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10/9『優しい光』
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今年の初め、受験対策に買った枕があった。その名も心願成就枕。
【心願成就】を目的とした、【お守り】同様の効果があると謡われているその枕を使って眠ると願いが叶うという。
結果から言うと、僕の【第一志望合格】という願いは叶った。
春から晴れて大学生に。
勉強に着いていけなかったらどうしよう、友達が出来なかったらどうしよう、大学に馴染めなかったら……。
そんな不安もあったけど、枕のおかげで払拭できた。正しくは、枕に付いてる“係のヒト”のおかげ。
心願成就枕にはそれぞれ“係のヒト”が付いている。持ち主の願いを叶えるために夜な夜な囁き続ける、こことは違う世界のヒト、らしい。それがお仕事なのだとか。
僕は係のヒトのおかげで、苦手な科目が克服できていまの大学に合格できた。試験結果が出た日の夜、係のヒトに報告しようと思って眠らずに待っていたけど、枕元に現れてくれなかった。
電気が点いているせいかと思って消したけど、それでもあの、優しくてほの明るい独特の発光には出会えなかった。使用者が眠らないと現れてはいけない規則でもあるのだろう。
仕方なく手紙を書いて枕元に置いて眠ったら、返事をくれた。綺麗な字で書かれた『おめでとうございます!』の祝辞。
僕の願いは叶ったし、もしかしてもう僕の担当じゃなくなっちゃったかな? って思ってたから、その手紙は凄く嬉しかった。
一つの枕に一つのお願い、が公式のルール。だから願いを叶えてもらった僕は、枕をメーカーに返送しなければならない。でも返してしまったら、あのヒトとはもう会えない。
枕があれば、眠りに入る直前、意識をギリギリ保ってる瞬間に少しだけあのヒトに会える。子守歌のような声が心地よくてすぐ熟睡してしまうから、会話できるような状態じゃないんだけど。
だから、枕を返す踏ん切りがつかないまま、ずるずると日々を重ねている。
係のヒトたちは僕らと存在している次元が違うようだけど、意思の疎通はできているし差し入れのお茶やお菓子は食してくれてるし、お礼が書かれたメモが残されてたりする。
だから物理的には同じ次元にいる時間があるはずだ。
あぁ、なんで初めて遭遇したときに、もっと色々聞かなかったんだろう。
決心がつかないまましばらく文通のようなやりとりをしていて、ふと気づいた。
もしかして、願いが叶った後に僕の夢枕に立ってもらうことは、あのヒトのプライベートな時間を奪ってるだけなんじゃないかって。
質問をしたためた手紙の返信には、だいぶ柔らかい言葉を使ってくれていたけれど、その予想が当たっていると書いてあった。
仕事するための時間に僕のところへ派遣されていたら、いつまでも次の仕事ができないんだ。
利用者の中には、願いが叶ったけど忘れてしまい返送しない人や、そもそも信じてなくて枕を返さなかったり捨てちゃう人もいるらしいけど、そういう場合は係のヒトたちが自ら申請をすれば、その枕の担当から外れることができるらしい。
僕のところに来てくれているあのヒトは、その申請をしていないと、手紙で教えてくれた。気にしなくて大丈夫だから、気が向いたら返送してほしい、と。
じゃあ……僕がちゃんと決別して、感謝を込めて枕を返さなければ。それが僕にできる一番のお礼。
会えなくなるのは悲しいけれど、迷惑をかけるほうが嫌だ。
心願成就枕を使う最後の夜にしようと決めた日、係のヒトに手紙を書いた。
感謝の言葉と、労いの言葉を書き……僕の気持ちは書かずに、枕元へ置いた。
朝起きると、返事の代わりに花が置かれていた。
ほの明るく光る、一輪の花。
昼間や照明の下では見えなくなるけど、暗くなるとボゥ……と光る、不思議な花。
僕は、心願成就枕にとてもお世話になって、とても感謝している旨を手紙に書き、枕に添えてメーカーに返送した。
係のヒトの存在を利用者に知られてはいけないとあのヒトから聞いていたから、一番伝えたい言葉を書くことはできなかった。
心願成就枕を返した夜、買う前に使っていた枕を引っ張り出して使ったけど、なんだかしっくり来なくてなかなか眠れずにいる。
電気を消した部屋の中で、机に飾った花が光る。
