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第三章 路地裏のお姫様
第59話 銀髪少女アーカム
しおりを挟む日が沈み、寒さが都に舞い降りる。
真っ黒な夜空に星々が煌めき、三つ子の月たちが己が存在を主張する。
地下遺跡の修練場から遺跡街へ戻った時、すでにあたりは暗くなっていた。
だが流石は王都と言うべきか。
街の至る所に街灯が立っており大通りはとても明るくいまだ人が多い。
どこの建物も中から揺らめく炎の光と楽しげな笑い声が漏れてきており、人々が昼間の労働時間を乗り越えて、憩いの場を形成しているのがわかった。
先生こと、アヴォン・グッドマンとの初の手合わせを終えてレトレシア区まで戻る。
酒に酔った大学生が騒いでいたり、中学生くらいのレトレシアの学生が集団でたむろしていたりと、トチクルイ荘の近くも賑やかだ。
そんな彼らに絡まれないようにこっそり進みながら、トチクルイ荘へ帰ってきた。
昨日リサラのせいで壊れてしまった部屋、ではなく新しく荷物を移した2階の部屋に帰宅する。
「ふぅ」
自分の部屋に戻ってくると自然と息をついてしまう。
この王都における唯一の安息の地。
家族のいない生活における、自分の安全地帯はここだけ。
「本気で修行」
これはトチクルイ荘の中庭とかで素振りでもした方がいいのだろうか?
いや、せっかく修練場が解放されたんだから、どうせならあの場所でやるか。
「っと、今何時だ?」
修練場までは結構近いので毎日通うことは可能だ。
だが、今日はもう遅い。
外の暗さを考えるともうかなり回ってしまっている気がする。
「時計が欲しいな」
こういう時はやはり時計があると行動を起こしやすいな。
時計を買いに行く必要がありそうだ。
クルクマの町には時計屋なんてなかったのが、王都なら懐中時計を売っている時計屋があってもおかしくはない。
明日にでも買いに行こう。
ー
「″ーー″」
ぅ……ん?
「″ーー″」
ぅ、うん、ん? なんだ? なんか聞こえるような。
「″ーーきて!″」
ぁ、ぁれ、俺今寝たばっかな気がしたけど、もう朝か?
「″お・き・ろ・!″」
「うぉぉあ! なんだ! お前!」
「″うぁぁ、本当に起きたッ!?″」
まったく重たくないまぶたを開けると同時、銀髪の女の子がこちらの顔を覗き込んでいることに気づく。
あまりにも近すぎたため、ビビりながら飛び起きて後ずさる。
「″え、なんで!? なんで起きたの!?″」
「い、いや、意味がわからん。起こしたのそっちだろう?」
寝ていた俺を起こしたのは間違いなく、この少女だと言うのに、起こした本人が意味不明な発言をしている。
「″ぇ、いや、そうだけどさ! えぇぇ起きちゃったぁ!″」
ほっぺに手を当て不気味な動きをし始めた少女を怪訝な目で見る。
しかし、すぐさま俺の興味は少女から辺りの空間への向かう。
「ここ俺の部屋じゃない、てか……」
「″起きちょったぁぁ、起きちゃったぁ! ふふふ!″」
腰をくねらせて不気味な動きを継続する少女のことは脇に置いておいて、現在位置を目を見開いて観察する。
「…………和室だ」
8畳程のスペースの中央に囲炉裏があり、湯が沸かされている。
4面の壁のうち2方向は障子で、一方向は押入れ、もう一方向には大きなかけじくと、生け花が生けてあるようだ。
これぞザ・和室、と言わんばかりの和室だ。
「なるほど」
つまりここは、いつぞやの精神世界なのではなかろうか。
「初回以来、来れなかったからてっきりただの夢かと思ってたけど、本当にあったんだな」
「″ふふ、そういうこと! いやぁー! ふふ!″」
銀髪少女はニヤニヤしながらちょこちょこ足を動かして近づいて来た。
「″へへ、私が誰だかわかる? ねぇ? わかる?″」
銀髪少女は擦り寄って来ながら尋ねてくる。
「いや、わからねぇよ、なんでそんなスリスリしてんだよ! 怖ぇよッ!」
畳の上を這いずるように少女から距離を置く。
「″えー! 嘘でしょ? 本当にわからないの?″」
銀髪少女は懲りずに這いずって追いかけて来る。
ロングの銀髪が顔を覆い隠していて、めっちゃホラーだ。
「本当にわからねぇって! ここ俺の精神世界だろ!? あ、そうだ、アーカム! 真のアーカムはどこ行ったんだよ! 俺の体に3人目が住んでたなんて聞いてないぞ!」
前回は真っ暗だった精神世界だったのに、次に来た時には明かりが戻っていて、住人が増えてましたなんて、どれだけ自由な精神世界なんだ。
勝手に人の精神世界への入居者を増やさないでほしい。
「″もぅ……傷つくなぁ″」
銀髪少女は、壁に追い詰められた俺の胸あたりまで登ってきたところで動きを停止した。
悲しそうな声だ。
傷つけてしまったのか。
「あー、その、ごめん。本当にわからなくて」
俺は会った相手が以前あったことがあるかなんて事くらいは、把握出来ているつもりだ。
自分の記憶を頼りに銀髪少女の情報を探すが、やはりこの子には会ったことがない。
「″ん!″」
銀髪少女は前髪をわっさりかきあげて、雑にポニーテールを作って見せてくる。
顔を見ろということだろうか?
