追放されたけど気づいたら最強になってました~無自覚チートで成り上がる異世界自由旅~

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第2話 勇者パーティー追放の日

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アルトが勇者パーティー《黎明の剣》を追放されてから三日が経った。  
森の洞窟で“始まりの精霊”エリュシオンと出会い、自分の加護が“原初の力”であることを知らされた夜から、彼の運命は確かに動き出していた。  
とはいえ、突然すべてを理解できるわけではない。  
加護の力や制御方法、そしてこれからどう生きるか。課題は山積みだった。

朝日が森を淡く照らす中、アルトは小川のほとりで水を飲み、清らかな光を浴びていた。  
衣服はぼろぼろ、靴底も破れかけ。だが、その顔には不思議な穏やかさがあった。  
昨日までの絶望はもうなかった。代わりに胸にあるのは、小さな決意だけだ。

「まずは……街に戻るか。」

呟いて立ち上がる。森の奥から街へ続く道は危険な区域とされており、冒険者でなければまず立ち入らない。  
魔物が出ることもあるが、今のアルトにとっては恐れるものではなかった。  
何より、自分の力を確かめてみたいという興味の方が強かった。

歩きながら、ふと右手に意識を向ける。  
すると掌から淡い光が漏れ、緑色の粒子が舞い上がった。  
それはまるで生き物のように指先の周りをくるくると回る。

「これが……“原初の加護”の力?」

試すように、近くの木を軽く触れた。  
一瞬、木肌が光り、傷や腐食が消えていく。生命力そのものを再生させたのだ。  
信じられない光景にアルトは息をのんだ。

「……なるほど、回復どころじゃないな。」

回復魔法の最上位でも、ここまで瞬時には再生できない。  
彼の持つ加護は、確かに常識を超えていた。自分では完全に制御できていないのに、この効果だ。  
もしかすると、彼の“無自覚のまま”使ってきた補助魔法も、実際はとてつもない効果を発揮していたのかもしれない。

それなら、勇者レオンたちの戦闘が異様にうまくいっていた理由も説明がつく。  
彼らが勝ち続けたのは、アルトの加護による影響——無自覚の奇跡の連続。  
だがその本人すら、それを知らなかった。  
知らぬまま、役立たずと決めつけられ、追い出された。

「まあ、いまさら文句言ってもしょうがない。……けど。」

アルトは小さく笑った。  
あのときの悔しさと屈辱は、もう過去のものになりつつある。  
けれど、同時に忘れるつもりもなかった。  
ただの仕返しではなく、この力で自分の道を証明したい。  
それが、彼を前に進ませる理由になっていた。

森を抜け、街の門が遠くに見えてきた。  
冒険者たちが行き交い、馬車が往来する賑やかな光景。  
一度は捨てられた世界だが、アルトは不思議と懐かしく感じた。

門番の兵士が声をかけてきた。

「おい、そこの冒険者。どこから来た?」

「北の森のほうから。ちょっと迷ってたんです。」

アルトが差し出した冒険者プレートを確認すると、兵士は眉をひそめた。

「おまえ……アルト・ロウか? 勇者パーティーにいたっていう……。」

「はい、それが何か?」

兵士は気まずそうに目を逸らした。

「いや、まあ、その……勇者様たちが“裏切り者を追放した”って噂が広まってるんでな。街でも少し話題になってる。」

「裏切り者、ね。」

アルトは短く息を吐いた。  
心の奥が少しだけ痛んだが、それ以上の感情は湧かなかった。  
想像通りの展開だと思っただけだった。

「別に、どう思われてもいいです。俺はもう彼らの仲間じゃない。」

「そ、そうか……あんた、肝が座ってるな。」

兵士の驚いた表情を背に、アルトは街中へと入っていく。  
市場の喧騒、人々の笑い声、パン屋の香ばしい匂い。  
どれも懐かしく、温かかった。  
ここで新しく生きる。そう心に決めた。

