日々の欠片

小海音かなた

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4/13『ちいさなてぶくろ』

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 下校中に手袋を叩きつけられた。
「けっ、決闘を! 申し込みましゅ!」
 小柄女子が甘噛みアニメ声で俺に言い放つ。なにこれ、ラノベ?
 状況がつかめず質問に質問を重ねて意図を聞きだしたら、どっちがより犬に好かれるかの決闘、らしい。
 なんだそれ。
「決闘もなにも、個別で好かれたらいいんじゃね?」
「そっ、そういう問題じゃないのです! 私はこの地域で一番のドッグトレーナーに!」
「わかった、わかったから、ちょっと場所変えない?」
 俺の言葉に小柄女子はハッとして周囲を見回した。
 下校途中の生徒たちが、こちらを見てほんわかニヤニヤ。
「きにゃ~~~!!!」
 小柄女子は真っ赤になった顔を手で覆い、奇声を発しながら走り去ってしまった。
 前見えてんのかな。って心配になったけど、人とぶつかりそうになって慌てて視界を開放し、そのまま駅のほうへ消えていった。
 なんじゃあれ。
 見送る俺の背後から、ニヤニヤ顔の友人がやってきた。
「なになに、告られてたの?」
「いや、決闘申し込まれてた」
「は?」
 足元に落ちた毛糸の手袋を拾いつつ答えたら、案の定怪訝そうに聞き返された。
 手袋の内側にご丁寧に書かれた個人情報を基に、翌日小柄女子のクラスを訪ねた。
「すんません。こちらに犬飼っていう……」
「あー‼︎」
 俺の言葉を遮って、女子が大声をあげた。
「いました。あざます」
 声をかけた先輩はふひっと笑って「大変なのに絡まれちゃったね」俺の肩をポンと叩いて教室内へ入っていった。
 そう、小柄女子はなんと二年上の先輩だった。最高学年にしては小学生みたいな見た目……。って思いながら眺めてたら、犬飼センパイは俺を睨みつけながらやってきた。
「なんで教室知ってるの!」
「これの内側に書いてあったから」
「あっ! 私の!」
「昨日俺に投げつけたままどっか行っちゃったんで」
 返すために差し出した手袋を奪い取って、かなり下方から睨みつけてくるけど全然迫力ない。
「んじゃ」
「ちょっと! 決闘は!」
「いーっす、不戦敗で、俺の」
 面倒くさくなってそう返したら、面倒なことにセンパイは涙目でこっちを睨んできた。
「あーもー、犬飼ちゃん、そのコ後輩じゃん。やめなよウザがらみ」
 教室内から長身美人な先輩が仲裁に来てくれる。おぉ、女神か。
「ウザがらみじゃないもん!」
「すいませんね、こんな上級生で」
「いえ。っていうかなんで俺?」
「角っこの家のポメラニアン」
 ???
 俺と美人先輩が首をかしげる。
「あそこのポメちゃん私にはすんごい吠えるのに、キミには懐いてた」
「……あぁ」
 どこから見て“角っこ”かわからなくて思い浮かばなかったけど、そのポメならすぐにわかる。
「あのポメ、元は保護犬で、人慣れさせるためにうちで預かりボランティアしてたヤツだから……」
「そりゃ懐くわ」
「なんで、別に俺が特別なわけじゃ」
「ずるい」
「は?」
「ずるい、預かりボランティア」
「やったらいいじゃないすか、センパイんちでも」
「ムリだもん。ママがアレルギーだから」
 頬をふくらまして拗ねるセンパイ。ヒトとしては可愛いんだろうけど、残念ながら好みのタイプじゃないから絡まれてもホントにウザいだけなんだよな……。俺の好みはどっちかっていうと……なんて考えてたら予鈴が鳴った。
「時間ないんで戻ります」
「えっ、逃げるの!」
「ごめんね、わざわざ。ありがとね」
「いえ」
 俺の好みはどっちかっていうと、長身美人のほうの先輩なんだよな……。
 しまった、庇ってくれたお礼がしたいからって連絡先聞けば良かった。なんて考えながら自分のクラスに戻る。
 また決闘申し込みに来てくれりゃ、接点ができるかもしれないけど……ウザいのは嫌だな。
 結局その日は特になにもなく授業を終えて部活へ。いつも通りグラウンドでランニングしてたら、遠くから声が聞こえた。
「ポメのお兄ちゃん、がんばれ~」
 謎の呼び名に目線を向けたら、美人先輩が俺に向かって手を振っていた。
 うわマジか、ラッキー。って手を振り返そうとして、その手を止めようと横でピョンピョン飛び跳ねる小さい人影に気づく。小柄センパイだ。
「なにお前、あの二人しりあい?」
 隣を走る先輩が聞いてくる。
「えぇ、ちょっと」
「どっちか狙ってたりする?」
「どっちかっつーと、美人のほう……?」
「ほーん」
 先輩はニヤニヤしてグラウンドの外を見た。
「ま、頑張んな」
 なんとなく含みのある励ましが気になって着替え中に聞いてみたら、美人先輩と小柄センパイはいつも一緒で、付き合ってるんじゃないかと噂されているらしい。なんだそれ、ずるい。
 今度は俺が小柄センパイ手袋を投げつけなければならぬかもしれない。
 機会があったらちょうど良さげな革の手袋を探しておこう。
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