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第一章 再誕者の産声

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「どうしたんだ、アーク……?」
「いきなり、大声出すんじゃねえって」

 アディとジェイクは驚きの表情だ。
 ほかの皆も、困惑しているようだった。

「父様、みなさん、いままで嘘ついていてごめんなさい」
「なっ、いきなり何を語りだすつもりだ、アーク」
「実は僕には特殊な能力があります」
「なんだって……?」
「危険がわかるんです」

 みんなポカンとしている。
 
「危険? それは……つまり、どういうことだ?」
「僕は天才です。才能の一種だとでも思ってください」

 我ながらうぬぼれていて嫌になる説明だ。
 めちゃ雑だし。だが、これで納得してもらうほかない。
 アディは沈思黙考し、みなの顔を見渡した。

「アークを信じてやってくれるか」
「今の説明でですか?」
「こいつは常識なんて通用しないんだ。アークが危険だというなら、この先には大きな危険が待っているに違いない」

 アディの言葉にジェイクとノザリスとフラワーは顔を突き合わせる。

「なあ、アーカムの野郎すげえ意味わかんねこといってぞ」
「彼は稀代の天才。私たちの知らない特殊な能力があってもおかしくない」
「やっばいって! ここでさらなる能力が発覚するとか流石にそれはやばすぎじゃない? いや、まじやばくない?」

 会議が終わったらしくジェイクは「信じよう。魔術師は賢者にまかれるってことだぜ」と肩をすくめる。

「それに、アーカムが言ってることもわからなくはねえ。たしかに普通じゃねえしな。この──この、なんだ、この……これはなんだ?」

 ジェイクは適切な表現を見つけられないまま、金属の扉に近寄っては、強度を確かめるようにノックした。
 ガンッガンッと重たい金属音が響いた。
 
 見たところ圧力扉だ。
 潜水艦などの隔壁《かくへき》に使われるタイプに近い。
 ハッチと呼べるだろう。

 今は閉まっておらず、半開きになっている。
 入ろうと思えば、いつでも入れる状態だ。

 高速で脳みそを働かせる。
 直径3mの巨大ハッチの正体に関して仮説を打ち立てることは出来る。
 
 1.現世界の極秘研究施設の入り口
 2.異世界転移船の入り口
 3.異世界文明の構造物

 こんなところか。

 できれば3.だと信じたい。
 だが、まわりの反応を見るに可能性は薄そうだ。
 文明レベルからいって、これだけの金属をふんだんに使って、装甲性能を確保した扉をつくる、という発想がでてこないだろう。

 となると、1.か2.だ。
 
 個人的には2.な気がする。
 実はイセカイテック社は異世界転移船の計画を進めていた。
 ただ、俺の提唱した円環装置のほうに予算が組まれて開発GOサインがでた。
 結果として異世界転移船の話は、計画段階でとん挫した。
 あの案を出したのは確か……彼だったはずだ。

「アーカム殿、この扉の隙間から膨大な死蛍が漏れ出てきている。我々騎士団としてはこのまま見逃すわけには行きません」
「わかりました。では、エイダムさんご同行をお願いしてもいいですか」
「もちろんですとも。ですが、アーカム殿はこの先に行かれるのか? 危険なら我々騎士にお任せしていただいてもいいですが」
「いえ、僕が行ったほうが何かと事態を好転させられると思います」
「でも、それでしたら全員で行った方が状況への対応能力はあると思いますが」
「少数精鋭で行きましょう。この先には人数を率いていくのは良くない気がします。勘ですよ」
「うーむ……わかりました、そこまで言うなら」

 エイダムは騎士たちに「ここで待機だ。皆様をお守りしろ」と指示をだす。

「決して油断しないでください」
「わかっています、アーカム殿こそ決してご油断なさらずに」

 エイダムは剣を手に。
 俺は杖を手に。
 慎重にハッチの隙間をくぐった。

 中の様子の第一印象は「廃墟」だった。
 壁も床も天井も土で汚れていて、かつ埃っぽい。
 床の埋め込み式ライトが光ってない。
 電気系が死んでいる。

「行きましょう」

 俺は杖を油断なく構えてクリアリングしていく。

 イセカイテックの社員は近接格闘《CQC》と銃の撃ち方を研修で習う。
 俺の杖の構え方は自然と拳銃のそれと近くなってしまっていた。

 10分ほどかけて施設内を隅々まで捜索した。
 結論から言うと、誰もいなかった。
 あちらの人間が活動していた痕跡はあるのに……。

 代わりと言うわけではないが、奥の部屋で死体を20人ほど発見した。

「やはり、リッチがこの不思議な建物を根城にしていたようですな」
「どうでしょうか」

 なんとも言えない。
 とりあえず、もっと調べてみよう。

 まずは、死体たちが寝かされていた奥の部屋を見てまわることにした。

 一見して、船の操縦室のような印象を受けた。
 正面の壁には一面にモニターが敷き詰められている。
 イセカイテックの宇宙開発部の管制塔管制室に、こんな感じのデカいモニターがあったのを見たことがある。

「見るほど不思議な建物ですな。こんな地下施設があるとは」
「これはたまたま地下にあるだけかもしれません」
「なんですと?」

 様々吟味して結論をだす。
 これは異世界転移船だ。
 さっきエンジンルームのような場所も見つけた。
 死体が置いてあるこの奥の部屋はおそらく操縦室。
 
 コンソールを適当にいじってみる。
 キーボードをタップする感覚に懐かしさを覚える。

 すべてのコンピューターが動かなかった。
 画面が割れてるし、電気も死んでる。
 放棄されて久しいように見える。

「エイダムさん、死体はどうですか」
「何人かバンザイデスで見覚えのある顔がありますな。予想通りここにいるのは隣町の住民で間違いありません、アーカム殿」
「リッチの痕跡は?」
「それが、どこにも痕跡がないですな。リッチならば儀式用のモンスター素材を生贄の近くに配置していると思うのですが。ここにはそういう凝った様子がない。ただ、死体が並べられているだけです」
「……リッチではないと?」
「その可能性が高くなってきましたな」

 俺とエイダムは顔を見合わせる。
 お互いに嫌な悪寒だけを共有していた。

「それじゃあ、いったい何が死体をここへ運んだんです?」
「それは、わかりかねますな」
「うーん……ん?」

 足音が聞こえた。
 近づいてくる。

「エイダムさん静かに」

 俺のとっさにエイダムの口に指を立てた。
 すぐに彼も接近者の気配に気がついたらしい。
 警戒するように腰を落とし、俺を背後にかばった。

 ──コト、コト、コト

 靴底の鳴らす小気味よい足音。
 それは迷いなく操縦室へ入って来た。

「おやおや、入り口だけじゃなく、まさか船内にも入っていたか。しかし、エイリアンに拠点を乗っ取られてしまうなんて、どこのC級映画だろうね」
「だれだ貴様ッ! ここでなにをしている! 外の者はどうした!」
「なにを言ってるかわからないよ、原始人くん。日本語が英語か中国語で頼むよ」

 俺はエイダムの分厚い背中からそっと視線を通す。
 
 汚れきった白衣に身をつつむ中年の男。
 やせ細っていて、骨と皮だけの不健康極まった容姿をしている。
 その姿が俺の記憶のなかの人物とダブった。
 思わず、口から言葉がもれた。
 
「緒方《おがた》主任……?」

 記憶のなかの彼とはあまりに乖離した姿だった。
 だが、悪意に満ちた顔は忘れもしないものだった。






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