異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家

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第四章 悪逆の道化師

幕間:イセカイテック5

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 異世界転移船NEW HORIZON号へ乗りこむ。
 緒方にはこの金属の巨大な船が棺桶にしか見えなかった。
 18年の歳月をかけてカタチにした夢が呪いとなって自分に返ってくるなんて、3日前まで緒方は考えてもなかった。

「まじで無謀じゃないか?」
「なんで船なんだろうな」
「こんなんじゃ一回失敗したら大損失だろうに」
「その思うと、伊介の装置は一回の実験コストとリスク、試験運転でのデータ採集のことも考えられてたんだな……ポットを送り込むだけだったし」
「やめろよ、聞こえるぞ」

 乗組員たちは緒方が操縦室に入ってきたのを見るなり、無駄話をやめて敬礼した。
 緒方は無視してシステムチェックに入る。

 乗組員たちはまた集まってだべりはじめる。

「緒方船長機嫌わりいじゃねえかよ。てめえが無愛想豚野郎のこと見直してるからだぜ」
「そうさそうさ、あんなキモデブ野郎、結局てめえの発明で死んでんだから世話ねえよな」
「ホントホント、あんなに異世界行くってのたまってたのにな」
「それしか取り柄がないのに、最後の発明もいまじゃデカいドーナッツトンネルになっただけだしな」
「そういえばこの前も、キモデブじじいのほうも自分でつくったアンドロイドに殺されたらしいぜ」
「うっわまじかよ。呪われてんじゃねえのあの無能親子」
「いや、無能親子って、あははは。伊介家って優秀に見えて落ちこぼれの家系だったんだな、ははは」

 緒方は聞こえていないふりをして、操縦室をあとにする。
 喫煙所へむかい煙草をくわえる。
 自身の超能力でたばこに火をともした。

 彼はカテゴリー0の【炎熱使い】だ。
 緒方はこのカテゴリー0というのが嫌いだった。
 あの忌々しい伊介天成と同じ超能力レベルというのが、エリートであることの誇りを傷つけたのだ。
 こんな弱い超能力ならないほうがマシとさえ思っていた。
 
「緒方さん……あなたも乗るんですか」

 振りかえると如月博士がいた。
 前見た時より、ずいぶん痩せていた。

 緒方はニヤリと笑みをつくる。
 いじめやすい後輩がいた、と思ったのだ。
 だれでもいいから自分より下の立場の人間をつくって優越感を得たいのだ。
 自分が優れた人間だと、他人をつかって証明したいのだった。

「やあ、如月くん。聞いたよ、アンドロイド廃棄処分、決まったらしいねえ、いやあ、よくできてたのに残念残念~♪」
「……そうですね」

 如月博士は相手にせず横をぬけていく。
 緒方は額に青筋をうかべて、今にも爆発しそうだった。

(こっちは先輩だぞ?! 生意気な態度とりやがって! まるであのクソデブ野郎だ!)

「ESIKだったか? 可愛い顔してたのに、いまごろは皮ひっぺはがされてプレス機にかけられてるんだろうね。機械は死の瞬間なにを思うんだろうか? あ、違う、死ぬとは言わないか。あれは人の形をしたスクラップだからなっ!」

 如月博士は電子吸引機を口にあて、深く息を吸う。
 20年前に流行した味がついただけの水蒸気だ。
 如月博士はこれが好きだった。

「イヴ、シュトライカ、イカイ、キサラギ。なんでも好きに呼んでやってください。表情も言動も乏しいですが、学習を通して、脳のニューラルネットワークはどこまでも進化します。人間としてあつかってやると喜ぶようになりますよ」
「機械仕掛けのガラクタに研究者としての人生をささげるなんて馬鹿げたことだ。でも、仕方ないか。お前は私のようなエリートでもなければ、天才でもない! だからわからないんだろう。私のやってきたことの凄さが。くそ、どうしてこの俺が、異次元を相手にしてきた偉大で先進的な科学者の俺が現場に追いやられるなんて──」
「人の夢を笑うな」

