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役者は揃い、いよいよフィナーレが始まる
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「今日、砂上に脅迫状が届いた」
梨桜の目の前にいる暮ノ谷雫からは焦りが見てとれた。さっきまでも多少の動揺を見せたが、それ以上だ。いつものぶっきらぼうな表情を忘れてしまったようだった。
「騒がれると困るから、先に言っておくけど、今から何が起こっても驚かないで」
梨桜は期待のまなざしを雫に向けた。鳴斗に直接関わる気はないと宣言した雫が、何かしようとしているのだ。梨桜の期待は当然のことだった。
『暮ノ谷家第十二代当主暮ノ谷雫ガ命ズル。我ニ相応シキ装イヲ示セ』
雫の口から発せられた音は、梨桜の耳には声に聞こえなかった。もちろん理解できる言葉でもないうえに、喉や舌で発音したようにも感じられなかったが、意味だけは伝わってきたのだ。
雫の言葉に従うように、制服がひとりでに動き出した。糸が材質を変えると同時に、ほつれだし、再び別の方向に縫われていく。鞄も粘土のようにぐしゃぐしゃになり、形を変えていった。この現象はほんの数秒の間に起こり、あっという間に雫の服装が変わっていた。
「これは驚きましたね」
雫は漆黒のローブで全身を覆い、杖を手にしていた。杖はついて歩くためのものよりも大きく、別の用途であることがわかる。
だが、梨桜は言葉ほど驚いておらず、どちらかといえば面白がっていた。
『続ケテ命ズル。我ニ砂上鳴斗ニ刻マレタ刻印ノアリカヲ示セ』
杖の先端が見えないものに引っ張られるように持ち上がる。先端が指した方向は光の柱の真上だった。
「悪い予感が当たった。やはり何者かに―――」
「―――暮ノ谷さんは魔法使いさんか何かなんですか?」
雫に起こっていることは魔法のような不思議な力が働いているとしか説明のしようがなかった。
「そう、そんなところ。急いでいるから黙ってて」
雫の頬を大粒の汗が伝う様子が梨桜からでも見えた。会話をする余裕もないことも見て取れる。
「さっきの魔法?は鳴斗君の位置を探ってたんですよね。それで、見つけたのがUFOのようなものが見えた方向。違いますか?」
梨桜は落ち着いていた。これまでの常識を覆すような現象を目にしているのにも関わらず、動揺をおくびにも出さない。そんな梨桜に雫は答えなければという気持ちに駆られた。
「そう。恐らくメイト様がいるのはこの空の上」
「宇宙ですか?」
雫ですら焦りを覚えているのに、梨桜は平然と宇宙と言ってのけた。
宇宙空間に人間を連れ去る魔法―――そんな異質な魔法を雫は聞いたことがない。
「脅迫状の主が魔法で飛ばしたのよ。刻印が反応しているということは、まだ命はあるようだけど、早く救出しないと手遅れになるかもしれない」
「宇宙へ向かう手段はあるんですか?」
雫は梨桜を恐ろしく感じた。雫に気づかれないように雫を探っていたことにも、驚きはしたが、それでも恐れは抱かなかった。もっと恐ろしい体験を何度も雫は体験してきたからだ。
「どうしてそんなに落ち着いているの?」
人は得体の知れないものと出会ったときに恐怖を覚える。自己防衛のための本能であり、人間である限りその恐怖から逃れられない。雫だって例外ではないが、梨桜は恐怖を感じていないのだ。そのことが雫にとって得体の知れないことであり、恐ろしかった。
「他の感情に愛が勝っているからだと思います。鳴斗君に危険が迫っているなら、どんな手段を使ってでも助けないと。あなたもそう思うでしょう?」
雫には自分がメイト様を想う気持ちと同じ気持ちを梨桜も砂上に抱いていると感じた。雫と同じように狂った愛だとしても、一途に想い続けている。だからこそ、正直に話そうと思った。
「……そうね、宇宙に行く手段はある。だけど、あんたは宇宙へ行っても何もできない。だから出来ることといえば、ここで無事を祈ることくらいね」