あのヒトと同じ、優しくて、暖かいその光は、いつまでも僕の心の拠り所になった。
【心願成就】を目的とした、【お守り】同様の効果があると謡われているその枕を使って眠ると願いが叶うという。
結果から言うと、僕の【第一志望合格】という願いは叶った。
春から晴れて大学生に。
勉強に着いていけなかったらどうしよう、友達が出来なかったらどうしよう、大学に馴染めなかったら……。
そんな不安もあったけど、枕のおかげで払拭できた。正しくは、枕に付いてる“係のヒト”のおかげ。
心願成就枕にはそれぞれ“係のヒト”が付いている。持ち主の願いを叶えるために夜な夜な囁き続ける、こことは違う世界のヒト、らしい。それがお仕事なのだとか。
僕は係のヒトのおかげで、苦手な科目が克服できていまの大学に合格できた。試験結果が出た日の夜、係のヒトに報告しようと思って眠らずに待っていたけど、枕元に現れてくれなかった。
電気が点いているせいかと思って消したけど、それでもあの、優しくてほの明るい独特の発光には出会えなかった。使用者が眠らないと現れてはいけない規則でもあるのだろう。
仕方なく手紙を書いて枕元に置いて眠ったら、返事をくれた。綺麗な字で書かれた『おめでとうございます!』の祝辞。
僕の願いは叶ったし、もしかしてもう僕の担当じゃなくなっちゃったかな? って思ってたから、その手紙は凄く嬉しかった。
一つの枕に一つのお願い、が公式のルール。だから願いを叶えてもらった僕は、枕をメーカーに返送しなければならない。でも返してしまったら、あのヒトとはもう会えない。
枕があれば、眠りに入る直前、意識をギリギリ保ってる瞬間に少しだけあのヒトに会える。子守歌のような声が心地よくてすぐ熟睡してしまうから、会話できるような状態じゃないんだけど。
だから、枕を返す踏ん切りがつかないまま、ずるずると日々を重ねている。
係のヒトたちは僕らと存在している次元が違うようだけど、意思の疎通はできているし差し入れのお茶やお菓子は食してくれてるし、お礼が書かれたメモが残されてたりする。
だから物理的には同じ次元にいる時間があるはずだ。
あぁ、なんで初めて遭遇したときに、もっと色々聞かなかったんだろう。
決心がつかないまましばらく文通のようなやりとりをしていて、ふと気づいた。
もしかして、願いが叶った後に僕の夢枕に立ってもらうことは、あのヒトのプライベートな時間を奪ってるだけなんじゃないかって。
質問をしたためた手紙の返信には、だいぶ柔らかい言葉を使ってくれていたけれど、その予想が当たっていると書いてあった。
仕事するための時間に僕のところへ派遣されていたら、いつまでも次の仕事ができないんだ。
利用者の中には、願いが叶ったけど忘れてしまい返送しない人や、そもそも信じてなくて枕を返さなかったり捨てちゃう人もいるらしいけど、そういう場合は係のヒトたちが自ら申請をすれば、その枕の担当から外れることができるらしい。
僕のところに来てくれているあのヒトは、その申請をしていないと、手紙で教えてくれた。気にしなくて大丈夫だから、気が向いたら返送してほしい、と。
じゃあ……僕がちゃんと決別して、感謝を込めて枕を返さなければ。それが僕にできる一番のお礼。
会えなくなるのは悲しいけれど、迷惑をかけるほうが嫌だ。
心願成就枕を使う最後の夜にしようと決めた日、係のヒトに手紙を書いた。
感謝の言葉と、労いの言葉を書き……僕の気持ちは書かずに、枕元へ置いた。
朝起きると、返事の代わりに花が置かれていた。
ほの明るく光る、一輪の花。
昼間や照明の下では見えなくなるけど、暗くなるとボゥ……と光る、不思議な花。
僕は、心願成就枕にとてもお世話になって、とても感謝している旨を手紙に書き、枕に添えてメーカーに返送した。
係のヒトの存在を利用者に知られてはいけないとあのヒトから聞いていたから、一番伝えたい言葉を書くことはできなかった。
心願成就枕を返した夜、買う前に使っていた枕を引っ張り出して使ったけど、なんだかしっくり来なくてなかなか眠れずにいる。
電気を消した部屋の中で、机に飾った花が光る。
あのヒトと同じ、優しくて、暖かいその光は、いつまでも僕の心の拠り所になった。
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