雑魚スキル【観察記録】のせいで婚約破棄された少年は、モンスター達とともに世界を無双する。

ファンタスティック小説家

文字の大きさ
39 / 57

未知との遭遇 後編

しおりを挟む
「……はぃ?」

 ティナの最初の一言はそれだった。

 まさか、不定形のコケコッコがコケるとは思っていなかったことはさる事ながら、赤黒い液体がまざってしまうとは思ってもいなかったのだ。

 え、この場合どうなるの?

 ティナは何が起こるのかわからないまま、グツグツとうごめく液体が、お互いに分離しようもあがいてるのだけはわかった。

「助けたほうがいいかな? でも、触ったらどうなるんだろ……」

 すこし考えてみて、触ることだけは明らかにためらわれたので、ティナはアルバートに報告をいれることにした。

 立ちあがり、緊急事態をつたえるべく書庫へとつづく階段に足をかける。

 その時、

「ゴゲェエエ!」
「ッ?!」

 魔術工房の奥からおぞましい鳴き声が聞こえてきた。

 それは、真っ黒な影であった。
 それは、真っ赤な憎悪であった。

 煮えたぎる炎のように熱い熱気がみちて、白い蒸気を全身からはなっている。

 ティナはさきほどコケコッコたちが生誕しようとしていた場所に、得体の知れない肉塊の怪物がいるのを目撃した。

「嘘でしょ……ッ」

 原因は間違いなくアレ。
 2匹のコケコッコの『元』が、今までにない溶けあいをしてしまったせいだ。

「ゴゲェエエ!」

 怒りの形相──たぶん、怒ってる──をうかべるソレは、檻の隙間に身体をねじこんだ。
 流動的な体から、皮膚のない肉が簡単にそぎ落ちてソレのサイズはちいさくなった。
 だが、まったくお構いなしにソレは、資料や積まれた本を蹴散らして、ティナへむかっていった。

「来ないでください……ッ!?」

 腰をぬかしながら、涙目で階段をはいあがりすこしでも逃げようとする。

「アルバートしゃまぁ…! アルバートしゃまぁ、助けてぇええー!」

 我ながら無様すぎる悲鳴だった。
 しかも、恐怖でのどが引きつってしまいうまく声がだせない。

「ゴゲェエエ、ゴッゴ……」

 ソレが階段をはいがってきた。

 木製の階段を黒と赤の粘液でベチャベチャに汚し、書庫の大理石の床を侵食しながら、それは一歩ずつ、ティナへとせまっていく。

「ヒィ、ぃ……ぁ、アルバート様……っ!」

 ティナは最後の力をふりしぼってはっきりした声で悲鳴をあげた。

 ソレは彼女の悲鳴をトリガーに飛びかかった。

 あたかも遺言を聞き届けたとばかりの思いきりの良い殺人衝動が襲いかかる。

 憎悪の塊にふれて、ティナは眼前の醜いモンスターが「なにを思ってる」のかわずかに感じとっていた。

「いのち、の、ぼう、とく……?」

 ティナは掠れた声でつぶやいた。
 それが自分の最後の言葉になるとは意識していなかった。

「なんだコイツ」

 耳元で声が聞こえた。
 途端、背後から飛び出した少年がすごい勢いで黒い塊に前蹴りをくらわした。

「ゴゲェエエ?!」

 ソレはふっとんでいき、魔術工房へと落ちていくとベチャっと音をたてて床に激突してしまった。

 それが再び動くことは二度となかった。

「あ、アルバートさ、まぁ……」
「あれは一体……。ん、それよりも、まずはお前だな」

 アルバートはシルクのハンカチを取り出して、ティナのほっぺたについた黒い液体をぬぐいさる。

「大丈夫か?」

 ただ一言。
 尊敬する主人のその言葉に、ティナは「ああ、安心していいんだ」と恐怖の呪縛から解放された。

「怖かったでずぅ、ぅ! アルバート様ぁ、ぁ、ぅぅ!」
「よしよし、もう大丈夫だからな」

 彼は彼女の背をポンポンと優しくたたいて、泣き止むまで胸をかすのであった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています

ゆっこ
恋愛
 「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」  王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。  「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」  本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。  王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。  「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!

川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。 だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。 だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。 馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。 俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...