病ン照レワンダーランドへようこそ

笹石鳩屋

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どうやらいい友だちを持っていたらしい

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~ブロッサムちゃんの恋愛相談室~
  
六月十四日 

kanon『ブロッサムちゃんの言う通り、うちは中村のことが好きなんだと思う』
 
ブロッサムちゃん『そう、それがあなたの本当の気持ち。本当の恋なのよ』

kanon『この気持ちを中村にぶつけてくる』

ブロッサムちゃん『上手くいくことを祈るわ』 
 
六月十五日 

kanon『中村にフラれた』
 
ブロッサムちゃん『何が駄目だったのかしら?』

kanon『画面の中の女の子にしか興味がないって。そんなん絶対無理じゃん。キャラクター相手にうちが勝てるわけないじゃん』

ブロッサムちゃん『でも、あなたが嫌われたわけではないんでしょう?』

kanon『それはそうだけど』

ブロッサムちゃん『だったら、諦めるの?諦めないの?』

kanon『もう少し頑張ってみる』

ブロッサムちゃん『応援してるわ』
 
六月十六日

三毛ソワレ『相談があるのだけど、あなたはのってくれるのよね?』

ブロッサムちゃん『もちろん、恋愛相談なら何でも大歓迎よ。あなたの本名を名乗ってもらえるとより具体的なアドバイスができるわ』

三毛ソワレ『まだ名前を教えるほどの信用は出来ない。あなたは一体誰?』

ブロッサムちゃん『私の正体を明かすわけにはいかないわ。だから、あなたも名乗らなくていいわ。では、三毛ソワレさん、あなたの悩みを教えてもらえるかしら?』

三毛ソワレ『私には好きな人がいる』

三毛ソワレ『私の知っている彼はとても優しくて、誰にでも手を差し伸べられる人。だけど、彼は変わってしまった』

三毛ソワレ『だから、今の彼を好きでいつづけていいのかわからない』

ブロッサムちゃん『今の彼は嫌いなの?』

三毛ソワレ『いいえ。根っこの部分は変わっていないはずなのだけど、彼はそれを隠すようになってしまった。それがつらいだけ』

ブロッサムちゃん『じゃあ、元の彼に戻ってもらえるようにすればいいんじゃないのかな』

三毛ソワレ『それは出来ない。私は彼のことを知っているけれど、彼は私を知らないもの』

ブロッサムちゃん『どういうことかな?あなたは彼と関わったことはないの?』

三毛ソワレ『彼は私にいっぱい優しくしてくれた。彼と二人で色んなことをした。だけど、今の彼はそれを知らない』

ブロッサムちゃん『今の彼に話しかけることは難しいということかな?』

三毛ソワレ『赤の他人としてなら、彼と言葉を交わすことはできる。でも、それ以上踏み込むことはできない』

ブロッサムちゃん『じゃあ、もし彼が昔の彼に戻ったとしたら、あなたは彼とどういう関係になりたいの?』

三毛ソワレ『彼のことを好きでいつづけるだけ』

ブロッサムちゃん『今まで通りネットでも現実でも鳴斗君をストーキングして、盗撮するだけでいいんだ?』
 
ブロッサムちゃん『あらら、返信がなくなっちゃった。そんなに後ろめたいならやめればいいのに』
ブロッサムちゃん『警告しておくけど、今のままだと、あなたを知らない鳴斗君はもっと遠くに行っちゃうわ。彼の世界に、もうあなたは存在しなくなるの』

    * 

 真っ白な床と天井が目に映る。物の全くない部屋で、前に部屋を分断するガラスだけがあり、向こう側に―――ロボザーク? 
 ロボザークは早希の大好きな特撮ロボットもののキャラだ。

 そして目の前にいるのは、人型のフォルムで大きさは人間に近いロボット。

 海を想起させるメタリックブルーを基調とした塗装で、顔部分はロボザークそっくり――― いかにも早紀が好きそうなデザインだ。

 「おっ、メイトンやっと起きたー」
 「早紀?どこだ?」

 部屋に扉は一つ、頑丈そうな扉でガラスの向こうだ。俺の側は壁と天井で囲われた密閉空間になっている。大きさは一人暮らし用マンションのワンルームにしては大きいくらい。十二畳はあるだろう。

 「こっちこっちー」

 ロボザークによく似たロボットが手を振る。

 「ごめん、何が起こってるかわかんないよねー」

 ロボットの顔部分が開き、早紀の顔が現れる。早紀を見て、意識を失う直前の記憶を思い出した。
 
 「なあ…なんで俺を気絶させたんだ?」
 「んー、メイトンを守るためだよ―――と、その説明の前に、あたしのエレメンタルブルーⅠ号機を見た感想は?」
 「正直、信じられない。まだ夢だって言われたほうが真実味がある」

 精巧にできたコスプレなどではないことはわかる。早紀の動きに連動して指先の細かい部分までしなやかに動いているのだから。

 「かっこいいでしょー、あたしの相棒なんだよ」
 「……理解が追いつかない」
 「だよねー、じゃあ少し長くなるけど、あたしの正体から話していっくよー」
 「エレメンタルブルー起動!」

 血管のように全身に張り巡らされていたラインが蒼く光り出す。ゴオオと重奏な音と共に背中のジェットパックから青白いエネルギーフレアが噴出される。
 エレメンタルブルーは滞空し、くうに向かって早紀のアクロバティックな格闘技を完璧に再現する。華奢なフォルムから繰り出される技々は、宙を可憐に舞っているように見えた。

