異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家

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第一章 再誕者の産声

魔力量に関する研究

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 目が覚めた時、俺は床に突っ伏していた。
 うっすら暗くなりつつある東の空には、すでに3つの月が姿を現していた。
 
 すごく頭が痛い。思考が泥みたいに重たい。
 むくりと起き上がると、全身のだるさに驚き眉をひそめた。

 この最悪な気分は魔導書に載っていたアレか。
 
「……これが魔力欠乏状態《まりょくけつぼうじょうたい》ってわけだ」

 おそろしく速いMP切れ、俺でなきゃ見逃しちゃうね。

「アーク、ご飯だぞ~」
「いま、いきます……」

 扉越しのアディの声に返事をかえす。

 俺は気だるい体を引きずるように動かして、魔導書をベッドのしたに滑りこませた。

 これほどまでに魔力なるものの消耗が激しいなんて。
 いや、あるいは俺の方に問題があるのか?

 将来、魔術師を目指すものとして、絶望感が芽生えつつあった。

 まずい。嫌な予感がする。
 もしかして、俺、魔術の才能なさすぎなのでは?

 
 ───

 
 翌日。
 俺の体を襲っていた倦怠感《けんたいかん》は消え失せていた。
 1日ぐっすり眠って魔力が回復したのだろうか。
 
 また気絶するのが恐いので、魔導書を読み進めることにした。
 なにか魔力量に関する記載はないものだろうか。

 魔術基礎教養編で見つけた。
 「個人の魔力量最大値は生まれた時点で決まっている」
 
「うそ、だ、ろ……?」

 魔導書を茫然と見つめる。
 なんだか涙があふれてきそうだ。
 こんなことってありかよ。そりゃねえよ、著者ぁ。

 さらに読み込むと、優秀な魔術師の家系は、より優秀な子孫を残すことを重視している由縁としても、この魔力量と血統のことが書かれていた。

 優れた血統の家系ほど、より潤沢な魔力をあつかえる、ということだろう。

 アディはたぶんそこそこ有能な魔術師だ。
 だが、エヴァは間違いなく脳筋、じゃなくって体を動かすのが好きな体育会系だ。
 お世辞にも俺は優良な血筋のサラブレットとは言えない。
 
 ≪ウィンダ≫2回。それが俺の限界なのだ。
 いや、正確には2回目は発動すらしてなかったので1.5回だろうか。

 なんだよ、この本の著者はクソみたいな野郎だな。
 人の夢をあっさり奪うなんて。
 もうやけくそだった。

「風の精霊よ、力を与えたまへ! ≪ウィンダ≫!」

 そよ風がふいて、魔導書がぱらぱらめくれる。

「≪ウィンダ≫!」

 風が強く吹き、魔導書がバラバラっと勢いよくめくれていく。

「はあ、はあ、はあ……あれ?」

 今、2回使った気がする。
 いや、絶対に使った。

「もしかして、魔力が増えた? 成長したのか? よし。試してみるか。風の精霊よ、力を与えたまへ──ぅ、また、意識が……ぁ!」

 
 ────


 数か月後。

 俺は『魔力量に関する研究』というタイトルで研究レポートを作成していた。
 羊皮紙はお絵描きに使いたいから、とアディにお願いしたら用意してくれた。

 俺は魔力量に関する独自の理論を構築しつつあった。
 
 おそらく幼年期の魔力量研究に関しては、魔導書の著者よりも俺のほうが前進しているといえるだろう。

 まず、魔導書の記述は間違っている。断言しよう。

 はじめて≪ウィンダ≫を使った日以来、俺の魔力量は成長しつづけている。
 魔力量の増加は魔術師としての練度にかかわっていると思われる。

 ≪ウィンダ≫換算で、

 1日目 1.5回
 2日目 2.5回
 3日目 3.5回
 4日目 4.5回
 5日目 5.5回

 と言うふうに、俺の魔力量は実に規則正しく成長を見せた。
 もちろん、魔力を使い切ったあとは、平均して2時間ほど気絶している。
 そのため最近はベッドのうえで気絶するようにした。
 そのまま朝を迎えられるので、抜群の睡眠導入効果をもっている。
 