「ぅぅん、エヴァ、っていうかエラに似てるような」
「″そうそう! いい線いってる!″」
「おう、そうか」
銀髪少女はニコニコ笑いながらエールを送って来る。
たしかに初めて見た時から、何気なくエラに似てるような気はしていた。
顔は少し違うが、美人で可愛らしい子だ。
決定的なのは銀髪と、薄い水色の瞳が、アルドレア家のエヴァグループの者たちを連想させること。
ちなみに俺はアディグループだ。
「″ほら! もうわかるでしょ! アーカムはすごく物分かり良くて! 察しがいいんだから!″」
「って言われてもなぁ……うーん、生き別れた兄弟に取り憑かれたとか?」
適当に答える。
というか、まだ明確な質問をされてすらいないので、そもそも彼女が何を待っているのかわからない。
自分が誰なのか当てて欲しいんだろうか?
なら、もっとヒントが欲しいところだ。
「″生き別れねぇ、ま! 間違ってないかも″」
「ぇ、お前、生き別れた兄弟なの? 俺のお姉ちゃんとか!?」
俺より前に女の子を産んでいた可能性について考えてしまう。
アディやエヴァが何らかの理由で隠していた存在の可能性もなありえーー、
「″なーいッ! なんでそっち行っちゃうの!?″」
銀髪少女はポニーテールをブンブン振り回しながら、俺の顔は平手で叩きはじめた。
「″もう! わかるでしょ!? 精神世界にいるんだよ!? アーカム・アルドレアの精神世界にいるのはアーカム・アルドレアだけに決まってるでしょ!?″」
銀髪少女は酷く腹を立てて、小さい足で踏んづけてくる。
全然痛くねぇ~。
「アーカム.の精神世界にはアーカムだけ、か」
少女の言葉を口の中で咀嚼するように、真面目に考える。
そしてーー。
「アーカムか、お前」
1つの答えに辿り着いた。
アーカム・アルドレアの精神世界にいるのがアーカム・アルドレアだけならば、この目の前の銀髪少女はアーカム・アルドレアなんだろう。
理屈としては通っているはずだが、あまりにも無茶苦茶なので自分でも笑ってしまいそうになる。
しかし、ここで思い出す。
前回、精神世界を訪れた時にいた、もう1人のアーカムの事を。
そして彼と別れる際、なんだが妙な違和感を覚えた事をーー。
「″ふん、わかったみたいね!″」
「やっぱお前、アーカムだろ!」
「″だから、そうだった言ってるでしょッ!?″」
銀髪少女の踏みつけ攻撃が激しくなる。
ただ少女は羽毛のように軽いので、全然痛くはない。
「ぇぇ、まじかよ。アーカムっててっきり男だと思ってたんだけど……こんな小ちゃかったのか」
以前会った時は真っ暗で何にもわからなかったので、まさか俺が話していた相手が少女だとは思わなかった。
「″うーん、それが私もビックリしてるんだよ! 前回会った時はまだ男の子だったんだけどねぇ″」
「ん? どゆこと?」
アーカムが意味不明な事を言う。
前回と今回の間で性転換手術でも受けたんだろうか?
