異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家

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第二章 怪物殺しの古狩人

4人の殺し屋

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 フェルナンドの様子がおかしかったので、情報通を名乗るアンナに話を聞いたところ、どうにも彼はレフリ団長の不正と戦っていることがわかった。
 フェルナンドの部下たちに話を聞いてみれば、彼らはすぐにゲロった。彼らが勇敢な先輩に協力しなかったこと。その結果として報復除籍処分が下されたこと。

 胸糞悪い話だった。
 俺の嫌いなタイプの話だ。

 ────

 高速で振り抜かれる剣。
 正確に喉元へ流れてくる。
 俺は上体をわずかにそらして回避した。
 杖を抜いて《ウィンダ》で剣士をふっとばす。
 黒服はたまらずふっとんでいき、壁にぶつかって床に落下──動かなくなった。

 他の殺し屋たちは目を見張り、固まってしまった。

「なん、だと……」
「あいつ、詠唱したのか……? でも早すぎじゃないか……?」

 トネリッコの杖をペン回しの要領でクルクル回し「いつでもどうぞ」と挑発する。
 プロの矜持を侮られ怒ったのか、止まっていた時間が再び動きだした。

「不死鳥の魂よ、炎熱の形を与たまへ
        ──《ファイナ》!」
「風の精霊よ、力を与えたまへ
        ──《ウィンダ》!」

 発動詠唱式を読みあげるのがめちゃ早い。
 たぶん1秒かかってない。
 本業の魔術師はあれくらい早く高速詠唱しないと戦えないのか。

 飛んでくる風と火の魔力。
 トネリッコを素早く振る。《ウィンダ》を手元で爆発させることで、風の盾をつくり、鼻先80cmくらいの近距離で魔法をはたき落とす。

「っ! やはり無詠唱、ならば、より強力な魔術を使うまで! 風の精霊よ、力を与えた──」
「それは遅すぎ」

 二発目の詠唱に入った魔術師を《ウィンダ》でぶっ飛ばした。白目をむいて気絶した。これで2人。残りも2人。
 剣士が素早く踏み込んできた。《ウィンダ》を撃つが、剣で斬り払われてしまう。
 横一文字、水平にふられる一閃。シックスセンスの導くままに、バックステップでかわす。同時に《ウィンダ》を放つ。
 だが、今度のも弾かれた。
 目が良いじゃないか、この剣士。

「効かんぞ、魔法使いッ!」
「グッド。それじゃあレベルアップだ」

 風の魔力を大量にかきあつめる。
 今度は《アルト・ウィンダ》だ。
 大気の本流を容赦なく固めて、そのまま叩きつけた。
 剣士は先ほど同様に剣で凌ごうとしてくる。
 が、直前になって先ほどとはまるで別物だと気がついたらしい。
 目を見開き「ふざけ──」と言いかけて勢いよく吹っ飛んでいく。
 
「うがぁああああ?!」

 風の嵐が騎士団長室を破壊して、壁を貫通、レフリとフェルナンド、気絶した殺し屋全員まきこんでさらって行き、夜の修練場の芝生のうえへ吹っ飛んでいった。

 今のは完全詠唱でもなければ、風を圧縮して、貫通力を高めて、殺傷能力に特化したバージョンでもない《アルト・ウィンダ》である。
 かつてエレアラント森林で魔獣に撃ったものとは、同じ《アルト・ウィンダ》でも、まったく訳が違う。……が、人間相手にはこれで十分らしい。

「風の精霊よ、力を与えたまへ、
  大いなる息吹きでもって、
          我が困難を穿て
     ──《アルト・ウィンダ》!!」

 こちらの《アルト・ウィンダ》に巻き込まれず、こっそり詠唱していた殺し屋が、ただいま発動詠唱式を読みきった。
 甚大な大気圧の渦がうねる。
 殺し屋の杖から魔獣すら射殺す風槍が放たれた。

