日々の欠片

小海音かなた

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4/21『6ペンスの幸せ』

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 ずっと憧れていた自分の店を開店させた。宿泊施設を併設したレストラン――オーベルジュだ。
 記念日に予約して来たくなるような店にしたくて、内装には金をかけた。料理の腕も磨いてきたつもりだ。
 修行の一環として働いていた星付きレストランを、独立のために退職するとき、かなり引き留められたくらい。それでも自分の夢を叶えたくて、無理を言って辞めさせてもらった。
 そのときにできた人脈を駆使して、新鮮な食材も手に入れられるよう手配。レストランを重視しているけれど、宿泊施設もそこそこ充実させたくて知り合いのホテルマンを引き抜いた。
 子供のころから貯めていた資金はギリギリだったけど、とても満足いく店になった。なんて、自画自賛。
 オープンの日こそ客席の半分以上は知り合いが座っていたが、オープンして数か月でありがたいことに“予約が取れにくい人気店”になった。いまでは一年先まで予約が埋まっている。
 レストランに出す料理は、仕入れ数に限りがあるからたくさんは提供できない。そもそも一人で作るのにはちょっと限界ギリギリのライン。結果的に1日の席数が限定されてしまったが、それがかえって売りになったようだ。
 さすがにフロアまで手が回らなくなって、アルバイトを募集した。採用したのは地元の若い女の子。
 専門学校でブライダルサービスの勉強をしているとかで、オーベルジュで挙式をするためのアドバイスをもらったりした。
 アイデアを出してるときの楽しそうな顔と期待に輝く瞳がとても素敵で……当たり前のように恋に落ちた。
 彼女のアイデアを盛り込み実現させたオーベルジュ挙式。その第一号利用者がまさか自分になるとは……。
 今後は“夫婦で経営する、縁結び効果があるかもしれない、挙式もできるオーベルジュ”として売り出していこうっと。
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