異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家

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第二章 怪物殺しの古狩人

人類史上最高水準

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 テニール師匠とアンナと過ごすバンザイデスでの日々は、瞬く間にすぎさっていった。光陰矢の如しとはまさしくこのことだろう。

 新暦3058年 春一月

 バンザイデスに来てから1年3カ月が経った。
 クルクマから手紙が届いた。
 なんでもアリスが魔術の才能を爆発させてるとかで、アディもエヴァも大変喜んでいるとのこと。
 エーラは勉強嫌いだが、アディいわく見込みがあると自慢げにつづられていた。

 10歳になったら王都のレトレシア魔法魔術大学に入れるつもりらしい。
 アルドレア姉妹は6歳。まだまだ先の話だ。


 ────


 新暦3058年 春一月

 アンナの誕生日があったようだ。
 全然知らなかった。
 来年はなにか贈ろうと思う。

 
 ────

 
 新暦3058年 夏二月

 灼熱の太陽のもと、アンナと二度目の決闘をした。
 バンザイデスに来た初日以来の本気だ。
 ぼろ負けだったのでハイパーモード使用可で再戦した。
 実質的な三度目の勝負は俺の勝ちだった。

 2勝1敗
 イイ感じだ。
 

 ──

 
 新暦3058年 秋一月

 驚愕の事実が発覚した。
 アンナは狩人流三段ではなかったのだ。
 正確には、ほかにも、剣聖流三段、銀狼流三段も保有しているらしい。
 騙された。完全に騙された。どうりで強いわけだ。
 テニール師匠も剣聖流四段と、銀狼流三段を保有しているようだ。
 あろうことかアンナにだけ教えていたのだ。
 これは重大な裏切り行為だ。
 俺は二人と口を聞かないことにした。


 ────


 新暦3058年 秋二月

 騎士たちに飲み屋に誘われた。
 彼らとの付き合いも長くなってきたおかげか、最近ではかなり上手く溶け込めてる。とくにエイダムの部下で、昔アルドレア家に来た者たちとは、かなり親密な関係を築けている。
 彼らはどこで聞きつけたのか「狩人アーカム!」などと騒いでいた。
 噂レベルで「テニール師匠、実は狩人説」がささやかれていたので、彼が手をかけている俺やアンナが狩人候補として見られるのは仕方がないことだ。

 ちなみにポーカーに誘われた。賭け事である。
 圧倒的に全勝した。
 本日の稼ぎは30,550マニーだ。
 超直感を舐めるな。


 ────

 
 新暦3058年 秋二月

 ゲンゼの手紙を読み返した。
 何度目かわからない。
 彼女はどこにいるんだろうか。
 もふもふが恋しい。


 ────


 新暦3058年 秋三月

 年末の香り漂う。
 俺はアンナにさりげなく「寒いですね」と話しかけてみた。
 実に2カ月ぶりの会話だった。
 アンナは普通に話してくれた。
 おもむろに剣術に関する知識も教えてくれた。

 剣術の主要流派は5つある。
 それぞれの流派の認知度も教えてくれた。
 

────実戦剣術
 実際に戦いに役に立つことを念頭に体系化された剣術。

・『剣聖流』 伝統的な汎用実戦剣術
  剣士人口の7割が習う大流派。ワールドスタンダードな剣術。剣の究極を目指す。剣気圧のコントロールに重点をおいており、オーラの変質でさまざまな奥義の習熟を目指す。
      
・『狩人流』 体術・剣術複合の超実戦剣術 
  剣士人口の2割が習う。剣聖流と並べられるもう一つの選択肢。ここ40年のあいだに急速に普及する新しい剣術。   

────理想剣術
 実践的ではない。
 理論上における最高のパフォーマンスを目指した剣術。

・『銀狼流』 柔術と防御型カウンターの護身理想剣術
  剣士人口の1割くらいはこの流派を習う。理論は有名だが、体得できる者はごくわずか。銀狼の剣を極めた剣士を相手にすると、どんな流派の達人でも勝てないと言われている。

・『血鬼流』 隻腕の剣士のための特攻理想剣術
  まず使用者には出会わない。剣気圧を片腕だけに集中できる利点を使って、剣をふりまわし加速させ高速の剣裁きを可能とする──とされているが、詳細はほとんど謎に包まれている。

