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第一章 再誕者の産声
地獄の双子
しおりを挟む新暦3051年 春二月
異世界にきて4年と100日程度が経過した今日。
ゲンゼとの魔術研修会から帰宅した時、アルドレア家は騒然としていた。
「エヴァ……」
「アディ、できちゃった、みたい……」
「そうか……」
アディとエヴァは向かいあい、神妙な顔つきで見つめあう。
俺はすこし離れたところで、生唾を呑んでのどを鳴らす。
「おめでとうーっ! よくやったぞ、エヴァ!!」
「えへへ、ありがとっ」
懐妊祝いである。
「おめでとうございます、母様」
「アークもありがとうね。ほら触ってみて、動いてるかな?」
さすがに気が早いのでは。
「……動いたかもしれません」
お腹に手をあて、はしゃぐエヴァに苦笑いをする。
うれしそうに薄水の瞳が細められている。
「アークもこれでお兄ちゃんだな」
「そうねえ、つい先日産まれてくれたのに、もう2人目なんてはやいものだわ」
だな。
時間の流れは本当にはやい。
俺としてはこの異世界の一年はかなり長いと思うが……。
それもじきに慣れてしまうんだろう。
そうして、いつかどれだけ手を伸ばしても止まってくれない時間と、取り戻せない過去に哀愁と切なさを宿した瞳をむけるようになる。
その時、後悔したくない。
ベストを尽くしたと思いたい。
二度目の人生、過去に向ける視線は、自負だけでいい。
────
新暦3051年 秋三月
秋三月が地球の太陽暦における12月に相当する。
つまり、だんだん年末の空気が漂いはじめたということだ。
ちなみに俺の誕生日は冬一月。
もうすぐ5歳の誕生日である。
同時にエヴァの陣痛がついにはじまった。
俺は兄弟と言うものを知らない。
初めての経験にドキドキしている自分がいた。
それから、出産に至るまではあっという間だった。
この世界の胎児は約9カ月ほど母親の腹のなかですごす。
短い、という認識は間違いだ。
異世界の9カ月は、40日×9カ月の360日にも及ぶからだ。
またこの異世界は、星の自転だか、公転だかは地球のソレとは異なる。
そのため、1日は30時間近くある。
つまり、地球人類に比べ、非常に長い期間をかけて彼らは生命をはぐくむ。
生物学の知見はないが、命の誕生とかを目撃すると、生命の神秘とやらを語りたくてしかたなくなる。賢《さか》しらぶりたくなるのは科学者のジレンマだ。
出産の日。
俺とアディは、苦しむエヴァの傍で、必死にその手を握っていた。
俺が左手を。アディが右手を。
赤ちゃんが出てきた時、俺とアディはお互いに涙をながしていた。
やった。やったぞ。俺たちのエヴァが頑張った。
そんな風に俺は父親とアイコンタクトしていた。
だが、当のエヴァにとっては何も終わっていなかった。
大変だったのは、そこからだった。
まさか、2人目が出てくるなんて誰が予想できただろうか。
エヴァの二度目の出産。
それは、双子の出産であったのだ。
憔悴《しょうすい》しきったエヴァが欲張るように2人の赤ちゃんを抱いていたのを覚えている。
印象深い光景だった。俺とアディは棒立ちで傍観者に徹していた。
母と子の絵画的な描写に俺たちのような不純物が混じってはいけない。そんな気がしたのだ。
エヴァの美しさは、はっきり言って絶世のモノだ。
きっと本来なら、宮殿やらドレスやらが似合うんだろう。
双子はそんなエヴァの美貌を継いで、とても可愛らしかった。
髪もきめ細かい銀色だし、肌も雪のように白いし。
アディに似てしまった俺とはいささか違う趣《おもむき》だ。
先に産まれた姉がエーラ。
後に産まれた妹がアリスと名付けられた。
────
新暦3052年 冬一月
転生からついに5年が経過した。
ディアゴスティーニ杖が完成するまで後しばらくの辛抱だ。
最近、俺は苦痛に耐えていた。
赤ちゃんのお世話が想像を絶する過酷な仕事だと知ったからだ。
もちろん、例の双子のことである。
エヴァとアディは、以前まで自信満々だった。
俺という前例があったからである。
しかし、今ではそんな気概は彼らの背中から微塵《みじん》も感じられない。
俺が特殊すぎた。
決して夜泣きせず、決して危険なことをしない。
両親の言いつけは必ず守る。
そんなベリーイージーモードの俺を育成して形成された矜持《きょうじ》など、ホンモノの地獄をまえに粉々に砕け散った。
エヴァは最近ノイローゼ気味だ。
アディは髪が薄くなったような気がする。
彼らが弱いのではない。むしろ、よくやっているほうだ。
俺が楽すぎた。そのせいで精神的な準備をさせてあげられなかった。
なので、俺は魔術の研究と勉強の時間を削り──ゲンゼに会う時間は減らさなかった──、双子の面倒を積極的に引き受けることにしたのだ。
2人への罪滅ぼしとして。
結果、俺まで地獄に引きずり込まれた。
我慢だ。今は耐え忍ぶ時だ、アーカム。
異世界での記録を取るいい機会だと思えばいい。
だから、このぶっ壊れた時計みたいな妹たちを本当にぶっ壊そうとするのだけはやめるんだ。
夜泣きするのはしかたがないんだ。だって生きてるんだもの。
我慢だ。俺は我慢が得意だったはずだろう?
ああ、こいつら黙らせてぇ……。
──時は過ぎ……
新暦3053年 秋三月
苦難の時が終わったのは、エーラとアリスが2歳になった時だ。
長きにわたる戦いは終結をむかえた。
この頃には、両親もすっかり健康な精神状態にもどっていた。
エヴァとアディには、いまでもよく感謝される。
いわく「お前がいなかったら俺は剥げていた。確実に」父親は語る。
「子供は3人でいいわね」母親はどこか遠くを見てもらす。
苦しい時間だった。
だが、乗り越えてしまえば、どうということはない。
残るのは深まった家族の絆と、試練で鍛え上げられた己だ。
そして、苦労した分だけ、なぜか増すへ元気な姉妹への愛情だ。
「エーラ、お兄ちゃんって言ってごらん」
「おにーたんっ!」
「心が浄化されるぅ……。さ、アリスはお兄様って言ってごらん」
「あにーさま?」
「良い。グッド。グレート、ビューティフル」
俺は決めた。
尊敬される兄になろう。
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