 「すっごく簡単に説明すると、あたしは秘密結社のエージェントなんだ。悪いやつと戦ったりとか、潜入捜査とかね」
 「―――冗談にしか聞こえないが、そのロボットと動きを見せられたら、本当のことなんだろうな」
 「でねっ、メイトンを守ることも任務の一つなんだ」
 「俺を?―――なんで?」
 「うっ、ごめん理由は言えない……だけど、メイトンを危ない目にあわせないことは約束するから!」

 わからないことだらけだが、早紀が俺を守ろうとしてくれてることはわかる。

 「早紀のことは信頼してる」
 「よかったー、こんな大掛かりなことまでしちゃったからメイトンに嫌われるんじゃないかって怖かったんだ」

 たしかにこの地下シェルターみたいな部屋を簡単に用意できるとは思えない。

 「一応、なぜ俺を気絶させてまでここに連れてきたのかを説明してもらうぞ……ここ怖いから」
 「もちろん、ちゃーんと説明するよ」

 いつもの早紀だ。ロボスーツを着ていても、早紀の屈託のない表情には変わりないのだから。

 「今朝、メイトンに殺人予告が届いてたでしょ?それから、帰り道に誰かが茂みに潜んでるのを見つけちゃって、それでメイトンが、俺の身が危険、なんて言うからさっ。けっこうやばい状況だと思って緊急手段を使っちゃった」
 「脅迫状は本気で俺の命は狙ってなかったと思うが」

 早紀は首を振って、真剣な顔でガラスの傍まで近づく。

 「メイトンの命を狙いかねない勢力だっているんだよ。楽観的には見れない。最悪の事態を想定しないと」
 「そんなにやばい状況で俺はのうのうと生活してたのか…」
 「そう、やばい、ちょーやばいんだよ」

 早紀の口調は軽いが、表情は重い。
 「でも、暮ノ谷のほうは勘違いだ。あいつが猫と戯れてるの前にも見てさ、それを他言したら、暮ノ谷本気でキレるから、俺の身が危ないって言ったんだ。だから、命がとか、身の安全がとか、危ないわけじゃない」

 早紀の立場からしてみれば勘違いして当然のことを俺は口走ってしまったのだろう。

 「メイトンがそこまでいうなら、シズシズは脅迫犯じゃないって信じるけど、他に誰かいることはたしかだよね」
 「そうだな…」

 暮ノ谷が無関係だからって俺が安全なわけじゃないのか。むしろ敵が誰かわからなくなったことでさらに危険になったとも言える。

 「でも安心してっ、この部屋は並大抵のことだと壊れないから」

 トーンを落とした俺の声を励ますように、早紀は明るい声色をあげる。 

 「このガラスは熱硬化性の超硬質樹脂でできてて、あたしのエレメンタルブルーⅠ号機でも傷一つつけられないし、空気を通す穴さえないんだよ。だから、今メイトンは完全な密室にいるってわけ」

 言われてみると頭がぼーっとしてきたし、この部屋の空気は薄い気がする。

 「大丈夫なのか?空気がなくなったりする何てことは―――」
 「酸素が貯蔵されてるから大丈夫。少なくとも一か月は持つから」
 「そうか…なら安心だな」 

 逆に不安になってきた。こんなとんでもない設備で俺を守るってことは、狙ってくる人間は同じくらいやばいってことになる。

 「それに、水や食料はあたしの方にあるボタン一押しで出てくるから。衛生面とか保存面とか考慮すると、あんまりおいしい食事は出せないけど、我慢してねっ。それから、排泄なんだけど…」

 早紀は言いよどむ。

 「なあ、早紀の言い方だとまるで―――」
 「恥ずかしいとは思うんだけど、中に出すとそのエレメンタルブルーⅡ号機は自動で洗浄してくれるから。不快感があるのは一瞬だけだよ」
 「その?」

 目が覚めてから一度も意識しなかったが、改めて自分の姿を確認した。

 「どうなってるんだ!?」

 全身機械で覆われていた。手をグーパーすると、纏わりついた機械も滑らかに動くし、機械ごしで触れた感触は生身と変わらない。重さもまったくという程感じないので、指摘されるまで気づかなかったのだ。

 「見た目はあたしとおそろい、だけど、そっちは防護用。表面は特殊な合金で覆われてるから、約5000度まで溶ける心配はないし、完全に内部は断熱されてるから、地球上ならどんな環境でも活動できるし、大気圏外でも24時間までなら活動できる。防護用だから殺傷能力のある機能は一つしかついてないんだけど、それは緊急時に使って。万が一、エレメンタルブルーⅡ号機が破壊されるようなことがあれば、中から小型のボールが出てくるんだけど、使い方は簡単。ボタンを押したら、三秒後に爆発するんだ。範囲は半径一メートルのごく狭い範囲なんだけど、威力はこの部屋の壁を凹ませるくらい強いから。それと、他にも便利な機能があって―――」 
 「いや、性能が凄いのはわかったけど―――俺の制服とか鞄は?あとスマホも」 
 「あっ、メイトンの所持品は別の場所に全部保管してるよ。この場所は極秘で、探知機がつけられてる可能性が否定できないから一応ね。全身も隈なく検査したけど、体内には何も埋め込まれてなかったよ。メイトンを気絶させたのも、この場所を知られるわけにいかなかったから。もちろんメイトンのことを疑ってるわけじゃないんだけど、敵に情報が洩れる可能性を少しでも減らさなきゃいけないから」

 徹底しているんだなと感心するが、そんなことより、もっと訊くべきことがある。

 「なあ、俺はここから出られないってことだよな?」
 「うん、脅迫状の主を捕まえるまではね―――だけどさ、メイトン―――」

 俺はこの時初めて知った。早紀が隠してきた一面、それは俺に対する好意、異性への慕情とは異なる、尋常ならざる感情だった。
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