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第1話 無能と呼ばれた俺、勇者パーティー追放
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レオンは冷たい石畳の上に立ち尽くしていた。湿った空気が肌にまとわりつく。ついさっきまで彼が所属していた勇者パーティー──「黎明の翼」から、正式に追放されたばかりだった。
「お前、本当に何の役にも立たねぇんだよ」
勇者カインの吐き捨てるような声が頭の中に残響している。
聖剣を腰に差した金髪の青年。神の加護を受けた選ばれし男。王都では英雄と讃えられる存在──だがその目は、冷たく歪んでいた。
「支援魔法が一度も成功したことがない。それどころか、戦闘中は突っ立ってるだけじゃないか」
「いえ、俺なりに気配を探って……」
「はぁ? お前が何をしても意味ねぇんだよ。もう出てけ、“無能”。」
仲間たちの視線が突き刺さる。
僧侶のミリアは眉を寄せながら、小さな声で呟いた。「レオン、ごめんなさい。でも、カイン様の判断が正しいの」
弓手のセラは気まずそうに顔を逸らし、魔法使いのルーファスは無表情のまま立っていた。
すべてが終わったのだ。
共に世界を救うはずだった仲間たちから、レオンは追い出された。
彼は静かに背を向けた。
誰も引き止めない。それが、答えだった。
その夜、レオンは王都を出た。
街灯の灯りが遠ざかるたびに、胸の奥に残っていた微かな希望が薄れていった。
「……俺、本当に無能なのか?」
そう呟いても、答えてくれる者はいない。
***
三日後。
レオンは人も通らぬ森を歩いていた。食料はあと一日の分しかない。冒険者登録も抹消され、金もわずか。次の町に着かなければ野垂れ死にだ。
「はは……異世界に召喚されてまで、この有様かよ」
少し前まで、彼はただの日本の大学生だった。図書館で偶然手にした古書を開いた瞬間、光に包まれた。気づけばこの世界へ来ていて、“神託”に選ばれた勇者候補として冒険に出たのだ。
だが彼に与えられたスキルはただ一つ——【理紡ぎ】。どれほど試しても、発動すらしない謎の固有スキル。
カインたちはそれを“初期バグ”扱いし、次第に冷たくなっていった。
「まぁ、今さら悔やんでも仕方ないか」
そう呟いた瞬間だった。
草むらの奥から、小さな鳴き声が聞こえた。
「……スライム?」
粘液の塊が一匹、ぴょこぴょこと近づいてくる。
この世界では最弱の魔物。初心者冒険者の腕試し用だ。
レオンはそっと腰の短剣に手をかけた。が、不思議なことにスライムは攻撃してこない。むしろ、ぷるぷると震え──そのまま地面に伏せた。まるで、ひざまずくように。
「どういう……ことだ?」
近づいてみると、スライムの身体が淡い金色に光りはじめた。その光がレオンの体に吸い込まれていく。
すると、視界の片隅に透明なウィンドウが浮かび上がった。
【スライム・キングがあなたに従属しました】
【称号:森の守護者を獲得】
【スキル“理紡ぎ”が反応しています……】
「おいおい……何だこれ」
レオンは思わず後ずさるが、痛みや違和感はない。むしろ心地良い温かさが胸の奥を満たした。
彼が知らないうちに、世界の“理”が動き出していた。
【理紡ぎ】──それは、存在する全ての法則を自然に調和させる、“神々すら干渉できない”原初のスキルだった。
ただし、本人はまったく自覚していない。
***
森を抜けた先の小さな村。
レオンが休もうとした宿の前で、突然悲鳴が上がった。
「魔物だ! 村が襲われる!」
見ると、森から巨大な黒い熊のような魔獣が現れた。体長は三メートルを超え、唸り声が地面を震わせる。村人たちは逃げ惑い、衛兵たちが半泣きで槍を構えている。
「くそっ……Aランク魔物じゃねぇか!」
誰かが叫んだ。Aランク──つまり、王都の討伐隊でも数人がかりで挑むレベルだ。普通の村人では勝てるはずがない。
レオンは思わず足を止めた。自分にはもうパーティーも仲間もいない。武器は短剣一本。無能の自分に何ができるというのだろう。
しかし、そのとき。
先ほどのスライムが、肩の上で小さく鳴いた。
「ピィ……!」
まるで「行け」と言うように。
レオンは苦笑する。「やれやれ、どうせ死ぬなら……誰かを守ってみるか」
短剣を構え、一歩前へ。
熊の魔獣が咆哮し、鋭い爪を振り下ろす。
瞬間、世界が白く輝いた。
衝撃音も、痛みもなかった。
レオンの周囲だけ、空気がまるで凍ったように静止する。
次の瞬間——熊の巨体が、まるで砂のように崩れ落ちた。
その身体の表面から、無数の光粒が立ち上り、空へ還っていく。
「……え?」
呆然と立ち尽くすレオン。
周りの村人たちは一斉に息を呑んだ。
「あの人……今、何をしたんだ?」
「Aランク魔物が、一瞬で……消えた?」
恐る恐る近づいた老人が、レオンに深く頭を下げた。
「命の恩人様……どうか、お名前をお聞かせ願えませんか」
「え、あ、いや……俺はただの旅人ですけど」
レオンは戸惑いながら答えた。
その姿を見て、村人たちはさらに感動を深めたように涙ぐむ。
「謙虚なお方だ……まさに聖人様だ……!」
レオンの知らぬところで、彼の名はすでにこの地方に広まりはじめていた。
***
夜、宿の薄明りの下で、レオンは窓の外を眺めていた。
森の上に、三つの月が静かに輝いている。
「……まぁ、生きてるだけマシ、か」
