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怪書 前編
しおりを挟む本庫をアーサーとメイドたちとともに片付けて、アルバートは屋敷を飛び出した。
庭園へでてさっそく″エドガーの怪書″を片手に持ち、空いた手を庭へむける。
開くのは数日前に手のひらに大穴を開けた鋭牙のモンスター、ファングの項目だ。
古びた羊皮紙のページには、ファングの挿絵とモンスターに関する情報が書かれている。
ご丁寧なことに必要推定魔力量という欄も埋まっており、それによればファングの複製召喚には魔力『5』を必要とするらしい。
アルバートはアナザーウィンドウを開いて数字の変化を見ながら、召喚実験を行うことにした。
───────────────────
アルバート・アダン
スキル:【観察記録】
体力100/100
魔力223/223
スタミナ100/100
───────────────────
「召喚実験をはじめる」
体内の魔力の流れをイメージする。
すると、スーッと普段の練習で魔術をつかった時に感じる疲労感がやってきた。
アナザーウィンドウへ視線をうつした。
───────────────────
アルバート・アダン
スキル:【観察記録】
体力100/100
魔力212/223
スタミナ100/100
───────────────────
「11も魔力消費してるな……」
思ったより倍以上の魔力をつかってしまったが、それが生命創造の代価と考えれば、あまりにも安いものだった。
「で、どこにファングに出たんだ?」
アルバートはあたりを見渡す。
見たところ召喚したはずのファングはいない。
召喚魔術に類する技術ならば、およそ近場に出現するはずなのに。
なぜ現れない。
「魔力使ったよな? 失敗したのか? いや、たしかに手応えはあったけど……」
悩んでいても仕方ない。
「アーサー!」
困ったときはアーサーを呼べばいい。
「御用でしょうか、坊っちゃん」
どこからともなく現れたアーサーに、アルバートは「俺が召喚したファングを探せ」と命令をくだした。
アーサーはうやうやしく一礼して、すぐさま屋敷の裏手へはしりだした。
屋敷の裏にはモンスターハウスがある。
そこには、ワルポーロがギリギリ使役できるだけのモンスター達が飼われている。
きっと、そこへ行ったのだろうと思いながらアルバートは、自分も裏手へ行ってみることにした。
「アーサー。ファングはいたか?」
「申し訳ございません。敷地内をくまなく探しましたが、坊っちゃんのファングを見つけることはできませんでした」
「ここにいるファングは?」
「すべて当屋敷で飼われている既存のものでございます」
となると、やはり魔術に失敗したか。
「魔術に失敗するのは7歳の時以来だ」
「どんな天才でも挫折はございます。もちろん、ご主人様にもありました」
「慰めはいらない。今は一刻もはやく怪書の調査をして、その利用価値を探す」
「はい、かしこまりました」
そうすれば、アダン家を救える。
俺たちを見限ったやつらになにか報いることができるはずだ。
そうすれば──そうさ、そうすれば、アイリスだって婚約破棄の件を見直してくれる。
彼女は俺のことが大嫌いだろうけど、きっとアダン家の力が欲しくなるはずだ。
彼女は狡猾で、どんよくで根っからの魔術師だからな。
「さて、続きをはじめるか」
アルバートは気を取り直して、凛々しい顔になると屋敷の表へ戻ってきた。
「ん、なんだこれ」
庭園になにかが落ちている。
さきほど、アルバート自身が魔術をつかった場所である。
それは、まるで調理されている途中の生肉のようであった。
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