そんな施設まで勝手に人の精神世界に作っているのか?
「″いやぁ~そのまんまだよ。前回会っ時、つまり2ヶ月くらい前まではまだ男だったんだけど、だんだん女の子になってきちゃってさ! 困ったものだよね!″」
「だから! 意味がわかんねぇよッ!?」
自然に性別が変わってしまったとでも言うんだろうか?
そんなことありえるのか?
そうか、ファンタジー世界ならありえるのか。
いや、ありえねぇだろ!
「なんで、女の子になっちゃんたんだよ?」
「″それが、わかれば苦労はないよぉ~″」
「クッ、なんかムカつく!」
幼女と言っても過言ではない年齢の子供に、おちょくられているようで、無性に腹が立つ。
歯ぎしりする俺の事を気にせずに、銀髪少女アーカムは重ねてあった座布団を持ってきて、2人分敷いた。
「″ささ、なんでかわからないけど、久しぶりに会えたんだし! いろいろ話そう! 朝になる前に!″」
少女アーカムは座布団にあぐらをかいて座り、もう1つの座布団をパシパシッと叩きながら、座るように勧めてくる。
言われるままに壁際から、座布団に腰を下ろす。
銀髪アーカムはニコニコしながら囲炉裏の近くに置いてあったキュウスを使い、手慣れた所作でお茶を入れていく。
「へぇ、緑茶だ!」
「″ふふ! 異世界じゃ飲めないもんね!″」
異世界で飲む初の緑茶に、憤りを忘れて純粋に嬉しい気持ちがこみ上げてきた。
「ズズゥ……うん、緑茶だ!」
あまりにも語彙力に乏しい感想しか出てこないが、俺は今感動しているのだ。
記憶にある緑茶、そのものが目の前に出てきてくれた事に感謝すらしている。
あぁ懐かしい。
「″ほら、見て、おせんべいもあるよ!°」
「おお、なんて典型的なおせんべいなんだ!」
緑茶の次に出てきたのはなんとおせんべい。
硬さ、色、大きさ、全てが模範的なおせんべいに驚愕を隠せない。
ーーバキッバキッ
「うん、おせんべいだ!」
「″でしょう!″」
バリバリとおせんべい食べながら、緑茶啜る。
あぁ懐かしなぁ。
ばぁはぁとじぃしぃの家を思い出すなぁ。
ずっと昔の記憶。
まだ俺のじいちゃんばあちゃんが生きていて共に暮らしていた頃、
俺はお菓子と言ったら羊羹だのおせんべいだの、素甘だのと言った若者たちにとってはダサいと言われていたものばかり食べていた。
今食べている、あまりにも模範的なおせんべいさんは当時、俺がヤケクソ気味に食っていたものにそっくりだ。
「本当に懐かしいな~!」
「″ふふ!″」
銀髪少女アーカムと一緒に緑茶とおせんべいで憩いの時間を過ごす。
おせんべいが入っている木製の箱からは、なぜかおせんべいが無限に湧いてきており、どれだけ食べてもなくなる様子はなかった。
しかし俺の胃袋や味覚は無限ではなく正常なようで、10枚程食べたあたりから「流石にもう、いいかな……」と満足できていた。
そうしておせんべいへ伸ばす手を止め、緑茶を飲み干す。
「ぷはぁ~」
あぁなんて癒される空間なんだ。
すごく心地がいい。
前回来た時は真っ暗で、そもそも居心地が良いとかそう言う話ではなかったので、精神世界がこれほどの癒し空間だとは思いもよらなかった。
「いやぁ良い場所だ」
「″でしょ!? そう思うでしょ! それなら今度から毎晩ここに通ってもいいと思うでしょ!?″」
「っ! なんでその勢い!」
銀髪少女アーカムが座布団を蹴散らしながら突進してくる。
たまらず後ずさるが、すぐに追いつかれ壁際まで再び追い詰められてしまった。
「″だから! 今度から私が起こしたらちゃんと起きて! わかった!?″」
「待て待て落ち着け!」
アーカムは俺の胸ぐらを掴んで締め上げながら、顔を間近に近づけて訴えかけてくる。
「えぇと、なんだったっけ?たしか……俺は普段は座布団を枕に寝てるんだっーー」
