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笹石鳩屋

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第三のヤンデレ

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 通路に次ぐ通路。こうも単調な景色ばかりを見せられては精神の方が先に参りそうだが、俺の場合は体が先だった。

 「はあ、はあ…ちょっとストップしてくれ…息切れだ」

 汗をかなりかいたが、通路内は適温で暑いとは感じない。
 
 「砂上鳴斗、心拍数が上がっている?」

 遠読とは手を繋ぎっぱなしだった。女性にリードされっぱなしというのは男として情けなくなる。

 「そりゃ、このザマだからなあ」
 「自分も同様」

 口のわりに遠読は全然疲れていない。運動は嫌いだが、体力にはそれなりの自信があった。だが、こうも差が出るとは、宇宙人は体のつくりが違うのだろう。
 
 「なあ、この船、お前以外の宇宙人はいないのか?」 
 「私のみ」
 「一人用にしては広すぎるだろ」
 「侵入者を探知したことで拡張した」
 「そのせいでこんなに息切らしてたら本末転倒じゃないか?」
 「……残り半分」

 遠読は再び俺の手を引いて走り出す。

 「おい、今なんか誤魔化しただろ」
 「誤魔化して…ない」

 むきになった遠読に、またどきりとしてしまった。普段から感情を出していけば可愛いのに。
  
 「―――止まって」

 通路の出口で、繋いでいない方の手を後ろから引かれた。

 「よく聞いて。遠読零葉はあんたの命を狙ってる。今すぐ私の後ろに下がりなさい」

 聞き覚えのあるひそひそ声が耳元で聞こえる。遠読は度々振り返りながら走っていたので、つけられているということはなかったはずだ。そして、俺の真後ろにいる誰かは、話しかけるまで全く気配がなかったのだ。前方を走る遠読はまだ気づいていない。

 見知った誰かであることは間違いないが、急に現れたうえに怪しすぎる。

 「早く!」

 思案しているうちに腕をぐいっと引っ張られ、俺は尻餅をついた。遠読は手が離れたことに気づいて、後ろを振り返った。だが、後ろの誰かのほうが速かった。

 『コノ者ノ全身ヲ縛レ』

 遠読が停止した。振り返った状態で、時が止まったかのように全く動かなくなったのだ。前髪はなびいたまま固まって顔全体がよく見えたが、相変わらず無表情だった。

 「暮ノ谷?その格好は?」

 ローブに杖、趣味の悪い魔女のようなコスプレ―――いや、コスプレじゃないんだろうな。

 遠読の状態は、どう見ても人為的な力で止まっているわけじゃない。 

 暮ノ谷は無言で俺の頭に手を触れる。

 「……魔力痕はない。何もされていないようね」
 「おい、説明してくれ。何が起こってるのかさっぱりわからん」

 早紀や遠読とのやり取りでもう頭がおかしくなりそうなほどの話もされているのに、暮ノ谷も現実世界の住民ではなかったとは。

 「立って。すぐに合流しないと」
 「俺はお前を信用してはいない。まずは説明してもらわないと、信用できない」
 「自動探知の結界に、重力魔法も常時発動している。こいつは相当に腕が立つ。今は動きを止めていられるけど、いつ動き出してもおかしくない」

 こいつも話を聞かないタイプだ。暴走した早紀とは違って、俺の言いたいことはわかってるんだろうけど、完全に無視している。自分の喋りたいことしか口にしない。

 「まず、お前が何者で、どうして遠読に敵対してるのかを話せ!」

 暮ノ谷は俺を狙っているというわけではなく、遠読に用があるみたいだし、ひとまずは安全なはずだ。だったら、情報を集めなくては。脅迫状の主がわかってない以上、俺の危機は続くのだから。

