病ン照レワンダーランドへようこそ

笹石鳩屋

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ギャップが可愛いとはいえやはり脅迫されるのはお断りだ

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 「バラしたりしてないよね?」

 暮ノ谷の威圧感に後ずさるが、すぐに背中にフェンスが押し付けられている感触がした。
 中断した体育の授業の後、俺は暮ノ谷に屋上に呼び出されたのだった。

 「もちろん誰かに話すわけないじゃないか」

 本当のことしか言っていないのに変な汗が止まらない。

 「ならどうして笑った?」

 暮ノ谷はじわじわと俺の方へ寄ってくる。対して、俺は後ろに下がろうとするも、フェンスの網が食い込むだけだ。

 「だってそれはさ、あまりにも暮ノ谷さんの姿が……」

 暮ノ谷の眉がぐっと中央に寄る。

 「……猫っぽかったから」

 今は猛獣か何かを相手している気分だ。睨まれるだけで、体が震えあがって動かせないでいる。

 「いやでも、あいつが言ったのはたまたまだと思う。俺はもちろんのこと何も言ってないし、俺以外には見られてないんだしさ」
 「…………」

 沈黙が怖い。

 「……あんたの言葉を信じるけど、次笑ったら許さないから」

 暮ノ谷はそう言い残すと、俺を屋上に残して去っていった。

 そもそも俺がこうして脅されているのも、去年の秋のことが発端だった。

         *

 その日は珍しく取り巻きがいない帰り道だった。

 「ニャーニャー」「ニャーニャー」「にゃーにゃー」 

 道のわきの茂みの奥から猫の鳴き声が聞こえてくるが、一つ明らかに猫じゃない鳴き声が混じっている。 

 人間?…いや、いくら人通りの少ない道とはいえ、そんな不審者紛いのことをするだろうか。

 「にゃんにゃおーん」

 やっぱり人間の声だ。マジモンの不審者だと危険だから、いつでも逃げられる構えをしたが、気にはなっていたので茂みにこっそり顔をのぞかせることにした。

 「このお魚が欲しいのかにゃ?だめだめ、みんなで仲良くわけわけしにゃいと、順番に渡していくからもう少し待つのにゃ」

 数匹の猫と女の子。 腰まで伸びた長い黒髪をなびかせて、四つん這いになって猫たちにサバ缶を分け与えている。真っ白なカッターシャツとチェック柄のスカート―――うちの制服だ。 

 そして、これほどまでに長く美しい黒髪の持ち主は校内に一人しかいない。 

 「お腹いっぱいになったら、いっしょに遊ぶにゃ」 

 今度はかばんから、じゃらしを取り出して、仰向けで猫ろがって、おっと間違い、寝転がって、じゃらしを振り回しながら、猫たちはごろごろにゃあにゃあ、暮ノ谷もごろごろにゃあにゃあ……癒されるな。動物の動画を見ている気分だ。

 「にゃーにゃー」「ニャーニャー」 

 他より一回り大きな黒髪の猫は、制服を草だらけにして、完全に猫になりきっていた。まるで顎の下を撫でられて気持ち良くなった猫のように幸せそうな顔をしている。今にも喉をごろごろ鳴らし出しそうだった。 