「″スゥオッ! いっつも、いっつも、起こしてんのに、私のこと無視して、ずぅーッとふて寝してるんだよアーカムぅぁわァッ!」
「ヒィィッ!!」
銀髪の少女はその可愛らしい顔を鬼の形相に変え、こちら殺さんとばかりに睨みつけてきた。
あまりの迫力に腰が抜けそうだ。
「わ、わ、わかった! ごめん! 本当、わざとじゃないんだよ! 俺がふて寝してるのは、
俺の意思とは関係なくてだな! まじで俺からはどうしようもないんだって!」
「″ガルゥゥゥッ!″」
今にも噛み付いてきそうなアーカムをなんとか鎮めようと試行錯誤する。
結果、見た感じ小さい女の子なので頭でも撫でてやればいいか、という安直な結論に達した。
「よーし、よーし、よしよし、落ち着けー! いい子だぞ!」
「″うぅ、くぅ! こんなんで、私の怒り、は! うぅぅ″」
「よーし、よしよし」
「″ぅ、うぅ!″」
頭を撫でるのは正解だったみたいだ。
銀髪アーカムは苦しそうに喜びながら、その柔らかい銀髪を好きに撫でさせてくれる。
なるほど、やはり小さい子にはこれがイイらしい。
銀髪アーカムの扱いはリサラと同じで感じで良さそうだ。
つまるところ柴犬と一緒というわけだ。
しばらく頭を撫でてやり、アーカムの機嫌をとり続けて興奮した少女の鎮静化に成功する。
「″わかった! 今度からは私が起こしたら絶対起きること! 例外は認めなーいッ!″」
「ははぁ、極力努力いたします」
銀髪アーカムに平伏し、今後のやる気を示す。
俺がどんなに頑張ろうと精神世界で活動できるかどうかは変わらない気がするのだがね。
「″はぁ……でも、そんなこと言ったってどうせまたしばらくは起きてくれないんでしょう″」
「それは、わからない……なんかごめんよ」
少女はため息つきながら座布団に寝っ転がった。
ずっとこうして暇を持て余しているんだろう。
俺は知っている。
人間にとって暇は苦痛になり得ることを。
出来る事なら、俺たちが寝ている間にいつも精神世界に来てやりたいが、そう上手くはいかないのが現状だ。
彼女口ぶりからするに、およそ「和室」が復旧してからも俺はしばらく寝ていたようだ。
ということは、きっとこの和室が真っ暗になっていた事と、俺が精神世界来ることの出来る頻度には関係がない。
つまり俺は自分の意思でここには来れないと考えるのが自然だなのだ。
前回から今回までの間隔役2ヶ月半。
彼女はずっと暇していたのだ。
もしかしたら俺が起きるかもしれないという希望を抱きながら。
俺はなんて酷い野郎なんだ。
希望だけ与えて、あとは放ったらかしなんて。
もう1人の俺、銀髪少女アーカムに報いるためにも、なんとかこの精神世界「和室」へ来る手段を確立したいところである。
俺たちはまだこの精神世界についてはわかっていない事が多い。
まずは情報を集めた方がいいだろう。
「アーカム、俺は毎晩お前に会いたい。いっつもここに来てやりたい。だから協力してくれないか?」
アーカムへ手を差し出す。
誠心誠意努めて誠実に、これから一緒に精神世界を攻略するため、真のアーカムへ協力を求める。
「″ッ! へ、へぇ! そんな私に会いたいの?″」
「あぁ」
「″毎日?″」
「あぁ」
アーカムはもう1人の俺なのだ。
なんでか今は女の子になってしまっているが、それでももう1人の俺だ。
俺が転生して来なければ、彼女は退屈を味わうことはなかった。
俺は体を貸してくれている根本的な恩に報いるためにも、真のアーカムの助けになりたい。
「よし、それじゃまずは情報を整理しよう。アーカムは8年間、俺たちの睡眠時間中はずっと和室に来ていたんだな?」
「″ぅん、そう……″」
心なしかアーカムの元気がなくなりテンションが低くなっている気がする。
「″……そぅ、そう、そう! そうよッ! 私は8年間もずっとひとりだった! アーカムは起こしても絶対に起きない存在だった!
