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気づき 後編
しおりを挟む──しばらく後
朝食の席はなんともぎこちない空気で満ちていた。
穴があったら入りたい、否、いっそ殺して欲しい、そんな心持ちのまま、アイリスは味のしない朝食をいただく。
アルバートに好意がバレただろうか?
あるいはアルバートのそばにいるためだけに、家を捨てた魔術師失格の女だと気がついてしまっただろうか?
アイリスはチラッとアルバートの表情をうかがう。
深刻な表情をしていた。
いまだかつてないほどに、人生で最大の選択を迫られているかと思うほどに、頭を働かせているのが見てわかった。
じきに食事が終わった。
給仕のメイドたちが食器をかたづける音だけがテントにひびく。
しばらく難しい顔を続けていたアルバートは、なにかを決めたようにスッと顔をあげた。
「すこしお時間をいただいても?」
アルバートのスマートな笑顔がほほえみかける。
──しばらく後
アルバートと散歩しに森のほうへやってきたアイリス。
遠巻きにサアナ、そしてブラッドファングが付いてきているが、2人の周囲には誰もいない。
目的地は一応、アダン屋敷近場の湖ということになっている。
歩いて三刻ばかりの距離で腹ごなしにはちょうどよい。
「アルバート、お誘いしてくれるなんて珍しいですね」
基本的、彼からこういう類いの誘いはこない。継承の儀のまえに会ったときも、アイリスから声をかけたのだ。
「いえ……なんというか、もしかしたら僕は何か思い違いをしていたのかもしれない、と思いまして」
アルバートは早口でそういった。
視線は空を泳いでいる。
「思い違い? それはどんな?」
話をつづけなくては、湖から屋敷まで往復するあいだ、ずっと黙ってるわけにはいかないっ、と、アイリスとしては冷や汗をかきながらの返答だ。
「いや、もしかしたら……ああ、いや、なんでも、その、ないんですけどね? ええ」
「はぃ?」
アルバートの舌回りがよろしくない。
ひどく狼狽えているみたいだ。
「アイリス様……ひとつ質問してもいいですか?」
「ええ、まあ、ひとつくらいなら……?」
なにを聞かれる。
アイリスはドキドキしながらアルバートの横顔を見つめる。
「あの、アイリス様って僕のことが…………ぇぇ、その、なんといいますか……好きですか?」
そんな質問する……ッ?!
アイリスは動揺をかくせない。
「え? ぇぇ? そりゃ、ま、まあ、ええ、はぃ…じゃなくて、もちろん、婚約者ですし……多少は、いえ、全然、多めの多少ですよ? 全然嫌いなところはないです!」
「……そう、ですか」
アルバートは言葉に押し返されるようにのけぞった。
そして、迫真の表情でボソボソとつぶやく。
なにか納得いったのか、今度は確信した顔で話しかけた。
「アイリス様、僕も好きですよ」
「…………そ、そうですか?」
「はい。普通に、建前とかなしで」
「…………あはは、それは、なるほど、うーんと、そうですねぇ……」
アイリスの顔がみるみる赤くなっていき、アルバートの言葉の意味を考えるためのキャパシティが消失していく。
ダメです、鵜呑みにしては!
アルバートの言葉には深い意味が込められているはず!
この一見開き直って、本心を伝えてきてるような表情もきっとなにか──。
「アイリス様、手、繋ぎますか?」
「……すね」
「?」
「……そうですね、それも良いかもしれません。お天気もいいですし」
「ですね、お天気もいいですし」
「うんうん、そうですよ、お天気がいいですから」
アイリスは思考をやめて、心地良い天気の空にすべてを任せる事にした。
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