「私を連れていくことは、出来るんですよね?」
梨桜の目には決心が宿っていた。
「普通の人間が踏み越えてはいけない領域があるのよ。あんたの気持ちは十分わかるけど、これは魔術師の領分」
「なら仕方ないですね」
一応の納得を示した梨桜に雫は安堵を覚える。このやり取りの間にもメイト様の命は刻一刻と危うくなっているのだ。
『暮ノ谷家第十二代当主暮ノ谷雫ガ命ズル。我ヲ砂上鳴斗ノアリカヘ―――っぐっ!」
声が出ない。梨桜のか細い両手が首に回り、親指で喉を押し付けているのだ。
「連れて行きなさい。さもなくば、このまま失神させます」
「んんーっ!んんっ!」
雫は死に物狂いで梨桜の手首を掴み、引き剥がそうとする。梨桜は息一つ切らさずに雫を冷静に観察していた。
「―――ぷはぁっ」
梨桜の手は雫の想像よりずっと簡単に離れた。途中で力を抜いたのだ。
「―――どういう―――つもり?」
梨桜は自分の行為は至極当然のことという様子だった。
「どういうも何も、愛する相手を自ら助けたいと考えるのは当たり前でしょう。他の人がピンチを救う、なんておいしい瞬間を取られるわけにはいきません」
雫は天峯梨桜の思考回路を根底から異常だと悟った。
「魔法使いさんといっても首を絞めれば苦しむ、ということはわかりました。あなたが一人で鳴斗君の元へ行くつもりなら、私はもう一度あなたの首を絞めます」
雫には迷っている時間はなかった。もし梨桜を置いていこうものなら、呪文の詠唱は妨害され、砂上の元へ移動できたとしても時間がかかりすぎてしまう。雫に選択肢がないことを梨桜は計算していたのだろう。
一般の人間に不覚をとったのは雫にとって初めてのことだった―――というより、もはや雫には梨桜がただの人間に思えなかったのだ。
「杖を掴んで」
梨桜に指示すると、すぐに詠唱に取り掛かる。
『暮ノ谷家第十二代当主暮ノ谷雫ガ命ズル。我トコノ者ヲ砂上鳴斗ノアリカヘ導ケ』
雫から発せられた音が途切れた直後、雫と梨桜の周囲は一面が金属で構成される室内に切り替わった。梨桜はまばたきをしていなかったが、何の違和感もなく、一瞬で周りの景色だけが変わったのだ。
「距離が遠すぎたか、精度が落ちたみたい」
そこは細長い通路だった。梨桜と雫の他には誰もいない。
「宇宙船みたいね。近くにはいるはずだけど……」
一本道の通路だが、通路の途中にいきなり現れた二人にとっては二手に道がわかれていると同じ事である。雫は違いを探したが、通路内はモノトーンの金属で統一され、方向など存在していないかのようにきれいな筒形であったため、見つからなかった。だが、他に気づいた点はあった。
「ねえ、だんだん狭くなっていませんか?」
さっきまで、雫と梨桜が並んでも横幅に余裕があったが、今は二人横に並ぶとぎりぎりの狭さである。筒の半径が小さくなっており、雫はまっすぐ立つと頭をぶつけてしまうほどの高さになっていた。
「誰にも見られてはいないようだし、自動で探知する一種の結界のようなものみたい」
『我トコノ者ノ存在ヲ隠セ』
壁面の収縮が止まった。梨桜には何も感じなかったが、雫がもう壁を気にしていないことから上手くいったということは理解できた。
「道の方向は二つ、私たちは二人。ここについてきたということは相応の覚悟はできているのだし、二手にわかれましょう」
砂上を連れ去った相手は手練れの魔法使いである可能性が高いのに、敵地に一般の人間を一人にするという判断は正しいはずがないと、雫はわかっていたが、この悪魔じみた性格と頭脳を持つ彼女ならなんとか切り抜けられると感じたのだった。
「そのほうが効率がいいですね。では、私はこちらへ向かいます」
雫は、先に砂上を見つけられると困る、なんて返答が返ってこないか冷や冷やしていたが、了承したことに胸をなでおろした。梨桜から早く離れたかった。
雫は通路の端に向かって、走り出す。
一方で、梨桜はじっくりと周囲を見渡しながら、時折壁や天井に手を触れて、ゆっくり歩みを進める。鳴斗を救いたいという先の剣幕とは矛盾した行動だった。