 如月博士の静かな、されど凄味のある眼差しを受けて、へらへらしていた緒方は固まってしまった。

「すぅー……はあ……人の夢を笑うなよ」

 如月博士はゆっくりたちあがり、電子吸引機を口から外す。

「なんだ、如月、来るんじゃねえ……っ」
「緒方さん、あんたはちっぽけな人間です」
「っ、こ、こいつ! あのデブみたいなこと言いやがって!」

 伊介天成の姿が、如月博士に重なった。

 緒方は如月博士に掴みかかった。
 だが、如月博士は押し返し、代わりに緒方の腑抜けた顔面へ拳骨を打ちこんだ。

「ぶへあ?!」

 折れた歯は宙を舞い、粘質な血が壁に飛び散る。
 喫煙所の床で、緒方は地に伏した。
 怖気づいた顔で口元をおさえ如月博士を見あげる。

「や、やめろ、ぼ、暴力、なんて……っ」

 今しがた自分から暴力に頼ろうとしたことなど忘れ、如月博士を浅ましく糾弾する。

「林音さんを殺したの……緒方さんですよね。」
「っ、ど、どうして、そんなこと、いきなり」

 追い打ちの一撃。
 血がだらだらと、勢いよく緒方の口から流れる。
 彼は完全に戦意喪失して「ち、ちがう、ちがうんだ……」と涙声をもらしはじめた。

「私だって、この船に乗せられた……! 切り捨てられたんだ……! 被害者だ、可哀想だろう……!」
「あなたは話にならない」

 如月博士は殴る価値すらないゴミと判断し喫煙所をあとにする。
 
「私は被害者だぁッ!!」

 遠ざかる背中へ、緒方は遠吠えのように声をはりあげた。
 
「くそ、くそが……ふ、はは、どうせ、やつも死ぬ……それにやつの作品はいまごろスクラップだ……私の船はここにある……私のほうが優位だ、あいつのほうがみじめだ……私はすごい、私はエリート、大丈夫、大丈夫だ……私は大丈夫……」

 
 ────


 ──同時刻
 
 第6研究施設へキサラギを回収しに来た武装兵士たちは困惑していた。
 
「どこいったんだ」
「どうした、なにか失くしたのか?」
「廃棄処分予定のESIKが消えた」

 兵士は研究員たちを見渡す。
 みんなそわそわしている。
 なにか隠しているようだった。

「貴様ら、アンドロイドを隠したな」
「なんのことだあ」

 研究員たちのボスっぽいやつ、第6の主任研究員は孫の手で背中をかきかきしながら、呑気に奥から出てきた。

「無駄なことをするな。イセカイテックが捜索して見つけられないものはない。地球の裏側に逃げようとも必ず探しだせる。わかっているだろう」
「あれれーおかしいなあ、キサラギちゃんは、システムを凍結させた状態で、ポットのロックかけて封印しておいたんですがあ、いなくなってるのー?」まじかよ!!!」
「チッ、白々しい……こんなことしてタダで済むと思うなよ、ひょろがり野郎ども」
「憶測で非難してるのかあ? 銃ふりまわすしか脳のない、進化に遅れた猿がよお」
「ッ、この野郎!」

 腕をくんで涼しい顔をしている主任へ殴りかかろうとする兵士。
 慌てて仲間がおさえに入った。

「やめとけよお、下っ端。怪我する前にひっこめえ?」
「てめえ舐めてんじゃねえぞッ!」
「ああ? てめえの銃と俺の脳みそ、どっちが市場価値高いかわかってんだろお。自覚してんのにイキるなよ、くそだせえなあ」
「ぅ……」

 兵士が静かになったところで主任は「まあ、探しとくよお」とおざなりに手を振って兵士たちを追い返そうとする。

「チッ、まじで舐めやがるな……おい、外套装甲とブレードがあったろ。あれだけでも回収するぞ」

 研究室の入り口から、慌てた様子の兵士が走りこんでくる。

「大変ですよ、第7からESIKのパーツが消えたとか、白衣どもが言ってて……」
「そっちも無くなったのか?! おい! 主任さんよ、いい加減にしてくれませんかねえ! 装備とアンドロイド隠したら、もう叛逆行為ととらえられても仕方ないぜえ! おい、主任さんよォ!」
「だから、なにがだよお。俺らが隠したとでもいいてえのかよお。エビデンスそろえてから立証しろよお」
「うぜえ……。わかった、見つけた時は徹底的にそこんところ洗ってやる。何時間でも尋問付き合ってやるから覚悟しとけよ」
「はは。そうだなあ。見つかればいいなあ」
「見つかるに決まってんだろ。人間サイズのモノまるっと消せるわけがねえ。社内調べりゃ一発だ」

 主任研究員と第6研究室のメンバーは顔を見合わせて、くすくす笑い出した。

「なんなんだ、てめえら……」
「いやあ、失礼。まあ、見つかるといいなあ。──というか、まだ地球にいればいいなあ、あの子がさあ」

 主任研究員はそう言って、ケラケラと心底おかしそうに笑うのだった。
 

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