病ン照レワンダーランドへようこそ

笹石鳩屋

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病ン照レワンダーランドへようこそ

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 遠読が諦めたことで事態は収束した。暮ノ谷も早紀も正体を知られるわけにはいかなかったらしく、今回の事件は互いに見なかったということなり、俺たちの中だけにしまわれることとなった。俺は無事地球に帰還し、平穏な日常を取り戻した。

 そして、夜を迎える。あんなことがあった後だが、明日は平日で、いつも通り学校があるのだ。精神的にも肉体的にも限界を迎えている。遅刻しないように早く寝るのは道理だ。

 住み慣れた自分の部屋のベッドに寝そべって、目を閉じる。見慣れた景色、嗅ぎ慣れた匂い、聞き慣れた生活音、まさしく日常だ。ロボットも、宇宙人も、魔法もなく、悪魔のいない平和な世界だ。

 気になっていたことがふと頭をよぎる。

 なぜ、あの時俺は爆弾を掴んだんだろう?

 あれが、早紀の用意したボール型の爆弾だということは天峯が投げる寸前にはわかっていたのだ。他人の命より自分の命、なんてことは当たり前だ。善意のつもりなんてなかった。無償の善意なんて一番俺が嫌うことなのだから。 
なのに、どうして?なぜ体が勝手に動いたのだろうか?
 
 意識は朧気になっていき、やがて夜が明け……

 「う、う~ん…この感触は……布団じゃない…なんだ?…ふわふわでサラサラでいい匂いがする―――?!」

 寝ぼけまなこがはっきりと開いた。

 「遠読!なんで?どうやって?」

 遠読が同じ布団の中にいた。さっきのサラサラした感触は髪の毛だったらしい。

 「夜這い、と呼ばれる行為。対象の意識が覚醒していなければ、効果は低いということが実証された。あまり心拍数が上がらなかった」

 ベッドからさっさと出た遠読は、部屋の隅に置いていたビデオカメラを片付けている。制服を着ているということは、このまま学校に行くつもりだということか。なんにせよ服を着ていただけよかった。

 「お、おい夜這いってお前いつからいたんだよ?」
 「昨日の午後十一時二十三分より同衾していた。疲労が蓄積していたらしく、全く意識を覚醒しなかった。この記録は価値がないので破棄する予定」
 「盗撮までして……昨日で俺に無茶苦茶するのは懲りたんじゃないのか?」
 「師匠に好意の対象に夜這いするのはクラスメイトとして当然だと指導された」
 「師匠って、誰のことだ?」

 大体予想はつくが、嫌な予感がするな。

 「天峯梨桜」 
 「だと思った」
 「恋という現象は双方の状態の変化が重要だとも教わった。自分にとくに変化はなかったが、砂上は自分と同衾することにより変化はあったか?」

 何も感じなかった、と言えば男として嘘になる。全体的に小柄な遠読だが、体の柔らかさを感じるには十分すぎるほど女の子らしい。

 「目が覚めて、突然誰かが自分のベッドにもぐりこんでいたら、まず驚くのが普通の反応だと思う。そういう意味では変化があったけど―――じゃなくて、さっさと出てってくれ。なんで俺の部屋に普通にいるんだよ」
 「参考になる。つまり、驚愕という感情が先に現れてしまい、他の感情が反応として現れなかったということ。完全に覚醒した今、再度同衾すれば他の反応が現れる可能性がある。従って、再度実験を行う」
 「だから、さっさと出ていけよ……おいっ、何をする!」

 遠読の小さな体からは想像できないほどの強い力でベッドに引きずりこまれた。

 「身体的接触により効果があるのか?それともこの行為自体に効果があるのか?検証する価値はある」
 「放せよ!―――おい!―――放せ!」

 じたばたするが、固め技をきめられたように動かない。

 「心拍数が上昇してきた。効果があったということ―――」

 バーンという凄い音とともに、部屋に土煙が立ち込める。部屋に大穴が開けられたのだ。

 「鳴斗様!お助けに参りました」

 煙がかった向こうに青いフォルムが見えた。

 「―――ごほっごほっ、その声は早紀の声だな」
 「はい、鳴斗様専属AIのサキちゃんⅡ号でございます」

 遠読はベッドから飛び出すと、エレメンタルブルーに対峙する。

 「実験の邪魔をするなら排除する」
 「鳴斗様に危害を加えることは許しません」

 戦闘が今すぐにでも始まりそうな緊迫感だった。三人入るには狭い部屋を戦場として。

 「俺はお前らの不法侵入が許せないし、人の部屋に穴を開けておいて、これ以上部屋を荒らすなら排除したいんだが」

 昨日の経験で俺も肝が据わったらしい。こいつらが俺を傷つけないことはわかっている。だったら、逃げるより追っ払ったほうがいい。

 「お言葉ですが鳴斗様、早紀様から命令されているので今退くことはできません」
 「今後も邪魔をされる可能性があるので、今すぐにこの機械を破壊すべきと判断した」

 どうせ俺が何を言っても無駄なことくらいわかってたよ。

 エレメンタルブルーの砲口が遠読を捉える。

 俺自身の無事は保障されてるんだし…ああもう、どうにでもなれ!

 『砂上鳴斗ヲ我ノ元ヘ引キ寄セヨ』

 声がどこかから聞こえた瞬間、視界が切り替わった。薄暗くて、閉塞感のある小部屋にいた。古臭い香りがして、たくさんの物に囲まれていることはなんとなく見える。

 「傷はないようね」

 小部屋には俺の他にもう一人、真っ黒なローブ姿の人間。遠読と早紀以外に、こんな芸当が出来る人間を俺は一人しか知らないし、声だけでも判別がついた。

 カチッという音で部屋に明かりがつく。

 「しかし、私以外の女と同衾とは……」

 明るくなって部屋の全貌が見える。部屋のいたるところに俺の写真が貼られていた。

 「なんだよ……この部屋」

 背筋がゾクゾクする。言いようもない嫌悪感でいっぱいになる。部屋の写真の被写体はどれもカメラ目線ではない。つまり、盗撮されたものだということだ。

 「私のメイト様はそんなことをしない!一度死をもってメイト様は修正しなくてはいけないようね」

 ローブの袖からキラリと光る刃物の先が見えた。

 「刺す気じゃないよな?冗談だと言ってくれ暮ノ谷!」

 小部屋の扉のノブを回そうとするが、鍵がかかっているようで回らない。そうこうしているうちに、ナイフは迫ってくる。この狭い部屋ではもう逃げ場はない。

 「また殺さないといけないなんて残念だわ」

 抵抗する間もなく、ナイフはずぶりと俺を刺す―――この部屋に数ある俺の写真を。

 「これで大丈夫ね」

 どこが大丈夫なんだ?お前の頭が全然大丈夫じゃない。

 俺は大きなため息とともに叫んだ。

 「俺は普通の女の子にちやほやされたいんだ!ヤンデレは無理なんだよ!」
 
     *

 ある女の子がいました。彼女はただ愛する人を守りたかった。だから、二人きりになればきっと安全だと考えたのです。

 ある女の子がいました。彼女には愛する人がいた。だけどもうその人はいない。だから、その面影を追うだけ。

 ある女の子がいました。彼女は恋という感情を知らなかった。だから、ありとあらゆる手段を尽くして恋を研究することにしました。

 ある女の子がいました。彼女は真の愛は、同じく真の愛を求める者同士との奪い合いの果てにあると考えました。だから、真なる愛を求める者たちを集め、そして奪い合いを始めた。そうして、こうつぶやきました。

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