうでしょうね」
「あの子の武器は圧倒的な初撃魔法の早さ、追加の暗唱を行って『現象』発生までの時間を極端に短くする手法を得意としてるの」
「えぇ、ぁあ、なるほど……へぇ」

 追加詠唱か。
 面倒で高度なことやってるじゃないか。

 ん、というか、あれ?
 今だいぶ大事なこと教えてもらってないか?

 たぶんこれサティの強さの核心に触れるやつな気がする。
 本当にこんなことを聞いて大丈夫なんだろうか。

 あとでサティに怒られたりしないよね?
 いやだよ俺もう杖で突かれるの。

「仮に同じ早さで詠唱をはじめて魔術式を満たそうとした場合、サテラのほうが追加の詠唱を行うから遅くなる。まだ暗唱を魔感覚で読むレベルの決闘じゃないからここは気にしなくていいけどね」
「ほうほう」
「大事なことはお互いに暗唱を済まして、いきなり『現象』の発生速度を競う決闘において、サテラの初撃はとても速いと言うこと。はじめは早撃ちで勝負しようとせずに必ずレジストに専念しなさいね」
「そういうことですか」

 なんか途中言ってる意味がわからなかったけど、なるほどだいたい理解できた。

 サティの強みは一撃必殺の戦法にある。
 魔術師としてはロマン系の戦い方だ。

 ガンマンみたいでカッコいいな。
 俺も初撃系ガンマンスタイルに特化しよっと。

「勝負をするのは初撃をレジストできてからよ?」
「はい、わかりました。初撃を凌いでからようやく土台が並ぶってことですね」

 初撃を早くするために追加詠唱を行って「現象」の発現スピードをあげてるんだ。
 それはつまり弱点として長い暗唱を行うために魔法の連射力を殺しているということになるのさ。

 ふふ、これでも勉強してきたからな。
 それくらいは余裕でわかるぜ。

「アーカムくんあの子が欲しかったら初撃はレジストだけに専念して、2発目以降に勝負をかけなさい!」
「……ん、レジストと2発目ですね?」
「そういうことよ!」

 なんかよくわからないことを言っていたような気がするが、気にしないで行こう。

「さぁ! いくわよ! アーク!」

 やがてサティは準備万端といった感じで2階から降りてきた。

 暖炉前で寝ているシヴァを起こし、隣のゲンゼの家へと向うことにする。

 ー

 クルクマ廃坑「秘密の場所」

「で! 結局ここまで何も話してくれなかったけど、そろそろどういうことか説明しなさいよ!」
「ねぇ! アーク本当にレトレシア行くの!?」
「ゲンゼは黙っててっ! そのくだりもうやったんだから!」
「あうぅ……」

 手袋を取り外し緊張した空気を作り上げ、外套の内ポケットの「吸血鬼の花嫁クォータブラッド」へ手をかける。

「え! その手どうしたのっ!?
「うわぁ! 痛そう!」
「……いいよ、そのくだり。もうやったから」
「「ふぁ!?」」

 目を点にして驚く2人へ適当な言い訳をしておく。
 森の奥地で軍人と戦ったなんて言えるわけないし、事後報告も師匠から受けてない段階では情報を開示するのは得策ではないだろうしな。

「ま、つまりただの火傷ってこと」
「ぇ、それだけ……?」
「絶対なんか隠してるんだから! お見通しよ!」
「隠してない、それよりサティ!!」
「っ、な、なによ!」