・『雷神流』 最速の理想剣術
  まず使用者には出会わない。最速の剣。雷を越える速さの斬撃の会得を目指す。伝説の剣術。

 アンナの言葉をメモしてまとめた。
 テニール師匠が俺にほかの剣術を教えなかったのは、俺と相性が悪いからだそうだ。

 それと狩人流はすべての剣術からいいとこどりして、体系化された最新の剣術なので、わざわざほかの剣に時間をかける必要はないとのこと。オールインワンというやつだろう。

 俺の目指す場所は”全方位完全狩猟術”である。
 殴って、投げて、斬って、魔法撃っての総合戦闘術だ。
 俺にとっては、剣に集中しすぎるのはかえってデメリットらしい。

「先生はあんたの最善を考えてるんだよ」

 その夜、俺はテニール師匠に謝罪しにいった。
 翌日からまた一緒に鍛錬しはじめた。


 ────


 新暦3059年 冬一月

 12歳になった。
 アルドレア家では7歳になったエーラとアリスの手紙が届いた。
 2人は日々、村の子供たちと仲良く遊んでいるらしい。
 無邪気で美人で可愛いエーラは大変人気があるとのこと。
 姉が誰かにさらわれないようにアリスが殺し屋のような目つきでボディガードをしてくれているとか。ちょこちょこ魔法を撃って不審者に威嚇射撃もしているらしい。
 自分の好きなことをやれて日々幸せそうだ。
 実に元気に育っていると見える。


 ────

 
 新暦3059年 冬二月

 ついに狩人流剣術四段の保有者となった。
 アンナよりも俺の方がはやかった。
 クルクマに手紙を出したらこっちに来てくれると言っていた。
 
 記念にアンナと四度目の決闘をした。
 やはり、素のままではまったく歯が立たない。
 すぐにハイパーモードありで再戦を申しこんだ。

 3勝2敗
 まだ勝ってる。

 
 ────


 新暦3059年 春一月

 ゲンゼの手紙を読み返していると、ふとあることを思いついた。
 魔法魔術大学にいけば、彼女を知る人間に会えるのではないだろうか。
 彼女はかつて学校のことを口走っていた。
 それに、彼女は重大な秘密を隠していた。
 草属性四式魔術≪ウルト・プランテ≫
 この世界において段階4の剣術・魔術の稀少価値は計り知れない。
 四式魔術は魔法学校へいかないと教えてもらえないことを思えば、ゲンゼもかつて絶対に魔法学校で勉強したはずなのだ。
 ともすれば、ただでさえ稀少な草の使い手で、なおかつよく目立つ漆黒の毛並みをもつ彼女を覚えている人間がいるかもしれない。

 バンザイデスでの修業がひと段落着いたら、王都へ行こう。
 俺も12歳。そろそろいい時期だろう。


 ────


 新暦3059年 春一月
 
 アンナが訓練中に誕生日を匂わせてきた。
 今年はプレゼントを渡そうと思っていたので、用意していた赤い魔石のついたアミュレットを贈った。
 資金は騎士たちとのポーカーで稼いだ。
 そろそろ、彼らに殺されそうな気がする。

 その晩は90,650マニー稼いだ。
 敗北を知りたい。シンクロニシティ。
 
 
 ────


 新暦3059年 春二月

 アンナが狩人流四段になった。
 今回は「悪いけど、そろそろ本気出すね」とかほざいてた。
 ハイパーモードを一回戦から使った。
 本人には言えないがそこそこ余力をもって勝てた。
 俺も着実に強くなっている。

 4勝2敗
 悪いな相棒。先にいくぞ。

 ────


 新暦3059年 夏二月

 テニール師匠による厄災級の怪物講座が開かれるようになった。

 吸血鬼を殺すには心臓の破壊が必須。夜しか戦えない。
 悪魔を殺すには聖遺物が必須。
 天使を殺すには悪魔武器が必須。

 あとは銀の武器を常備せよ。
 
 覚えることが多そうだ。


 ────


 新暦3059年 秋二月

 誕生日はバンザイデスに来る。
 そんな手紙がクルクマから届いた。
 なんだかんだでもう3年近く家に帰っていない。
 やはり、家族に会いたいという気持ちが強くなってきた。