ほんの僅かな違いも見逃さないように入念に船内を捜索する。たいていは対照的で、デザインも単純な目的のみのために設計されているようだった。梨桜にはこの船の所持者も鳴斗の居場所も見当がついていなかったが、考えていることは一つしかなかった。
どうやってこの茶番を終わらせるのか。
その鍵となるきっかけを探しているのだ。幕引きにふさわしいきっかけを。
―――手が消えた。
感触は残っているので、正確には見えなくなったのだろう。雫といた通路から出ると、次も一直線の通路だった。何度か通路を抜けた。だが、依然として全く同じ通路が現れるのみ。それでも根気強く捜索し続け、ついに同じでない通路を見つけたのだった。
通路中央、向かって右側腰の高さぐらいの位置の壁に手を触れると、確かにそこは壁なのに触れている感覚がなかった。壁を手が通り抜けたのだ。奥行きがどれくらいなのかはわからなかった。手を押し込んでいくと、腕全体がすっぽり入り、肩まで入りそうだったのだ。梨桜は一度腕を抜き、今度は顔を突っ込んだ。通り抜ける壁の奥で目を開けた。そこにあったものを見た。だが、体全体を入れて奥へ進むようなことはせず、顔を引っこ抜いた。
それから、また同じように通路をじっくり探りながら進んだ。この後も何度か通路を抜け、今度は目に見える異変を発見した。
―――ロボット?
何度目かの通路に入ってすぐ目に留まったのは、鮮やかな青色で金属光沢を見せていたロボットのようなもの。ただし、きれいに真っ二つに割れており、残骸ではあった。ピクリとも動かなかったが慎重に近づいた。よくよく切断面を見ると、ロボットの輪郭の辺りは細かいパーツがぎっしり詰まっているが、真ん中の辺りは空洞になっていた。空洞をのぞき込むと、一つだけ簡単に取り外しの出来るものがあった。ボールの形をしており、しかもそのボール状のものがはめ込まれてあった部分の周りにはご丁寧に日本語で注意書きがあったのだ。
天が梨桜に味方したとしか説明がつかなかった。ここにたどり着いたのは本当に偶然なのだから。
「最高のフィナーレが用意できそうです」
梨桜はボールを手に取った。
梨桜の目の前にいる暮ノ谷雫からは焦りが見てとれた。さっきまでも多少の動揺を見せたが、それ以上だ。いつものぶっきらぼうな表情を忘れてしまったようだった。
「騒がれると困るから、先に言っておくけど、今から何が起こっても驚かないで」
梨桜は期待のまなざしを雫に向けた。鳴斗に直接関わる気はないと宣言した雫が、何かしようとしているのだ。梨桜の期待は当然のことだった。
『暮ノ谷家第十二代当主暮ノ谷雫ガ命ズル。我ニ相応シキ装イヲ示セ』
雫の口から発せられた音は、梨桜の耳には声に聞こえなかった。もちろん理解できる言葉でもないうえに、喉や舌で発音したようにも感じられなかったが、意味だけは伝わってきたのだ。
雫の言葉に従うように、制服がひとりでに動き出した。糸が材質を変えると同時に、ほつれだし、再び別の方向に縫われていく。鞄も粘土のようにぐしゃぐしゃになり、形を変えていった。この現象はほんの数秒の間に起こり、あっという間に雫の服装が変わっていた。
「これは驚きましたね」
雫は漆黒のローブで全身を覆い、杖を手にしていた。杖はついて歩くためのものよりも大きく、別の用途であることがわかる。
だが、梨桜は言葉ほど驚いておらず、どちらかといえば面白がっていた。
『続ケテ命ズル。我ニ砂上鳴斗ニ刻マレタ刻印ノアリカヲ示セ』
杖の先端が見えないものに引っ張られるように持ち上がる。先端が指した方向は光の柱の真上だった。
「悪い予感が当たった。やはり何者かに―――」
「―――暮ノ谷さんは魔法使いさんか何かなんですか?」
雫に起こっていることは魔法のような不思議な力が働いているとしか説明のしようがなかった。
「そう、そんなところ。急いでいるから黙ってて」
雫の頬を大粒の汗が伝う様子が梨桜からでも見えた。会話をする余裕もないことも見て取れる。