 強引に話の流れを戻しつつサティへ顔を近づける。
 天才魔術師へ宣戦布告だ。

「俺と決闘しないか?」
「っ!?」
「ふふ!」

 決闘を申し込みながら胸ポケットはら「吸血鬼の花嫁クォータブラッド」を取り出す。

「だと思った! 受けて立つわ、その決闘!」

 おや、サティは俺が魔法を使えるようになっていることを察していたらしい。
 というか魔術大学入学がバレた時点で気づいてたんだろう。

「全力でいってもいいかな?」

 キメ顔でサティに挑発する。

「望むところよ! 昨日今日魔術師になったひよっこに負ける私じゃないわ!」

 サティがめちゃめちゃ楽しそうにスキップし距離を開け始めた。

「こんなもんね、うん、間違いない」

 サティは俺との距離を見てひとりでで、うんうん、と頷き満足そうだ。
 決闘での正式な距離でも決まっているんだろうか。

「ゲンゼ、それじゃ始めの合図を頼む」
「任せて! がんばってねアーク!」

 傍らに立っていたゲンゼに審判をやってもらおう。

「ちょっとゲンゼ! 私も応援しなさいよ!」
「ぁ、ごめんサテリィ! そっちもがんばってー!」

 強制的にサポーターを奪われた。
 ガキ大将サティは子分ゲンゼの応援に満足し、こちらに向き直りニヤリ、純白の美しい杖をこちらに向けてきた。

「そういえばアーク、決闘のルールは知ってる?」
「……ルール、か」
「知らないのね。まぁひよっこ魔術師なら! 仕方ないわ!」
「クゥ……ッ!」

 自分より16歳も年下のちみっこに言われるとなかなかイラっとくるものだ。

 癪に障る言い方だけど事実なので仕方ない。
 ありがたく先輩のいうことを聞くことにしよう。

「教えてくだせぇ……」
「ふふ! じゃまず当たり前のことだけど試合形式の決闘じゃ相手を殺してはいけません!」
「だろうね」

 決闘で相手を殺してはいけない。

「そして次に、今回は個人的な決闘で、決闘場での決闘じゃないから相手に深手を与えそうな魔法も遠慮してよね。土敷いてあるし、ポーションは一応持ってきてるけど基本的には風属性一式か二式オンリーね。
 魔力属性……じゃなくて神秘属性使えるならそれでもいいけど……まっ! とりあえず危なそうなのはダメ!」
「オーケー、オーケーそんな怖がらなくても手加減してあげるから安心しろって子猫ちゃん」

 サティがなんかいろいろ言ってるが俺は無名魔法しか使えないのであまり関係ない。
 何がどうあれただ撃つだけだ。

「子猫ッ!? ひよっこのくせに!」
「はは」

 なんだこのサティ、煽り耐性ゼロじゃないか。
 顔を真っ赤にして怒るサティは可愛いな。

「いいえ、相手に飲まれてはだめよ……ふぅ」
「お、静かになった」

 急にサティは怒りを引っ込めてこちらを静観しだす。
 地震でも起こるのかな。

「ごめんアーク、殺しちゃっても許してにゃん?」
「……やめてにゃん」

 なぜか今、本来は可愛いはずであるサティのにゃんにゃん語がひどく恐ろしく聞こえた気がする。
 これを気のせいで済ましていいのものだろうか。

「格の違いを教えてあげるわ……」
「あの……お手柔らかにお願いしますにゃん、ねえま、にゃん、ねぇ」

 困惑したままバトル開始の常套句。
 ゲンゼが小石を拾い上げる。

「じゃあいつも通り石が地面に着いてからだよ? フライングは即失格!」

 ゲンゼの注意勧告を最後に秘密の場所に静寂が舞い降りた。

 天井の大きな木の根の間から地下空間へ差しこんでくる光。

 その真冬の陽光に当てられる凍った地底湖には湖のそこが見えるくらいに透き通った氷が張っている。

 決闘の前だというのに周りの環境のそんなことに気が向いてしまうのは集中力の欠如か。
 あるいは糖不足の脳が起こす生理現象か。

 ちらりとゲンゼを見やれば、今まさに小石が彼の手を離れる瞬間だった。

 ゲンゼの手から小石が放られ、ぐんぐんと地面と接触すべく落下していく。

 小石と地面との接触を今か今かと待ちわびる。

 ーーカランッ

 時は満ちた。

「ッ!」

 石が地面に着いた瞬間、俺の魔感覚が正面の少女からの魔法の発動を予告してくる。
 サティが手首を返し杖を小回り効かせて振っているのが見えた。

「ッ!」
「ぅッ!?」

 速い。

 サティの魔法は俺の魔感覚が「サティが魔法発動するぞッ!」と予告を伝えてきてから、実際に魔法を放つまでの時間の差が無い。

 早撃ち対決ではとてもじゃないが敵わない。
 予定通り魔法をレジストすることだけを考えよう。

「ふん!」
「くっ!」

 ところで、このレジストする、とはいったい何のことを言っているのか?

