異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家

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第一章 再誕者の産声

異世界の小麦畑にて

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 3051年 春一月 

 アディやエヴァはかつては冒険者だった。
 そのため夕食の席では、よく昔の話をしてくれる。
 ファイナスライムに体当たりされて火傷した話とか。
 難関迷宮をクリアした話とか。

「──そして、その迷宮の奥地にいたのは、なんと6mもの大きさを誇るポルタだったんだ!」
「あのモンスターは本当にしんどかったわね」

 ポルタとはなんだろう。

「ポルタは迷宮の主とも呼ばれる恐ろしい怪物だ。骨と皮だけの外見で、四足で歩く猿みたいな顔の怪物で」

 グロテスクかよ。そんなモンスター絶対に逢いたくない。

「迷宮にしか出ないんですか?」
「そうなんじゃないか? 迷宮の主って言うくらいだし」
「ポルタは強い魔力溜まりを住処《すみか》にするのよ。だから、迷宮みたいな特殊な地形じゃないと住みつかないのよ」
「そうなんですか。それじゃあ、安心ですね。僕はそんな危険なところにはいかないので」

 そんな話をすると、アディもエヴァもおかしそうに笑うものだった。

 俺は自分の命を大切にしている。
 この世界には物語の中にしかいないようなバケモノが平気ででてくるのだ。

 うっかり殺されでもしたら、後悔してもしきれない。

 とはいえ、流石にいつまでもアルドレア屋敷に引きこもっているわけにはいかない。

 というわけで、俺は家の外へいってみることにした。
 これまでアディとエヴァからさんざんモンスターに遭遇した時の対処を聞いてきたし、いざとなれば俺が魔術を使えばいい。

 俺は覚悟を決めた。

 アルドレア屋敷は浅い森の中にある。
 背の高い針葉樹のかこまれた、閑静な立地の家だ。
 森の洋館とかいって幽霊屋敷と思われている。たぶん。

 アディといっしょに屋敷の敷地と外の世界をつなぐ門までやってきた。

 屋敷の前を横切る一本道を右へいくとクルクマ村。
 左がエレアラント森林だ。
 森林をさらに進めば街道につづいている。

 エレアラント森林とは太古の昔からその姿を変えていない古い森だ。
 クルクマ方面は、すぐそこに森の出口がある。
 農村地帯が広がっているのが、門からでも見えた。

「森には絶対に入るなよ。モンスターがでるからな」
「わかりました、父様」
「森に入らない限りは、まずモンスターはでない。俺とエヴァが越してきてから一度も村のなかでモンスターの出現は起こってないっていうくらい絶対に会うことはない。いいな?」

 アディは言い聞かせるように俺の頭を撫でてくる。
 薄紅瞳がこちらをのぞきこんできた。

 両親は引きこもりがちな俺をかねてより心配していた。
 2人が「お外へいってみない?」と誘って来ても「死にたくありません」といってプイッとそっぽ向き続けたせいだろう。
 そのため、俺が家の外をモンスターが樹林跋扈《じゅうりんばっこ》する修羅の国かなにかと勘違いしていると、彼らに深読みさせてしまうのも無理はなかった。

「アークはもう五歳なんだ。天才は孤独を好む。その気持ちはわかる。だが、そうは言っても限度がある。それに、アルドレアはこの村を任されてる騎士貴族でもある。その跡取りのお前がいつまでも顔を見せないというのも示しがつかない」

 アルドレア家はエヴァを当主とする騎士貴族だ。
 騎士貴族は領主貴族より、一定の土地を任される立場にある。

「わかりました。それじゃあ、本日はかるく挨拶回りでもしてきます」
「それがいいだろうな。それじゃあ、しっかり頑張れよ。お前に限ってなにかあるとは思わないが」
「はい、行ってきます、父様」
 