 10日目には、魔力をすべて使い切らなかった。
 するとどうなったか。

 10日目 理論上10.5回使える(実際は10回で止めた)
 11日目 11回

 魔力の上昇値が1から0.5に落ちた。
 つまり、気絶するまで魔力を使うことが、魔力量成長のカギと言える。
 ただ、この仮説には穴がある。
 単純に俺という生物の魔力量成長の限界に到達した、という可能性があるのだ。

 ゆえにこんなことをしてみた。

 22日目 22回
 23日目 理論上23回使える(実際は22回で止めた)
 24日目 22.5回
 25日目 理論上23.5回使える(実際は23回で止めた)
 26日目 24回
 27日目 理論上25回使える(実際は24回で止めた)
 28日目 25.5回
 
 試行回数を十分に稼いだ結果、俺は自信をもってこう言える。
 俺の成長限界による、魔力量成長速度の減退は考えられない──と。

 結論、魔力の成長には限界を乗り越えることが効果的。
 なお、限度がどれくらいなのかは要検証だ。無限ってことはないだろう。

 しかし、なぜ魔導書のような間違った認識が生まれるのだろうか。
 この魔導書がでたらめということはない。
 魔力量に関する記述以外は、俺の異世界研究魔術編において、とても有益な情報源となってくれている。

 しばし、頭をひねって考えてみた。
 魔導書の著者が前書きに権利うんぬん語っていたのを思い出した。

 もしかして、神秘の知識には価値がついているのではないだろうか。
 ゆえに勝手に魔術関連の知識を魔導書に載せて流布すれば罰せられる。とか。
 ということは、魔術をつかう者、つまり魔術師たちにとって魔術の価値保存は、必ずなされなければならない──既得権益の保持のために。

 優秀な血統の魔術師は、自分たちのブランドを守るために、むやみやたらと魔術師たちが増えてもらっちゃ困るのかもしれない。

 存外ありそうな話だ。
 まあ、すべて俺の想像に過ぎないが。

 そんなこんなで、俺は魔力量問題をあっさり解決することができた。

 最近じゃ、魔力にそこそこ自信がついてきたところだ。
 ので≪ウィンダ≫以外にも手をだしてみることにした。
 
 試してみるのは、2番目に安全そうな≪ウォーラ≫だ。
 エヴァの目を盗み、台所からしちいさな水瓶《みずかめ》をくすねてきた。
 
 基礎詠唱の『生成』を使えば、水を作りだすことは可能だ。
 だが、物質を作りだすコスト分、魔力の消費が増えてしまう。
 俺としては試行回数を増やして、たくさん魔術を練習したかった。
 だから、魔力を惜しんで、なるべく『生成』によって、水を生み出さないようにした。
 
 魔術をいろいろこねくり回していると、いろいろと発見があった。
 それは、風魔術とは≪ウィンダ≫にはじまり、≪ウィンダ≫に終わるということだ。
 つまり、風で木を折るのと、風で本のページをめくるのは、同じ魔術によって行えるのだ。

 すべてはどういう塩梅《あんばい》で≪ウィンダ≫を使うか次第なのである。

「戦闘に使うためには、発射できるようにならないとだな」

 俺は窓の外めがけて≪ウィンダ≫を撃った。
 全身から一気にチカラがぬけた感覚が襲ってきた。
 たちくらみして、おもわず尻餅をついた。

「うへえ……やば……撃つと、数十倍は魔力もってかれるな……」

 物理学的な観点からみれば、発射するための圧力を魔力でおぎなっていることは自明だ。だが、エネルギーの消耗が想像以上である。
 ≪ウォーラ≫も撃ってみたが、案の定、凄まじく疲れた。
 もう、もうギブアップです。これ以上は壊れちゃいます。

「はあ、はあ……もっと自由に使えるようにならないと、毎日練習しないとな」

 ベストを尽くす。
 俺は毎日のように≪ウィンダ・弾≫と≪ウォーラ・弾≫の練習にはげんだ。
 
 
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