異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家

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第四章 悪逆の道化師

おそらく終盤

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 ルールー司祭家執事ビショップは、驚愕していた。
 
「ビショップ様、エレントバッハお嬢様がチャップリンお坊ちゃまの『守護者《ガーディアン》』を無力化したようです」

 メイドの報告を聞いて、ビショップは「ほう」と感心したように声を漏らす。

 ビショップは今年で95歳になる老齢の執事だ。
 長年、ルールー司祭家に仕えて、継承戦を3回にわたって監督する身となった。
 その過去の経験から言っても、継承戦開始から7時間で4人の『貴族《ノーブル》』が脱落するというのは、恐ろしく速い展開であった。

「やはり、彼ですかね」

 ビショップはモノクルの位置を直しながら、今回の継承戦参加者のリストを見やる。

 ルールー司祭家は数日前からアーカム・アルドレアなる人物が冒険者ギルドで活躍している噂を小耳挟んでいた。

 エレントバッハが孤児院での奉仕活動で貯めたわずかながらもマニーを使ってギルドに依頼を出したのも知っていた。

 結果として、すでに『下水道のプロフェッショナル』という二つ名を持つほどに活躍していたアーカムが、エレントバッハの依頼を受けたことも分かっていた。

 前情報だけでも、一角《ひとかど》の冒険者だとわかる。
 ただ、ビショップにはそれ以上を見抜く″眼力″があった。
 彼にはわかったのだ。
 アーカムが狩人クラスの実力者であったことが。
 なぜなら、ビショップもまたかつては狩人と肩を並べる教会の意思代行者──宣教師であったから。
 
「今回の継承戦、平穏無事には終わりそうに無いですね」
「ビショップ様?」
「こちらでも観測できずに死亡したミカエラお嬢様の『守護者《ガーディアン》』……。おそらく、アーカム・アルドレアはフローレンスお嬢様の『守護者《ガーディアン》』も倒すでしょう。そしたら、屋敷の異空間は解除され、おそらくがここへ来る」
「ビショップ様、いったい何を……」
「あなたたちは継承戦が終結したら、すぐに屋敷を離れるべきです。死にたくなければ、すぐに。宣教師が来ます。ここは戦場になるでしょう」
「……かしこまりました、ビショップ様」

 ビショップの真剣な声音。
 メイドたちは粛々と頭を下げて了解の意を示した。
 

 ────


 エレントバッハ&アーカムは、チャップリンの『守護者《ガーディアン》』を撃破し、階段をのぼりきった。

「勝てると思ったんだけど。まさか、エレンに負けるなんて思わないよ」

 チャップリンは疲れたような声で言う。

「トニス神が私に勝利をもたらしたんです。アルドレア様と出会えたことは運命でした」
「僕には運命がついてなかった、とね。はぁ……結構、ツイてる方だと思ったんだけどね」

 チャップリンは眼下の踊り場にて、静かに壁にもたれかかるガリブを見下ろし、して、静かに椅子に腰を下ろした。
 ティーをすすり、ソーサーにカップをカチャリと置く。

「いいよ、エレン。神が導いた采配に、僕は抗わない」
「……さようなら、チャップリンお兄さま」

 エレントバッハはチャップリンにトドメを刺そうと、アーカムに貸してもらったコトルアの杖を向ける。

「ん?」

 ふと、異変に気がつく。
 チャップリンの顔が、になっていく。
 まるで、老人のようだ。
 否、老人になっていくようだ。
 傾けたコップの水がこぼれ落ちるように、生命がどんどん欠落していく。
 死に追いつかれたかのように。
 
「な、なんだい、これ……!」

 チャップリンは我が身に起こる未曾有の危機に、なすすべなく、立ちあがり、恐怖から逃れるように走りだした。

 貴族として、誇りある最後を迎えたい。
 そう思い、潔く死のうと思ったのだ。
 こんな訳の分からない終わりは嫌だ。

 壁にぶつかり、転ぶ。
 なおも老化は止まらない。
 もう立ち上がることもままならない。

「ぁぁ、ぁ、ぁ……」
「あぁ、なんて可哀想なチャップリンお兄様」

 そう言い、尸となった兄のそばへ歩み寄る少女。
 儚げな笑顔をたたえている。
 綺麗な少女であった。
 かたわらには虚な瞳でボザボサの髪をした、線の細い、異質な青年がいる。