 村への一本道を歩く。
 振り返ると、アディが腕を組んで微笑んで見送ってきていた。
 前をむいて歩き出す。針葉樹のトンネルを抜けると村に着いた。
 
 村は辺境という言葉がぴったりのド田舎だった。
 穀物──おそらく小麦だろう──の金色の稲穂が風で揺れている。
 そろそろ収穫なのか、広大な畑は金色の絨毯がしかれたみたいになっていた。

 幻想的な風景だ、と思いながら、かつて地球で鑑賞した映像作品にもこんな光景がでてきていたな、などと思いだす。

「異世界に来なくても見れたのかな」

 そう思うと、なんだか損した気分だった。
 22世紀の仮想空間技術ならば、きっとこの風景も再現できたんだろうな。

 まじまじと絶景を見つめる。
 そうしていると、俺は気がついた。

 鼻孔をくすぐる草の香り。
 顔に吹きつける終わる冬の冷たい風。
 すぐ耳元で聞こえる葉と枝のこすれる音。

 すべてがリアルだった。
 画面のなかに存在しない世界がある。

 俺はひとつ賢くなったような気がした。

 俺が見てるのは正真正銘、虚無の海をさきの異次元の小麦畑だ。
 これを完全再現することは、イセカイテックにもまだ出来ないだろう。

「存外、良いものだな」

 俺は妙な満足感をもちながら、手を腰裏で組み、ちょっと偉そうに歩く。

「獣がにげたぞー!」
「おいかけろー!」
「駆除してクルクマをまもるんだー!」

 そんな声が聞こえた。
 かと、思うとぼしゃんっと何かが水に落ちる音が聞こえた。
 
 俺は小走りで行って、小麦畑のさきを見やる。
 子供が3人いた。
 各々、自由に灌漑水路《かんがいすいろ》へ小石を投げいれている。
 
 やったやった。
 子供の時って水にものを投げ入れたくなるんだよな。
 親の仇かってくらいめちゃ強く石を叩きつけたりさ。
 水滴が顔に跳ね返ってきてイライラするまでがワンセット。

 と大人ぶってみたが、どうにも様子がおかしいと気がつく。

 水路のなかでうずくまる子供の姿があった。
 少年たちは「獣退治だー!」「病気うつすなよ!」「全部こいつのせいだー!」と、その少年へむかって言いながら、小石を投げていたのだ。

 となると、さっきのぼしゃん音は、あの子が突き落とされた音だろうか。

 許せん奴らめ。
 地球にヒーローはいなかった。 
 俺くらい助けの手をさしのべてやってもいいはずだ。

「君たち、やめたまへ。そんな非生産的な行動は」

 俺は威勢よく話しかける。

「かっちゃん、あいつなんか言ってるぞ」
「んだよ、ちびのくせに」
「年上に逆らっちゃいけないんだよー!」

「そんな王国法はない。なんで無意味で、利益にもならないことをする?  君たちの不毛極まりない醜悪ないじめは、自分自身の品格を貶めるだけだぞ」

「むずかしいこと言ってかっこうつけんじゃねえよ!」
「こいつやっちまおうよ、かっちゃん!」
「そうだな! おまえも見ない顔だし、どうせ悪い奴にきまってる!」

 ガキどもめ。
 俺は道理の通じない子供が嫌いなんだ。
 親はどんなしつけをしている。

「もう一度、言ってやる。お前たちの行動には意味がない。この子をいじめて誰が幸せになる? だれに得がある? 傷ついた人間がひとり生まれるだけだ」

「だれに得って?」
「幸せ? えーと……」
「俺たちじゃねえー?」
「あっ、そうだよ、俺たちにきまってんじゃん!」
「そうだ、そうだ!」

 お前たちのような子供は大人になると皆こう言う。

 『あの頃はやんちゃしてたなあ~』
 『若気の至りってやつ?』

 やんちゃってなんですか。
 若気の至りってなんですか。
 
 青春を貴様らの免罪符に使わないでください。
 嘘をつくな。欺くな。騙すな。
 子どものころ何してたか正直に話せ。 
 お前たちは犯罪者だ。

「……さっさと帰れ」
 
 俺はしぼりだすように言う。

 これ以上、耐えられそうになかった。

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