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混ぜるなキケン 後編
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──翌朝
ティナは気合いを入れ直して書庫の扉をあけた。
昨日は取り乱してしまってあれっきりテントで寝込んでしまっていた。
だが、アダン家が危機に瀕しているさなか、重役をつとめるティナがいつまでも休んでいるわけにはいかなかった。
「アルバート様、ティナです、ただいま戻りました──ぐえぇ?!」
意気込んで魔術工房を見下ろすと、喉奥から変な声がでてしまった。
「ティナか。体調はもういいのか?」
「ぇ、えぇ…一応は…」
「そうか。なら、さっそくで悪いが部屋を掃除してくれ」
アルバートは黒い液体でベチャベチャに汚れた魔術工房を見渡していった。
「あの、何したんですか?」
「実験だ。魔術師だからな。深淵に至るためには何代にも継承して研究と学問を繋げなければならないのだよ、ティナ君」
「いえ、そういう話をしてるんじゃなくてですね……もしかして、アレを召喚したんですか?」
「安心しろ、もう生命活動は停止してる」
「そういう問題じゃないですってば!」
アルバートは「そうか?」といいながら、黒い液体で汚れきったタオルで、顔をぬぐっていた。
「とりあえずは体を洗いたいところだ」
「うっ……はやく入ってきてください…」
ティナはしかめっ面で鼻をおさえて言った。
──しばらく後
使用人達によって魔術工房がモップがけされるなか、アルバートは風呂上り特有のホカホカした蒸気をはっしながら手記を手にしていた。
「あのバケモノについていくつかわかった事がある」
アルバートの発表を聞くのは助手であるティナの役目だ。
「まずひとつ目、あれは怪書に観察記録することはできない」
「なんと。アルバート様のすごい刻印でも対応できないモンスターがいるんですか」
「アダンに不可能はないが、なにも万能というわけじゃない。思うにあれはモンスターではない……いや、もっと言えば生きてると呼んでもよいか怪しい段階の出来損ないの生命だ」
アルバートは昨晩の格闘のことを思いだす。
頑張って触ろうとしてみたが、接触をこころみるだけで指先に痛みがはしって、拒絶反応がでていた。
「あの黒液本体に触れると、全生命にとってよくない影響をあたえる気がする」
アルバートは「ゆえに怪書への登録は不可能だった」と締めくくった。
「使役も不可能だ。単に俺の従来スタイルの使役がよわいだけかもしれないが、現状はとりあえず不可だ」
「そうでしたか。でも、よかったです。あんな怖いモンスターを仲間にされたらどうしようと思っちゃいますから」
「ああ、それともうひとつ。もし俺が使役術でやつをテイムできたとしても、おそらく仲間にはなれない」
「どうしてですか?」
「死ぬからだ」
アルバートは壁際のキャビネットのなかを開けてみせる。
ティナは顔をしかめて息をとめた。
キャビネットのなかには、ぐちゃぐちゃになった何らかの生物の遺体がしまわれていた。
「捕獲を試みたんだが、今朝、お亡くなりになられたわけだ。おそらく、不完全な生命の末路なんだろう。使役モンスターとしての使用には到底耐えられないだろうな」
アルバートはそういって「こいつも片付けておいてくれ」と、ティナの背筋が凍るような指示を出して階段をのぼった。
「昨晩の実験結果は、混ぜるなキケン、か。アレには用途を感じるが……。なにか接合剤のようなものがあればあるいは……」
アルバートは頬杖をついて深く思案しながら、アイリスたちとの朝食の席へとむかった。
ティナは気合いを入れ直して書庫の扉をあけた。
昨日は取り乱してしまってあれっきりテントで寝込んでしまっていた。
だが、アダン家が危機に瀕しているさなか、重役をつとめるティナがいつまでも休んでいるわけにはいかなかった。
「アルバート様、ティナです、ただいま戻りました──ぐえぇ?!」
意気込んで魔術工房を見下ろすと、喉奥から変な声がでてしまった。
「ティナか。体調はもういいのか?」
「ぇ、えぇ…一応は…」
「そうか。なら、さっそくで悪いが部屋を掃除してくれ」
アルバートは黒い液体でベチャベチャに汚れた魔術工房を見渡していった。
「あの、何したんですか?」
「実験だ。魔術師だからな。深淵に至るためには何代にも継承して研究と学問を繋げなければならないのだよ、ティナ君」
「いえ、そういう話をしてるんじゃなくてですね……もしかして、アレを召喚したんですか?」
「安心しろ、もう生命活動は停止してる」
「そういう問題じゃないですってば!」
アルバートは「そうか?」といいながら、黒い液体で汚れきったタオルで、顔をぬぐっていた。
「とりあえずは体を洗いたいところだ」
「うっ……はやく入ってきてください…」
ティナはしかめっ面で鼻をおさえて言った。
──しばらく後
使用人達によって魔術工房がモップがけされるなか、アルバートは風呂上り特有のホカホカした蒸気をはっしながら手記を手にしていた。
「あのバケモノについていくつかわかった事がある」
アルバートの発表を聞くのは助手であるティナの役目だ。
「まずひとつ目、あれは怪書に観察記録することはできない」
「なんと。アルバート様のすごい刻印でも対応できないモンスターがいるんですか」
「アダンに不可能はないが、なにも万能というわけじゃない。思うにあれはモンスターではない……いや、もっと言えば生きてると呼んでもよいか怪しい段階の出来損ないの生命だ」
アルバートは昨晩の格闘のことを思いだす。
頑張って触ろうとしてみたが、接触をこころみるだけで指先に痛みがはしって、拒絶反応がでていた。
「あの黒液本体に触れると、全生命にとってよくない影響をあたえる気がする」
アルバートは「ゆえに怪書への登録は不可能だった」と締めくくった。
「使役も不可能だ。単に俺の従来スタイルの使役がよわいだけかもしれないが、現状はとりあえず不可だ」
「そうでしたか。でも、よかったです。あんな怖いモンスターを仲間にされたらどうしようと思っちゃいますから」
「ああ、それともうひとつ。もし俺が使役術でやつをテイムできたとしても、おそらく仲間にはなれない」
「どうしてですか?」
「死ぬからだ」
アルバートは壁際のキャビネットのなかを開けてみせる。
ティナは顔をしかめて息をとめた。
キャビネットのなかには、ぐちゃぐちゃになった何らかの生物の遺体がしまわれていた。
「捕獲を試みたんだが、今朝、お亡くなりになられたわけだ。おそらく、不完全な生命の末路なんだろう。使役モンスターとしての使用には到底耐えられないだろうな」
アルバートはそういって「こいつも片付けておいてくれ」と、ティナの背筋が凍るような指示を出して階段をのぼった。
「昨晩の実験結果は、混ぜるなキケン、か。アレには用途を感じるが……。なにか接合剤のようなものがあればあるいは……」
アルバートは頬杖をついて深く思案しながら、アイリスたちとの朝食の席へとむかった。
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