それなのに! この前起きたから! これからはもうひとりじゃないってぇ! おもぉだぁのにぃ!″」
「う、うわぁ! なん、なんで、泣き出すんだ!?」
「″どぉじぁでぇ起ぎでぐぅれぇなぃのぉッ!! うぁぁぁぁ!″」
「うぅ、そんな、泣くなよ……これから一緒に解決策を考えよう?な?」
泣きじゃくるアーカムをどうにかあやそうと頭を撫でまくる。
まさか精神世界でまで、兄弟たちをあやしてこなかったツケを払わされることになるとは。
今度、実家に帰ったら逃げずにエラやアレクで子供あやし方を勉強した方が良さそうだ。
「″ゔぅぅう、ゔぅぅ......″」
「よーしよしよし! 泣かない! 泣かない!」
柔らかな銀髪を撫でながらアーカムをあやす。
以前はここまで情緒不安定じゃなかったのだが、一度「もうひとりじゃない」という希望を与えてしまった事が大きかったのか。
それと見た目と同様に精神年齢も幼くなっているような気もしなくもない。
きっとこれにも何か理由があると思うのだが……。
とりあえず今は彼女をあやして、この世界へアクセスする手段を確立せねば。
「″うぅ、うぅ、うぅ……″」
「よし、よーし、大丈夫大丈夫。ずっと一緒にいるからな~」
おんぶして、見よう見まねでゆらゆらと少女を揺らす。
顔の涙を何故か置いてあったティッシュペーパーで拭いていく。
「ずっと一緒だよ!」
「″ぅぅ、う、ありがとアーカムぅ″」
かろうじて泣きじゃくるアーカムをあやし、持ちなおした。
「さて、というわけでだな、今回この精神世界にこれた訳を発覚させよう思うのだけど、ん、なんか音が聞こえるような……」
「″ぁ、この感じ、もしかしてーー″」
ーーンンンゥゥゥゥゥ
「ッ!? ぉお! こ、これはッ!」
「″いやぁぁあ、早すぎるッ!″」
肉体を体の芯まで振動させる重低音が「和室」全体に響きわたる。
まるで部屋の四方にバカでかいスピーカーが設置されていて、この部屋を集中攻撃しているかのような超振動だ。
かつて経験したことのある音、現実世界への帰還、夢の終わりがやって来たのだ。
「うぉぉ! 約束したそばから約束を反故にしていくスタイルになっちまう!」
「″いやぁだぁ! アーカムの嘘つきぃッ!″」
「悪いのは俺なのかッ!?」
ーーブオオオォォォォンンン
重低音の質が変わった。
以前、精神世界に来た時もこの音が鳴った後に目が覚めたんだったっけ。
ということは、やはりアーカムとの別れの時は近い。
「″ぅぁぁああ! どうして行っちゃうの!?″」
「大丈夫! 大丈夫! また明日会えるよ!」
「″嘘ォ! アーカム一度ふて寝したら起きないもんッ!″」
「ぅ、ぃや、起きる、よ。少なくとも努力はする」
「″起きないぃぃ! またずっとひとりだぁぁあ!″」
アーカムは三度、魂からの悲痛な声音で泣きじゃくりはじめてしまった。
だが、泣きじゃくったところで現実世界への意識の帰還を止められるはずもなくーー。
「″ぅ、ぅ、うぅぅ……うそ、嘘つきぃ……″」
「……ごめん」
重くどっしりとした音が部屋全体に染み渡っていく振動の中、もう1人のアーカム・アルドレアは泣き顔でこちらを見つめていた。
薄水色の大きな瞳から溢れ出る涙を必死に止めようとしている姿が、俺の心を切り刻む。
けれど俺には謝ることしか出来ない。
謝ってどうこうなる問題じゃないし、そもそも俺がどうこうできる問題なのかすら疑問な事だが、俺は彼女に謝らずにはいられなかった。
「ごめんよ、アーカム」
意識は浮上していき「和室」から真っ暗空間へ入る。
真っ白な光がぐんぐん近づいて来て、タイムラグ無しに俺の意識はアーカム・アルドレアに装填される。
夢の目覚め、現実世界への帰還だ。
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