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第四章 悪逆の道化師
幕間:目標と出会い
しおりを挟むアーカムの死を確認したアルドレア家一行は、すこししてクルクマへ帰って来た。
エヴァリーンはバンザイデスにまだ残っている。
というのも、領主キンドロ卿は領地内のすべての騎士貴族を招集したからだ。
この未曽有《みぞう》の大被害の直接と間接に対応するためである。
バンザイデスは交易の要所であり、騎士団の駐屯地であり、武器製造の重要拠点でもあり、同時にキンドロ領の財政を担っていたおおきな町だった。
直接失われたモノと、これから発生する各地での間接的な被害(食料流通網の硬直、次期当主死亡の沙汰、領地貴族から騎士貴族たちへ分配される領地経営予算の見直し……etc)のおおまかについて話し合いをし、領地全体で方針を決めなくてはいけないのだ。
貴族家の当主である妻に激励を贈って、アディフランツとエーラとアリスはクルクマへ帰って来た。
バンザイデスが壊滅し、キンドロ領が混乱とおおきなダメージに戸惑うなかで、アルドレア家の治めるクルクマでもこれから混乱が訪れるだろう。
「お兄ちゃん……ぅ、ぅ、ぅうわあああ、お兄ちゃーん!!」
エーラは実家に帰ってからもずっと泣いていた。
待っていた。
少女は待っていたのだ。
大好きな兄の帰りを。
優しくて、面白くて、なんでも知っていて、甘やかしてくれる自慢の兄の帰りを。
「なんで、死んじゃったの……いやだよ、なんでなんで、なんで!! 帰ってくるって言ったのに! あー! お兄ちやーん! わー! うあわーん!」
エーラは泣くことしかできなかった。
アディフランツもアリスも懸命に慰めた。
それでも彼女が泣き止んでくれることはなかった。
「お父様」
「ん、なんだい、アリス」
「アリスはレトレシア魔法魔術大学に行きたいです」
「……そうだな、そうだよな」
アリスはまだ8歳だった。
一般入学枠は15歳、才能が学校側に認められれば、初等部として10歳からでも入学できる。
5年間渡るに学士過程という魔術学生としての生活がはじまる。
「うん、まだ時間はある。ちゃんと準備すれば、アリスは問題なく入学試験を突破できるだろう」
「はい。タスク『レトレシア魔法魔術大学 入学』を設定しました」
アリスは燃えていた。
というのも、以前バンザイデスで出会った女狩人──名をエレナ・エースカロリというあの梅髪の女性は「才能あるかも」と、狩人になる道を示してくれたのだ。
これからアリスはレトレシア魔法魔術大学に入学し、そこで『高度魔術師育成コース』に入る。
これは狩人協会の実施している狩人育成プログラムである。
狩人協会は慣習的に『剣気圧』を扱える戦士を主戦力にしてきた歴史がある。
最初の狩人が剣士だったことが理由としては大きいが、より実践での話をするならば、魔術師は厄災を前にして、その速さに対応できないことが大きな欠点とされてきた。つまり、消去法的に戦士しか戦えなかったのだ。
ただし、それは1対1で厄災を狩る場合の話である。
魔術師の状況対応能力、魔術という武器の攻撃性能は、剣術を上回る。
そのため、狩人協会は近接戦闘を行える戦士と、魔術師をコンビにして運用する方法を確立させようとしているのだ。
これは『第二次魔術と剣士計画』と呼ばれている。
ちなみに『第一次魔術と剣士計画』は現狩人たちに一式魔術を必須科目として科し、1年間魔法学校に通わせ、使えるようにするというものだ。
この発想は、かつて狩人協会で伝説的な活躍をした筆頭狩人テニール・レザージャックが提唱した『全方位完全狩猟術』という名でしたためられた、魔術と剣術を融合した理想の狩人をつくる計画から派生したものだ。
夢のある話だった。
狩人協会は意欲的に予算をだした。
しかし、『第一次魔術と剣士計画』は失敗に終わった。
いきなり魔術と剣術の二刀流で戦え、など言われても無茶な話なのである。
テニール・レザージャックのそれは机上の空論にすぎない。
……過ぎなかったのだ。彼が現れるまでは。
狩人協会は諦めなかった。
現に剣士と魔術師のコンビは、生還率が高く、厄災討伐率も高かった。
ゆえに『第二次魔術と剣士計画』では、コンビをつくることにした。
計画は大陸屈指の超大国ヨルプウィスト人間国ゴルディモア国立魔法大学で始まった。
いまでは各国の魔法学校でこのプログラムは実施されている。
「お兄様がこの世界に残すはずだった功績。その未来を奪った吸血鬼を、アリスは許しません」
その日から、アリスのストイックな修練と勉学の日々がはじまった。
一方、エーラは新しい目標のために動き出した妹の姿を見ていた。
毎日、毎日、アリスは魔術工房にこもり、おそくまで励んでいる。
また、父親アディフランツも変わってしまった。
息子が残した研究を、彼の名義で世に残すために、実家の部屋に残されたデータを整理・編纂し、論文にまとめなおす途方もない作業に突入したからだ。
アディフランツは自分の生涯を息子の名誉のために使うつもりでいた。
そんな二人を見て、エーラは戸惑いを見せていた。
「エーラは、お姉ちゃんなのに……」
このままではいけない。
8歳にして強い意志を宿した妹の横顔に感化され、兄のために懸命に頑張る父の背中を見て、自分もなにかできないか、と考えるようになった。
ある日のこと。
アルドレア邸の近くの森をぶらぶらしていた。
自分になにかできないか。何かできないか……ひたすら考えていた。
生前、アーカムがよく来ていた森の奥の秘密基地にやってきた。
そこにはテントが張られており、ハンモックがあり、お墓があった。
アーカムが時折、ここで時間を潰していたのをエーラは知っていた。
誇り高き騎士エイダムの墓のまえで、膝をかかえて座りこむ。
「エーラは、だめなお姉ちゃんだ……」
すっかり元気がなくなってしまっていた。
──ガサゴソ
「え?」
物音がした。
まずい! モンスターだ! っと思い、エーラはとっさに視線をむけた。
モンスターはいなかった。
代わりに綺麗な女の子が立っていた。
エーラにとってはまったくの大人にしか見えないが、実際の少女というにふさわしい見た目をしていた。
透明感のあるシルバーの髪に、金色のグラデーションが入っている。
絶世の美少女だ。人類が想像しうるなかで最も美しい。
創造主がそういう風にデザインしたかのようだ。
ライトグリーンのラインが入った外套を着ている。
ただ、とても防寒性能があるようには見えないほどひらひらしている。
綺麗なお腹と足を惜しげもなくさらしている。
いまは冬一月。
今年もはじまったばかり、一年のうちでもとりわけ寒いというのに。
エーラはそんなことを思いながら、ゆっくり近づいてくるその少女──ESIK、キサラギとじーっと目をあわせた。
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