異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家

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第二章 怪物殺しの古狩人

正義の騎士

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「お疲れさまです、騎士団長。こちらが今月の分です」
「うんうん、いつもどうも、ご苦労さん」

 怪しげな酒場で怪しげな会話が行われている。
 路地裏にひっそりと構えられた酒場から黒服の男が出て行く。
 マフィアである。バンザイデスを根城にするカリステッドファミリーの一員だ。

 一方、酒場のなかには、鎧こそ着ていないものの騎士風の男が4人いた。
 マフィアから受け取ったマニー金貨を改めているのは、浅黒い異国風の男だ。
 エイダムの後任で、現騎士団長を務める上級騎士レフリ・カワサキである。
 
「うんうん、エイダムも馬鹿なやつだよ。権力の使い方をまるで知らないんだから」
「まったくですな、レフリ団長」
「よしよし、お前たちは金を例のところへもっていくんだ。各所への根回しはいつも通り頼む。ああ、それと女を買っておけ。若い娘だぞ」

 レフリはそう言って部下たちを解散させる。
 今夜は団長室でパーティの予定があるのだ。
 もちろん、健全なものではない。

 レフリは貧しい家の出身だった。
 こうして力と権力を手に入れたいま、彼はすべてを私腹を肥やすために使おうとしていた。

 自分もそろそろ行くか。
 そんな事を思い、レフリは酒を煽り飲み、最後に酒場を出ようとする。

「騎士団長殿、これはどういうことですか」

 と、酒場へひとりの騎士が入ってきた。
 
「うんうん、やっぱり来た、フェルナンドくん」

 騎士フェルナンド。
 若干23歳の若さで剣聖流三段を修める天才剣士である。
 かつてエイダムと共にアルドレア家へ王女護衛に行ったこともあり、前騎士団長からの信頼は厚かった。

「やはりカリステッドファミリーと癒着があったんですね」
「だったらどうするんだい、フェルナンドくん」
「決まっている。貴様を裁く。薄汚いネズミめ」
「ひどい言い草だよ。そんなこと言ってると騎士団を追い出しちゃおっかなー」
「戯言はいい。お前たち、騎士団長を連行しろ」

 フェルナンドは連れて来た騎士2名に指示をだす。
 だが、

「すみません、フェルナンドさま」

 騎士たちは上官であるフェルナンドを、突如として後ろから斬った。
 
「ば、か、な……! な、なぜ……!」
「うんうん、君は権力の力とか、お金の魔力とかそういうものに理解が足りないね。これが知恵者の戦い方さ。天才剣士くん」

 フェルナンドは苦渋を表情をする。
 エイダムがいればこんな事にはならなかった。
 レフリが王都からやってきて団長に就任してから騎士団は狂い始めた。
 今では汚職と腐敗が蔓延る魔窟だ。
 
「こんな、ところで、死んでたまるか……」

 ──剣聖流剣術四ノ型・剣聖獅子斬り

「っ、避けろッ!」

 レフリが叫ぶ。
 瞬間、フェルナンドは抜剣し、全方位へ鋼の刃を乱舞させた。
 酒場の机も椅子が斬り刻まれ、壁も天井も床にも斬痕が走る。
 剣術三段の冴え渡る剣筋は見事というほかない。

 フェルナンドは得意の一撃を放ったあと、颯爽と酒場を飛び出した。
 駐屯地に戻ったフェルナンドはポーションを服用し、自分の部下のもとへ向かった。
 ついにやったぞ、尻尾をつかんだ。
 これで団長を更迭し、追い出すことができる。
 そう説明した。

「す、すみません……無理ですよ……できませんよ」
「なにをお前たち言っているんだ……この時を待っていたんじゃないか!」
「団長の裏にはカリステッドファミリーがいるんですよ? 逆らったら四六時中つけまわされて報復として湖に水死体として浮かぶことになる……!」

 バンザイデス近郊の湖では沈んだ死体が稀に浮かんでくることがある。
 隠す気のない死体もある。
 わかる者にだけわかる見せしめとして浮かばされるのだ。
 そういうのが大抵はアウトローのやり方だ。
 すなわちマフィアの消し方である。

 フェルナンドの部下は皆、怯えあがってしまっていた。
 団長の恐怖政治の威力は抜群だ。その夜、決定的な瞬間を押さえたにもが関わらず、団長の不正に立ち向かえる者はいなかった。

 ──しばらく後

「俺が、騎士団を除籍……?」

 フェルナンドは部下から遠慮がちに渡された文書を見て、目を白黒させた。
 先日の一件を王都の騎士団本部へ伝えるべく、手紙を鷹に持たせて飛ばした結果である。

 フェルナンドは膝から崩れ落ちる。
 レフリの背後は想像以上に強力だった。
 フェルナンド一人ではどうしようも無いほどに。
 
「そんな……まさか、王都にも、やつの仲間が……」

 報復としてフェルナンドは「上官への反抗的態度」というふざけた名目で、騎士団を除籍されてしまった。実質的、追放処分である。

「フェルナンド先輩……すみません……」

 意気地なしどもめ。
 お前たちはなんのために騎士になったんだ。
 不正・理不尽を斬るためじゃないのか。

 フェルナンドはそう叫んで、部下を糾弾したかった。
 だが、部下に当たるのは、まるで見当違いな行為だ。
 追及するべき敵を間違えてはいけない。
 
「いい。ああいう手合いを相手にするには、普通の方法じゃリスクが大きすぎるからな。お前たちが生き残っていて、俺が騎士団を追い出されたこの現状が、どちらが賢い判断だったかを示している。お前たちは間違っていない」