 彼女はフローレンス・ルールー・ヘヴラモス。
 エレントバッハ&アーカムのペアを除けば、最後に残った『貴族《ノーブル》』と『守護者《ガーディアン》』である。

「凄いでしょう? 私のデスタはとっても強いのですよ。ふふ、デスタ、ちゃんと私を守ってくれましたね」
「ゥゥ、ゥ」

 青年──デスタは虚な瞳をプルプルと震わせる。
 焦点はあっていない。

「あら? 踊り場にエレンとボロ雑巾もいると思ったのだけどれど。どこかへ逃げられてしまったようですね」
「ゥゥ」
「まあ、いいでしょう。エレンでは私たちには勝てませんからね。じっくり、時間を使って行動範囲が狭まったら、チェックメイトをかけるとしましょう」

 フローレンスはそう言い、肩をにかかった艶やかな髪の毛をはらった。


 ────


 ──アーカムの視点


 殺し屋倒しちゃったよ。
 君は暗殺が得意なフレンズなんだね。
 でも、ごめんよ、俺、勘がいいからさ。
 暗殺効かないだよ。そういう体質だから。
 うん、まじ、なんか悪いね。

 というわけで、腕利きの殺し屋を無力化しました。

 チャップリンはなかなか潔い男です。
 覚悟がなかなか決まらない大槻とは大違いです。

 あれ? なんかチャップリン、お前、ジジイに……って、待って待って、エレントバッハさんもちょっと乾燥してきてる!

 急いでエレントバッハを抱っこして、この場を離れます。俺の直感が告げてきます。汝、そこを離れるべし、と。

 というわけで、最上階の7階から逃げて、6階へ戻り、思いきり距離を取りました。

 曲がり角の向こう、チャップリンが逃げていった方向に、食堂で見た女の子と青年がちらりと見えた。

 たぶん、あいつらのどっちかの魔術に準じた能力だろう。
 チャップリン枯れ果ててたし、あのままあそこにいたら危なかった。

 離れたら老化は止まりました。
 ただ、老化した俺の手のしわしわが戻りません。なんとなく身体もだるいのだが。
 まあ、厳密にいえば、老化だったのかは定かではないけど……。

「あ、ありがとうございます、アルドレア様。私も乾燥し始めてたんですね」

 たぶん、乾燥させるっていう能力でもない。

「あれは一体……フローレンスお姉さまは、とくにこれといって魔術が使える方ではなかったはずなのですが……」

 となると、残るは一人。
 あの青年だ。
 
「アルドレア様……あれは何だったのでしょう……」
「……」
「……すみません、分かりませんよね……不安からつい意味のない質問をしてしまいました……」
「推測はできます」
「え? 本当ですか?」

 チャップリンが死ぬまで30秒も掛かってなかった。
 脅威的な能力だ。
 魔術ならば、複雑な式を組みあげて発動する高等魔術の類いだろう。属性式魔術でいうなら、おそらくは《イルト》クラス以上。
 ただ、原則として、効果の強い魔術に必ず式を成立させるための詠唱がつきものだ。
 なのにあの能力には詠唱がなかった。
 もしかしたら、一度発動して仕舞えば、効果が持続するタイプの魔術なのかもしれないが。
 たた、改めて状況を思い返すと、おそらくあれは魔術じゃないと思えるようになってきた。
 
「怪物のなかに人の生命力を吸い、最後には魂を抜き取って捕食する者がいます」

 俺はしわくちゃになった手を握りしめる。

「吸魂鬼《きゅうこんき》、一般に人狼と呼ばれる厄災の怪物です
「そんな……フローレンスお姉さまは、厄災を招き入れたというのですか……?」

 俺はなるべく重苦しくうなづいた。
 本当の試練が迫って来ているらしい。
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