 俺は一瞬迷って風属性三式魔術《イルト・ウィンダ》の無詠唱を放った。
 二式の《アルト・ウィンダ》でもいいが、押し負けないか不安だった。

 膨大な風の魔力同士がぶつかり、団長室はおろか、あたりの廊下がベリベリ割れてめくれあがるように崩壊していく。石造りの建物は、暴風にさらされ、圧倒的な大気圧の破壊の前に、ザクザク砕けて空へとまいあがる。もはや駐屯地の一角はサイクロンに巻き込まれた家屋のようになってしまっていた。

 殺し屋の《アルト・ウィンダ》の風槍を、俺の《イルト・ウィンダ》の竜巻が上回り、すべてを打ち消して、なおあらゆる物を巻き込みながら敵を打つ。

「ぅぐ、ぅ、な、ぜ、だ、なぜ、これほどの、威力、がぁあぁああああ!」

 サイクロンに巻き込まれて魔術師は空の彼方へ消えて行った。
 まずい。あれは死んだ。全員、生かしておこうと思ったのに。

「せ、正当防衛だし……」

 風の魔術戦は俺の勝ちのようだ。
 とはいえ代償は大きかった。
 もはやバンザイデス騎士団支部の本棟はめちゃくちゃだ。
 
「なんて、魔術師なんだ、これが無詠唱の使い手……か……」

 三階の高さの騎士団長室跡から、ぴょいっと飛び降りて、修練場へ降りる。
 レフリのもとまで来る。彼はパックリ割れた頭の傷を押さえながら睨みつけて来た。

「くっ……このクソガキめ……貴様、こんな、ことして、タダで済むと、思うなよ……」
「レフリ団長も殺し屋なんか招いている現場が露見するのはまずいのでは」
「くくく、彼らは、表向きは騎士団員だよ、だから、足がつくことはない……比べてお前は、上官への重大な反抗的態度、加えて騎士団への重大反逆罪に問われるだろうよ、せいぜい首を洗って待っているんだな……」

 レフリは勝ち誇ったように高笑いしながら、やがて気絶した。
 どさくさに紛れて夜空へ消せばよかったかもしれない。
 

 ──数日後


 先日、バンザイデス近郊の湖でレフリ団長ふくめ4人の騎士団員が水死体で発見された。
 どうやら俺がやるまでもなく、何者かによって処理されたらしい。
 俺が夜空へ消したやつも、その後は生きていたようだ。
 まあ、そのあと結局、殺されているのだけど。

「師匠? なにかしました?」
「いいや、なにも?」

 師匠は耳をかきながらあくびをする。

「あの顔はなにかしたっていう顔ね」

 アンナが耳打ちしてきた。
 俺もそう思う。

「アーカム」
「フェルナンドさん、もう怪我はいいんですか?」
「ポーションを飲めば、それなりに良くなるさ」

 早朝の修練場へやってきたフェルナンドは、火傷した肌を押さえながら言う。
 あまり治っているようには見えない。
 この世界のポーションの効果は、限定的な物が多くて、飲めば無限に外傷を治癒して再生させるというものではない。

 とはいえ、高級ポーションになると話が変わってくる。
 伝説級の霊薬になると、切れた腕も生えてくるらしい。
 ただ、一般流通しているポーションではとてもそんな奇跡は期待できない。

「騎士団の除籍もなぜか撤回されていたんだ。これでまだ騎士として働くことができる」

 たぶん、師匠がなにかしたんだろう。

「それはよかったです」
「全部アーカムのおかげだ。お前は流石だな。3年前からすごい奴だとは思っていたが、先日の一件で確信した。お前は歴史に名を残すレベルでのすごい奴だってな」
「なんか頭悪そうな褒め方ですよ」
「はは、そうか? お前を表すのにすごい以外思いつかないんだ」

 ふむ、すごい奴……歴史に名を残す、か。
 存外かなり嬉しい褒め言葉だ。

 後日、後任の騎士団長がやってくると共に、なぜかカリステッドファミリーの構成員がたくさん湖に浮いている怪事件が起こった。
 60名以上の水死体が浮かぶ湖はただの恐怖だ。

 師匠、流石に殺しすぎでは?
 それと湖に不法投棄しすぎでは?

「さあ、私はなにもしてないよ」

 どれだけ訊いても、師匠はいつものように肩をすくめて薄く笑うだけだ。
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