 フェルナンドはそれだけ言い残して、朝の修練場へでた。
 本日、騎士団はお休みである。
 なのでテニール・レザージャックとかいう弩級の鬼畜じじにしごかれることもない。
 なので修練場に行く必要もない。

「フェルナンドさん、今日の訓練は休みでは?」
「朝の空気を吸いたくなったんだ」

 階段のあたりに腰かけている少年。
 朝練に精を出す彼は、ちょうど休憩中らしい。
 黒髪に薄紅瞳の二枚目の顔つきをしている。
 剣術の大天才として名高いアーカム・アルドレアである。

 フェルナンドは3年前の事件のこともあり、アーカムとは、とりわけ親しくしている騎士のひとりであった。
 アーカムやアンナに嫌がらせをしている騎士たちに、裏で教育的指導をしているのも、フェルナンド率いるかつてのエイダムの部下たちであった。
 
「お前は本当にすごいな。毎日毎日、こうして早朝から鍛錬をしているんだろう」
「目的がありますから。今できるすべてをやりたいんです。ベストを尽くしたいだけですよ」
「ベストを尽くすか……」

 フェルナンドは自問する。
 自分はベストを尽くせているだろうか。
 我が身可愛さで不正に目をつぶり、声がもれないように口を抑えながら生きることが、ベストを尽くしたことになるのだろうか。
 いいや、断じて違う。それはただの諦めだ。
 騎士が決してやってはいけない恐怖による敵前逃亡だ。

「俺もベストを尽くすことにしたよ」
「フェルナンドさん?」
「アーカム、これまでありがとうな」

 フェルナンドはそう言って歩き去った。
 アーカムのもとへ、アンナがやってくる。
 タオルで玉の汗をぬぐいながら、じーっと離れていく背中を見つめている。
 
「フェルナンドね。なんかあったの?」
「アンナ」
「なに?」
「ちょっと、聞きたいんことがあるんですけど。騎士団長の噂について──」


 ──その晩

 
 フェルナンドは剣を手に騎士団長室の扉のまえにいた。
 正義を執行する。
 俺の命に変えてでも、悪を断つ。
 フェルナンドは扉を蹴破り、団長椅子にふんぞり返って座るレフリの姿を捉える。
 そこはお前の椅子じゃない。

 ──剣聖流剣術二ノ型・剣聖十文字

 一足でレフリに肉薄し、高速の二連撃を放った。
 だが、剣聖三段の練りあげられた太刀筋は、黒服の剣士によって弾かれてしまった。

 フェルナンドは目を見張る。こいつ強い!
 レフリが奥でニヤついているのが見える。

 と、そこへ、

「不死鳥の魂よ、炎熱の形を与えたまへ
        ──《ファイナ》」

 高速詠唱によって放たれた火の玉。
 フェルナンドに命中し、炎が騎士を包みこむ。

「ぐぁああ!?」
「うんうん、やっぱり来たか。君のような偽善者くんは追い込んでやれば短絡的行動にでると思ってたよ。フェルナンドくんみたいな正義ぶってるやつを、このレフリ・カワサキが今までどれだけ相手してきたと思ってるんだい」

 レフリはその度に後悔と絶望を与えて殺してやった、と武勇伝を語るように高らかに言った。信じられないクズである。
 部屋には黒服が4人いる。
 2人の魔術師、2人の剣士。全員が只者ではない覇気を纏っていた。

 すべては罠だったのだ。
 最初から勝ち目などなかったのだ。

 フェルナンドは焼ける痛みに悶えながら、正義の無力さに打ちひしがれた。
 
「ん? おおっと、これは……うんうん、これは予想外のお客さんだよ」

 レフリが怪訝な声をもらした。
 視線は団長室の開きっぱなしの扉の外へ向けられている。
 かと思うと、なんの前触れもなく、フェルナンドのうえから大量の水が落とされた。
 あっというまに音を立てながら猛炎は鎮火される。
 
「団長室は来ようと思わないとこれない場所なんだが……一体こんな夜更けに何のようなのかな、大天才アーカムくん」
「大したことではないですよ。僕はまわりが歯向かわないような巨悪に歯向かってやるのが趣味なだけです」
「うんうん、それは良い趣味とは言えないね。……テニールさんのお弟子さんだから、なるべく荒事は避けたかったけど、見られたらのなら、もう殺すしかなくなっちゃったよ」
「元よりこっちもそのつもりですよ。お気になさらず」
「……うんうん、天才と持ち上げられて勘違いしちゃったのかな? ここにいる彼ら4人は全員が魔術、剣術ともに極限まで練りあげたプロフェッショナルの殺し屋だよ。君など相手にならないよ」
「それは恐いですね」

 アーカムはおどけたように肩をすくめる。
 レフリはそれが癪に触ったようだ。
 彼の瞳から熱が失われていく。

「先生方、あの調子に乗るガキに実力をわからせてあげてくださいよ。お願いしましたよ」

 殺し屋たちは薄い笑みを浮かべてアーカムへ向き直った。
 フェルナンドはかすれた声で「に、げろ……」と絞り出す。
 だが、警告は遅く、すでに殺し屋の剣先はアーカムの喉元に到達しようとしていた。
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