「さっきの魔法?は鳴斗君の位置を探ってたんですよね。それで、見つけたのがUFOのようなものが見えた方向。違いますか?」
梨桜は落ち着いていた。これまでの常識を覆すような現象を目にしているのにも関わらず、動揺をおくびにも出さない。そんな梨桜に雫は答えなければという気持ちに駆られた。
「そう。恐らくメイト様がいるのはこの空の上」
「宇宙ですか?」
雫ですら焦りを覚えているのに、梨桜は平然と宇宙と言ってのけた。
宇宙空間に人間を連れ去る魔法―――そんな異質な魔法を雫は聞いたことがない。
「脅迫状の主が魔法で飛ばしたのよ。刻印が反応しているということは、まだ命はあるようだけど、早く救出しないと手遅れになるかもしれない」
「宇宙へ向かう手段はあるんですか?」
雫は梨桜を恐ろしく感じた。雫に気づかれないように雫を探っていたことにも、驚きはしたが、それでも恐れは抱かなかった。もっと恐ろしい体験を何度も雫は体験してきたからだ。
「どうしてそんなに落ち着いているの?」
人は得体の知れないものと出会ったときに恐怖を覚える。自己防衛のための本能であり、人間である限りその恐怖から逃れられない。雫だって例外ではないが、梨桜は恐怖を感じていないのだ。そのことが雫にとって得体の知れないことであり、恐ろしかった。
「他の感情に愛が勝っているからだと思います。鳴斗君に危険が迫っているなら、どんな手段を使ってでも助けないと。あなたもそう思うでしょう?」
雫には自分がメイト様を想う気持ちと同じ気持ちを梨桜も砂上に抱いていると感じた。雫と同じように狂った愛だとしても、一途に想い続けている。だからこそ、正直に話そうと思った。
「……そうね、宇宙に行く手段はある。だけど、あんたは宇宙へ行っても何もできない。だから出来ることといえば、ここで無事を祈ることくらいね」
「私を連れていくことは、出来るんですよね?」
梨桜の目には決心が宿っていた。
「普通の人間が踏み越えてはいけない領域があるのよ。あんたの気持ちは十分わかるけど、これは魔術師の領分」
「なら仕方ないですね」
一応の納得を示した梨桜に雫は安堵を覚える。このやり取りの間にもメイト様の命は刻一刻と危うくなっているのだ。
『暮ノ谷家第十二代当主暮ノ谷雫ガ命ズル。我ヲ砂上鳴斗ノアリカヘ―――っぐっ!」
声が出ない。梨桜のか細い両手が首に回り、親指で喉を押し付けているのだ。
「連れて行きなさい。さもなくば、このまま失神させます」
「んんーっ!んんっ!」
雫は死に物狂いで梨桜の手首を掴み、引き剥がそうとする。梨桜は息一つ切らさずに雫を冷静に観察していた。
「―――ぷはぁっ」
梨桜の手は雫の想像よりずっと簡単に離れた。途中で力を抜いたのだ。
「―――どういう―――つもり?」
梨桜は自分の行為は至極当然のことという様子だった。
「どういうも何も、愛する相手を自ら助けたいと考えるのは当たり前でしょう。他の人がピンチを救う、なんておいしい瞬間を取られるわけにはいきません」
雫は天峯梨桜の思考回路を根底から異常だと悟った。
「魔法使いさんといっても首を絞めれば苦しむ、ということはわかりました。あなたが一人で鳴斗君の元へ行くつもりなら、私はもう一度あなたの首を絞めます」
雫には迷っている時間はなかった。もし梨桜を置いていこうものなら、呪文の詠唱は妨害され、砂上の元へ移動できたとしても時間がかかりすぎてしまう。雫に選択肢がないことを梨桜は計算していたのだろう。
一般の人間に不覚をとったのは雫にとって初めてのことだった―――というより、もはや雫には梨桜がただの人間に思えなかったのだ。
「杖を掴んで」
梨桜に指示すると、すぐに詠唱に取り掛かる。
『暮ノ谷家第十二代当主暮ノ谷雫ガ命ズル。我トコノ者ヲ砂上鳴斗ノアリカヘ導ケ』
雫から発せられた音が途切れた直後、雫と梨桜の周囲は一面が金属で構成される室内に切り替わった。梨桜はまばたきをしていなかったが、何の違和感もなく、一瞬で周りの景色だけが変わったのだ。
「距離が遠すぎたか、精度が落ちたみたい」