 「にゃ?」

 ……目があった。

 「見た?」

 暮ノ谷の無邪気で無防備な瞳に、鋭い光が宿る。 

 「可愛い猫がいるのは見えた」 
 「そう」 

 怒ってる!表情全く変わってないけど絶対怒ってるよな。

 「あんたは何も見ていない」 

 体中についた草を払いながら、全力で俺を睨んでいる。言外に忘れろと言っているのだ。 

 「と、言われても…えっと……学校でもそういうところ見せたらいいのに、ほら学校だとつまんなそうにしてるじゃん」 
 「あんたはここで私と会っていない」

 事実とばかりに言ってるところ、命令系よりよっぽど恐ろしい。 

 とはいえ、俺にどうしろというんだ?こんなに可愛い暮ノ谷を記憶から抹消できるわけがないだろ。 

 「もし仮に何か見たとしても、生涯誰にも話すことはない」 

 視線の圧が強くなった。猫的に表現すると、全身の毛を逆立てて威嚇している。

 「理解したなら、さっさと消えて」 
 「は、はい!墓場まできっちり持っていかせていただきます!」

 走ってその場を離れたが、それからというもの、ことある度に暮ノ谷は俺が誰にも話していないか釘をさしに来るのだ。

          *


 昼休み、俺の席を中心としてクラスの中でも目立つ人間、華やかな人間が集まってくる。

 「まーた中村一人でスマホ見てニヤニヤしてるよ。マジ、きもくね?」 
 「いつものことだろ、麻田、お前また変な絡み方したら今度こそ泣かせちまうかもな」
 
 自分の地位を確かめるだけのつまらない会話。毎日毎日、互いのステータスを読み上げるだけで意味なんて何もない。だが、こうしたことの積み重ねで俺は天峯に近づけたのだ。あちらこちらで手を回し、二人きりになる時間を増やして親密度を高めた。
 
 「そういえばさ、みんなブロッサムちゃんって知ってるー?」

  もちろん、このグループには早紀もいた。

 「あーあれでしょ?ブロッサムちゃんに相談すれば、この学校内での恋愛なら何でも成就させてくれるっていう」 
 「そうそう、匿名のSNSアカウントでその正体は誰も知らないんだよねー」

 物好きなやつもいたものだ。わざわざ見ず知らずの他人のために、いや中の人がこの学校の生徒であるならば知ってはいるのか。

 だが、無償の善意ほど胡散臭いものはない。
 
 「ちなみにー、誰か相談したことある人いるかな?」 
 「するわけないじゃん!」

 グループの一人、麻田の過剰な反応ぶりに、一同は悟ったことであろう。

 こいつ絶対相談してるな。

 麻田は髪の毛モリモリで化粧もモリモリのかなりケバいところはあるが、整ったスタイルと顔立ちをしている。麻田にコクられなんてすれば大抵の男は二つ返事で了承するのだが、苦戦しているということはさぞかし俺のように難攻不落な相手なのだろう。

 ひょっとして本当に俺だったりして。

 「いいよなー。鳴斗は恋愛相談なんてしなくても選り取り見取りだもんな」
 「俺はそういうことにはあんまり興味を持てないから」
 「でーもさっ、最近メイトン、アマミーといい感じじゃない?」
 「そんなことないって」

 ―――と、丁度その時担任が教室に入ってきた。

 「天峯と砂上いるかー?」

 担任は俺と天峯を確認すると、言葉を続ける。

 「クラスの委員長には林間学校のもろもろの準備をしてもらうことになった。すまんが、今日から毎日放課後残ってくれ」

 それだけ言うと、担任はクラスから出ていった。

 一人で昼食をとっていた天峯が、俺に意味有り気な視線を送ってくる。多分、頑張ろうね、とかその辺りだろう。

 「……ほら、やっぱり只ならぬ何かがあるよねー」
 「今のは普通だろ」
 「へー、熱い視線を交わすことが普通なんですかー?」
 「熱い視線を交わした覚えはねえよ」

 「ところでさ、天峯さんって結局よくわかんないよね」

 麻田が唐突に別の話題を持ち出す。

 「えっ、どこが?」
 「どこがって言われると難しいんだけどさ、うちもよく話したりはするんだけどさ。例えば、放課後何してるとかさ、いつも誰と遊んでるとかさ、わかんないこと多いよね」

 放課後は大抵家で勉強している。気分転換に、近所の公園を散歩していることが多いらしい。友達と遊ぶことはないらしく、一人で映画を見に行ったり、ショッピングに行ったりして遊んでいるらしい。意外だが、好きなジャンルはホラーだとか。

 「たしかに、アマミー自分のことあんまり喋らないもんね」

 最近になって、天峯は俺に趣味とか、日常の話をしてくれるようになった。

 だが、他のクラスメイトには話さない。つまり、天峯の中で俺が特別になりつつあるということだ。

 俺の豊富な経験から予想する限り、何かきっかけさえあればもう落とせる。高嶺の花も俺の手にかかれば、チョロいもんだ。

          *

 ずっと傍にいた。

 あなたを守るために。

 あなたは気づいていないけど、敵はすぐそこまで迫っている。

 あなたを傷つけさせたくない。だけど、ここは危険過ぎる。

 二人だけの世界ならきっと安心できる。敵なんていないのだから。

 ずっと傍にいたけど、もう、それだけじゃ………我慢できない。
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