 「暮ノ谷の家は代々、この地域の魔法を治めてきた。遠読も魔法使いで、禁忌を犯したから捕まえた…これで満足?」

 渋々といった様子だった。暮ノ谷としては最低限を説明したつもりなのだろうが、さっぱりだ。まあ、この際どうでもいい。俺が無事ならそれでいい。

 「多分、遠読はお前の言う魔法使い、じゃないと思う。自分で宇宙人って言ってたし、お前さっき遠読の動きを止めたときになんか喋ってだろ。遠読はそんなことしていなかったし」

 なんとなくだが、暮ノ谷の魔法とやら、と遠読が簡単にロボスーツを切断した方法は全く違う気がする。

 「無詠唱系の魔法か、東洋魔術の一派なら伝承されていてもおかしくない。あるいは、ここの結界が強力で、いくつかの魔法が予め発動直前で留められているという荒業も考えられる」

 暮ノ谷はあくまで遠読を魔法使いにしたいらしい。俺からすればどっちでもいいが。

 「それで、合流と言ってたけど他に誰かいるのか?」

 暮ノ谷の口は動いて何か答えたのだが、その音が俺に届くことはなかった。地鳴りのような轟音でかき消されたのだ。

 「―――今の音は?」

 返答とばかりにもう一度轟音、今度は通路の俺たちが来た側の扉が吹っ飛んだ。

 「メイトン、助けに来たよ!」

 エレメンタルブルーが爆風とともに俺の方へ迫ってくる。減速せずに右腕を俺たちの方へ伸ばした。シェルターから連れ去られるときに見せた、武装したほうの形態だ。銃口の真っ黒な穴が俺の方をはっきり向いている。

 「ヴァクスト粒子励起。青の芽吹きスプラウト・ブルー!」

 極太の線となった青い光が放たれる。レーザーは俺の右を掠めて、固まった遠読に直撃。そのまま、遠読を通路の奥の扉に叩きつけた。

 「―――ぐっ」

 遠読は苦しそうな呻き声をあげたが、彼女とすぐ近くはなんともなく、その周りの部分がドーナツ状に黒焦げになっていた。

 「おかしい…直撃したはずだよ」

 遠読が立ち上がると、時間差で眼鏡が割れる。まるで遠読への衝撃を肩代わりしたようだった。

 「停止の術を解かれた。砂上、私の後ろへ下がって」

 暮ノ谷は俺を守るように前に立った。

 「あれ?シズシズ?熱感知レーダーにも反応しなかったのに、只者じゃないっぽいね」
 「その呼び方、無性に腹立たしいからやめて」

 三者ともにらみ合って立ちすくむ。互いに出方を伺ってか、動きのない沈黙が続いたが、最初に口を開いたのは早紀だった。

 「あたしのメイトンを攫った不届き者は君たち二人なんだよね。脅迫状を出したのも君たちなのかな?」
 「監禁されていた砂上鳴斗を保護しただけ。脅迫状の主は自分ではない」

 早紀と遠読の視線が暮ノ谷に動く。

 「あんたたちが魔法使いじゃないことはわかった。私の管轄外とはいえ、人命がかかっているとなれば引くわけにはいかない」

 まるで嵐の前の静けさだった。三人とも俺の命を狙っていないと主張するが、それぞれ別の勢力らしく、疑いあっている。

 俺はいったい誰を信じればいいのだろうか。ロボットと宇宙人と魔法使い、ここにいる三人はきっと俺なんて簡単に消し炭に変えられるはずだ。

 「メイトン、あたしを信じて。絶対に助けるから!」

 早紀の本性を知らなければ、きっと信頼しただろう。だが、シェルターで見た狂気をなかったことには出来ない。

 「砂上鳴斗は大切な研究対象」

 遠読は時折見せる感情豊かな表情には無条件で心を許してしまうが、俺のことを研究対象なんて言ってるあたりがやばい。バラバラ実験するつもりだし。

 ―――となると、消去法で暮ノ谷がまだ安全なのではないか?

