雑魚スキル【観察記録】のせいで婚約破棄された少年は、モンスター達とともに世界を無双する。

ファンタスティック小説家

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変化した刻印

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 悔しがっていたのは、アルバート自身がおよそ感覚的に自分の刻印で可能なことが把握できてしまったからだ。

 アルバートは冷や汗をかく。
 10歳の子供がするには、あまりにも切羽詰まった表情であった。

 そんなことを知らずにワルポーロは、ほかの魔術師たちへのデモンストレーションとして用意したモンスターを連れてくる。

 四足歩行の牙の鋭い獣だ。
 ファングと呼ばれる冒険者ギルドでもよく狩られている変哲の無いモンスターである。

「さあ、アルバート、我が家の秘術を見せてあげなさい」

 そう言ってワルポーロは、息子のアナザーウィンドウを見て声をあげた。
 それは、才能ある息子ならば必ずや刻印にも″良い進化″をもたらすと信じてのことだった。

「皆さま、ご覧ください、わたしの息子の刻印が変化しました!」

 涙をながさんばかりの歓喜だった。
 偉大すぎる父親のあとでなにも残せなかった男が、ここに来てやっと何かを成し遂げた──そんな背景が薄ら見えるほどの喜びだ。

 まわりの魔術師たちも「やはり天才だったか」「ワルポーロめ、何を喜んでいる。息子が凄いのだろうに」「アダン家の評価を変えるべきか」などと見直したようにうなずいている。

「ささ、アルバート、その刻印でなにができるのか見せておくれ!」

 ワルポーロはせかすように、ファングの首輪に繋がったリードを渡してくる。

 久々に見た本当の笑顔をうかべる父親。
 期待のまなざしを向けてくる貴族たち。

 アルバートはあまりの重責に泣きそうになっていた。

「さあ、アルバート、はやく!」
「……は、はい」

 アルバートは瞳をうるませながら、ファングへ手を差し伸ばす。

 頼む、頼む、奇跡よ、おこってくれ。

 そう願いながら、頭を撫でようとする。
 もしアルバートが【怪物使役式】に準じた刻印をもっているなら、ファングくらいのモンスターを簡単に操れるはずだった。
 
 しかし、

 ──ガブッ

 ファングはアルバートの手に噛みついた。

「うぁああ?!」

 鋭い牙は子供の手のひらに4つの大穴を開けてしまった。
 会場から悲鳴があがり、アルバートは慌ててファングから離れる。

「──クリテクト」

 魔術師の誰かがはなった結晶の短剣が、ファングを貫いて一撃で絶命させた。

 現場は騒然としていた。
 なにが起こったのかわかっていない者。
 そして、何が起こったのか理解した者。

 アルバートは痛みにふるえながら、クルーエルの魔術師に手助けされて立ちあがる。

 そのうち、誰かがつぶやいた。

「モンスターを使役できなくなった?」

 その一言がすべての者にわからせた。

 ワルポーロは驚いた表情でアルバートの顔をみた。

 愚かな父親もようやく理解した。
 そして、自分の勝手で息子に大怪我をおわせたことを後悔していた。
 
 その瞬間「家をなんとかしなければ」「偉大なアダンの血を再興させなければ」と気張りつづけていた緊張の糸がキレた。

 今日、すべての蓄積が失われたのだ。
 
「″悪い変化″だな」
「間違いない、退化しやがった! ハハ!」
「もったいないことを。だが、フフ、アダン家が終わってくれるのは好都合だ……フフフ」
「やれやれ、エドガー・アダンの刻印を失うなど、無能どもめ」
「ワルポーロの顔をみてやれ。たった1代の間で伝説の遺産を台無しにした男の顔だ。この醜態にどう落とし前をつけるのかな?」
「あの家はもうダメだ。貴族の面汚しどもめ」
「次の代も無能決定。もとから崖っぷちだったんだ……もってあと1ヶ月と言ったところか」
「あの家への投資は打ち切りだ。帰るぞ」
「一刻もはやくアダン家との縁を切るのが賢明、みなさま、引き上げましょうか」

 魔術師たちの軽蔑と嘲笑は、ワルポーロとアルバートの両者へなみなみ注がれていた。

 歴史が浅く、伝説の遺産である刻印だけでもっていたような魔術家だ。
 
 それが無くなれば、もう何も″旨味″が残ってはいないと判断されてしまったのだ。

 アルバートは歯噛みする。

 ふざけるな、強欲どもめ……!

 父親は息子ほど冷静じゃなかった。

「お願いします、ぁ、ぁぁぁ、あああぁ、アアアア! ま、まま、待ってください……!」

 ワルポーロは涙を流しながら懇願した。
 否、それはもう駄々をこねていたと形容するほうがよほどふさわしい醜態であった。

 アルバートは手に空いた穴の痛みにゆっくりと意識をうしないながら、騒然とする庭園と、ローブをひるがえして帰宅する魔術師たちを見つめていた。

 否、血も涙もない彼らではなかった。

 アルバートが見つめていたのは、侮蔑と嘲笑をむけてくる者たちのなかで、ひとり駆け寄ってくる赤いドレスを着た少女だ。

 なるほど、建前だけでも心配か。
 ああ、どうしてこんな事に。
 
 少年は涙をながしながら、自身の名を呼ぶ少女の腕のなかで意識をうしなっていった。
 
 
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