まず向かったのは冒険者ギルドだった。  
中は活気に満ち、小さな酒場のような雰囲気が漂っている。受付のカウンターにいるのは、長い銀髪を後ろで束ねた女性――エミリアだ。  
アルトも何度か顔を合わせたことがある。

「あら……アルトさん? あなた、生きてたのね!」

「どういう意味ですかそれ。」

「だって、勇者様たちが“あいつはもう戻らない”って言ってたのよ。……まさか、森で死んだのかと思って。」

「ご心配なく。ちょっと休暇を取ってただけです。」

冗談めかして言うと、エミリアはほっとしたように微笑んだ。

「よかった……。でも、今は登録的に《黎明の剣》の名前が外れてるわ。あなた個人の冒険者として再登録が必要よ。」

「わかりました。お願いします。」

登録用紙に名前と職業を書き込む。  
職業欄には、以前と同じ「補助魔導士」と記した。しかしそれを見たエミリアは、不思議そうに首をかしげる。

「補助魔導士のまま、でいいの? 最近は魔導武士とか多いけど。」

「慣れてるので。」

「ふふ、あなたらしいわね。じゃあ登録完了。これで今日からまた活動できるわ。」

エミリアが微笑んで手を差し出した。  
アルトもそれを握り返す。  
その瞬間、ほんのわずかに彼の指先から淡い光が漏れた。  
触れたエミリアが驚いて目を見開く。

「え……? 手の痛みが……なくなった?」

彼女は以前から手首を痛めていたと聞いていた。  
だが今、その痛みが完全に消えたのだ。  
アルトは慌てて手を離す。

「あ、ごめんなさい。無意識で……」

「す、すごいじゃない! いま、回復魔法を?」

「いや……特に何も……。」

周囲の冒険者がざわめき始める。  
「今の見たか?」「何も詠唱してなかったぞ」「あれ、ただの補助魔導士だろ?」  
そんな声がちらほら聞こえた。  
アルトは居心地の悪さを感じてギルドを出る。

外の空気を吸いながら小さく溜息をついた。

「やっぱり、制御できてないな……。」

思考を整理するより先に、誰かの怒鳴り声が耳に入った。

「助けてくれ! 魔獣が街門に!」

門の方向に黒煙が上がる。人々が逃げ惑い、警備兵が慌てて走っていく。  
アルトは一瞬だけためらったが、すぐに足を向けた。  
もう迷う理由はなかった。

門の近くでは、二体の巨大な魔猪が暴れていた。角を振り回し、柵を突き壊している。  
兵士たちは剣を構えていたが、勢いに押されて手も足も出ない。  
その光景を見た瞬間、アルトの体が勝手に動いた。

「“光よ、導け”!」

声が響いた瞬間、地面から柔らかな光が湧き上がり、魔猪たちを包んだ。  
次の瞬間、二体はその場で動きを止め、静かに倒れる。まるで眠ってしまったように穏やかだった。  
騒然とする兵士たちの中で、アルトは胸に手を当て、息を整える。

「……少しは、コントロールできるようになったか。」

兵士の一人が近づいてきた。

「おい、あんた……あれ、あんたがやったのか? すげえぞ!」

「ただの魔法です。」

そう言って笑うと、周囲がどよめいた。  
噂はあっという間に広がり、街の人々が口々に「新しい英雄が現れた」と囁き始めた。  
皮肉なことに、勇者パーティーを追放されたその男が、今や街の救世主として人々の視線を集めているとは、誰も信じられなかった。

アルトは静かにその場を離れる。人々の歓声を背に受けながら、どこか遠くを見つめていた。  
そこには、彼を追放した勇者たちがいるはずだ。

「さて……次は、あいつらがどう動くか。」

小さく呟き、笑みを浮かべた。  
その笑いにはもう、かつての迷いも劣等感もなかった。  
彼自身もまだ知らない。――この日、無自覚な英雄が本当に歩きはじめた瞬間だった。
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