 レジストとは魔法の無効化し合うことである。
 炎が飛んできたなら、水を出して消火するといったものが代表的なレジストだ。

 ただ、べつに炎が飛んできたところに炎をぶつけてもレジストできるっちゃできるので、わざわざ反対属性を使う必要はない。

 ちゃんとしたレジストしたほうがレジストの成功率が高いとか、魔力の消費を抑えられるという話だ。
 要は技術点の問題である。

 引き伸ばされた意識の中で魔感覚を研ぎ澄ます。
 使う魔法はもちろん無名の魔法。
 俺がまともに使える唯一の魔法。

 ーーブウゥゥゥゥンッ

「ゥ……」

 何度も聞いた悪魔の風切り音をともなって、魔法が眼前まで迫って来た。

 やっぱり≪風打ふうだ≫だ。
 間違いない、顔面に飛んできてる。

 魔感覚のおかげでおよそ魔法が着弾するであろう位置までわかるぞ。
 どうりで魔感覚の精度が高い魔術師たちが、魔法撃たれても反応できるわけだ。

 魔感覚があるのと無いのとでの、対応力の違いに感動しながら、杖をサティの≪風打ふうだ≫の射線上に割り込ませる。

 そして唱える……というか魔力の流れをイメージして無名の魔法を発動。
 そうだ。便宜上この魔法のことを≪無名むめい≫と呼ぶことにしよう。今考えた。

 俺の顔面に直撃しそうになったサティの≪風打ふうだ≫を杖先に無名むめい≫で横にずらす。

「なっ!?」
「……ふっ」

 これが≪無名むめい≫によるレジストだ。
 やはり可能だった。
 ちょっと不安だったが、いけるもんだ。

 謎の魔法≪無名むめい≫はただ撃ち出すだけの魔法ではない。

 実はこの魔法、杖先に魔力の衝撃波のようなもの生み出すことができるのだ。

 この杖先に発生させるタイプの≪無名むめい≫を、飛んできた魔法にジャストで杖先を持っていき発動させることで魔法を打ち消す、あるいは魔法の軌道をずらすことが出来るはず……と、今朝暖炉前で勉強していた俺は思いついたのだ。

 今日俺がサティに会いにきたのはこの魔法を使えば最低限魔術師っぽい動きが出来ると考えたから。

 予想通りだった。

無名むめい≫はサティの高速の魔法にも通用した。

 たがレジストに成功したからといって終わりではない。
 むしろ始まりさ。
 ここから俺の反撃が始まる。

 さっさと次の≪無名むめい≫を用意しなければ。
 俺にはそれしか出来ないんだから。

 リーク情報によればサティの次弾は遅い。
 よって速攻で2発目を構える。もちろん今度は撃ち出すタイプの≪無名むめい≫を用意だ。

「ふっふ、サティ遅ーー」
「遅いッ!」
「ナニ、ちよ、ファッ!?」

 背筋に悪寒が走る。

 サティの2発目が来るぞーー。
 そう俺の魔感覚が警笛を鳴らしていた。

 待て、おかしいだろ、いや流石に早すぎる。
 無理だよ、無理。絶対に無理だ。
 2発目へのレジストが間に合わない。
 杖を持った手首の返しも間に合わなければ、単純に魔法の連射力と言う意味でも間に合わない。

 腹をくくるしかないか。

 ただ全力で鎧圧を展開し、剣圧で次の瞬間に確実に訪れる衝撃に備える。

「こいっ!」

 刹那の後に約束された衝撃はちゃんとやって来た。

 ーーブウゥゥゥンッ

 サティの狙いは腹部。

「ぶふぁあ!」

 本日2度目の強烈な溝打ち。
 数十センチ後方へずらされる。

 ただ、今回の腹パンは鎧圧を纏っていたので衝撃に耐えきることができた。

「ふぅ、危ねぇ危ねぇーー」

 攻撃をしのぎきり、なんか以前より剣気圧が強くなったような……と呑気に考えているとーー、

「ぁッ!?」

 ーーブウゥゥゥンッ

「なんデまだ、クラァアァッ!」
「イエス!」

 3発目のサティの≪風打ふうだ≫によるアゴへのアッパーカットを許してしまった。 

 体を浮かされ背中から地面に叩きつけられる。
 アゴが猛烈に痛い。
 歯も欠けたかもしれない。
 脳も揺れてる。

「にゃ、な、なぜこんな酷いことを……うぅぅ」

 ニヤニヤとした顔で近づいてくるサティを見やる。

「えっへん!私の勝ちにゃんね!」
「しょ、勝者サテリィ!」
「ぐへぇ……」
「わふわふっ!」

 俺は一瞬でぼろ雑巾にされた。圧倒的な敗北だ。

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