スライムが隣で丸まり、小さく寝息を立てている。
その微笑ましい姿を見て、ようやく少しだけ笑うことができた。
外の世界では、彼の元仲間たちが討伐に失敗し、王都で叱責を受けているとは露ほども知らずに。
無自覚な奇跡は、すでに始まっていた。
「お前、本当に何の役にも立たねぇんだよ」
勇者カインの吐き捨てるような声が頭の中に残響している。
聖剣を腰に差した金髪の青年。神の加護を受けた選ばれし男。王都では英雄と讃えられる存在──だがその目は、冷たく歪んでいた。
「支援魔法が一度も成功したことがない。それどころか、戦闘中は突っ立ってるだけじゃないか」
「いえ、俺なりに気配を探って……」
「はぁ? お前が何をしても意味ねぇんだよ。もう出てけ、“無能”。」
仲間たちの視線が突き刺さる。
僧侶のミリアは眉を寄せながら、小さな声で呟いた。「レオン、ごめんなさい。でも、カイン様の判断が正しいの」
弓手のセラは気まずそうに顔を逸らし、魔法使いのルーファスは無表情のまま立っていた。
すべてが終わったのだ。
共に世界を救うはずだった仲間たちから、レオンは追い出された。
彼は静かに背を向けた。
誰も引き止めない。それが、答えだった。
その夜、レオンは王都を出た。
街灯の灯りが遠ざかるたびに、胸の奥に残っていた微かな希望が薄れていった。
「……俺、本当に無能なのか?」
そう呟いても、答えてくれる者はいない。
***
三日後。
レオンは人も通らぬ森を歩いていた。食料はあと一日の分しかない。冒険者登録も抹消され、金もわずか。次の町に着かなければ野垂れ死にだ。
「はは……異世界に召喚されてまで、この有様かよ」
少し前まで、彼はただの日本の大学生だった。図書館で偶然手にした古書を開いた瞬間、光に包まれた。気づけばこの世界へ来ていて、“神託”に選ばれた勇者候補として冒険に出たのだ。
だが彼に与えられたスキルはただ一つ——【理紡ぎ】。どれほど試しても、発動すらしない謎の固有スキル。
カインたちはそれを“初期バグ”扱いし、次第に冷たくなっていった。
「まぁ、今さら悔やんでも仕方ないか」
そう呟いた瞬間だった。
草むらの奥から、小さな鳴き声が聞こえた。
「……スライム?」
粘液の塊が一匹、ぴょこぴょこと近づいてくる。
この世界では最弱の魔物。初心者冒険者の腕試し用だ。
レオンはそっと腰の短剣に手をかけた。が、不思議なことにスライムは攻撃してこない。むしろ、ぷるぷると震え──そのまま地面に伏せた。まるで、ひざまずくように。
「どういう……ことだ?」
近づいてみると、スライムの身体が淡い金色に光りはじめた。その光がレオンの体に吸い込まれていく。
すると、視界の片隅に透明なウィンドウが浮かび上がった。
【スライム・キングがあなたに従属しました】
【称号:森の守護者を獲得】
【スキル“理紡ぎ”が反応しています……】
「おいおい……何だこれ」
レオンは思わず後ずさるが、痛みや違和感はない。むしろ心地良い温かさが胸の奥を満たした。
彼が知らないうちに、世界の“理”が動き出していた。
【理紡ぎ】──それは、存在する全ての法則を自然に調和させる、“神々すら干渉できない”原初のスキルだった。
ただし、本人はまったく自覚していない。
***
森を抜けた先の小さな村。
レオンが休もうとした宿の前で、突然悲鳴が上がった。
「魔物だ! 村が襲われる!」
見ると、森から巨大な黒い熊のような魔獣が現れた。体長は三メートルを超え、唸り声が地面を震わせる。村人たちは逃げ惑い、衛兵たちが半泣きで槍を構えている。
「くそっ……Aランク魔物じゃねぇか!」
誰かが叫んだ。Aランク──つまり、王都の討伐隊でも数人がかりで挑むレベルだ。普通の村人では勝てるはずがない。
レオンは思わず足を止めた。自分にはもうパーティーも仲間もいない。武器は短剣一本。無能の自分に何ができるというのだろう。
しかし、そのとき。
先ほどのスライムが、肩の上で小さく鳴いた。
「ピィ……!」
まるで「行け」と言うように。
レオンは苦笑する。「やれやれ、どうせ死ぬなら……誰かを守ってみるか」
短剣を構え、一歩前へ。
熊の魔獣が咆哮し、鋭い爪を振り下ろす。
瞬間、世界が白く輝いた。
衝撃音も、痛みもなかった。
レオンの周囲だけ、空気がまるで凍ったように静止する。
次の瞬間——熊の巨体が、まるで砂のように崩れ落ちた。
その身体の表面から、無数の光粒が立ち上り、空へ還っていく。
「……え?」
呆然と立ち尽くすレオン。
周りの村人たちは一斉に息を呑んだ。
「あの人……今、何をしたんだ?」
「Aランク魔物が、一瞬で……消えた?」
恐る恐る近づいた老人が、レオンに深く頭を下げた。
「命の恩人様……どうか、お名前をお聞かせ願えませんか」
「え、あ、いや……俺はただの旅人ですけど」
レオンは戸惑いながら答えた。
その姿を見て、村人たちはさらに感動を深めたように涙ぐむ。
「謙虚なお方だ……まさに聖人様だ……!」
レオンの知らぬところで、彼の名はすでにこの地方に広まりはじめていた。
***
夜、宿の薄明りの下で、レオンは窓の外を眺めていた。
森の上に、三つの月が静かに輝いている。
「……まぁ、生きてるだけマシ、か」
スライムが隣で丸まり、小さく寝息を立てている。
その微笑ましい姿を見て、ようやく少しだけ笑うことができた。
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