 
 ────


 新暦3059年 秋三月

 13歳の誕生日を控えた雪の日。
 ただいま厄災講座の時間である。

「なにはともあれ、最大の敵は昔から変わらない。吸血鬼どもさ。こいつらを滅ぼさないと狩人協会は安心できないからねぇ」

 そう語る師匠は黒板に図解を描いていく。
 俺の隣に座るアンナが顔を寄せてくる。

「先生は昔は『血脈の断絶者』って呼ばれるくらい強い伝説の吸血鬼ハンターだったんだって。あたしにこの前教えてくれたの」
「それなら、僕も聞いてます。残念なことに、確認戦果が狩人協会史上最大の1,024体ってのも知ってます。はい、対戦ありがとうございました」
 
 師匠の個人情報収集戦はいつも拮抗《きっこう》する。
 今回はぎりぎり勝てたか。

「残念なのはあんたの楽観的な頭よ。あたしは先生が『絶滅指導者』と呼ばれる超厄災級の怪物を狩ったのも知ってるの。はい、あたしの勝ちね」
「ソースどこですか。不明ですね。はい、無効です。戯言《ざれごと》乙。虚言癖《きょげんへき》直して出直して来てくださいよっと」
「っ、む、ムカつく……!」

「2人とも仲が良いのは大変結構だねぇ。だが、講座に集中しないと、その時が来た時、ひどく後悔することになるよ」

 肘でアンナを叩く。
 アンナに肘で叩かれる。
 責任が返って来たのでもう一回叩いて送り返す。

「師匠、アンナが絶滅指導者とかいう造語を使って師匠の経歴改竄してます。この女締め上げますか」
「あ、裏切り者」

「絶滅指導者かぁ……」

 師匠が神妙な顔をする。
 黙したまま黒板にチョークで書き足していく。

「絶滅指導者は存在する」

「実在するんですか?」
「言ったじゃない。あんたってあたしの言葉信じないよね」
「いや、そういうわけじゃ……勝ちにこだわってまたデタラメ言い出したのかと」
「またってなに? 嘘ついたことないじゃない」
「はい、また嘘つきましたよっと」
「絶滅指導者は吸血鬼の王が、生みだした最初期の吸血鬼たちだ。全部で159騎いた。だが、この1,500年でうち152騎の滅殺が確認されている」
「それじゃあ、もうほとんど倒してるんじゃないですか」
「いや、問題はここからだ。絶滅指導者はんだねぇ、これが。というより、この残った7騎が絶望的に強力な吸血鬼だからこそ、”人類絶滅の指導者”、通称:絶滅指導者と呼ばれるようになったんだよ」

 聞くからにヤバそうだ。
 
「それじゃあ、師匠が倒したっていうのは」
「うん、アンナのホラだねぇ」

 俺は半眼でアンナを一瞥する。
 彼女は頬をそめて居心地悪そうに、座りなおしてそっぽを向く。

「私が全盛期の時に会えていれば、刺し違えてでも1騎は滅ぼしたんだけどねぇ。すべてはあとのまつりさ」
「一度も会ったことないんですか?」
「ない。私のまわりの狩人はみんな殺されたが、私のもとだけには現れなかった」
 
 師匠は遠い目をして言った。
 それって絶滅指導者が逃げていたってことじゃないのだろうか。
 全盛期の師匠。
 『血脈の断絶者』と呼ばれるくらいだ。
 吸血鬼と言う種族を滅ぼす勢いで殺しまくって、さぞあちら側は恐れていたのだろう。

「まあ、いいさ。私のやり残した仕事は君たちに任せることにするよ」
「倒せますかね。僕とアンナで」
「倒せるさ。なんたって、君たちには私が出会ってきた者のなかでも、抜きんでた才能と無限の可能性を秘めている。アーカムとアンナ、君たちという人類史上最高水準となるだろう狩人を育てあげられたことは私の誇りだよ」

 今日はべらぼうに褒めてくるな。

「だから、絶滅指導者も、ほかの怪物も狩りつくしてしまっておくれ。ほかの狩人に手柄を残すなんて考えなくていいからねぇ」

 師匠はそう言うと、冗談めかしたように優しく微笑んだ。
 
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