そこは細長い通路だった。梨桜と雫の他には誰もいない。
「宇宙船みたいね。近くにはいるはずだけど……」
一本道の通路だが、通路の途中にいきなり現れた二人にとっては二手に道がわかれていると同じ事である。雫は違いを探したが、通路内はモノトーンの金属で統一され、方向など存在していないかのようにきれいな筒形であったため、見つからなかった。だが、他に気づいた点はあった。
「ねえ、だんだん狭くなっていませんか?」
さっきまで、雫と梨桜が並んでも横幅に余裕があったが、今は二人横に並ぶとぎりぎりの狭さである。筒の半径が小さくなっており、雫はまっすぐ立つと頭をぶつけてしまうほどの高さになっていた。
「誰にも見られてはいないようだし、自動で探知する一種の結界のようなものみたい」
『我トコノ者ノ存在ヲ隠セ』
壁面の収縮が止まった。梨桜には何も感じなかったが、雫がもう壁を気にしていないことから上手くいったということは理解できた。
「道の方向は二つ、私たちは二人。ここについてきたということは相応の覚悟はできているのだし、二手にわかれましょう」
砂上を連れ去った相手は手練れの魔法使いである可能性が高いのに、敵地に一般の人間を一人にするという判断は正しいはずがないと、雫はわかっていたが、この悪魔じみた性格と頭脳を持つ彼女ならなんとか切り抜けられると感じたのだった。
「そのほうが効率がいいですね。では、私はこちらへ向かいます」
雫は、先に砂上を見つけられると困る、なんて返答が返ってこないか冷や冷やしていたが、了承したことに胸をなでおろした。梨桜から早く離れたかった。
雫は通路の端に向かって、走り出す。
一方で、梨桜はじっくりと周囲を見渡しながら、時折壁や天井に手を触れて、ゆっくり歩みを進める。鳴斗を救いたいという先の剣幕とは矛盾した行動だった。
ほんの僅かな違いも見逃さないように入念に船内を捜索する。たいていは対照的で、デザインも単純な目的のみのために設計されているようだった。梨桜にはこの船の所持者も鳴斗の居場所も見当がついていなかったが、考えていることは一つしかなかった。
どうやってこの茶番を終わらせるのか。
その鍵となるきっかけを探しているのだ。幕引きにふさわしいきっかけを。
―――手が消えた。
感触は残っているので、正確には見えなくなったのだろう。雫といた通路から出ると、次も一直線の通路だった。何度か通路を抜けた。だが、依然として全く同じ通路が現れるのみ。それでも根気強く捜索し続け、ついに同じでない通路を見つけたのだった。
通路中央、向かって右側腰の高さぐらいの位置の壁に手を触れると、確かにそこは壁なのに触れている感覚がなかった。壁を手が通り抜けたのだ。奥行きがどれくらいなのかはわからなかった。手を押し込んでいくと、腕全体がすっぽり入り、肩まで入りそうだったのだ。梨桜は一度腕を抜き、今度は顔を突っ込んだ。通り抜ける壁の奥で目を開けた。そこにあったものを見た。だが、体全体を入れて奥へ進むようなことはせず、顔を引っこ抜いた。
それから、また同じように通路をじっくり探りながら進んだ。この後も何度か通路を抜け、今度は目に見える異変を発見した。
―――ロボット?
何度目かの通路に入ってすぐ目に留まったのは、鮮やかな青色で金属光沢を見せていたロボットのようなもの。ただし、きれいに真っ二つに割れており、残骸ではあった。ピクリとも動かなかったが慎重に近づいた。よくよく切断面を見ると、ロボットの輪郭の辺りは細かいパーツがぎっしり詰まっているが、真ん中の辺りは空洞になっていた。空洞をのぞき込むと、一つだけ簡単に取り外しの出来るものがあった。ボールの形をしており、しかもそのボール状のものがはめ込まれてあった部分の周りにはご丁寧に日本語で注意書きがあったのだ。
天が梨桜に味方したとしか説明がつかなかった。ここにたどり着いたのは本当に偶然なのだから。
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