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怪書 後編

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 というわけで、ブラッドファングを呼び出すことにした。

 ブラッドファングはファングの上位種であり、冒険者ギルドが設定する『脅威度』ではファングをはるかに凌ぐ強さだ。

 消費魔力は『80』となってるが、例にならっておそらく信用はできない。

「アーサー、もしかしたら強力なモンスターだと完全に支配下におけないかもしれない」
「はい。でしたらその時は、僭越ながらわたくしめが処理させていただきます」
「頼む」

 ワルポーロもブラッドファング級のモンスターは、おすわりさせておくのが限度だ。
 これまでの使役学の観点からいえば、まだ実践練習を積んでいない俺が、ブラッドファングの使役に挑戦するのは無謀すぎる。

 ただ、アダン家に猶予はない。

 前から崖っぷちだったアダン家は、いまや急速に転落してる。
 近いうちに使用人たちの給料をはらえず、長い付き合いの従者も雇えなくなるだろう。

 俺は目の前の現実をワルポーロに代わって直視する必要があるんだ。

 俺は覚悟を決めてブラッドファングを呼び出すために魔力を集中させた。

 体からいっきにチカラが失われていく。
 ガクンっと魔力量が変化したのがわかる。

 アナザーウィンドウを見ると『11/223』と残存魔力が表示されていた。

 消費魔力191。
 理想値は80……これは練習が必要だな。
 
 くたくたになった俺はアーサーの手をかりて、椅子にすわりこんだ。

 10分ほど待つと、ようやく芝生の隙間からぶくぶくと血の塊が肉となって、カタチを形成するように膨らんでいく。

 しかし、まだ時間がかかりそうだ。

 20分ほど待つことでようやく沸騰する血液のようなものは、まともにモンスターのカタチになってきた。

 アルバートはその様子をみながら、気になった事をつぶやく。
 アーサーはそれを聞いて、必要な情報を簡潔にわかりやすくノートに書き取っていく。

 そうして、待つこと30分後。

 ついに緑の芝生のうえに、太い四肢をついてどうもうなうねり声をあげる獣が現れた。

 アーサーがすこし身構える。

「そのままでいい」
 
 俺は立ちあがり、ブラッドファングの目の前へ歩みよった。

「グルルゥ…」
「お手」

 アルバートの端的な指令に、ブラッドファングは赤い瞳を剥く。
 場に緊張感がただよいはじめた。

 ブラッドファングはじーっと、アルバートのことを見つめる。

 そして、その大きな前脚を彼のさしだした手のうえにちょこんと乗せた。

「よし、いい子だ」
「グルルゥ♪」

 すごい。
 この怪書のチカラは本物だ。

 アルバートは喉を鳴らすブラッドファングを撫でながら、刻印のもつ無限の可能性に思いをはせるのだった。















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