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Chapter.66
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ドライヤーで髪を乾かしてから洗面所を出ると、仕事でもあまり感じないような緊張感が湧いてきた。
廊下で深呼吸をしてからリビングルームのドアを開ける。色々とクールダウンさせたくて、冷蔵庫から出したペットボトルの水を飲み下す。冷えた液体が身体の中を流れていく。
もう一度、小さく深呼吸してようやっと落ち着いたところで、リビングでテレビを視る鹿乃江の隣に腰かける。
「おかえりなさい」
頬の赤みが少し収まった鹿乃江が、隣を向いて微笑みかけた。
「ただいま」
答えてから、
「鹿乃江さん」
改まって呼びかける。
「ん?」
「さっき言ったこと、本気だからね?」
「さっき?」
「結婚しよ、って」
鹿乃江の顔がみるみるうちに赤くなる。それにつられて紫輝も耳まで熱くなるのを感じた。
「あ、や、えっと……」
照れくさくなってごまかそうとする紫輝だが、思い直して鹿乃江をまっすぐ見つめる。
「本気、だよ?」
「……はい。私で良ければ、ぜひ。なんですけど……」鹿乃江が言い淀んだのを、紫輝が不安そうに見つめる。「紫輝くん」
「はい」
「真面目な話を、していいですか?」
「…はい」
改まった鹿乃江の口調に、紫輝が若干緊張した面持ちになる。
「……この先もずっと、一緒にいてくれるとしたら、子供のこととか、老後のこととかに、直面するときがくると思うんです」
鹿乃江は言葉を探しながら、一言一言を紡ぎ出す。
「私たちは歳も離れているし、私はたぶん……子供を作るのは難しい年齢だと思います」
緊張を少しでも紛らわせたくて、膝の上で組んだ指を擦り合わせる。
「紫輝くんよりも、18年…早く生まれてるから。その分、おばあちゃんになるのも早くて、きっと……面倒をかけると思います」
言いながら、胸が苦しくなる。
それは、紫輝に惹かれ始めたときから頭の片隅にずっとあった、避けては通れない『問題』。
「私と一緒に進む未来には、そういうことも含まれていて……ただ、楽しいだけじゃない……」
息苦しくて、だんだん掠れていく声は、沈黙の空間に溶けて消えていく。
「それでも……いい、ですか……?」
不安とやるせなさとで、鹿乃江は意図せず涙目になっている。
やっと見ることができた紫輝の顔は、少し困っていて、でも、とても優しかった。
「不安にさせてごめんなさい。たくさん考えてくれてありがとう」
紫輝は頭を下げて、自らの膝に乗せていた鹿乃江の手を取り、優しく握った。
「オレも、それは考えてて……考えて、ただ、この先なにが起こるかわからなくて……それでも、ずっと、鹿乃江さんのそばにいたい。鹿乃江さんだけが悩んで苦しむんじゃなくて、一緒に乗り越えたい」
それは付き合う前、紫輝が鹿乃江に伝えた言葉。
そのときよりも強く、ハッキリと言い切った紫輝の胸中に触れ、鹿乃江はいまにも泣き出しそうだ。
「あ、でも……」紫輝がぴょこんと身体を弾ませ「オレが苦しいときとか悩んだときにも、一緒に、乗り越えてもらえますか……?」少し不安そうに問い返す。
鹿乃江が泣き笑いの表情になって頷き
「もちろん」
力強く答えると、紫輝は安堵の笑みを見せた。
「好きだよ、鹿乃江」
紫輝の愛の言葉に、おなかの奥が甘く締め付けられる。溢れ出す感情を、もう抑えることはしない。
「私も、大好き」
はにかみあって身体を寄せ、どちらからともなくキスをした。
廊下で深呼吸をしてからリビングルームのドアを開ける。色々とクールダウンさせたくて、冷蔵庫から出したペットボトルの水を飲み下す。冷えた液体が身体の中を流れていく。
もう一度、小さく深呼吸してようやっと落ち着いたところで、リビングでテレビを視る鹿乃江の隣に腰かける。
「おかえりなさい」
頬の赤みが少し収まった鹿乃江が、隣を向いて微笑みかけた。
「ただいま」
答えてから、
「鹿乃江さん」
改まって呼びかける。
「ん?」
「さっき言ったこと、本気だからね?」
「さっき?」
「結婚しよ、って」
鹿乃江の顔がみるみるうちに赤くなる。それにつられて紫輝も耳まで熱くなるのを感じた。
「あ、や、えっと……」
照れくさくなってごまかそうとする紫輝だが、思い直して鹿乃江をまっすぐ見つめる。
「本気、だよ?」
「……はい。私で良ければ、ぜひ。なんですけど……」鹿乃江が言い淀んだのを、紫輝が不安そうに見つめる。「紫輝くん」
「はい」
「真面目な話を、していいですか?」
「…はい」
改まった鹿乃江の口調に、紫輝が若干緊張した面持ちになる。
「……この先もずっと、一緒にいてくれるとしたら、子供のこととか、老後のこととかに、直面するときがくると思うんです」
鹿乃江は言葉を探しながら、一言一言を紡ぎ出す。
「私たちは歳も離れているし、私はたぶん……子供を作るのは難しい年齢だと思います」
緊張を少しでも紛らわせたくて、膝の上で組んだ指を擦り合わせる。
「紫輝くんよりも、18年…早く生まれてるから。その分、おばあちゃんになるのも早くて、きっと……面倒をかけると思います」
言いながら、胸が苦しくなる。
それは、紫輝に惹かれ始めたときから頭の片隅にずっとあった、避けては通れない『問題』。
「私と一緒に進む未来には、そういうことも含まれていて……ただ、楽しいだけじゃない……」
息苦しくて、だんだん掠れていく声は、沈黙の空間に溶けて消えていく。
「それでも……いい、ですか……?」
不安とやるせなさとで、鹿乃江は意図せず涙目になっている。
やっと見ることができた紫輝の顔は、少し困っていて、でも、とても優しかった。
「不安にさせてごめんなさい。たくさん考えてくれてありがとう」
紫輝は頭を下げて、自らの膝に乗せていた鹿乃江の手を取り、優しく握った。
「オレも、それは考えてて……考えて、ただ、この先なにが起こるかわからなくて……それでも、ずっと、鹿乃江さんのそばにいたい。鹿乃江さんだけが悩んで苦しむんじゃなくて、一緒に乗り越えたい」
それは付き合う前、紫輝が鹿乃江に伝えた言葉。
そのときよりも強く、ハッキリと言い切った紫輝の胸中に触れ、鹿乃江はいまにも泣き出しそうだ。
「あ、でも……」紫輝がぴょこんと身体を弾ませ「オレが苦しいときとか悩んだときにも、一緒に、乗り越えてもらえますか……?」少し不安そうに問い返す。
鹿乃江が泣き笑いの表情になって頷き
「もちろん」
力強く答えると、紫輝は安堵の笑みを見せた。
「好きだよ、鹿乃江」
紫輝の愛の言葉に、おなかの奥が甘く締め付けられる。溢れ出す感情を、もう抑えることはしない。
「私も、大好き」
はにかみあって身体を寄せ、どちらからともなくキスをした。
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