 「私だって……」

 すぐ傍なので、暮ノ谷の体が小刻みに震えているのが見えた。何かを我慢しているようだった。ドロドロのマグマを噴火寸前までため込んでいるようだ。

 「メイト様を失うわけにはいかない!そもそも、私との絆が一番深いんだから、あなたたちにメイト様は渡せない。ずっとずっと、メイト様は私の傍にいたんだから。メイト様は…メイト様は私だけのものなんだから、これからも!永遠に!」

 メイト……様?

 「わかった!お前ら全員狂ってるよ!」

 俺は、遠読の背後の出口に走った。このまま動かないほうが、まだ安全だったことはわかってる。三すくみの状態で動かずにいたからだ。俺が、逃げ出すと誰が最初に捕まえるか、という争いになる。互いに攻撃しあって巻き添えをくらう可能性もある。だが、どうしようもない嫌悪感が足を駆り立てたのだ。少しでもいいから、一刻でも早く、この三人から離れたい。

 三人で警戒しあっていたおかげで俺は通路から出られた。そのまま、まっすぐ走る。遠読が言っていた防護室に入れば、なんとかなるかもしれない。背後でおぞましい音が何度も聞こえた。破壊音、叫び声、熱気も伝わってくる。きっと火の海になっているのだろう。俺は振り返らず必死に走る。

 俺の周囲にはこんなにもやばい世界が潜んでいたとは思いもしなかった。

 だいたいなぜ三人とも俺に執着する?俺が何かしたか?俺はただ、ちやほやされた優越感に浸るだけの生活を送りたかっただけで―――ふと、二日前の言葉が蘇った。

 『砂上君からはヤンデレを引き寄せる甘い蜜のような香りがぷんぷんしているんですよ』

 まさか、天峯が言ってたことが冗談ではなかった、ということじゃないだろうな。

 三人が偶然俺の周りにいたとは思えないが……
 
 「お疲れ様です、鳴斗君。ここが終着点です」

 突然、目の前に現れたのは天峯だった。逆だ。全力で走っていたので立ち止まっていた天峯が現れたように見えたのだ。

 「なんでここに?」

 まさかこいつも三人と同じで普通の人間じゃない、とか言いだすんじゃないだろうな。ただ天峯が悪魔だと自称しても俺はなんら疑いを抱かないだろう。むしろそっちの方が自然だ。

 「愛する鳴斗君のためですよ―――な~んてね。ヤンデレたちの饗宴をこの目で見るためです」
 「そういう場合じゃなくて、早く逃げないとやばいんだよ。俺の邪魔をしないでくれ!」

 下らない問答に時間を費やしてる暇はない。こうしているうちにも、三人の音は近づいている。

 「この通路にある特別な部屋ですか?ではここに賭けて正解でしたね。鳴斗君が来てくれたのですから」
 「特別な部屋?―――防護室か?とにかく案内してくれ、時間がないんだ!」
 「言ったでしょう?ここが終着点だと」

 天峯は悪魔のごとき笑みを浮かべる。

 「まさか……」

 俺は大きな勘違いをしていたのかもしれない。この事態も偶然ではなく、全て天峯の仕組んだことだとしたら……
 
 「メイトン!」
 「砂上鳴斗!」
 「メイト様!」

 三者同時の叫び声。ついに追いつかれたのだ。同じ通路内に入られてしまった。

 「これを投げて三人を爆破しますね」

 ―――刹那、天峯の手に持っていたボールに目が引き付けられた。天峯は宣言通りボールを投げる。ボールは俺の傍を通り抜けようとして―――俺は掴んでいた。何か考えがあったわけではない。ただ勝手に手が動いていたのだ。

 「メイトンッ!」

 俺はすぐに誰もいない方向に捨てたが、遅すぎた。目の前で規模は小さいが、凄まじい量の光熱を出して、目がくらんでいるうちに、俺の周囲は暗黒になっていた。
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